心にずっと在る物
夜も更けた頃、朝っぱら往来の道で矢吹父と揉めた身なりのいい男は
格式の高い店へ赴いていた。
矢吹父がぶつかり、割ってしまった花を届ける相手へ会う為に。
外見と見かけによらぬ見事な活け花を披露した高校生。
出で立ちは変わっていたが、男には面識がある者だった。
会う相手が待つ部屋へ到着し、青年が活けた花を見た相手は一瞬目を細めた。
「これは・・・・」
「お約束の物と違ってしまいましたが、これも見事でしょう」
言葉を失くして活けられた花を見つめる相手に
自分が活けた訳でもないが、何だか得意気に話す男。
問えば男は、朝方トラブルに遭い割れてしまった鉢
困っていた時、見かけは不良の高校生が現れ
物の見事に花を活け変えてくれたと、男はそう話した。
色とのバランス、季節を取り入れた活け方。
どれを取っても見事で、同時に男はこの活け方を何処かで見た事があった。
□□□
『どっちが気になってるの?』
『うーん・・まだ分からなくてさ・・・・』
出勤登校で賑わう公園。
其処に響く電子音と、ボールを投げてミットで取る音。
今のはキャッチボールに混ざらずにメールに集中しているの打った文だ。
二人の変化を、病室にいるに話していた処だったりする。
は心を閉ざしていたが、告白されて悩んでると言う状況が嬉しくて仕方がないらしい。
今まで感情とかを殺して生きてきていて、自分を戒めていた。
そのを大切に想ってくれる者が二人もいる。
しかもその事で自分に相談してくれるのが嬉しくて堪らないのだ。
の眼下では、キャッチボールをする隼人達の姿。
ほんの数日前のバレンタインデーに、俺は二人から告白された・・・・と言うか
その前から告白されちってたけど・・・
何か一々恥ずかしい奴らだし、人をドキドキさせてばかりだし
強引だし勝手だし・・エロイし・・・・・・・
後半は逸れてるけど、何と言うか・・・嫌じゃ・・・・ないから困る。
『つまりは気になってはいる訳だ』
『もう俺やっぱ分かんない・・』
小さくため息を吐きながら、当人達を交互に眺める。
無邪気にキャッチボールなんてしちゃってさー・・・・・
あれから何ら変わりはないし・・俺の意見も聞いてくれるようになったし・・・
気を使ってるのかな。
面倒な女とか思われてるのかな・・・
の文面に返信を打ちながらそんな事を考える。
俺・・どうしたいんだろう。
二人のどちらかを選ばなきゃなのかな・・・それで仲が悪くなったりしたらどうしよう
『、大切なのは貴女の気持ちだよ?』
『・・・・・気持ち?』
『そう。隼人君と竜君、二人の事をよく考えてみて』
ベンチに座りながらに諭され、先ずは隼人を眺める。
口は悪いし強引な隼人、結構頑固なくせに・・優しんだよな。
仲間思いで、俺の事も気にかけてくれて・・・・
『冗談なんかでこんな事できっかよ』
・・・・・手が速くてエロイ。
そのくせ竜と俺が両思いだとか勘違いしてて・・・
ちょっと偶に可愛いんだ。
色々と思い返しているうちに、何か自然と笑顔になってる俺。
竜は・・・兎に角クール。
感情を滅多に見せない、こっちもやっぱり仲間思いだ。
何処か似ていて、竜の前だと素が出ちまってそのせいかバレるのが早かった・・・
不意に優しいし・・・
『ま、俺はお前がいれば十分だけどな』
クサイ台詞を真顔で言う、恥ずかしい奴だ。
何だかんだで大事な時には常に竜がいてくれたっけ・・・・
ミットでキャッチしたボールを、浩介に投げた竜を眺める。
『がキュンとしちゃったのはどっち?』
とかが聞いてくる。
何か張り切ってるような気がするのは気のせいか?
キュン・・って何だ?
一瞬だけ空を見上げて自問自答。
記憶を遡ってみると・・・・
―お前、何ともなかったか?―
まだ竜と不仲だった頃、荒校とやり合った後
喧嘩に不慣れだった俺を心配して、息を切らして駆けつけてくれた隼人。
わざわざ追いかけて来てくれたんだよな・・
照れた顔が可愛くて、心配してくれたのが嬉しかったのを覚えてる。
え、つまりあれが・・・キュン?
