虹色の旋律 三十一章



レッスン室で急遽確認する為に、他の人が見ている中
SUMMARYのOPからをやる事になった。

ストレッチをしていたジュニア達も、此方に気付き始める。
興味津々な視線が向けられる中、流れの確認と称した確認開始。

ご丁寧にステージに見立てた位置からの登場もやる。
皆マイク持つ真似をしつつ、鼻歌のような感じでテーマ曲を歌った。
安定した音程が心地よくの鼓膜を鳴らす。

そんな鼻歌に合わせてはその歌詞を口ずさむ。
この歌を歌うと、自然に胸が熱くなるのを感じた。

「振り向かずに行こう、遙かなあの未来へ 大きな夢運ぶ、僕等は時の旅人――」

心地よい高音がレッスン室に響く。
山下は立ち位置の指示も忘れて、初めて聴くの歌声に耳を澄ませた。

透明感溢れるその高音は、少しも掠れる事なく
安定した音程で軽やかに紡がれて行く、まるで其処に譜面でもあるかのように。

一度聞いた事のあるメンバーも、動きは止めなかったが抜けるような高音が気持ちよくて聞き入っていた。
思わず動きを止めてしまっていた山下だったが、自分達が登場する場面で我に返り
後方から登場し、パートを歌いながら前へ出る。

その先の部分ではアップテンポな曲調でショータイムに移り
赤西と以外の面々のパフォーマンス。

それから二列で並んで振り付け、いよいよロープで吊られる。
まあこれは確認だから吊られたのをイメージしてその場を2回転するみたいに歩くだけ。
その際も歌は続いていて、曲も終盤へ向かう。

後半はハモリやらフェイクを織り交ぜる。
ゆっくり円のまま歩き、同時進行で彼等は歌いハモリ、身振り手振りをつけていて
まだ息の切れるはこっそり相向かいの位置で歩く赤西を眺めた。

DVDと同じように、片手で見えない誰かを抱き寄せるような所作だった。
やっぱり綺麗・・・・・何だか綺麗なのに切なくなります・・

赤西の所作だけどうしてそんな風に感じるのかは分からない。
自然に目が吸い寄せられてしまう気がした。

・・・もう会えなくても、貴方への想いを胸に抱いて生きて行きます。
この歌詞のように、歴史は繋がっていて・・きっと彼等のような若者に何かしら受け継がれていると思う。
世界は変わってしまったけれど、人を愛する気持ちとか・・・誰かを守りたいとか言う想いはこの時代にもある。

この胸の誇りは・・・決して、離しはしない・・・・・

赤西の所作は、大切な物を胸に抱き寄せるような風にも見えた。
だからどうしてか、胸が締め付けられる。視界が滲む。

「――??」(上
「ご、ごめんなさいっ」
「お前――・・・・」(赤
「変ですね、涙が出て来てしまいました」

国の為に命を賭した彼等。
その彼等の命は、キラキラと輝いていて・・生きていた証を刻んで逝った。

「平気か?」(和
「う・・っ、ちょっと駄目・・・みたいですっ」
「どしたどした〜、赤西に泣かされたのかぁ?」(中
「おいヅラァ」(赤
「お前此処来る時に何か言ったのかよ」(和
「は?言ってねぇし」(赤

自分でも困るくらいに涙が止まりそうにない。
この歌、心に沁みます!

しかも何やら矛先が赤西さんにっ!
違うんです、赤西さんのせいではないと説明しなくてはっ

「違います・・ぐす、赤西さんの所作が・・・」
「所作ぁ??」(全員
「何かこう、伝わってくると言うか・・胸に来るんですっ!」

えーとつまり、俺の所作?って奴が心に響く・・・・って事?
意識って言うか・・気持ちを籠める事は頭にあった。

に言われたからそうするようになった訳じゃねぇけど、見る側に伝わればいいかなって。
そっか、伝わったんだ。
まあの場合、だから泣いたって訳でもないだろうな・・・。

・・・あれ?
つまりは俺が泣かしたようなモン?

つーかホント、感受性が豊かって言うか・・素直な奴。
からかわれながら涙を拭っているを目の端で見て、小さく笑う。

が泣いたのもあり、位置確認はストップ。
OP確認は出来たから山下も持っていた紙にチェックを入れる。
それから後は再びDREAM BOYの練習が開始した。


ジッ、と見てみる。
真っ直ぐな子だなあ・・って再実感しちゃったな〜


「山下さん?」
「あ、ごめんごめん。全体の流れとか頭ン中で確認してた」
「そうでしたか」
「ねえ。赤西の所作、良かった?」
「はい・・気がつくと目に留まるんです。あの動きだけで曲を表現されてるから、凄いなあーって」
「へえー・・・・にそこまで思わせちゃうなんて、赤西もやるね」
「私も人を感動させるような所作を身に着けたいです」
「ふふ、はホント、一生懸命だね」
「あ、根を詰めすぎない様に頑張りますね」
「うんうん」

見学の側に回った
あの立ち位置確認で披露した歌声、これで社長のお墨付きの子だって事が他にも知れ渡るだろう。
それを見越した訳じゃないけど、上田の大体の目的はこれだった。

