交差する想い



何時もと変わらぬ騒がしいクラス。
その中にいる隼人達には、賑やかな雰囲気はない。
5人全員が、未だに来ない者を待つように
教室への扉を眺めている。

「あいつ・・・遅くねぇ?」
「何時にも増して、な。」
「もう五分すりゃあ 遅刻だぜ?」

扉を眺めながら、隼人と竜・つっちーがそう漏らす。
今までは最低でも五分前には来ていた。
それがギリギリになっても顔を出さない。

何か・・あったんだろうか

黙り込んでいる隼人と竜の頭に、同じ疑問が浮かぶ。
・・・ごめんな』
あの日、サボッた時 眠りながらそう呟いた
泣き顔なんて、初めて見た。

俺達には言わないで、一人で苦しみを背負ってる。
気持ちをぶつけた日も、は泣きそうで
でも泣かないで 強がってた。

それと、刑事がアイツに言ってたのを聞いちまった。
誰かに見張られてる・と。
それもアイツの苦しみに関係してんのか?
何を一人で抱え込んでんだよ・・

「隼人」
「・・・なんだよ」

机に肘を乗せ、曲げた手の甲に頬を乗せて考え込んでたら
ふいに小さい声の竜が、俺の頭を小突いた。
まとまらない考えにイラつきもしたが、仕方なく竜を見上げる。

「アイツまた変な事に巻き込まれてそうじゃね?」

息を吐きつつ言う竜、その瞳はとても真剣。
確かに、それは否定出来ない。
は無茶ばかりするから・・喧嘩もした事ないし
弱いし 体華奢いし 肌白いし 柔らかいし・・・・
やべーって・・・今はそうゆう事考えてる場合じゃねぇよ。

隼人は今浮かんだ事を振り払うように、軽く頭を振る。
何やってんだ、コイツ。
そう言いたそうな視線を、竜は隼人へ送った。

「言えてる、面倒な事に自分から首突っ込むし」
「うんうん・・自分より他人を優先するしね」
「弱いくせにさ〜何か、一生懸命じゃねぇ?」
「つっちー鋭いね〜それは俺も思った!」
「・・・おまえら、聞いてたのかよ」
「「「あったりまえじゃん!!!」」」

全員同じ事を思ってたらしい。
妙な所で団結してる様子に、思わず竜が突っ込みを入れた。

意見も一致した所で、隼人と竜は玄関まで行く事にした。
本当は全員(5人)で行こうとしたのだが
もし入れ違いでが来た時の事を考え、タケ達は残す。
黙って走る二人。
息を切る音だけが、静かな廊下に響く。

しばらく走り、玄関に着いたが の姿を確認する前に
小声だが、話す声が聞こえ 隼人と竜は注意深くそっちを伺う。

「おい・・あれ、山口と・・・・」
「C組の狩野?・・アイツ、何で傷だらけなんだ?」

隼人達が見つけたのは、自分達の担任と隣のクラスの生徒。
喧嘩などしない真面目なクラスにいるはずの狩野。
結構見られる顔が、殴られたのか台無しになってる。
久美子が殴った・・という事も考えたが、流石にそれはないと割り切る。

「てゆうか、竜。」
「?」
「オマエさ・・何で学校来てなかったくせに 隣のクラスの奴知ってんの?」
「・・・・何話してるか確かめなくていいのか?」

前々から聞きたかった疑問、だが竜は話をそらし
さっさと二人の方へ行ってしまう。
隠すような事なのかよ。
納得は行かなかったが、竜の言う通りだった為
隼人も竜へ続いて二人の方へ走った。

「本当なのか?狩野!」
「はい・・俺のせいで嘩柳院さんが・・・」

駆けつけた二人の耳に飛び込んで来た言葉。
このやり取りはどうゆう事だ?

