虹色の旋律 三十三章
険悪と言うか、妙にざわついたレッスン室。
取り敢えず小山と増田は、を室内の隅へ招いた。
「質問していい?正直に答えてね?」(小
「・・はい」
先ず始めたのは確認。
玉森だけの話を鵜呑みには出来ないからね。
こういうのは双方の話を聞かないと。
「は本当に玉森の手を振り払ったの?」(小
「・・・・・振り払ってません・・」
「やっぱり」(増
「でも!私もちょっとしつこかったから・・・だから、気を悪くさせてしまったと・・」
「しつこかったって?」(小
「それに・・事実ですから・・・私がオーディションを受けずに此処に入れたのは」
うーん・・・・・駄目だ、結構ダイレクトに落ち込んでるかも・・
玉森はの何かがしつこかったから、僻みをぶつけたのだろうか?
他のJrも止めなかったみたいだし――・・・
うわあ・・嫌な事考えた。
「不味いなコレは」(小
「・・・うん一悶着起きそうな気がするよ小山っち」(増
「二人を止める子がいなかったってのも引っ掛かるんだよな・・」(小
「亀達に言った方がいいんじゃない?」(増
いや・・・増田の意見は最もだけど、こういう事って本人が乗り越えなきゃだと思うし
寧ろ報告したらしたで、逆に玉森の身に危険が及びそうだ←
特にカメとかうえぽとかうえぽとかうえぽとか・・etc(
にとっては試練だけど、だからこそ乗り越えてほしいな。
聖達とも何とかなったんだし、なら出来ると思うんだよね俺。
でも何で知ってたんだ?もうそんなに知れ渡ってるのか?
そんなこんなでレッスンはサンチェの登場と共に開始された。
進行の流れ通りに通し稽古、室内には終了までカウントを取るサンチェの声が響いていた。
レッスンは三時間後に終了。
Jrも小山達も皆汗を流し、肩で息をしている。
は隅の方で流れと動きを追いかけていた。
正式に参加するのは明日からだから今日は輪に加わっていない。
レッスンを追いながらも、心は晴れなかった。
赤西達に拒絶された時よりもダイレクトに胸に突き刺さった言葉。
彼の言った言葉は正しいし、間違っていないから余計だ。
面と向かって言ったのは彼だったけども、あの場にいた全員がそう思ってる可能性もある。
今までちっとも気づけなかった。
自分がどんなに恵まれた環境にいるのかを。
過去の人間と言う事を省けば、物凄い幸運に恵まれている事になる。
ジャニーズの社長直々に声をかけられ、期待のグループに入れられ
あれよあれよと言う間に用意されている大舞台への出演。
これを羨まずして何とするんだ?
かつて上田も言っていたように、偶々こうして目に留まる物を持っていただけ
他にも表舞台に立つ為に小さい頃から練習に励んでる人たちがいるんだ。
私は・・知らないうちに他人を傷つけていた?
このままレッスンに支障をきたしたりしたら・・・彼らにも迷惑が掛かってしまう・・
ただでさえ迷惑をかけてるのにこれ以上の迷惑はかけられません・・・・・
どうにかして気づかれる前に何とかしないとっ
この捻挫もそろそろ治りそうですし、結果を出したら玉森さんも認めて下さいますよね!
その時ふとレッスン室の扉が開いた。
「おーい!!」
「うん?」(増
「あ、田中さん!!」
「・・・・」(小
声と共に現れたのは、シェアハウスにいたはずの田中だった。
ずっと心細さでいっぱいだっただが、見知った顔にホッとして思わず駆け寄る。
パッと輝いた笑顔になったを、思わず小山は見つめてしまう。
自分達が来た時には見せなかった安心した笑顔。
やっぱ同じグループってこその奴かな、何かちょっとだけ悔しいとか思っちゃったけど。
駆け寄って来たを迎えると、田中はその後ろにいた小山と増田にも気づき手を上げた。
その時少しだけ感じたものがある。
なーんか空気が微妙じゃね?
