キス



特に解決策も見つからないまま、俺は家に戻った。
つっちーを助けたい、宮崎さんの事も放っておけない。
二兎を追うものは一兎も得ず・・・
両方をどうにかする事は、いっぺんには出来ない。

どうしよう・・・

ベッドに寝ころがっても悩みがなくなる訳じゃない。
隼人達には話すべきだろうか?
でも、俺が話さなくても自宅謹慎は伝えられる。
情けない事に、つっちーのおかげで俺は自宅謹慎にはならなかった。

こんな風に守られっぱなしは嫌だ。
俺だって、つっちーの事を助けたい。
皆が知らされてからでも、遅くないよな?

その決意から翌日。
このどうしようもない不安な気持ちと、罪悪感。

それを曝け出せる者達に会いたくて、俺は学校へ急いだ。
不安で堪らない時は、家よりも誰かと一緒にいたい。
にとってのそれ、この学校で見つけた仲間達。

きっと顔を見れば安心出来そう。

ガラッと教室へのドアを開け、軽く挨拶を済ませて
自分の席へと向かいながら、隼人達の姿を探す。

 オハヨ〜」
「おうタケ・・、オハヨ。」
「オマエなんかあったんか?」
「俺等と別れた後、大丈夫だったのかよ」

手を上げて俺へ挨拶したタケ、隼人達もすぐに見つかった。
やっぱりつっちーの姿はない。
昨日俺と会ってる隼人と2人は、流石に鋭く聞いてくる。

俺と隼人達のやり取りに、浩介が訝しげに眉を寄せた。
こいつ等といると、ホントにホッとする。

昨日からずっと悩んでて、後悔ばかりしてた
優しさに包まれて、思わず涙腺が潤む。
の変化に気づいた竜、抱きしめたいのを堪え
頭に手を乗せると、優しく撫でてやった。

竜の行為を見た隼人、少々ムッとしてそれを見てから
自分も竜の手が退いた後、わしゃわしゃとの頭を撫でた。

しばらくしてからドアが開き、深刻そうな顔の久美子が登場。
クラスの奴等は、確信はしていないが
ムードメーカー土屋の不在を気にかけていた。

「つっちーが自宅謹慎?」
「正式な処分が決まるのは、理事長が帰ってからだそうだ。」

教壇に立った久美子は、包み隠さずに昨日の事を報告。
隼人がその言葉を反復・・。
の様子からして、何かあったとは思ってたけど
自宅謹慎ってどうゆう事だ?

「処分?」

指摘するような竜の問いかけに、クラスがざわめく。
誰一人として、その報告が信じられなくて困惑。
もう一度聞かされてるも、辛くて仕方ない。

「処分って、退学かよ」
「女の子と遊んでただけなんだろ?」

誰もが納得出来ない空間に、浩介の声とタケの抗議する声。
それに続けて、大森がそんなんで退学なんて在り得ないと
金属棒のような物を手に 呟いた。
女の子と遊んでた、というタケの言葉を聞くまでもなく

あのゲーセンでの様子を見ていた隼人と竜は
一人不安そうな顔のまま、席に座るを一瞥し
それから互いに視線を合わせた。

報告をし終えた久美子が教室を去り、それを追うように
隼人と竜も教室を出ると、階段へ向かう久美子を呼び止めた。

その際には、今度こそ話そうと意気込み俺も同行。
隼人達は何も言わず、俺を真ん中に位置づかせると
呼び止めた久美子へ話し始めた。

「昨日ちょっと見かけたんだけどさ」
「え?」
「あの子、なんか楽しそうに笑ってた。」
「アイツが脅したなんて、在り得ねぇよ。」
「ああ、それに最初に誘ったのは俺なんだ・・・」

それなのに、全部自分のせいだって言って
つっちーは庇ってくれた。
そんなつっちーの事、ほっとく訳にはいかねぇんだよ。

悔しそうに話す、仲間思いな奴等。
自分自身も納得出来てなかった久美子は、その話を信じた。

この日の放課後、密かに久美子は宮崎さんちへ行ったらしい。
俺はその頃、何となく付き合わされたゲーセンにいた。
本当はそんな気分じゃなかったんだけど
タケに可愛い目で縋られたら、断れなくない?

ゲーセンに来た途端、隼人達は気が乗らなさそうだったのに
しばらくすれば、賑やかさは半減しつつも
ちゃんとゲームに興じてる。

おいおい・・よくつっちーが大変な時にゲーム何か出来んな。
俺はとてもそんな気分じゃないから、カーゲームの椅子に座り
ゲームを始めた5人を眺める。
隼人と竜は、ビリヤード・タケと浩介はコインゲーム。

男の子って何でもすぐに夢中になっちゃうんだな。
俺は元々男じゃないから、そんなに真剣にはなれない。
今頃・・つっちーはどうしてるかな。

「おい、オマエちゃんと約束守ったか?」
「は?約束?」

カーゲームのハンドルに肘を置いて、頬杖をついてると
いきなり背後からそう声を掛けられ 頭を小突かれた。
突然の行為に、肘がハンドルからずり落ちそうになる。
驚いて振り向いた先には、目を細めて見下ろす隼人。

見下ろし加減に、隠し切れない色気が漂ってます。
やめてくだパイ←隼人のマネ。
隼人が聞いてきた約束・・・アレの事か?

