浩介の仕事



大江戸一家の人達に、頭を下げられた後
無言の帰路だったけど、隼人と竜は俺を家まで送ってくれた。

優しくされると、何だか決心が鈍るってゆうか
俺が悪いような気になっちまう。
隼人達の強引な行動に、自分が怒って二人を避けていたのに。

そんな時でも、二人は優しい――


ヤンクミの秘密が明かされた次の日。
何とも目覚めは良好だった。

今夜もホストの仕事が待ってるのにも関わらず。
昨日飲んだ酒の量もハンパねぇ・・・
今更ながらドンペリとシャンパンの酔いが;

それでも学校を休む訳には行かない。
学生に大事なのは、本来勉学なのだから。

「ヤンクミの家が任侠一家か、俺の家は嘩柳院流の家元。」

の胸中に、重い何かが湧き上がる。
ヤンクミの家族と、自分の家族との違い。
ヤンクミの家族には、俺の家になかった全ての物がある。

それは、ヤンクミを見守る温かな愛だ。

冷ややかなあの屋敷に、そんな物はない。
縁を切られた今じゃ関係ないけどな。

過去を振り返っても、現在(今)が変わる訳じゃない。
割り切って学校へ向かう事にした。


ΨΨΨΨΨΨ


今までと同じように、徒歩で黒銀まで向かう。
同じ秘密を握った隼人と竜、道中はまだ顔を合わせ辛く
二人と鉢合わないかを気にしつつ、は校門を潜った。

の周りを、普通の校舎を使う生徒が通り過ぎて行く。
彼等を見て思うが、勉強勉強・親からの期待、そればかりで頭がおかしくならないのだろうか。
学校や親の方針に、疑問とか、自分の意思を持たないのだろうか。

抑制される毎日に息苦しさを感じないのだろうか。


見上げた先に映る、隔離されたブルーシート。
自由に生きたい意志を閉じ込めた檻だ。コレは。

社会のルールは守るべきだと思う、その為に教育は必要だ。
けどコレは度が過ぎた扱いだ。
問題児は隔離して、従順な生徒だけを育てる。

間違った教育の代表みたいなモンだ。
道を間違いかけてる生徒に、正しく指導しようとしないで逃げる。

「サイテーだな」

の独り言は、3Dの教室に付く前に終わった。
過去のセンコーは皆そうだった、思い出すだけで腹立たしい。

すると、いつの間にか目の前にタケが立っていて
ピトっと眉間の辺りに、人差し指を当てるとキョトンとしているに言った。

「1人で悩んじゃ駄目って言ったでしょ、。」

そう言うと、ニッコリと笑う。
にしても・・癒し系だなぁ〜タケって。

「そうだな」

不思議とつられて笑みが零れ、タケにおはようを言う。
ふわっと花が零れるように笑ったを見て、照れるタケ。
は女の子だと分かった今では、この反応に自分で突っ込む事もない。

1人でその事実にホッとするタケ、その隣りでは教室へのドアを開けてるがいる。
ガラッと開ければ、前の席に座る面々がとタケに挨拶。
それに応えつつ、自分の席に向かう。

「オッス、、タケ」
「はよっす、つっちー」

その途中、漫画本を片手に突っ込みが声を掛けてきた。
もタケも笑顔で、つっちーに挨拶し返す。
タケはそのノリでつっちーの傍に居ついた。

小動物のようなタケの姿に、微笑ましくて笑みが零れる
一方、遠巻きの隼人と竜的に言えば。

あんな隙だらけの笑顔で笑ってんなよ。by隼人
あんな顔で笑ったら、襲ってくれって言ってるようなモンじゃねぇか・・by竜

ヤキモキしながらを見る隼人と竜。
当の本人は、そんな二人の心境も露知らず隼人曰く
隙だらけの笑顔で、つっちーとタケと笑い合っていた。

そして、やっと自分の席にが来た所でチャイムが鳴り
担任のヤンクミが元気よく教室へ入って来た。

皆おっはよーと叫んだ後、後ろの席の隼人と竜とと目を合わせ
サッと何事もなかったかのように、教卓に立つと抱え持って来た重たい本とかを
ドサッと教卓に置いて、再度クラスの生徒へ言い渡した。

「はい、静かにー。今日は、まだ間に合う大学と専門学校の資料。
それと求人案内も持って来ました、もう一度自分の・・・」

進路をよく考えて、とでも言おうとしたのだろうか
不自然にヤンクミの声が途切れ、その視線を辿ればその目は空席になってる浩介の席だった。

寝坊でもしたのか、あの面談の日先に帰った
浩介が仕事を始めたのを知らない。
よく考えようにも、二日酔いの頭痛が痛んで集中出来ないから考えられない。

ホストは酒を控える事も出来ない、飲ませられ勧められるがままだ。
職業病っつーか、仕方がない事だし。
稼ぐ為には、背に腹は変えられねぇ・・・

「日向は休みか?」
「アイツ、仕事してんじゃねぇの?」
「昼間もか?」
「何かアイツ最近金回りいいらしいから」
「日向の奴、家にも帰ってねぇみたいなんだ」
「ホントか?」
「ああ」
「夜の仕事とかっつてたけど、何やってんだか」

