これからも傍に
私は甲斐君を探して、大会会場を捜して回った。
あの時は笑っていたけど、きっと悔しくてたまらないはず。
私に何が出来るのか分からない、でも傍にいたいと思った。
どれくらい駆け回っただろう。
呼吸が苦しくなって、足取りも重くなってきた頃
会場隅にあるトイレの傍に、その背中を見つけた。
駆け寄りながら、少し周りを拒絶するような雰囲気を放っていた甲斐君。
それでも私は思い切って声を掛けた。
「甲斐・・・・」
「負けちまったさぁー、わったーの夏も終わった。」
気配だけで分かったのか、私の声に被さる様に甲斐君が話し出す。
声音は、何だか投げやりになってるような。
無理してるように感じた。
「そんな事ないよ、凄くいい試合だったよ?」
そんな姿に、不安が過ぎり口が勝手に動いていた。
こんな言葉なんて、ただの気休めにしかならない。
彼らが青春を掛けた一瞬は、もう終わってしまったのだから。
だから、尚更不安になった。
私は甲斐君がテニスを好きなのを知ってる。
だから辛い練習にも耐えてきてた。
皆で一丸となって頑張ってた。
皆とテニスする姿が、私は好き。
太陽の下で笑う甲斐君が好き・・・。
そのままでいて欲しい、だからこそ――
「――辞めるなんて言わないで」
「え?」
黙っていたの、か細くて消えそうな声が聞こえ
振り向いたわんの目に映ったのは
大きな瞳一杯に、涙を浮かべたの姿だった。
目が合うと、意味を飲み込むのが遅いわんに
泣きそうな顔で、もう一度ハッキリは言った。
「お願いだから、テニスを辞めるなんて言わないで」
泣き出しながら言うその姿が愛しくて、を胸に抱き締めた。
小さな体はスッポリと腕の中に納まってしまう。
マネージャーであるは、いつも一生懸命だった。
この小さな体で、晴美の無茶苦茶な練習にも付き合ってきた。
辛くても笑顔でわったーを励まして、がいたから・・・・
「何でやーが泣くんだよ」
「だって、甲斐君が泣かないから・・代わりに泣いてるの!私だって悔しい。皆あんなに頑張ったのに」
「もわったーテニス部の一員だもんな」
胸の中で泣きながら怒る、コイツはわんの代わりに泣いてくれてた。
の気持ちが嬉しくて、愛しくて抱き締める腕に力を込める。
でもあんまり強くすると小さいが苦しいだろうから加減して。
と話していたら、悔しさと後悔で一杯だった心が楽になっていく。
「テニスは辞めない、これからも続けるさぁー」
「しんけん?」
「ああ、だからさ・・やーに見てて欲しいんだ。
これからわんがちばれるように、やーがいてくれるだけで辛くてどうしようもなくても前に進めるから」
甲斐君の顔に、あの笑顔が戻る。
私はこの笑顔が大好きだ。
だから、彼がそれを望むなら・・・私は傍にいようと思う。
いいえ・・・――傍にいさせて下さい。
私の大好きな甲斐君。