「おい!一体どうゆう事だよ、説明しろ!」

隼人はの名が出た事で、気持ちが逸る。
走り寄った先にあった狩野の肩を掴み、力任せに振り向かせた。
思わぬ二人の登場に、狩野と久美子の顔が驚きに変わった。
不良で知られるD組の頭・隼人と、最近来るようになった竜。
声も出ないくらい吃驚して、震え上がった狩野の代わりに

「落ち着け矢吹!狩野は悪くない、丁度いいお前等も聞け。」
「はあ!?どうゆう事だよ、に何かあったんだろ!?」
「アイツ、まだ学校来てねぇし気になって見に来てみたんだよ」

久美子が殴りかかりそうな隼人の肩を掴んで止める。
中々落ち着けない隼人に代わり、落ち着いた足取りで現れた竜が
此処へ来た経緯を話した。
竜もいた事に久美子は驚いたようだが、そうか・と呟くと
怯えた様子の狩野へ、話の先を促した。

説明を任された狩野に、鋭い隼人と竜の目が向く。
その迫力に圧倒されたが、何とか狩野は口を開いた。

「俺・・竜神学園の奴等に脅されて、嘩柳院さんの事を探るように言われたんです。」
「てめぇがの事見張ってたんか!?」
「隼人!止めろ。」
「・・わぁったよ」

刑事がに言ってた事、見張ってるのが狩野だと勘違いし
再び胸倉を掴みかけた隼人、久美子より先に竜が止め
チラッと狩野を促し、話を続けるよう指示。
納得の行かなさそうに隼人は答え、壁に寄り掛かって待つ。

「嘩柳院さんは、抵抗もしませんでした。
脅されてる理由を聞くと 俺の事より妹さんの事優先しろって」

またかよ・・またアイツ、一人で無茶しやがって・・・。

「それからアイツ等に報告しました、でも金は受け取りたくなくて
嘩柳院さんが教えてくれたんです。そんな事しなくても
大切な物を守れるんだって・・・俺に、気づかせてくれた。」

はそうゆう奴なんだよな・・自分よりも相手を優先させて
それでいて、ちゃんと大切な事も教えてくれる。

目を閉じて話を聞く隼人と竜の頭に、の姿が浮かんだ。
心から笑った顔も見せないで、自分の事は関わらせずに
俺達の事には真っ先に首を突っ込む。
何かに苦しむ姿、近くにいるのに手を差し伸べられないもどかしさ。
俺達は、何度もに助けられた。

何時も 仲間とは何か、絆ってなんなのかを教えてくれてたのに。

「俺が金を断って ボコられてたら、嘩柳院さんが来て
俺の代わりに奴等に連れて行かれちゃったんです。
俺があんな事引き受けなければ・・もっと強かったら・・!」

静かに聞く隼人達、狩野が何を言いたいのかはちゃんと伝わった。
俺達だって、同じ事を教えられて 同じ事を思ってる。

「竜神学園の奴等、何処行ったか分かるか?」

低いトーンの問いかけ、少し肩を震わせてから顔を上げ
それでも懸命に隼人と目線を合わせ、しっかり答えた。

「多分・・・繁華街の裏にある倉庫だと」
「さんきゅ!それだけ分かれば上等、知らせてくれてありがとな。」
「助かった、お前弱くなんかねぇよ。」
「矢吹君・・小田切君・・・嘩柳院さんを、お願いします。」

隼人はゆっくり狩野へ近づくと、景気よく肩を叩き礼を言う。
言い慣れてなくて、視線は合わせてなかったが。
竜もクールな態度はそのままに、狩野を認めた。
こうしてありのままを伝えてくれた事、仕返しも恐れず
自分達に話してくれた狩野。
その心の強さを認め、竜は言った。

狩野が最後に言った言葉に頷き、当然!と隼人はピースし
竜は任せろ・と告げ 足早に外へ出て行った。
その後姿を見て、久美子は授業そっちのけな二人に溜息をつく。
だけどやっぱり嬉しくて、二人を許してしまうのだった。

久美子も立ち尽くしてる狩野を元気づけるように言う。
「小田切の言う通りだ、狩野は強い。
けどな、脅されてたからって嘩柳院にした事は見逃せない
ちゃんとその間違いは認めろ。」
決して甘やかさず、犯した間違いを久美子は正す。
狩野も少し潤んだ目で、久美子の言葉に頷いた。

「嘩柳院の事は、私と・・あの二人に任せろ。」

肩を落とした狩野へ掛けられた力ある言葉
安心した狩野が顔を上げれば、既に久美子の姿はなく
一陣の風だけが そこに残った。