心掻き乱す・・・



の両腕を握り、背を壁に押し当てた状態で
決して強引ではない優しいキスを、竜は唇に落とした。

そっと触れた唇が、の唇に触れ
少しだけ唇の合わさった所を、舌でなぞられる。
ザラッと唇に触れる竜の舌。

「んっ・・」

その感触に、ビクッと体が跳ねて変な声が出てしまう。
誰もいないからいいものの、聞かれたら言い訳がつかない。

最初手首を掴んでいた竜の手が、の腰へ周り引き寄せる。
男の力には勝てず、成すがままになってしまう

気持ちをぶつけるようなキス、触れるだけだったのが
角度を変えて、息つかせぬ物へと変わる。
パニックに陥ったの目に、涙が浮かんできた。

何時も一方的で、振り回されっぱなしな事に怒りを感じ
何もかもが嫌になった。

「やめ・・ろっ!!」

渾身の力を込めて、竜の体を突き飛ばした。
突き飛ばされた竜は、後ろに数歩下がってを見る。
その目は変わらず、真剣な鋭い目をしていた。

射るような、それでいて熱っぽい。
熱を帯びた目に、の胸が跳ねる。

・・」
「くんなっ!何時もいきなり過ぎるんだよ!強引で、勝手で・・少しは俺の気持ちも考えろ!!」
!!」

竜の目を見ないようにしてた俺に、竜が近づいて来る。
気配で分かった俺は、今までの鬱憤をぶつけるように叫んでやった。

もう振り回されるのは懲り懲りだ!
後ろで竜が自分を呼んだが、無視して屋上を出て行った。

竜とのキスシーンを、影から見てしまった人物は
が竜を押し退けて、扉に来るより先に
屋上から去り、元いた教室に戻っていた。

屋上に残された竜、渡されたチョコを手に立ち尽くしている。
確実にを傷つけたのは分かった。

どうしようもないくらい、止まらなかった。
アイツが、が・・・隼人を好きなのかと思うと――


ΨΨΨΨΨΨ


どう階段を下りたのか分からない程、混乱と怒りでいっぱいになった

何なんだよ!何なんだよ!!
まさか竜がこんなに強引っつーか、分からず屋っつーか隼人並に向こう見ずだとは思わなかった!!

迫ればいいってモンじゃねぇだろ!!!
あんなキス・・・しやがって。
俺の気持ちなんか・・いつも無視じゃんか。

隼人、まだいるかな。
泣いたのバレねぇようにして行かねぇと・・・。

教室までの階段を駆け下りた
バクバクする心臓を押さえ、目尻に浮かんでいた涙を手の甲で拭う。
気持ちを落ち着かせ、3Dの教室へと向かった。

一方、教室の机に腰掛ている隼人は・・・
此方もまた、平常心を勤めようと気持ちを落ち着かせていた。

整った顔に浮かぶのは、泣きそうででも怒ってて
という複雑な表情・・。
――そう、隼人は気になって後を着けて 見てしまったのだ。

竜がに気持ちを告げ、とキスする所を。
先を越されたような、何だかとっても胸が痛くなった。

竜がを好きなのは分かってた、だって俺だってが好きだから。
同じ奴を好きだから、竜の気持ちも俺には分かる。
けれど・・・見せ付けられるのはつれぇ・・・・

2人の会話を最後までは聞いてねぇけど、戻っちまった。
だってよ、は竜が好きなんだし両想いじゃん。
出る幕ねぇし・・惨めなだけだって。

は俺にも用があるみてぇだった、カップルになって戻って来られたらヤだな・・
2人と鉢合わせなんて、ダセェ状況はマジ勘弁。

「――隼人!」

鞄の紐を掴み、肩に担いだ所でこっちに駆けて来る足音がし
そっちに顔を向けたタイミングで、が現れた。
だが、隣りに竜の姿はない。

わざわざ待たせてんのか?
それはそれで、ラブラブっぷりを見せ付けられてる気分。
だから少し苛立った口調で、隼人はへ言った。

「何だよ、用って。」
「わりぃ・・遅くなって、怒ってるよな。」

隼人の言葉に、不安気な顔で聞いて来る
その可愛らしい仕草にすら、苛立ちを覚える。
竜の物になった全ての仕草。

イラつくが、邪険には出来ずに鞄を机に下ろしながら言う。


「・・・別に・・怒ってねぇよ。」

息を吐くような掠れ声で、俺に言った隼人。
口じゃ怒ってねぇよって言ってるけど、雰囲気がピリピリしてる。

待たせ過ぎたんかな、この後用事があったとか?
だって予定が狂ったんだよ、まさか竜とあんな事になるなんて・・・
うわーーーー!!思い出したらムカついて来た!

