見つかると言う希望よりも絶望が勝った。
色々な物を心へ蓄積させすぎていた私の心は
既に蓋だけでは閉じ込めておけなくなっていて

それを失くし、絶望すると共に
心は物言わぬ虚無へと落ちる。



虹色の旋律 二十二章



時刻は9時50分に差しかかろうとしていた。
そろそろ席に着くべく、各々が用意された席に向かい始めた時。

席へと歩き始めた赤西は、ふと打ち合わせで決まったの出て来るドアへ視線を向けた。
司会の流れとタイミングでジャニーさんがドアを示す、と照明が向けられてが登場・・・・ん?

向けた視線の先に、やたら青い顔をしたアイツを見つけた。
視線も落ち着かない、何か探してるみたいな感じ。
焦点の合わない目にフラついた足取り、不思議と胸騒ぎを覚えた。

会見はもうそろそろ始まっちまう。
体調でも悪いんか?
それだったら先にジャニーさんにでも説明すれば何とかなっかもしんねぇ

それより先にを落ち着かせねぇとだな・・
変に騒ぐ心臓に急かされるみたいに会場を横切るように歩き出した赤西。

視線の先にいるのは青ざめた
真っ直ぐを視界に入れて、その距離が縮まり名前を口にしかけたその時だった。
真横から俺の声に重なった強い声、それは―――

「おい―――」
?」
「亀梨さんどうしたらいいんでしょうっ」
「どした?取り敢えず深呼吸して落ち着いて話してみ」
「わた、私の・・・っ」
「何か失くした?」
「大切な物を何処かで落としてしまったみたいなんです・・私、あれがないと・・・っ」
「取り敢えず落ち着いて、会見が終わったら一緒に探すから。な?」
「・・・・・でも・・あれがないと・・・あの一枚しかもうないんです・・・・」
「――、会見で一人で登場したらちゃんと俺らんトコに来て。不安だったら俺の手握っていいから。落とした物もちゃんと探してあげるから」
「・・・亀梨さん・・・・・っ」

赤西より先にに声をかけたのは亀梨で、の両腕を自身の両手で支える。
酷く蒼白な顔をしたは、ハッとした顔を亀梨へ向けると掴み返すかのように亀梨の腕を握った。

宥めるようにして視線を合わせる亀梨。
目を合わすうちに少しだけ呼吸を整えたは、たどたどしく理由を話し始める。
何とも言えないが少し先の位置で二人のやり取りを見ていると胸がムカついて仕方なくなった。

だが事情は察しておきたい気持ちが勝り、少し位置を変えて二人の会話に耳を欹てる。
何か大切な物を落としてしまったと訴える

赤西はその表情ばかりが気になった。
目が虚ろになって来てるだけでなく、同じ言葉を何度も繰り返している。
抜け殻のようになってしまいそうな様が赤西の胸をざわつかせた。

虚ろな目で視線を彷徨わせながら呪文のように繰り返す言葉。
そんなの両腕を強く掴み、自分へ視線を向けさせた亀梨は
懸命に支えようと努めた。安心させたくて強く手を握りながら亀梨は思案した。

大事な物、多分あの写真の事だろうな・・・・

耳を欹てていた赤西もの大事な物はあの写真だと合点がいく。
これ程までに動揺するくらい、あの写真はにとって特別な物だったのだろう。

なんて・・なんて、痛々しい様なんだろう。
落ち着かせながら亀梨の表情も辛い物になった。

「カメ、・・・平気そう?」(上
「分かんないけど、一旦は落ち着いたみたいかな・・」(和
「あんなツラで会見なんて出れんのかよアイツ。」(赤
「けどそれをフォローすんのがグループだろ?」(和
「だよな、立ち位置近い聖と田口・・気をつけてやれよ?」(中
「おう」(聖
「任しといて」(淳
「会見終わったらアイツの探しモン全員で探すぞ」(赤
「おうよ」(全員

立ち位置に戻って行く危なげな背中を見送ってると傍に上田が来ていた。
自身も歯痒さが残り、曖昧な返事しか返せずに苛立ってくる。
何も出来ない、の不安を完全に拭ってやれないのが悔しくて情けなかった。

そんな亀梨の肩を叩き、あんま自分を責めるなと上田は目配せした。
其処へ今合流したように見えるよう、小走りで近づく赤西。
敢えて態度は変えず、面倒臭そうに二人の会話に混ざった。

その赤西を見据えるように視線を向けた亀梨はキッパリと言い切る。
互いをカバーし合って支え合うのがグループじゃないのか?と。

亀梨に同意したのは中丸で、いつの間にか揃っていたメンバーの聖と田口に力強く視線を向ける。
矛先を向けられた聖と田口も力強く応えた。

それを眺めた赤西も、仕方なく笑みを返すと自ら音頭を取り
メンバーへ全員での探し物を探すようにと高らかに宣言した。
意外な赤西の言葉だったが、皆各々に頷き返した。


++++++++++++


午前10時、いよいよ記者会見が開始された。
司会を進行するアナウンサーが登壇に立ち、フラッシュの焚かれる会場を見渡す。

「では早速記者会見を行いたいと思います」

会場には100人近い記者が集まっていた。
まあ彼らの人気はデビュー前にも関わらず高まっていて
去年の『お客様は神サマーコンサート』では11days連続公演を行った事も話題に新しい。

