流転 九章Ψ気づく変化Ψ
『姫、もうじきこの地に 私の子が来ます。
その時は・・・・貴女が導いてあげて下さいね。』
そう、言い残して姉は消えて行った。
「姉上・・?」
痛む体な為、勢いよく起きられなかった・・・・が?
体は痛まなかったのだ、蹴られる前のように。
そう言えば夢の中で姉上に触れられた。
治して、くれたんだろうか。
わざわざ夢にまで現れてくれて。
自分に触れる前に、姉上は『正国』を抱いていた。
痛まなくなった体で布団から起き、普段通りの足取りで
現八が隠した刀を取りに行く。
姉が立っていた場所へ行くと、水瓶の後ろに隠された刀を見つけた。
2つあるうち、抱くように抱えたのは『正国』だけ。
抱えた時、自分に触れた時・・・青白く輝いたのは何でだ?
特に何も変化はないし、ただ怪我が治っただけだ。
ただ治ったんじゃなくて、治してくれたんだよな・・・
「刀にも変化はないな、姉上の事だから意図はあるんだろうが」
それから姉は、もうじきこの地に自分の子が来る
そう言っていた、それと・・自分に導いて欲しいとも。
何か出来るかな、いや・・役に立つって決めたんだし
里見と姉上の為に出来る事を。
姉上の御子が訪れるなら、動かなくてはならない。
―なるべく家から出るな―
ふと現八の言った言葉が過ぎった。
なるべくなら破りたくはない、あの優しい目を沈ませたくない。
いやだな、何でこんな風に思ってるんだ?
こんな考えは迷惑になってしまうかもしれない。
「だからと言って、姉上の頼みを無下には出来ない。」
それに、同じ痣を持っていた相手だ。
結びつきや関わりがあるなら、また出逢えるはず。
はそう頭を切り替えると、2つの刀を腰に差し支度を整える。
残されていた食事を取り、布団を片付けて戸口から出て
無人になった家へ向け、頭を下げると歩き出した。
行き先は分かっているが、姉上の御子を探したい。
いつ頃来るんだろう、何処から現れるんだろう。
姉上もそれだけは告げずに消えてしまった。
にしても・・此処は何処なんだ?
俺は筑波山の街道で、盗賊に遭って現八に助けられたんだよな。
現八は何処に連れて来たのかまでは言わなかった。
兎に角誰かに聞こう、そうでなくちゃ動きようがない。
と思ったは、丁度よく通りかかった村人を呼び止めた。
一応今度は警戒しながら。
「すみません、此処は何処でしょうか」
「アンタ旅人さんかい?あらぁ、綺麗な男の子ねぇ〜」
「そ、そうですか?いや、そうじゃなくて・・此処は・・・」
「下総国(茨城の県南)の古河だよ」
ミーハーなおばさんの言葉に、気後れしながら
場所を聞き続けたへ、軽快に笑いながらおばさんは答えた。
下総の古河、それは姉上が大輔を探してと向かわせた国。
うわ・・運が良かったのかな、現八が古河の人間だったなんて。
古河は下総国にあったんだな。
って考えると、随分馬で走ってくれたんだな・・現八。
冷たそうに見えたが、意外に優しいトコに笑いが漏れる。
場所を教えてくれたおばさんに礼を言い、行く順を練った。
現八は古河の役人、それらをまとめてるとしたら
やっぱ此処を治めてる人に会うのが筋?
武蔵は今の・・東京になるのか?
いや違う、そん中には埼玉も含まれてたはず・・・
まあいいや、もうあやふやだし。
ヒロインは考える事を投げましたが、説明しておこう。
ドラマ沿いで行く今回の場合、古河を治めているのは
足利戌氏、執政というか仕事を手伝う側の扇谷定正に鎌倉を追われ
この古河の地に逃れてきた足利家の将。
だがこの戌氏、大変贅沢三昧を好む者で
おおうつけ者としての噂が囁かれている。
それと、武蔵国には東京と埼玉の他に 神奈川県も含まれている。
埼玉は昔の武蔵国の北半分と、下総国葛飾郡の一部。
簡単に言ってしまえば中山道沿線地域の事。
東京は昔の武蔵国の一部と、下総国葛飾郡の一部
(葛飾区・墨田区・江東区・江戸川区が下総)。
要するに江戸+甲州街道沿線地域で。
神奈川は昔の武蔵国の一部と、相模国全部。
つまりは東海道沿線地域。
兎に角!その公方に会いに行けばいいんだろ?
ヤケになったヒロイン、何はともあれ古河の御所へと向かった。
ΨΨΨΨΨΨ
が公方の御所へと出発した時、現八はその公方と対面していた。
とっても不機嫌な顔を、お互いに向け合いながら。
ムッツリした顔で、持っている扇を開き
口許を隠しながら再度現八へ問うた。
「して犬飼、そなたからは名刀を我に献上する気はないのじゃな?」
上から人を見下した物言いに、無言で肯定の意を示す。
ただ頷いてみせただけだ。
前々から言ってやりたい事ばかりだった現八。
ここぞとばかりに、更に現八は口を開いた。
「始めからそう言っております、アレはあの者の持ち物。
幾ら公方様が望まれましても、献上する訳には行きません。
あの者が持ってこそ、あの輝きが出るのでは?」
相手が公方でも、臆する事なく淡々と語ってみせる現八。
口から出た言葉は紛れもない本音だ。
と接してみて自分の心が導き出した結論。
それをこの莫迦殿の命令だからと、変えるつもりはない。
「余の命が聞けぬと申すのだな?」
「・・・・」
苛立ったような公方の問いに、現八は無言で肯定を示す。
これで諦めるなら、願ってもない。
何故自分の地位を危なくしてまで、阻止しようとしてるのか分からない。
が、あのをこの地に留まらせるのは 駄目な気がした。
周りの家臣達も、2人のやり取りを黙って見守っている。
しばらく重い沈黙が続いたが、クッと笑った公方。
広げていた扇をパシッと閉じると、高らかに命令した。
とても、莫迦げた内容だった。
「命令無視じゃ!犬飼を牢へ入れろ!残りの者は刀を持つ奴を捕らえてくるのじゃ!」
公方の言葉に、立ち上がろうとした現八だが
素早く両腕を固定され、動きを封じられてしまった。
まさかこう来るとは、ワシとした事が連れて来なかったのを逆手に取られてしまったか。
は動けんのじゃ、今向かわれたらすぐ捕らえられてしまう。
この外道が!卑怯な手ばかり思いつくのぉ。
拘束され、牢へ連れて行かれる現八を公方は見下す目で送り
次の瞬間には、刀が手に入る事を考え
ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
こうして、赤岩親子を筆頭に現八の家へ 兵が差し向けられた。
時を同じくして、大塚村から古河へ
1人の若者が足を踏み入れていた・・・・。