境界線
―遠慮しねぇから―
あの時の隼人の言葉が離れない。
真剣な瞳と、熱い眼差し。
どうしよう・・・こんな事に現を抜かしてる場合じゃないのに。
隼人はカッコイイ、隣の桃女からの人気も高い。
これで付き合ったりしたら、袋叩きに遭いそう。
それが怖い訳じゃない。
じゃあ何が怖いんだ?今の6人の関係が壊れる事?
今まで普通の男と男として接してたし
それが突然ねぇ!でもその関係を変えたのは隼人だし・・。
うーん・・難しいや。
男として生きてきた、恋も普通に生活を楽しむ事さえ
は過去のシガラミに縛られ それを封じ込めてきた。
「今は考えないでおこう、隼人には悪いけど。」
俺はドキドキする心を鎮める。
あの後、柴田達は久美子により 警察へ逮捕された。
強姦と強制わいせつ?それと恐喝罪。
まあ当然の報いだ、俺達の幸せを壊した男は逮捕された。
しばらくは安心して暮らせる。
それだけじゃなく、これを機にに会いたい。
の両親にも、真実を受け入れてもらいたい。
「よし、和解目指して頑張るか。」
独り言を言い終わったタイミングで、玄関を開ければ
数人の人影が視界に飛び込んで来た。
しかも気合入れて出たから、勢いが止まらず
人影の一人に突っ込んでしまった。
「わっぷ!」
「朝から大胆だな〜は」
「オマエが正面にいたからだろ」
「そうだよ、別にはしたくてした訳じゃないじゃん」
「「オッス 」」
突っ込んだ相手は隼人、周りからの突っ込みでそうだと分かった。
俺の頭を叩いていた手を、どさくさに紛れて
背に回そうとしたのを パシッと叩き落として防ぐ竜。
その瞬間隼人は思った。
前 コイツの事いい奴って思ったけど、撤回だな。
工藤達からを守り、代わりに殴られてた竜。
あの時はホントに感謝した。
今は撤回、が女って分かった途端 邪魔しやがる。
つーか、竜もの事好きなのか?
この邪魔の仕方を見てると、自然とそう思ってしまう。
「オハヨ・・って、何でオマエ等が此処にいんだよ。」
「昨日の今日だろ?迎えに来た。」
隼人の胸元から顔を上げて聞いた俺に、竜が答える。
気にしてくれるのは嬉しいけど、全員でお出迎えとは・・・。
素直に心配で迎えに来たって言えば〜?と隼人は竜を見やる。
それはともかく、学校に遅れると久美子が煩いので
俺達は学校へ向かう事とした。
「あのさ、皆は何処から俺が女って分かった?」
「俺は竜の代わりに俺に殴られて、保健室に運んだ時だな。」
「オマエの名前で何となく・・嘩柳院に男はいねぇから。」
「俺はね〜の笑った顔、柔らかくて男なの疑った。」
「俺は〜後ろから抱きしめた時だな、ちっちぇから何となく。」
「うーん・・俺等よりも、手足が細かった辺り」
隼人と竜の理由には、俺もドキッとした。
流石・・竜は目の付け方が違うなぁ〜姓だけで気づくなんて。
感心してるの横で 竜がつっちーと浩介に突っ込みを入れた。
オマエ等理由が違ってねぇ?と。
とにかく、見かけは騙せても肩幅とか
手足の細さは誤魔化せねぇって事か。
「そっか、結果的には騙してたんだよな・・オマエ等の事。」
過去に背を向け、償いの為に此処に来たとて
姿を偽っていた事に 何ら変わりはない。
それでも コイツ等は、俺から話すのを待っててくれた。
「それくらいで俺等は態度変えたりしねぇよ」
「オマエこそ、俺等と結んだ絆を簡単に断ち切ったりすんな。」
「竜の言う通り、が俺達に教えてくれたんじゃん。」
「そうそう、何も気にする必要はねぇよ。」
「はらしく!これからも宜しくな!」
立ち止まり 視線を落としたを皆見下ろし、5人で顔を見合わせ
優しく笑い合うと、の頭を隼人が引き寄せ
竜が逆からの頭に手を乗せる。
後はタケが正面から、優しく手を握った。
つっちーは後ろからの肩に手を置く。
浩介は竜の横から、頭を軽く叩いた。
皆の温もりが俺を包む。
こうしていると、凄く力を貰える。
俺はそのままでいいんだ、此処にいてもいいんだって思える。
コイツ等が傍にいてくれて 本当に良かった。
再び学校へと歩き出す面々、前を歩く皆を見つめてから
鞄から取り出した雑誌に視線を落とす。
その雑誌は、アルバイト情報誌。
生理二日目辺りの朝 親父から来た電話。
その電話で 縁を切っておけば良かったとぬかした親父に
苛々してた俺は 今すぐ縁なんか切ってやるよと啖呵を切った為
見事に援助されていた金は、送られて来なくなった。
別にそれはそれで構わない あんな奴のおかげで
生活出来てる恩を感じなくて済む。
だから俺は自給のいいバイトを探す事となった。
目星は二つ付けた、一つは喫茶店のバイト。
もう一つは・・・内緒だけど、ホストのバイト。
勿論 二つとも、男としてバイトするつもり。
自分で言うのも何だけど、俺って顔はいい方じゃん?