いないとは言い切れないからね。
の待遇に不満や嫉妬がない子。
あの赤西や、聖でさえ最初は不満そうだったんだからさ。

山下君に頼んで此処で確認するようにして正解だったね〜
ってさー・・・・何かアレだよね、うん。

まあいっか。頑張ってるみたいだし。
見てて一生懸命で可愛いしね。

稽古を受けながら微笑む上田。
彼の視線の先にいたのは、見学がてら山下と会話しているの姿。
鏡越しにそれに気づいた亀梨、追ってみてと山下を見てるのだと気付いた。

は皆を惹き付ける何かを持ってる子。
この世界に向いてるかもしれないけど、純粋すぎるから心配。
だから上田も面倒見てるのかも。俺等全員が気にしてる。

KAT-TUNとしての活動、早く本格的にしてみたいな〜・・・
とか思いながら亀梨も稽古へ意識を戻した。


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数時間後、ドリボの稽古は終わる。
初めて稽古を見たは、完成度の高さに感心していた。
あんなに激しくダンスしているのに少しも息が切れていない。

それに演技をしながらのアクション、あれは驚かされた。
山下が言うには、ロープで吊ったアクションもあるとか?

自分も練習すれば出来るようになるかしら・・・
夏にあるSUMMARYもロープではないが、吊られて回転する演出がある。

大正から来た人間の自分に勤まるかが不安だ。
しかし本番となれば出来ませんでは済まない。
先生にご指導を賜らねばっ

何としても当日までにこなせる様にしなくては、と。
そう決めると、行動に移すのが早い
山下に練習して来る、とだけ言い残すと稽古場を去った。

「あれ。は?」(赤
「頑張り屋さんだからレッスン室に戻ったみたいよ」(山

触発でもされたとか?

がね、お前の表現する所作って奴、自然と目が行くくらいの良さがあるって言ってたよ」(山
が?・・だからさっきも見てた訳ね〜」(赤

さっき確認した時、送られてた視線。
その理由はの涙と山下からの言葉で理解した。
俺の所作・・・・か・・

所作のせいってより、曲のせいって感じがすっけど・・・・・・
・・・・・・何か嬉しかったりするんですよ。

練習熱心なのはいいけど、またぶっ倒れでもしなきゃいいけどな。
後で様子でも見に行ってみるか。
と言う訳で(どう言う訳だ)俺も着替えて来るかな。


その頃は、振り付けの確認と筋トレをしていた。
さっきの確認で分かった、歌いながら踊るのは体力と独特の呼吸法が必須なのだと。

普通に動きながら踊ると息が切れる。
動きに合わせて声が弾んでしまうのだ。

うーん・・・これは問題ですね・・・・・
振りと歌は、自然に覚える事が出来た。
まあ、何度もDVDを見返したり・・先生や皆さんのお陰ですけどね(

後は歌いながらも声がちゃんと出せるようにしないと・・・
その方法を聞こうと先生を探しているのだが、一向に見つからない。
と言うより、この建物の中を把握出来ていないが探し回ったら確実に迷う。

それもあって探しに歩けないのだ。
どうしたものか、と悩みつつ立ち位置を頭の中で確認し、映像を脳内で再生させながらやってみる。

「生きてる、証を・・刻んだ・・・っあー・・・・声が揺れてしまいます・・」
「何だ、まだその歌練習してンの?」
「・・え、あ、赤西さんっ」

額に滲む汗を甲で拭いながら続けているに、入り口から呆れたような声が届いた。
パッと顔を向けると、其処には赤西の姿が。

練習着から普段着に着替えたらしく、服装が変わっている。
持ってた荷物を壁際に置き、カツカツと此方へ歩いて来た。

「何処で躓いてンだ?」
「振り付けと歌詞は大丈夫なんですが・・・踊るとなると、声が続かなくて弾んだり揺れたりしてしまうんです」
「あーね、それさ俺等も他の奴等も最初はそうだったんだよ」
「赤西さん達もですか?」
「そ。普通に歌えるようになるにはコツとトレーニングが必要」
「・・・・・難しいですか?」
「いや?ただマヌケ顔になる覚悟が要るくらい」
「へ?」

鏡の前に立ち、鏡の中のを見ながら軽く説明を始める。
手伝うつもりはなかったけど、ステージを成功させる為にはそんな事は言ってられない。
だからこそがまともに歌って踊れるようにしなけりゃならない。

背筋を伸ばして足を肩幅に開け、と指示。
両手を腹部に当てさせ、先ず手本を見せるべく赤西は口を開き・・・・・舌を出した。

「あ、赤西さん??」

不可解な行動の赤西に目をぱちくりさせてが問う。
そうさせてからには構わず、あ〜、と声を出してみせた。

「お前発声練習なんて初めてだろ?先ずはちゃんとした発声を身に着けねぇとな」
「はいっ」
「俺がしたみたいに下顎だけ下げて、その状態のまま舌を出す。そうすっと喉が開くから体の中に声が響いて声に立体的な響きをつけられんだよ」
「・・・成る程。赤西さん凄いです!早速トレーニングして会得してみせますからね!」
「いや、すげぇのはその方法を見つけ出した奴だろ。おう、俺が教えてやったんだから精々頑張って身に着けてみせろ」

マヌケな顔とやらはこう言う意味だったのですね!
何だか身に付けられる様な気がしてきました!!
教えて下さった赤西さんの為にも身に付けてみせますっ!

と言う訳で、は振り付けの合間や自宅で練習を始める。
そして、DREAM BOYの本番を迎えるのだった。