ひらひらと舞う花弁
桃色の花が舞う
その向こうに見えるのはやっぱり京で
俺達が生まれた世界は、閉ざされたまま。
どうすれば還れるのか・・そんな事すら分からないままだ。
はぐれたタケと、隼人達の安否も分からない
限りない不安は・・・一向に晴れる気配はなかった。
京の花霞
平等院に向かう途中で倒れた。
その後の事は、全く知らなかった。
突然来た弁慶の連れていた男、軽い男だなぁと思ったヤツは
梶原景時、しっかり者の朔の兄だと分かった。
分かったのはいい、にしても・・頼りない感じだな。
「弁慶、此処は何処なんだ?とても寺には見えないし。」
の枕元に正座して、薬の調合をしている弁慶に尋ねた。
いつまでも居場所が知らされないのは不愉快だし、不安。
さっき紹介された景時さんは、今席を外している。
陰陽師ってのは忙しいのか。
「その通り、平等院ではないですよ。」
小さい調合用の臼で磨り潰された薬を、紙に乗せながら答えた弁慶。
要点を言わないその回答に、少しイラッと来る。
すぐに爆発させずに抑え、更に問いかけた。
「じゃあ此処は何処だ?それに、竜達の姿も見えない。」
「不安、ですか?僕と2人きりというのは。」
ああ不安だとも!寧ろ不安っつーよりも危険だ。
張り付いた笑顔、嘘のある微笑。
腹の内が見えない腹黒さ、本心を語らない。
とにかく、はあまり弁慶を信用してないのだ。
最初の出会いが最悪だと言うのも、理由に挙がる。
常に笑顔の姿勢も、にとっては人を騙す手口にしか見えない。
「男同士で、心配もクソもあるか。」
今自分は男なんだ、それが慌てたりするのはおかしい。
誤解と怪しまれないように、はつっけんどんに言い返した。
体格は怪しいが、言葉遣いも服装も男らしくなってる。
ボロを出さない限り、簡単にバレる事はないだろう。
「それもそうでしたね、失礼。此処は京の梶原邸です。」
「・・・梶原邸って、朔の家か?」
「そうとも言いますが、本来の邸は鎌倉なんですよ。」
昔の人って・・・金持ちだったのか?
それとも土地が安いとか?
いや、でもこの時代に土地なんか売りに出したりしてんのか?
誰かが土地を分けて何とか制度を作ったって習ったし
あ、でもその制度作ったの誰だっけ??
「で、皆は何処に?」
「望美さんを始め、皆さんは鞍馬山に行かれてますよ。」
鞍馬山?確か、あそこに住む天狗が 義経に武芸を教えたんだっけ。
あの義経に、ねぇ・・・。
史実と本人が違い過ぎるよ。
の脳裏には、自分の事を『巴御前』と呼んだ九郎が浮かぶ。
思い立ったら脇目も振らずに突進って感じのヤツ。
真っ直ぐな目を、していたな。
あの九郎は純粋過ぎる、この腹黒策士の事など
一欠けらも疑ったりはしていないだろうな。
「君?如何しました?」
話を聞いているうちに、考え込んでしまったのだろう。
隣から弁慶が心配そうに聞いて来た。
「いや、どうもしないよ。」
「そうですか?じゃあ、それを飲んだら横になっていなさい。」
「何で?もう何処も平気だよ。」
「そうだとしても、今日1日くらいは安静にしていて下さい。」
有無を言わせない黒い微笑み、無理を言えば毒でも盛られそうなので渋々は頷いた。
頷いたを見て、クスッと微笑むと弁慶は臼を手に部屋を出て行った。
水差しから湯呑みに水を注ぎ、苦そうな薬を口に入れると
味を感じてしまう前に、急いで水を飲み干した。
それでも僅かな苦味を感じてしまう。
床の橋に面した部屋、気候も暖かいのは分かったので
は褥から襖まで四つんばいで進み、僅かな隙間を作った。
「春か・・向こうの世界も、春間近だったな・・・」
襖の隙間から見える春の景色に、は現代を懐かしく思った。
あのまま何もなくあっちにいれば、卒業も間近だったのに。
白龍の声を聞かなければ・・・といつまでも自分を責めてもいられない。
それに、白龍は自分以外の声を聞いたとも言ってた。