そんなジャニーズのグループに期待のルーキーが加入したとなれば話題性も高い。
記者の前には長いテーブルが置かれ、白いテーブルクロスが掛けられた物があり
ジャニーズ社長を始め、グループメンバーが鎮座している。

記者からのフラッシュを浴びながらジャニーズの社長が先ず口を開いた。

「えー、皆さん。わざわざデビュー前のグループにも関わらずお集まり頂き有り難うございます」
「その新しいメンバーは会場に来ているんですか?」
「勿論です、彼は歌唱力に長けていて此処にいる赤西と共にグループを代表するような存在になるでしょう」
「他のメンバーはその事を納得しているんですか?」
「はい、切磋琢磨しながらグループ自体の力を上げていくつもりです」(和
「同じグループでもライバル同士っすから」(赤
「彼とはもう仲いいっすよ、親しみ易い子ですし俺らの絆を強めてくれる力のある子ですから」(淳
「特別な子だと社長は言っているようですが、何か感じることはありましたか?」
「歌がすげぇ上手いんですよソイツ。最初はいきなりで抵抗もあったんすけど今じゃ立派に仲間っす」(聖
「本人も驕ったりしない子で、姿勢も前向きで努力家だから俺らも違った目で見るのは止めたんです」(上
「何より本人が一番気負ってると思うんですよ、俺らも結成して3年経ってますしグループとしての形は形成されて来てますから」
「其処に途中参加するプレッシャーとか重圧、結構感じてると思います。でも本人は何とか俺達に追いつこうとしてるし・・その姿勢に俺らも感化されてますから」(和

数々のフラッシュの中、記者の質問にメンバーはそれぞれ真剣に回答して行った。
時にはその時に口にしなかった感情の変化も言いつつ。
メモを取る記者達もメンバーのコメントに頷きながらペンを走らせる。

会見は順調に進んでいる・・それでも気掛かりはまだ残っていた。
幾ら才能があるとは言え、は二日前まで一般人だった奴だ。
プロなら立て直せ、とは言えない。

裏に控えてるは大丈夫なのか、インタビュー中もそればかりが気になる面々。
視線はの出て来るドアに向けられた。

ドアの内側では、変らず青ざめた顔のの姿。
こうしてる間にも誰かに拾われてるかもしれない。
掃除の人が来て捨ててしまってるかもしれない。

そんな不安が浮かんでは消え、ずっと心に留まり続けていた。
もうそろそろ呼ばれる時間になるから動く事は出来ない。
あの写真は、私がこの時代で頑張る支えになっていたんです・・・・

現では会えないけれど、写真があれば顔を眺める事が出来る。
でも・・なくなってしまったらそれさえも出来ない。

「では紹介しましょう。伸びやかで透き通った声を持つルーキー・・君です」

司会者が高らかに紹介し、ジャニーが片手をドアへ向けるのを合図に
1つのドアに照明が当てられ、ゆっくりと扉が開く・・・

が出て来るのかが心配なメンバー。
待ったのは数秒で、躊躇いがちな足取りのが記者の前へと現れた。
瞬間凄まじい数のフラッシュが焚かれ、の姿をあらゆる角度から撮影する。

俯きがちな表情からは何の感情も伺えない。
その様子を記者達はまだ慣れてないんだろう、と言った眼差しを向けた。

後は此処まで歩いてこられるかが気がかりになる。
さっきみたいなフラフラだとしたらマズイ。
司会者はそれには気付かず、此方へ来て下さい〜とを呼んでいる。

ゆっくり視線だけカメラへ向け、その視線を声のする方へ向けた
その視界に亀梨達が映った。

会見が終わったら一緒に探そうと言ってくれた亀梨。
意地悪だけども気にかけてくれる赤西。
明るい言葉と笑顔で励ましてくれた田口。

名前で呼んでいい?と明るく迎え入れてくれた田中。
そして、継信の面影があるが、継信とは違った柔らかい雰囲気を持つ上田。
いつもフォローしてくれて親切な中丸。

その彼らを見た時、漸く足が動いてメンバーの方へ歩き出した。
ゆっくりと歩くの足取り、一番外側の中丸も他メンバーも見守る中

ぼんやりとしたまま歩く様に少し記者達が首を傾げ、会場もざわついてきた。
メンバーもそれを感じ取り顔を見合す。
その中、一人が席を立つ音がした。田口の真後ろを通り抜けた影。

「平気か、すみませんコイツちょっと練習疲れでフラフラなんすよ」(?
「そう・・そうなんです!足取りが危なっかしくて」(和
「今年の夏のイベントに向けて猛特訓してたせい何ですよ、もう特訓しなくてもいいぞー?」(淳
「どっちも猛特訓って言いたいのかよクソ寒い・・・・」(聖
「どうやら皆さんは十分に仲が宜しいみたいですね喜多川社長」
「勿論ですよ、彼らはグループなんですから。さあご質問をどうぞ」

メンバーの後ろを通り、の腕を掴んで支えたのは赤西だった。
誰よりも反対していてきつく接していたあの赤西が、と司会者と記者以外の全員が驚く。
それからハッとした亀梨が不自然さを気付かれないように駆けつけて反対側から支える。

続けて寒いギャグを飛ばして会場の空気を上手く田口が変え
そのギャグに遠慮なく突っ込みを入れた聖。

会場の空気が明るく変わった様を見て、にこやかに進行する司会者。
記者達にも平静が戻り、再びフラッシュが焚かれる。
その隙を縫ってジャニーはインタビューに答え始めた。