後は初めての両親と会って和解出来た後
良かったなって言って、はにかむような柔らかい笑みを浮かべた隼人を見て
俺まで嬉しくなって・・・・その笑顔がとっても愛しく思えた・・・これもキュン?
それについてに返信しようとした時
隼人が、やっべぇと言う声が聞こえた。
ハッとして顔を上げると、コントロールを失ったボールが自転車の男の頭に当たる瞬間。
これは不味い。と思い、もメールを中断して皆の元へ走った。
追いついた時には、隼人達が慌ててボールが当たってしまった男に謝っている処。
「すみません大丈夫ですか!?」
「いっててて・・・大丈夫な訳ねぇだろうが・・・・・」
「あ」
「あ」
頭を押さえながら立ち上がった男も、隼人達も互いに声をハモらせる。
どうやら皆あった事があるらしい。
何処かと聞いてみると、学校見学会の話を教室でした後だとか。
その日・・・俺、のトコ行ったから知らなかったんだ。
どうやらヤンクミが担任した元生徒さん。これも縁って奴かもな。
それはそうと、元生徒さん・・もとい熊井さんの荷物だけども・・・・
顔見知りだろうが何だろうが、それで済む事態でもなく・・
「荷物・・すいません、俺・・・代わりにはならねぇかもしれませんけど詫びに店手伝わせて下さい」
「え?」
「そんなに気にする事ねぇって」
「いや、迷惑かけたし。手伝わせて下さい」
「・・・・・・じゃあ俺も手伝う」
「「「「「え?」」」」」←クマ以外全員
積んでいた荷物を汚してしまったお詫びにと、隼人は手伝うと口にした。
これには熊井さんも俺達も驚いて隼人を見るけども、目は真剣そのものだったから
気がつけばも手伝うと口にしていた。
いや・・隼人だけじゃ心配だし。
うん。俺が見張ってるって事でだよ。
驚きに声をハモらせる隼人達に、そう俺は説明した。
心が急いて、何かそう言わなきゃいけない気がして
無意識に言ってたとかなんて言えねぇ・・・・・
自分でも分からないけど・・・
何でか本当に分からないんだ。
上手く説明出来ないんだよなぁ・・何か、どんな姿も見てたかった。
□□□
ってな訳で、出前に出かけた隼人がヤンクミに見つかっている頃
は一人、店の中で接客をしていた。
お客さんにメニューを聞いたり、ラーメンを運んだりと
あのまま嘩柳院家にいたら絶対出来なかった事を体験していた。
小さくて古い店だけども、それなりにお客さんは来る。
最初は慣れなくて緊張したけど、接しているうちに何か新鮮に思えて楽しくなってきた。
手が空いた時は器を洗ったり、テーブルを拭いたり。
「嘩柳院は家でちゃんとやってるって感じだな」
水でさっと濯ぎ、水切れさせてから布巾で拭いている背に掛けられた言葉。
家で、と言う言葉に少し胸の奥が痛んだが曖昧に答えておいた。
その後隼人も戻って来て、注文を取った後厨房の熊井さんにそれを伝える。
何だかんだで隼人ってさ・・・・・覚えるの早いし、何か似合ってる気がする・・・(笑)
俺が見てるのに気づいた隼人が、ニィッと笑うと傍に来て囁く。
「何?ひょっとして惚れ直した?」
「ばっ・・!バカ言うなっ」
「ははっ、も結構似合ってんじゃん」
「隼人こそ、違和感なく似合ってるぜ?」
「バーカ言うなよ、つーかお前まで手伝いに来なくても良かったんだぜ?」
ニマニマして聞くなっ!と突っ込んだ後、制服を褒めてきた隼人に褒め返してやる。
だってホントに思ったし。
隼人は結構器用に何でもこなすと思うんだよな。
ちょっと生き生きして見えるって言うか・・・・・
手伝いに来なくても良かっただろうけど・・何だろう、男の子ってさ
ちょっと見ないうちにどんどん大きくなってくって言うか・・・
1人で先に行っちゃうって言うか・・・もう俺を好きだって言ってくれた隼人じゃない気がして
「・・・・・バーカ・・・ちゃんと手伝うのか見張ってんだよ」
「見張らなくったってちゃんと手伝うっつーの」
何。
まるで俺・・・・好きみたいじゃないか。
苦し紛れに言った言い訳みたいな言葉。
いよいよ分からなくなって来て微妙な顔をしてたのをは気付かずにいた。
ちゃんとその顔を、隼人が見ていた事も。
俺・・・傍にいたいのは・・・・隼人、なのかな。