後悔とケジメ



「甘えろよ・・・」

自分の甘さに、思わず泣いてしまった
駆けつけた隼人は、掠れ声でそう呟いた。
誰かに甘えたり頼ったりなんか、今までした事のなかった俺。

力強く抱きしめられ、チョー近くでそんな事言われたら・・・
照れるってレベルじゃねぇ!!
でも俺は、その腕から逃げられなかった。
自分でも信じられないけど、なんか・・安心しちまってて。

タケを追いかけなきゃなんないのに。
この腕を退けて行けるはずなのにさ・・。

夜の帳が下りた公園。
そこで抱きしめられてる自分。
ふと、隼人の胸の鼓動が聞こえてきた。

トクントクン・・・と規則正しく刻まれる命の音。
不思議と、人の鼓動の音は心を落ち着かせる。
段々と涙も止まってきて、気持ちも落ち着いてきた。
鼻を啜り、声を整えてる間も 隼人はずっと無言だった。

俺が話すまで待つ、なんて・・隼人らしくないけど
すっごく・・安心するモンなんだな。

「隼人・・・」
「ん?」
「俺とタケが出てった後、どうなった?」


顔は上げないまま、隼人の胸元を見て問いかけた。
Tシャツから鎖骨が覗く。
それから隼人の両腕に手を置いて、離れる。
問いかけられた隼人が、凄く優しい声で上から俺を見下ろした。

目尻に残った涙を、拭おうとした
だが先に、逸早く気づいた隼人が親指の腹で拭った。

「あの後俺等も、タケ探したんだけどさ。」
「・・タケ、いたのか?」
「何処にも。アイツが行きそうなトコとか全部探したんだけどな。」
「俺が・・もっとよく考えて行動してれば・・・」

肌に触れた隼人の指の感触、それにドキドキする間もなく
少しから目線を外して、隼人は問いに答えた。
隼人達が探しても、タケは見つけられなかった。

付き合いの長い隼人と竜さえも分からない場所って?
俺は・・どうすれば、どうすればいい?

後悔だけが頭を占める、引き金は自分の軽率な言動。
タケを勇気づけたはずなのに、出来てなかった。
しかも、更に傷つけてしまった。

『どうせ、俺はそうだよ・・同情なんかで、分かったような事言うなよ!!』

タケ・・
振り払われた手が、不意に痛んだ。

「オマエさ、クセ?自分の事すぐ責めんの。」
「は?・・だって、ホントの事だろ。」
「だから、何でそう思うわけ?」
「そ・・それは、だから・・好きなヤツの為にって気持ちが俺も分かるってタケに言った事だよ。」

俺の弱いあの真剣な目で言われた訳でもないのに
理由を隼人に話してた。
だってさ、わざわざ駆けつけてくれたし心配かけたし。

負い目もあったからか?話せてた。
安易に言ってしまった言葉、もう取り消せないけど。
タケみたいな気持ち、一度も持った事ない俺があの言葉を
言っちゃいけなかったんだ。

「なんで?」
「だから!軽率な発言だったって、後悔してんだよ。」

・・でもあのセリフは、の経験も踏まえて言ったんじゃねぇの?
好きなヤツを振り向かせる為に、しちまうって話。
そうに言う顔が、なんか真剣っぽかったから・・好きなヤツが
にもいるんじゃないかって・・・

そう思ってた矢先、その発言を後悔してるなんて言うんだ?
タケをけしかけたと思ってんの?
それとも・・・いないハズなのに、分かるって言っちまったから?

「やっぱオマエ、まだ1人で抱え込んでんだな。」

吹き出したい笑いを堪えながら言ったら
はぷぅっとむくれて、少し頬を膨らませた。
たまらなく可愛いと思ってしまう自分がいる。

軽率だったって後悔してんけど、好きなヤツはいる・・んだよな?
そこは否定しねぇし、俺も聞きたくねぇし。

「分かったよ、次からは隼人達にも話すから。」
「ホントだな?ちゃんと口にした事は守れよ?」
「はいはい・・・隼人。」
「あ?」

素直になれない俺、プライドが本心より勝った。
自分から聞くのは恥ずかしい。
その時まで、聞かない事にした。

に1人で悩まない事を約束させ、引き返した背に
ちょっと改まった感じの、の声が届いた。
振り向くと、俯きがちなを見つける。

「・・・わざわざ来てくれて、ありがと。」

恥じらいを含んだ照れ顔、愛しい。
つーか、そんな顔されて言われるとヤバイ。

さっき抱きしめてた体の感触とか、勝手に思い出しそうだっつーの。
振りほどかれなかった態度、期待しちまう。

「おう、じゃあ帰るか。」

抱きしめたくなった、でもそれを隼人は我慢した。
理由 勘違いはまだまだ続くから。
は隼人の言葉に頷き、一緒に公園を出た。

現金だけど、隼人と話して元気を貰えた気がする。
明日になったら、皆とタケを探しに行こう。
それで、ちゃんと謝るんだ・・あの時の事。


翌日、俺はヤンクミに許可を貰って
朝番の喫茶店バイトをしていた。

朝のシフトは、7時30分から12時30分まで。
丁度昼休みくらいに終わるから、午後の授業には間に合う。
あ・・ヤンクミに許可取ったから、バイトの理由もバレてマス。