黙って考える横や周りでは、ヤンクミと会話する他の面々。
竜の受け応えの後のつっちーの言葉には、眠気に負けそうになってたの思考もバッチリ冴えた。
思わず大声を出しそうになったが、何とか堪える。

夜の仕事って・・・まさか、俺と同じホストだったりしねぇよな?
朝も夜も家に帰ってねぇって、寮にでも入ってんのか?
アフターしたから来ねぇって訳じゃねぇよな?

一瞬顔色を変え、考えるようなそぶりをしたに気づく者はいなかった。

「まさかアイツ・・やべぇしのぎに足突っ込んでんじゃねぇだろうな」
「しのぎ??」←一同
「あ」
「バカ」
「自分で墓穴掘ってるよ」

タイミング良く静かになっていた教室に、ふと響いたヤンクミの独り言。
その言葉『しのぎ』は、立派な任侠言語であった。

敏感に反応した生徒の視線が、疑問符と共にヤンクミへ向けられる。
全ての生徒の視線を受けたヤンクミ、ハッと口を閉ざす。
そんな姿を、秘密を知ってる隼人と竜が呆れた顔で見ていた。

ぼやく姿が何とも愛らしい・・ってのはおかしいだろ、自分。

その後ヤンクミの苦しいギャグで、その場は乗り切った。
こっちがばらさなくても、自分から自滅しそうだな・・。


ΨΨΨΨΨΨ


浩介の話題が出たのは朝だけで、それ以降は普通に授業が始まり
何事もなくその日の授業は全て終わった。

あっという間の放課後。

俺・・どうすりゃいいのかなぁ〜〜
隼人と竜とは、気まずいままだしタケとつっちーはそれを知らない。
いつも通り放課後付き合わなかったら変に思われるだろうし。

でも気まずいなら付き合う必要もないよな・・・?
とか思ってみるが、タケのウルウルした目でせがまれると弱い。

「なあ隼人、日向と話してみねぇ?」
「そうだな〜アイツの仕事とか気になんし」
「金回りがいいってのも気になんしな」
「ああ」

そのタケは、隼人達に提案し日向と会う事にしたようだ。
仲間思いな彼等らしい発想、その事に反対はしてない。

問題はその後だ、行くべきか行かないべきか・・・・・・

も行こう?」
「あ、えっと・・・」
「・・・・・・行こうぜ」
「え?隼人っ」

迷っていると、笑顔で俺を呼ぶタケの声。
顔を向けた時に合った視線、思わず反射的に隼人から視線を外す。
すると、それを見た隼人は一言言って歩き出してしまう。

この行動に、の胸がキリッと痛んだ。
怒ってるよな・・・怒ってるよなぁ・・・・俺無視しまくったし。
でも何でいつの間にか俺が悪い気してんだろ。

何だか胸が痛くて、自分が落ちこんで行くのを感じる。
声を掛けられないのが辛い、こんなに辛いのは何でなんだろう。

「何してんだよ、行くんだろ?」
「?」
「泣きそうな面しなくても、置いて行ったりしねぇよ」
「!?」

そんなに落ち込んだ顔をしてただろうか。
顔を上げたら、いつ来たのか隼人と竜が立ってた。
時に思うが、コイツ等って近づくのが好きなのか?

常に気配がないってゆうか・・・

ってゆうか、泣きそうな面とか竜が言ったから
ムキになって言い返そうとすれば、有無を言わさず隼人に腕を引かれ
わしゃわしゃと竜に頭を撫でられた。

昨日のヤンクミみたいな仕草に、何だか照れてしまう。
こんな風に頭を撫でられるのは何年ぶりだろうか・・・

?」
「平気だ、大丈夫だよ」
「良かった♪」

温かくなった心、溢れ出そうになった涙。
もう皆の前で泣くのはしたくないから堪えた。

気に掛けて声を掛けてくれたタケに、精一杯の笑顔。
つっちーも隣りに来て笑い掛けてくれる。
温かい皆の心、親がくれなかった物は隼人達とヤンクミがくれた。

笑顔が戻って来たに、距離を詰めた隼人と竜が
タケとつっちーに聞こえないよう、小声で囁いた。


「ごめん」
「もう気持ち、押し付けるような事しねぇから」と。