話術も 何とかなると思うし。
「 バイトすんの?」
「おう、ちょっと生活費とかヤバくてさ。」
後ろで情報誌を読むのに気づいた浩介が、俺の隣に来る。
ホストをする事は黙ってる事にし、喫茶店のバイトの事だけ話した。
吃驚した様子だったが、働く事には賛成してくれた浩介。
他の面々には内密な、と念を押しておいた。
☆☆
黒銀の校門が見えた時、何かすっげぇ懐かしく思った。
狩野を追って此処を飛び出してから、一日しか経ってねぇのに。
でもまた、此処を潜れる事がとても嬉しい。
二度と戻れないと覚悟していたから。
視界に入る落書きだらけの校舎。
其処だけ隔離されてる教室、窓ガラスのろくにない窓は
青いビニールシートで区切られてる。
初めは仕方なく来てたトコだが、今は一番安らぐ場所になった。
それもこれも、久美子と隼人達のおかげ。
3Dの教室に入ると、クラスメイト達が神妙な顔で出迎えた。
今までのように、騒がしくないクラスに入るのは
違う教室に来たみたいで逆に落ち着かない。
「嘩柳院、大変だったんだな。」
「無事で良かったぜ。」
「オマエが誰であろうと、俺達3Dの一員だからな!」
困ったように皆を見渡せば、小橋を筆頭に次々に俺に言い
最後には全員の熱い歓迎を受けた。
わーわー騒ぐクラスメイトに囲まれたを
隼人達は楽しそうに見つめている。
あまりにも、皆が温かくて またしても涙腺が潤みそうになった。
「おうオマエ等、朝から賑やかだな!」
「ヤンクミ、おはよう。」
「うんうん!所で、もう大丈夫なのか?嘩柳院。」
「ああ、ヤンクミにはいっぱい心配かけたな・・コイツ等にもさ。」
「そうか?コイツ等はそうは思ってねぇみてぇだけど」
賑やかさの戻った3Dに入って来た久美子。
輪の中心にいたを見つけ、傍に来るとニコニコ微笑んで言った。
俺を気遣ってくれる問いかけに、クラスメイトも含め
心配かけちまったと言えば、久美子はどうかな?と言い
その言葉にも自分を囲んでるクラスメイト達を見た。
すると、久美子の指摘通り 皆はどうって事ないと笑い
本当の事を知れて嬉しい、話してくれて良かったと
口々に俺に言ってくれた。
「有り難う」
何も打ち明けなかった自分を、ずっと見守ってくれた久美子。
他人の心配ばかりして、自分の事は話さなかった俺を
今の今まで信じて待っててくれたクラスメイト。
そんな俺なのに、身を挺して助けてくれた隼人と竜。
全てを話しても 俺を受け入れてくれたタケ達。
俺は今もう一度、改めて皆に礼を言った。
黒銀来て良かった 3Dに入って良かった。