動き始める歯車
『よくないだろ!俺は認めないからな?一度結んだ『絆』を
簡単に断ち切るな!』
そう言って叫んだを、竜は見つめた。
口から出任せとは思えない、とても辛そうな顔。
にも、色々とあるのかもしれない。
隣で見ていて、タケはそう思った。
竜は驚きはしたけど、何も答えずただ去り際に
「風邪引かないうちに帰れ」
とだけ言って、歩いて行ってしまった。
何だか余計な事を言ってしまった気がして
小さく謝ったを、タケは責めずに少し寂しそうに笑った。
このままで良い訳ない、失ってからじゃ遅いんだ。
人知れず決意した、タケと別れ帰り道を急いでいた。
すると・・繁華街をブラブラ歩いている隼人達を発見。
気づかれないように近づくと、どうやらタケの事を話してるよう。
付き合いが悪いだの好き勝手言ってる。
ついでに久美子の事も話してるみたいだ。
「あいつ一体何者なんだよ・・」
小さく隼人が呟き終えた所で、背後から登場。
「隼人も気になる?俺も気になってんだよね。」
「「「!?」」」
いないはずの俺の登場に、予想通りの反応が返ってくる。
「おまえ、タケと帰ったんじゃなかったのか?」
つっちーの問いに、素直に頷いて途中までは帰ったと答えた。
嘘は言ってない。
「ふーん・・・で、何で此処にいんの?」
「怒るなって、タケはお前達の仲間だろ?」
「質問には答えてくだパイ!」
わざとじゃなく自然と、問いかけとは違う事を言えば
ムッとした隼人が俺の頭をクシャッと混ぜて突っ込む。
混ぜられて乱れた髪を直しながら、隼人の手を掴む。
見るよりもずっと大きな手、男らしい骨ばった物。
「うわっ!、本当に男か?手ェちいせぇ!」
しげしげと見てたら、逆に手を取られて翳される。
オイオイ、そんなに見るなよ!
「マジ?ホントだ、ちっちぇ〜殴ったら折れそうだな」
の右側にいた浩介もその話に乗ってくる。
「だな、 おまえ早く帰れ。」
「隼人まで何言い出すんだよ、俺だって男だぜ?」
「分かってる、まだ喧嘩慣れしてなさそうだからさ。」
「そうそう、後で鍛えてやるって。」
おまえら・・・偉そう。
三者三様の言葉に、逆らう気も失せ仕方なく一足先に帰る事とした。
女だから仕方ないけど、あれは隼人達なりの優しさで
俺を心配してくれてるからだと、分かって嬉しかった。
頑なに決めた決意が揺らぎ始めてる。
最近では、それでもいいかと思い始め 迷っている。
『おまえの命は、彼女に生かされてるんだからな!』
15のに父親が吐き捨てた言葉。
忘れた訳ではない・・忘れてはいけないんだけど・・・
強くなりたい。この現実を受け入れる強さ
過去の償いを克服し、前を見て歩ける強さが。
と分かれた後、隼人達は荒校に絡まれてるA組の島田を見つけ
助けるっていう気持ちからじゃなく、憂さ晴らし感覚で近づき
「用があるなら、俺が聞こうか?」
「黒銀の矢吹か・・てめぇは引っ込んでろ」
何時も通りの、相手を見下すような目で前へ立った。
荒校の渋谷も隼人達に気づき、視線を合わせて来る。
下田は そのどさくさに紛れて逃げるように立ち去った。
「てめぇらの仲間の小田切が、俺等に詫び入れに来たの知ってんだろ?」
渋谷の隣にいた男が、笑いながらそう言い返す。
「関係ねぇだろあいつは」
「黒銀は荒校に白旗上げたんだからよ・・」
竜の名を出され、頭に来始めた隼人。
わざと怒らせるような感じで、渋谷が隼人へ言い捨てた。
この言葉で、完全にキレた隼人。
「あいつが何言ったかしんねぇけど、黒銀の頭俺だから・・!」
拳を作り 笑っている渋谷目掛け、強烈なパンチを喰らわせた。
喧嘩には圧倒的に隼人達の勝利に終わり
繁華街を再び歩き始め、ふとつっちーがこんな事を言う。
「なぁ・・って喧嘩弱かったよな」
何気ない一言に、隼人と浩介の脳裏には竜を庇い
代わりに隼人の拳をまともに喰らって気絶した。
「あいつ等と鉢合わせてたら、ヤバくねぇ?」
「・・・!」
続いて言った浩介の言葉、隼人の脳裏には自分達に負けた
渋谷達に腹いせに殴られているが想像され
いてもたってもいられず 走り出していた。
「「隼人?」」
駆け出した隼人を呼ぶ二人の声、それを振り切って
先ほどと分かれた辺りの路地に走り、そのまま進む。
何処をどう行ったかは分からないが、奴等に会ってなければいい。
どうしてそんなに気になるのか、走って探しながら疑問に思う。
は男で、最近転校して来たばかりの奴。
そのくせ妙に自分達と意気が合い、ウザイくらい『仲間』の『絆』を重んじてる。
男なのに華奢で、体当たり的な事だって平気でする。
自分から俺の拳を喰らうような無茶だって・・・
保健室で眠るの頬は、とても柔らかかった。
それに・・・抱えた時のあの軽さ、柔らかい肢体 あれは本当に男なのか?
と俺は疑いたくなったし、そんな事をしたりしてる 自分の行動に驚いた。
俺って・・・そっち系だったんか?
考え事がおかしな方へズレた時、隼人は目的の人物を見つけた。
無防備な背中、すぐにあれじゃ襲われるな。
そう思いながらゆっくり、隼人はへ近づく。
歩いている俺も、後ろから誰かが来る気配に気づいた。
敵意や悪意は感じない。
止まろうか迷っていると、向こうから声を掛けて来た。
「」
よく聞いてる奴の声、それが隼人だと分かり俺は振り向く。
向けた視界に映った隼人は、肩で荒く息をしていて
今まで走って来たと 俺に気づかせた。
自分から早く帰れって言ったくせに、何でまた追いかけて来るんだ?
隼人の行動が分からず、眉を寄せ 呼吸を整えてる隼人へ近寄る。
「おまえ、何ともなかったか?」
「は?・・・何かあったのか?」
口を開くなり、益々意味の分からない事を聞かれ
の顔は怪訝そうなものになる。
でも、あの隼人がこんなに慌てて 来る理由・・・って。
「さっき荒校とやり合ってさ、おまえと鉢合わせてたらって」
「心配して来てくれたのか?」
「だっておまえ・・・喧嘩出来ねぇし・・」
嬉しそうに言ったを見て、視線を外して言う隼人。
照れてる!?つっちーじゃないけど、これは貴重だ!
「とにかく何もねぇならよかった」
クスクスと笑いながら、隼人の顔を覗き込むと
仰々しく息を吐いた隼人に、両肩に腕を乗せられそのまま寄りかかられた。
「お・・おい、隼人?」
「全速力したから疲れた」
慌てて聞けば そんな答えが返ってきた。
よかった、怪我とかしてる訳じゃないみたいだな。
何て安堵してる自分もいる。
俺の肩で休んだ隼人は、顔を上げるとこう一言。
「此処まで来たし、ついでだから送る。」
その言葉があまりにも意外で、思わず口が開く。
「何だよその反応、いいんだぜ?別に送らなくても。」
間抜け面をされた隼人が、唇を尖らせて言う。
拗ねてるみたいな反応が可愛くて、は送られる事にした。
この後起こる事・・・その全てを知らないまま。