答え
次の日、久美子は沢山の資料を抱えて現れた。
皆がそれぞれヤンクミに質問し、彼女がそれに答える様を達は黙って聞いている。
2人は信じるって言ったけど、つっちー達はまだ踏み切れない何かがあるらしい。
だから学校へは来た、でもああいった手前態度を変えられずにいる。
ヤンクミも、俺達に考える時間を与えるかのように話しかけてはこなかった。
隼人と竜は、3人が何れ気づくのを待ち
辛抱強く3人に付き合った。
放課後、行きつけのゲーセンへ寄り時間を過ごす。
「つっちー達、そろそろ答えは出るかな」
「アイツ等だって分かってる、もう見つかってんじゃねぇの?」
「だろうな」
「かもな」
無言で考え込み、ひたすらにスロットをしてる姿を眺め
ビリヤード台に肘を付いた姿勢でが呟けば、キューを手にした隼人が相槌を打ち竜も俺の隣りで短く呟いた。
彼らには、心がある。
心で感じていれば、必ず答えは出る。
俺や隼人・竜がそうだったように。
答えが出たのか分からないまま、俺達はゲーセンを後にした。
そろそろ帰らないと遅い時間だから。
まあ、俺は幾ら遅くなっても平気だけどさ。
あのアパートには俺しかいない、遅く帰ったって誰も怒らない。
叱って、くれない。
父親を・・信じようと決めた、けど確かめる術も勇気もない。
まだ俺は怖いんだ、確かめた時更に拒絶されて傷つくのが。
『お前は彼女の為に生かされているんだからな』
平然とした顔で、俺にそう言葉を突きつけた父親。
もう昔のような笑顔は、向けてくれないんじゃないか。
華を、教えてはくれないんじゃないか。
華道の家元を、俺に継がせようとはしないんじゃないか。
『縁を切っておけばよかった』
駄目だ、もう俺と家族の『絆』は切れてしまった。
きっともう、結び直そうとしても結び直せない。
の両親のような愛情を、与えてはくれない――
俺は1人ぼっち、両親に置いて行かれ
あの日の事実を伝えられぬまま時を生きる。
それでいいのか?本当に。
「――き」
まだ間に合うかもしれなかったら?
「」
俺が歩み寄れば、気づいてくれるんじゃないか?
そう・・願いたい、心から望めばきっと道が開けるかもしれない。
「!」
「うわぁ・・はい!!」
「何ボォーッとしてんだよ、立ち寝か?」
「んな訳ねぇだろ、隼人じゃあるまいし」
「そうだよな・・って俺だってしねぇよ!!」
テンポのいいノリ突っ込み。
将来芸人になれるぜ、隼人(笑)
歩いたまま考え事をしていた、呼ばれて気づくと俺以外の5人は立ち止まってた。
振り向いて見た其処は、何処かの工場。
隼人と漫才してからそれに気づいた俺は、皆の方へ行きながら不思議そうに工場を見上げた。
こんな所に何か用があったか?
町工場っぽい其処、隼人と竜の間に来ると竜に町工場の奥を指差された。
ただの工場に、興味を誘うモンなんかないだろ・・・と思い差された方を見て
思わず驚いて声が出かかった。
「あれ?ヤンク・・・・むぐっ!?」
「シーッ!声出すな、様子見てるんだからよ」
それをすかさず防いだのが隼人。
はや、隼人の手がっ!俺の口を塞いでる!!
今更照れる事もないのに、体と顔が熱を持つ。
ドキドキしちまって、ヤンクミの方を見てるつもりが体は隼人を意識してしまっている。
けど俺の浮かされた気持ちも、ヤンクミと工場の人との会話を聞いた瞬間に引いて行った。
「面接だけでもしてやって下さい、お願いします!!お願いします!!」
「頭下げられてもねぇ・・・」
竜はその光景を見ながら視線を逸らさないままに話した。
さっき俺達の前を横切り、この工場へ入って行くのを見たと。
手には数枚の紙、遠目だから分からないけど・・・履歴書?