ちっこいJrとかがを伺うようにチラチラ見てやがるし
何よりも決定打になったのは、俺に気づく前のの顔ね。
すっげぇ深刻な顔してた。
んー・・・・後で小山とかに聞いてみっかな。
「田中さんも事務所に用があったんですか??」
「ん?用って言うか、まあちょっとな」(聖
「よう聖〜」(増
「ちょい聖顔貸して」(小
「??」
「はまっすーと居て、ちょっと聖借りるわ」(小
「あ、ハイ」
何かに気づいたような顔をした田中に気づき、すぐさま小山は田中を呼び出す。
キョトンした顔のを増田に任せ、レッスン室から出て向かったのは廊下の一角に造られた休憩スペース。
呼び出されて驚きもしたが、丁度聖も聞きたい事があった為
素直に小山の後ろをついて行く。
どちらかともなく席に着き、先ずは小山から口火を切った。
レッスン開始前に起きた一悶着。
玉森の嘘と、もハッキリ否定しなかった事など。
「それと玉森は何処でがオーディション受けなかった事を知ったのかが気になるんだよね」(小
「何処で聞いたかとかじゃなく要は俺と赤西みたいに、玉森も簡単には受け入れられずにいるんだろな」(聖
「まあそうなんだろね、そうじゃなかったらあんな嘘つかないだろうし」(小
「けどこれが続くようになったら不味いよな、雰囲気も悪くなりそうじゃん?」(聖
「だよな〜・・・でも俺さ、なら乗り越えられると思うんだよね。聖達もいるし。」(小
話の終わりをそう締め括り小山は微笑んだ。
田中も言いたい事があったのだが、問いの内容は先に報告して来た小山の言葉で解決してしまったので別の事を思案。
が深刻な顔してたのは、玉森との事があったから。
同じグループとしてサポートはすっけど、アイツがそれを必要とするのかどうか・・・・
意外と一人で突っ走るタイプだし、頑固っつーか何と言うかストイックだからな〜。
けどまあ、が俺達を頼ってきたら真っ先に手ェ貸すけどな。
取り敢えずが何も言って来ないっつーなら、カメ達に話すのは後にしとくか。
と言う訳で、小山と田中はと増田のいるレッスン室へと戻るのだった。
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そんなこんなの日から数日。
今日はCMの撮影でテレビ会社を訪問してます〜
何でも食べ物のCMだとか・・・・?
未来の日本には色々な物があるんですねぇ
ガム?とか言う物らしいです。
監督さんから絵コンテ?プロットを貰い、撮影の流れを確認。
先ず一人ずつがガムを持ってクローズアップされ、商品名を言い。
合間に製品をイメージした映像が、味の広がる様を表現。
そして一人ずつ一粒食べての感想。
それから最後に製品名をもう一度言って終わり。
「、衣装は此処を出て右手の部屋にあるから着替えておいで」
プロットを詠み終えたタイミングで、前からマネージャーさんの声が聞こえた。
顔を上げたに優しく説明したマネージャーの四月一日。
その彼に元気よく返事を返すと、スタッフさん達に会釈をしつつ衣裳部屋へ向かった。
あの日の事は誰にも知られていない。
あれくらいで落ち込んでたら駄目ですからね、私にはもう此処で生きて行くしかないのですから・・・・
玉森からの動きはあの日以降ハッキリと行われていた。
他のメンバーがいる時は何もしない、わざと足掛けとかくらいはあるけども
それがあったとしても彼は巧く誤魔化すのだ。
しかもに自分の鞄からケータイを取ってくれ、と玉森の鞄に向かわせ
素早く私物をのポケットに入れておきながら、失くした、と騒ぎ
さっき玉森の鞄の前にいましたよね?と矛先を向けてくるのだ。
当然私物はのポケットから出て来る。
当たり前のように周囲はほ疑い、軽蔑したような目を向けるのだ。
騒ぎを聞きつけ他の先輩Jrが現れれば、手の平を返したかのように弱い後輩を演じる。
そしてお決まりなのは、先輩は悪くありません、悪いのは私物の管理をしなかった僕の方です・・・となる。
こんな事がほぼ毎日のように起きていた。
でも音を上げたら最後だ、自分は此処で躓く訳には行かない。
泣いたりしても駄目、誰も同情はしてくれないですから。
最近は趣向を変えたのか、芝居ではなく行動に現すようになってきた。
がレッスンをしていると当然のように入って来て、妨げをしてくる。
わざと別の選曲テープを流して隣で踊ると言う物。
実は結構堪えていたりする、は絶対音感と言う繊細な神経を持っている。
様々な音の全ての音階を瞬時に聞き分ける耳だ。
其処にワッと別の音が一気に流れ込むと、とても辛い。
音が溢れて頭痛と眩暈を引き起こす物になる。
そんな事ばかりが続いていて、正直神経は磨り減り、睡眠不足を抱えていた。
どんなに辛くてもは音を上げなかった。
全ては傍にいてくれるメンバーがいるお陰である。
六人の存在を支えに、は一日一日を生きていた。