思い出したのは、ゲーセンで交わしたあの会話。
あの言葉で、セーブされたもんだよなぁ。

「守ったってゆうより、守らされたって感じだけど・・」
「つまりは守れたって事だよな?」
「え?まあ・・そうなるのか?」
「よし、そんなに俺がご褒美をやろう。」

その発想は何?俺はついて行けずに首を傾げた。
理解してないをそのままに、隼人は懐に手を入れると
何やらシールのような物を取り出した。

そのままホイッと俺に差し出す。
チラッと視線を落として、思わず目が点。

「これって・・プリクラ?」
「そ、よく見ろよレアだぜ〜竜も写ってんの。」
「え?マジ??わぁ〜本当だ、しかもむっちゃ不機嫌そう」

隼人に見せられたプリクラ、それは多分さっき撮ったんだろう
4人が仲良く写ってるプリクラ。
しかも、滅多に写らない竜もいた。
隼人達はポーズもバッチリキメてるのに、竜だけはそっぽ向いてる。

たったのそれだけなのに、嫌々具合が伺えて
俺の口許にも自然と笑みが浮かんだ。

「やっと笑ったな」
「・・・わりぃ、気ぃ使わせた?」
「いんや、に笑顔が戻ればそれでいいし。」

恥ずかしいセリフ・・平気で言うなよ。
と呆れてはみるが、それを嬉しいと思ってる自分がいる。
このレアプリクラ(笑)くれるみたいだから貰っとこう。
俺に笑顔が戻ればいいなんて、隼人に言われると照れる。

「俺さ、ホントは約束の事忘れるくらい 頭に血が昇ってた。
けど・・それをつっちーが止めてくれたんだ。」

騒ぎの原因は自分だって、つっちーを巻き込んだのは俺だって。
そう話そうと思ったのに・・・
何で、つっちーはそうまでして庇ってくれたんだ?
事情を知ってて言えないのは、気持ち的にも辛い。

「折角笑ったのに、泣くなよ。」
「だって、俺やっぱり何も出来てないから・・っ」
「そんな事ねぇよ、分かってねぇだけ。」
「は?」
はずっと、一生懸命だったじゃん。」

ぐしっと乱暴に袖で、涙を拭った俺。
泣き出した俺に呆れもせず、隼人は真剣に言葉を紡ぎだした。

「俺等は知ってんだぜ?誰よりも必死になってた事。
仲間の事 絆を大事にする事、が教えてくれたんだろ。
だから、無鉄砲なオマエを今度は俺達が守るって決めた。」

がいてくれたから、今の俺達が在るんだって分かってんの?

俺を見る隼人の目が今までにないくらい、優しい。
本当に、どうしてこんなにも優しいの?
これ以上優しくされたら、男としての自分を保てない。

涙を止めてやりたいのに更に泣かせてしまった。
流石の隼人も、内心焦る。
完全に涙を止める方法、それを隼人は思いつき
竜達に見つかる前に、早速決行した。

まずはを立たせると 文句言われる前に
その細い体を抱き寄せた。
も、この腕が何をするか・・分かっても拒まなかった。

今は不思議と、この腕に包まれる事を望んでた・・?
引き寄せられるままに 肌に触れた胸へ顔を寄せる。

「これから何があっても、俺が傍にいる。」

この言葉に、素直に・・・頷けるようになった。
隼人の存在が、俺の中で大きな物になり・・・
心の中で、確かな形を取り始める。

を抱きしめてくれた隼人、それから隼人の細長い指が
なんと、顎に添えられて ゆっくり上げられた。
あ・・隼人の顔が、近づいて来る。
そのまま目を閉じてしまいたくなる衝動。

けれど、ハッキリと答えが決まってないからには
その先へ進む事は出来ない。
ちゃんと応えられる日まで、待ってくれるか?

「こっから先はまだ待ってくれ、俺の中で答えが決まるまで・・」
「・・・決まったらしてもいいんだな?その言葉、忘れんなよ。」

決して怒ったりしない隼人、随分寛大になったなぁ〜。
最初の時だったら在り得ない言葉。
答えを急かされないから安心して答えを用意出来る。

隼人の言葉に頷いて、腕を解こうとしたら・・
ふと 隼人がこんな風に呟いたのを、遠くの方で聞いた。

「じゃ、今はコレで我慢しとくから。」

よく聞こえなくて、え?みたいな感じで振り向いたら
ちゅっ という可愛らしい音と共に、頬に柔らかい感触が・・・
何?コレは・・・頬チュー!?
キスとは違った新鮮(!?)さに、吃驚してる間に

素早く隼人は俺から離れ、何事もなかったかのように竜達の方へ。
密かにテレ顔の隼人、マンション前でのキスより照れてる自分に戸惑いながら。