もしかして、ずっとああして頭下げに行ってたんかな。
俺達が喧嘩騒動起こしたせいで、就職活動し難くなったクラスの奴等と・・・・俺達の為に。
「アイツ、言ってたよな」
『ちゃんと次に進むべき道を見つけて胸張って巣立っていく生徒達が見たいんです、それが私の夢ですから』
「あんなペコペコ、頭下げやがって」
「俺達の為に、何であんな」
「何が夢だよ」
「俺達に夢なんか持つなんて」
ひたすら頭を下げ続ける姿を見て、皆それぞれ呟く。
今まで俺達のようなはみ出し者の為に、此処までしてくれるセンコーがいただろうか。
だからヤンクミにちゃんと応えてやらなくちゃな。
俺は隣にいる隼人達を眺め、息を吸い込むと俺は皆に言った。
「あそこまでしてくれんの、ヤンクミだけだろ。俺はヤンクミの信頼に応えたい。」
工場の門の前から離れながら言った言葉。
気づいた隼人達がついて来ながら俺を見る。
その視線を背中で感じながら俺は言葉を続けた。
「俺達が今こうしてられるのは誰のお陰だ?俺達を信じて道を示してくれたヤンクミのお陰だろ?」
「まあ・・確かに他のセンコーとは違うよな」
「竜を連れて来たり、俺達と正面から向き合ってくれたのはヤンクミだけだったし」
「俺みたいな奴にも、平等に将来はあるんだって言ってくれたのも山口だけだったよな・・・」
俺の言葉に浩介、タケ、つっちーがそれぞれ振り返る。
俺達が進んで来た道には、常にヤンクミがいた。
いつも傍で見守ってくれていた。
仲間の存在も大きいけど、ヤンクミの存在も大きい。
彼女のお陰で、俺は過去の闇から抜け出せた。
またとも会えて、の両親とも和解できてこうして日の下にいられる。
皆も気持ちは定まってきたようだ。
表情が今までと違う、答えは出たみたい。俺達の気持ちはまとまった。
ΨΨΨΨΨΨ
翌日、教室へ向かう俺達の耳に祝福の声が聞こえてきた。
先を歩くつっちーと浩介、タケが欠伸をした浩介と教室へ入る。
最後尾の隼人と竜の少し前にいた俺も教室へ入るとその光景を見た。
何故かゼッケンを着た高山が教壇の上でクラスメイトに囲まれている。
俺達が来た事に気づいたヤンクミが、嬉しそうに笑いながら駆け寄って来た。
「高山が内定貰ったんだ」
「すげぇじゃん、第一号だな」
「土屋、お前が駄目だったジョイフル産業さん。明日面接してもらえる事になったから」
「――ヤンクミ、頼んでくれたのか?」
「これでもお前らの担任だからな」
誇らしげに喜んでいる高山、浩介も嬉しそうに言う。
共に喜んだつっちーに、ヤンクミは更に嬉しそうに言った。
あの日、乱闘を見られ断られたジョイフル産業。
其処がまた彼らを面接してくれる事になったと。
昨日の所とは違うと思う、本当に彼方此方頭を下げて回ったんだな。
「――サンキュ・・」
「いいって事よっ」
嬉しそうに礼を言ったつっちー、ヤンクミは笑って答えるとバシッとつっちーの肩を叩く。
そんな光景を見ていると、後ろから遅れて入って来た隼人と竜が進み出て
意図に気づいて俺も隣に立った。
「どうした?」
「俺等お前にはきちんと借り返すから」
「借り?」
「ちゃんと・・・卒業するって事」
「全員揃ってな」
「理事長達の思い通りにはさせたくねぇからな」
「見てろっつーの」
不思議そうに見上げたヤンクミに、前置きもなく隼人が言う。
当然意味が分からなくて聞き返したヤンクミに、竜が借りの意味を告げる。
驚いた顔をしたヤンクミ、つっちーも浩介もタケも照れ臭そうに言い
ヤンクミも、実に嬉しそうに笑ったのだった。
「お前ら・・・」
「卒業するまで、ぜってぇ喧嘩しねぇよ」
「約束する」
「だからこれからも、俺達の事・・見守ってくれよな」
感動してる久美子に、隼人が考えて考え抜いて導き出した答えを告げた。
昨日の姿や今までの事を踏まえて、特に考えなくても自然と出た答え。
最後にが言った言葉に、久美子が即答した。
当然だ!卒業しても大人になってもお前達は私の教え子なんだからな。と。