声
まさか、とは思った。
自分に降りかかるなんて
表現は例えるなら『電撃』
私の運命を、大きく変えて行く事となる。
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やっと着いた漆器屋。
様々な漆器が並んでいる。
今度入荷される新作。
『白梅』
白地に実にシンプルな梅の花
白いキャンバスに真っ赤な梅だけを描いたかのよう。
一目で気に入った女将と私。
手の空いていた私が取りに行かされたわけ。
「お待ちしてましたよ」
不意に聞こえた店主の声。
一礼し、受け渡し書類とやらに店名と自分の名前を書く。
勿論源氏名。
さらさらっとペンを走らせ
『』と記す。
箱に入れ、包む間 私は店内を見て回る事にした
暫くして、誰かが店に入ってきた。
「いらっしゃい」
包みながら声だけ掛ける店主。
入ってきた人物は、とても綺麗な人物だった。
***
近藤さんのお皿を(土方さんを怒らせた僕のせいで)割ってしまった僕達
平助が割っちまった輪島塗のお皿を探してこの漆器屋に入った。
あれは近藤さんが大事にしてた皿だ。
ったく新八の野郎が興味本位で見に行こうなんて言い出さなきゃな
土方さんにも総司にも見つからずに部屋に入れたのはいいが
まさか土方さんに追われた総司が現れ、鞘を振り下ろした攻撃を避けた総司のせいで平助が手を滑らせるとは・・・
しかもそのせいで巻き添え食らった俺らは総司と市中に買い物。
流石の俺も予想外だったぜ・・と並んで歩く総司や平助、新八を眺める。
取り敢えず店も見つけたし、あいつらから有り金も絞り出させたからな
似たようなのでも見つかりゃ儲けもんだぜ
とか考えてるであろう左之さん、漆器屋って意外と多いから二手に分かれた。
其処で僕は趣のある漆器屋さんを見つけて入ってみたんだけど・・・
ざっと見た店内、人は少なく目に入ったのは店主と1人の若い女の人。
凛と背筋を伸ばした、育ちの良さそうな感じ。
少ししか視界に入らなかったけど、まさかこの後深くかかわる事になるなんてね。
専門店らしく、目当ての輪島塗はズラリとある。
此処がアタリな感じもするけど・・値が張るかもしれないね。
平助君が割ったのは、輪島塗の皿。
デザインは似てればいいのかな
割れたのは確か・・・黒い下地に白い白菊が描かれてたっけ
黒はある。
けど白菊の柄は近いのがないな・・・・
菊なら何でもいいか、近藤さん鈍そうだし(ぇ)
んー・・・・気は進まないけど左之さん達の意見も聞いてみようかな
そう思い、女の人の後ろを通った矢先少しぶつかってしまった。
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私は何故か気になって、背の高い人物を見ていた。
綺麗に整った顔、後頭部で結わえた形の茶色の髪。
優しそうに見えるけど何処か鋭利な刃物のような雰囲気の人だなと、勝手に考えてしまった。
その人は、暫く輪島塗の漆器を眺めていた。
綺麗な顔の眉間に皺を寄せ
真剣に考えている。一瞬黒い空気になった気もしたけど(
かと思えば、回れ右をして出口付近の私側へ歩いてきた。
買うのを止めたみたい。
しかし、私の後ろを通った途端。
軽く接触、私の体は漆器目掛けて傾いた。
「っあ・・!」
「!?」
咄嗟に振り向いた後は
あっと言う間だった。
漆器に突っ込みかけた私の体を強い力で引き戻し
その逞しい胸に受け止める。
そして聞こえた低い声。
それはかつてない衝撃だった。
「ごめん、大丈夫?」
すぐ近くて聞こえた真剣な声。
それは私の体を貫き
一気に身体中の血を逆流させた。
この出逢いを、私は一生忘れないだろう。