今更気にする事もねぇ、そのうち隼人達にも言うつもりだし。
浩介1人にいつまでも黙っててもらうのも大変だろ?

時刻は11時、後1時間半で一先ずバイトは終わる。
そしたら即効で昼飯買って、学校いかねぇと。
学校・・・俺、フツーの顔して隼人に会えるかな。

でもさ〜それも今更じゃねぇ?
とっくに告られて、キスされて腕とか舐められたり
肩の付け根とかも舐められてるし、竜にだって告られたり
胸元も舐められちゃってるし恥ずかしがる事じゃねぇって・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

恥ずかしがるトコだろ!!
舐められてるしってフツーに構えてられるか!!
よくよく考えたらセクハラだぜ!?

慣れたとか?いや、そんな免疫いらねぇから・・・。

持ってたお盆で頭をボスボスと叩く事しばし
誰も見てなかったから良かったけど、イカレタ人とは思われたくないし。
とまあそんなタイミングで、またお客が入って来た。

人数は5人、幸い隼人達じゃなかった。
まあ当然だろ、この時間ならまだ4限目。
真面目に聞いてるとは思わないが、サボったは・・・多分してない。

「いらっしゃいま・・・・って奥寺?」
「よ、オマエこんな時間からいんの?ガッコは?」
「アンタこそ、大学は?講義とかあるんだろ?」
「もう終わったよ、昼前の休憩。」

あっそ、優雅でいいっすねぇ・・・

奥寺の他にいるのは、大学の仲間なんだろう。
取り敢えずは、オーダーを取り厨房へと向かった。
その背で、奥寺達が会話を始める。

「にしても、マジでやる気かよ。」
「ああ、暇潰しくらいにはなんじゃねぇの?」
「余裕だねぇ〜確かにあのガキ、弱そうだったしな」
「当然 逃げ出したくらいだぜ?」

奥寺の言葉に、違いネェと笑い出す男達。
最後に奥寺が言った言葉で、彼が誰の事を言ってるのか気づく。
間違いない、きっとタケの事を言ってんだ。

でもなんで、そんな話してんだ?
そんなに自慢するような事なのかよ。

聞いててムカムカしてきた
そして、決定打とも言える言葉を聞いた。

 俺今からタイマン張ってくるわ」
「は?何で俺に言うんだよ、つーか誰と。」
「オマエだって知ってるだろ?真希ちゃんとのデート邪魔した腰抜け」

なん・・だって?タケとタイマン張るって言ってんのか?

鈍器で殴られたかのような衝撃。
だって、まともに考えたって勝敗は明らかだ。
ボクシング部で実力のある奥寺と、ケンカの弱いタケじゃあ・・

「タイマン張るのは何でだ?」
「向こうが言ってきたんだよ、弱いくせにカッコつけだよな」

頼まれた品をテーブルに置くのも忘れて、は話に聞き入った。
ケラケラと楽しげに笑って話す奥寺と、聞き手の仲間。
きっと理由があるんだ、あのタケを立ち向かわせた理由が。
それを笑われるのは、すっげぇ不愉快だ。

「ドコでやんだよ・・タイマン。」

低い声、それに気迫めいた物を感じた奥寺。
仲間がお盆から下ろしたアイスコーヒーを一口飲むと
口の端で笑って、告げた。

場所を告げた奥寺は、仲間に見送られて店を立ち去った。
意気揚々と、その態度に腹が立ったが今はバイト中。

仮にも客として来ている奥寺の、胸倉を掴む事は出来ない。
そんな事したら、今までの苦労が水の泡になる。
だから俺は、店長のトコへ走った。

本来の終了時間まで、後1時間はあったが
それよりも大事な事を優先したかった。

店長に頭を下げると、奥寺の仲間が呆気に取られてる中
は店を飛び出した。
タケと奥寺の所へ行く為に。
タケの勝負を・・・止めるか止めないか、決まらぬまま。

そしてその数分後に、ヤンクミと隼人達が店に来たのをは知らない。