脳裏に甦ったその場面を打ち消すように首を振り、頭を叩く。
隼人は勿論、突然自分の頭を叩き始めたに吃驚。

「おま・・!何やってんだよ!」
「何でもねぇ!隼人に渡すモンがあるんだ。」
「お、おう・・」

駆け寄って止めるより先に、ピタッと動きを止めた
キッパリと話を打ち切られて、呆然とする隼人に渡すモンがあると切り出し

用意して来たチョコを、鞄の中から取り出して差し出す。
今度はちゃんと決めようと思い、キビキビと言った。

「これやる、いつも世話になってるお礼!」

じゃあな!とそれだけ言って踵を返そうとした。
バッチリ決まったと思ってただけに、油断もしてたんだろ。

立ち去ろうとしたの背に、隼人の声が掛かった。
でもその声音は、普段とは全く違っていて
突き放されたような、冷たい声だった。

「あの返事、考えなくていいや。」
「は?あの返事って・・・」

突然隼人が言った言葉、いきなりの事で直ぐにピンと来なかった
そのに、視線を逸らした隼人が先を続ける。

隼人が言った意味は、自分の告白についての返事だ。
その返事を、もう考えなくていいと言ったのだ。
勿論にしてみれば、いきなりの事で驚きよりも怒りが湧き上がる。

勝手にキスしたり、好きだって言ったり
ドキドキさせたり、本気で行くとか言ったりして
こっちの心、掻き乱すだけ掻き乱しといて・・・・・!!!

「何だよ、それ・・勝手すぎだよ おまえ等。」

搾り出すように、低く呟いたの声。
その様子は、ただ驚いてるだけには見えなかった。

様子がおかしい事に気づいて、隼人が何か言おうとするより先に
弾けるようにが叫んだ。

「じゃあソレ返せよ!」
「何で」
「いらねぇだろ!」

キッと睨みつける顔、今にも泣きそうなのに驚く。
それでも受け取ったチョコを返す気にはならなくて、持ったまま問い返せば

苛立ったようにが叫び返し、無理にでも奪い取ろうと掴みかかってきた。
いつにない態度と迫力に、気圧される隼人。
それでもチョコを取られないようにして、に問う。

「だってオマエ、竜が好きなんだろ?だから俺・・・
竜にだって渡したんじゃねぇのかよ!本命!!俺の気持ち知ってんだろ?」

何か勘違いしてる隼人、竜も俺が隼人を好きだと勘違いしてる。
それでいて、気持ちだけを俺にぶつけるだけぶつけて
いつも勝手に帰ってしまったりする2人。

振り回されっぱなしの自分、どっちも大切で選べない。
ゆっくり考える時間が欲しいのに、それさえもさせてくれねぇ。
もう辛くて、苦しくて、今度こそ抑えきれずに泣いた。

「勝手過ぎなんだよ!!いつもいつも、強引で一方的に気持ちだけぶつけて
1人でスッキリしやがって!少しは俺の気持ちも考えろ!!」

喚くように、子供のようには泣き叫んだ。
怒りに任せて、隼人の前に行くと力任せにその胸を叩く。

感情が爆発したかのような様に動揺しつつも
自分の胸を叩いて喚く、男の体格の自分には少しも痛くない。
けれど、心の奥は痛みを受けていた。

の手首を掴んで止め、小さい体を抱きしめようとしたが
それを感じ取ったが再び叫んだ。

「離せ!もう嫌だ!!」

拒絶の言葉、それが隼人の心にトドメを刺し
涙を散らして叫び、駆け出したを隼人は追いかける事が出来なかった。

夕暮れ近づく教室に、呆然と立ち尽くす隼人だけが残され
振り解かれた腕、掌にはしっかりと掴んだの手の感触が残されていた。