それが誰なのかは、自分にも白龍にも分からない。
『応龍の神子である貴方は、白龍の神子と黒龍の神子に
自分の力を与え、強められもします。
陰陽が調和した姿の龍神の神子、それが故に五行の影響も大きい。』
の部屋に来た弁慶がそう話した。
白龍の言った怨霊を復活させられる力、というのを詳しく言えば
復活はさせられるが、怨霊としてではなく生前の姿としてだ。
陰陽が調和した姿の龍神な為、いない分の黒龍の変わりも出来る。
『そうするには、貴方の事を守る守護者が必要なんです。』
弁慶は、黒龍の代役も担えるようにするには
自身を守る守護者の存在が必要不可欠だと話した。
八葉の方が響きはカッコイイよな・・・とは言えない。
陰陽が調和した龍神の神子には、5人の守護者がいるらしいな。
よくそこまで調べたなぁと少し感心。
望美が八葉を探すように、も自分の守護者を探す事になった。
早く見つけて、元の世界に還りたい。
無事卒業出来るようにヤンクミの元で学びたい。
春の暖かな日差しの下、微睡みしているうちに深い眠りへついた。
日も傾き始めた頃、無事鞍馬山から帰った望美達が帰宅。
それについて行っていた竜も、梶原邸へと戻り
留守番をしているの部屋へと向かった。
倒れる前の強大な気。
あの後白龍から聞かされた、陰陽が調和した龍神の事を。
白龍の神子や黒龍の神子よりも、強い力を身に秘めていて
その分、清らかな存在で 穢れの影響を受けやすいと。
怨霊を生前の姿で復活させられる力を持ち
不在の黒龍の分も、補える。
それには、アイツを守る5人の守護者を見つけなくてはならない。
5人・・俺達が全員の傍にいれば、良かったのか?
まさか・・な、俺達がその守護者じゃねぇんだし。
竜は台所にいた譲に、体にいい物として果物を貰うと
床の橋を渡り、奥に在る客間へ向かう。
途中、が大人しく寝てるかを考えたが
見張りとして、あの(腹黒)弁慶がいるからそれはないだろ
という結論に行き着いた為、そのまま客間を目指した。
「、起きてるか?」
「・・・」
襖越しに声を掛ける、中は静まっていて声はしない。
まだ寝てるんだろうか?
それとも・・・脱走?
心に芽生えた考え、強ち外れてなかった場合
閻魔の如く怒られるのは目に見えている。
竜は躊躇う事無く襖を片手で開けた。
「スゥーーーーー」
焦った表情の竜の前に、褥から半分這い出した格好で寝てる
の姿が映し出される。
あまりに凄い寝相な為、持っていたお盆を落としそうになった。
コイツは何歳だよ・・
心の中で1人突っ込みすると、お盆を卓の上に置いて
横向きで寝転がってるの上半身を起こし、抱える。
野郎を抱える日が来るとは・・・と思いながらだったが
思ったよりが軽い事と、男の体みたいにガタイの良さがない事に
抱えた事で竜は気づいた。
襟の大きな長衣は脱がされ、下に着ていた着物を二枚だけの姿。
女性の証である胸こそ見当たらないが、体の線は細く
手足も白くて、何より感触が柔らかい。
「女ッポイとは思ったけど、ホントに女じゃねぇだろうな・・」
何て独り言を呟き、褥の上にを寝かせると
厚い着物を布団代わりに、体の上に乗せた。
眠る寝顔でさえ、何処か女のように見えた。
まさかな、女々しいヤツだけど口は悪いし
最近じゃ空手習ってるらしく、普通の男じゃ太刀打ち出来ねぇ。
男にしちゃ華奢だけど、中身は芯が一本通ったヤツで
何よりも仲間を大事にし、絆を重んじてるヤツ。
今の俺達は、の存在が必要不可欠。
コイツ・・・が一生懸命だったから、俺達はまとまれた。
そのが、この世界では応龍の神子・・・。
を守りたい、何で男相手に思っちまうのかはわかんねぇけど
仲間だから守りたいんだって思えば、おかしくはねぇよな。
「俺達が、の守護者ならいいのにな。」
なんて独り言は、の寝顔の前で静かに呟かれた。