救出
「どうすんだよ・・全員揃って卒業すんだろ?ほっといていいのかよ!」
「いい訳ねぇだろ!けど今は、どうしていいのかわかんねぇんだよ」
沈黙を破って上がった隼人の言葉に、躊躇いが残る顔でヤンクミも反論。
視線を落としがちな目線が、その戸惑いを露わにしていた。
教室に満ちる不安。
それは誰しもが同じで、不相応な対応に納得はしていなかった。
「隼人、どうする・・・?」
そんな中タケが立ち上がり、後ろにいる隼人を見る。
隼人は3Dの頭だから、自然と皆が頼る存在。
その隼人と肩を並べる竜の不在。
頭とかの前に同じクラスメイトだから、放っておきたくない。
タケの視線と言葉を受けた隼人だが、流石にすぐ決断は出来ないようだった。
□□□
そして放課後。
と隼人達は、偽物探しで集まった公園に集合した。
ベンチやらジャングルジムがある中、隼人は中央にあるアヒルさんに跨る。
その周囲にやタケ達が座って、沈黙の中、隼人は口を開いた。
「作戦決行すっからな?」
「おう」
「準備はいいぜ」
「がぜんやる気出て来たぜっ」
「竜の救出作戦だな」
アヒルに跨って呟いた隼人に応え、タケ・浩介・つっちー・俺と答える。
取り敢えず浩介が何処からか長いロープを持参。
後は手ぶら・・・・・けど救出する気は満々だ。
作戦的には、身軽なタケが塀を越え
それに続いてから窓ガラス越しに呼び掛ける。
多分窓からかベランダから竜が飛び降りるだろうから、一緒に逃げる・・・
安易だ、安易すぎる・・・・が
これを本気でやろうとしていた。
これくらいしか思いつかなかったのが事実。
ガキだから、ガキなりに捻り出した事だった。
「」
作戦とも言えない内容を確認し、立ち上がり
此処から竜の家へ向かうんだ・・と意気込む俺に、後ろから隼人の声がした。
何?と足を止めると、グッと腕を引き寄せられる。
驚いている間に隼人との距離が近づいた。
タケ達は幸い前を歩いているせいで気付かれていない。
「なっ、何だよ隼人(こんな処で)」
「お前・・本気でついて来る気かよ」
「は?何今更言ってるんだよ、当たり前だろ」
「はぁああ〜・・・・ま、そう言うとは思った」
「思ってたなら聞くなよバカ」
「心配なだけだよ、お前すぐ無茶するからな」
「無茶なんてしないし」
「はあ?柴田の時に1人で突っ走ったのは何処のドイツですか?」
くっ・・・・其処を言うか今更・・・・・・
つか何でそんな気にするんだ?
ただ竜んち行くだけなのに、始めの頃よりケンカだって強くなったし。
空手だって習ってるしさ、と納得の行かなさそうな。
少し頬を膨らませた様が愛らしくて堪らなくなる・・・が
ったく・・俺は本気で心配してんのに。
頑固な、今止めても無駄だと判断。
引き寄せた腕を解き、わざと溜息を吐き出してみる。
「わぁーったよ、その代わりあんま無茶すんなよな?」
「分かってる分かってる」
「その返事が怪しいんだよ」
「何か言ったか?」
「別に何も、ホラ急ぐぞ」
自然に取られた手。
大きな手に自分の手が包み込まれて、隼人の体温が伝わってくる。
何か無性に照れたけど、とっても安心出来てしまった。
だからだろうか。
この作戦その物に意外な展開が用意されていると気付けなかった。
そして世田谷。
此処には俺の家もある。
最近知ったんだけど、竜の家も此処世田谷にあるんだって知った。
結構近くにいたんだなーって・・・思ったりした。
同じ地区だし、何処かで擦れ違ってたりしたのかなって。
その時の俺の心には、何の引っ掛かりもなかった。
夜の住宅街。しかも世田谷。
まあそんなにセレブ街でもないけど、いい家はこの辺多い。
隼人とタケの案内で、竜の家に到着。
白い壁面の二階建ての家が視界に入る。
何か、流石・・・って思わされるような外観だった。
大理石のような花崗岩のような表札に『小田切』と書かれている。
高めに作られた塀に身を潜ませた達。
「よし、タケ行け。ぜってぇ音たてんなよ?」
「おうっ」
隼人の合図で、身を潜ませていたタケが
塀に片足を掛けて塀に上る。
その時、影に置かれていたセンサーが起動したのを誰も気づいていなかった。
音さえ立てなけりゃバレねぇんだからよ、と小声で隼人が口にする。
タケの後につっちーと浩介が続き、隼人が上って上からに手を差し出す。
一瞬照れたが、そうもしてやらない状況な為すぐさま手を重ねて握り締めた。
握ると強い力で引き上げられ、無事塀を乗り越えて芝生に着地。
ベランダの下に近寄り、誰からともなく小石を拾って窓へ投げる。
付き合いの長い隼人とタケは、其処が竜の部屋だと分かってるのだろう。
だからも、小石を1つ握り締めて窓へ投げた。
竜が気付いてくれるようにと。
どのくらいそうしただろうか、窓ガラスがカラカラっと開いて
待ち侘びたその人、竜が外に現れる。
白いシャツと黒いズボンに身を包んだ竜は、カッコよかった。
「おい竜」
「ちょ・・お前ら何やってんだよ」
「レスキュー隊、参上」
「―――は?」
「親父なんかシカトして出て来いよ」
ベランダに歩み寄った竜。
何だかかなり久し振りに見たような気がした。
眼下にいた俺達に驚き、更にはをも見て驚きを見せる。
何か少し怒ったような顔をされた。
問われた隼人とタケ達がレスキュー隊の(?)ポーズをとる。
益々怪訝そうな顔をした竜に、軽い感じで隼人は出て来いよと誘った。
俺も今の竜は凄く捕らわれたような風に見えて、ジッと見つめた。
過去に捕らわれていた自分と重ねたのかもしれない。
警察署で見た竜の顔、躊躇ったような目。
クールで冷静な竜、中々表情を変えない竜が最近本当によく笑顔を見せるようになってた。
だから、折角笑顔を見せてくれるようになったのに
その彼から笑顔を奪いたくなくて、半ば必死だった。
「うちの親父さ、お前らの事目の敵にしてるから・・お前ら巻き込む訳にはいかねぇよ」
でも竜の口から出たのは自分達を擁護する言葉。
仲間に何遠慮してんだよ・・・と思う。
隼人の斜め後ろでつっちーがそんなの関係ないとか言ってるのが聞こえる。
「竜、俺さお前にそんな顔して欲しくない。それに、気とか使って欲しくない」
「・・・・・・」
「俺達仲間だろ?1人で苦しもうとするなよ」
「―――――っ・・・・」
声を、言葉を、気持ちを届けたくても上を見上げて竜へ言った。
柴田の事件の時、命がけで俺を守ってくれた竜と隼人。
性別を偽っていた俺を受け入れてくれた仲間達。
全てを知っても尚、俺の味方でいてくれて・・守ってくれる皆。
こんな俺を、好きだって言ってくれた竜と隼人。
応えられないと気付いてしまった追い目はあるけど
そんなのなしに竜は大切な仲間。
だから、力になりたい。ただその一心だった。
だけど・・目が合った竜の顔は、少し歪められていた。
――――俺を見て。