君の温もり 後編
待つのが好きなのは、私限定・・・
何て恥ずかしいセリフを、竜はあっけらかんと言ってのけた。
その言葉に対し、ゆっくり恥ずかしがってる場合じゃない。
このままじゃ風邪を引いちゃう。
「竜っ私んちに行こ!服とか乾かさなきゃ!」
「いいけど、行っていいの?オマエんち。」
この時は必死だったから、竜が問い返す意味が分からなかった。
確かに、自宅には今時分しかいない。
でも 今の私にそんな事は問題じゃなかった。
竜が風邪を引くか、引かないかの事しか考えられなかったから。
竜からの問いかけには、受け流す感じで頷き
問答無用、竜の手を掴むと自宅へと走った。
何をするにも一生懸命な。
俺の手を掴んで、汚れるのも構わずに走る姿。
その真っ直ぐさには、いつも驚かされる。
だから俺は惹かれた・・・傍にいたいって思った。
の自宅まで、そんなに時間は掛からず
まあ着く頃には俺もと並んで走ってた。
玄関の屋根に入り、傘をたたむ。
その仕草とか、伏せ目がちな睫毛を横から見つめる。
触れたい・・・何か変態みてぇじゃねぇ?俺。
でもな、このまま黙って見てるだけなのは辛い。
から返事は聞いてない、無理な事は強要したくねぇ。
ちゃんと待つよ、。
シーン静まったの自宅。
聞けば、タイミングのいい事に両親は留守。
タイミングがいい、なんて思うのはマズイよな。
18歳の男として、葛藤する竜。
そんなの知らずに走り回る。
タオルを取りに行ってるようだ。
自分だって濡れちまってるのに、俺の事ばかり心配してる。
あのままじゃ、だって風邪を引いてしまう。
全く・・・目が離せねぇな。
「竜、頭とか拭いた方がいいって!ついでに服も脱いで!」
「頭は分かるけど、いいの?脱いでも」
「何言っての!服乾かさなきゃ・・・」
「・・、顔真っ赤だぜ?」
ばぁか〜!!これは竜のせいでしょ!
顔に出てしまった紅さを指摘され、は内心で叫ぶと
持ってきたタオルを、力任せに竜へ投げつけた。
投げつけられたタオルを、顔面手前で受け止め
涼しい顔で頭を拭き始めた。
全く・・・何なの、この余裕っぷり。
昨日の告白の事なんて、忘れてそうじゃない?
こっちはいつしようかとか考えて、ドキドキしてんのに!
何て思いながら、あたしは竜を盗み見る。
人をからかいつつも、しっかり学ランと中に着ていたセーター
それらを脱ぎ、ストーブの前に座ってる背中。
細いのに、男の子だけあって筋肉の付いた体・・。
うわぁ・・見てるだけなのに、恥ずかしい。
線の細い体、シャープな横顔。
何て綺麗なんだろう・・男の子なのにさ。
こんなカッコイイ人に、告白されたんだよね?
未だに信じられないよ。
人気なんだよ?竜とあの隼人達。
桃女の子とか、他の高校の女子からさ!
その竜が・・あたしを!?しかも今あたしんちにいるし!
よく考えれば、大胆な事した?親のいない家に連れ込むなんて・・
でもさ、竜はあたしのせいで濡れちゃったんだし。
「そんなに見るなよ、それとも俺に見惚れてた?」
「あのねぇ・・竜、最近言う事が隼人に似てきたよ?」
クサイ台詞を口にした竜、見てるのがよく分かったなぁ・・
隼人に似てきたよ、と指摘してやれば
それは流石にヤだな・・と言って黙った。
心底嫌そうに言う姿が、可愛い・・・って言ったら怒られそう。
ふと沈黙が流れ、ストーブを占領してた竜がくしゃみをした。
くしゃみまでクールだねぇ・・って風邪引かせた!?
1月の雨は冷たいよね!?温かい物とか飲めば少しはいいかな。
「寒いよね?毛布とココア持ってくるよ・・!」
「待てよ、だって体つめてぇじゃん。」
「あたしは平気だよ、それより竜の方が心配!」
「・・なら、が暖めてくれんの?」
ま・・・またこの人はそんな台詞を言う!
こんな恥ずかしい台詞言うキャラだったっけ??
真剣な目が少し憂いを帯びてて、目を逸らせない。
何この人!危険すぎ!さっきのでコロッと行きそうだったよ。
何か近づいて来る竜の顔、このムードが恥ずかしくて
あたしはさっと立ち上がると、ココアと毛布を取りに向かった。
・・・はずなんだけど、立てない。
グイッと腕を引かれて、そのまま引力に従い後ろへ倒れる。
倒れ込んだあたしを受け止めたのは、冷たい体。
直に触れる竜の肌。
雨の滴が、の服を濡らす。
互いの鼓動が重なり合い、同じ刻を刻む。
の心拍数が、最高潮に達した時
これまた図ったかのように、竜のクサイ台詞が耳元で炸裂。
「毛布よりも、がいいんだけど。」
今この体勢で言うか〜?普通!
どんな体勢かって?だから、背中を竜の胸に預けてるのよ。
しかも、直接・・・裸の胸に・・・ひゃあああっ!!
耳がっ!耳が溶ける!!
でもさ、嫌じゃないんだ。
ずっと好きだった人の温もりに包まれてるのって・・
安心してる自分がいる。
「ねぇ竜・・返事、今なら出来る気がする。」
「マジ?」
背中に響く、心地よい竜の低音。
それに耳を傾け、しっかり覚えなくちゃと頭に刻み
は募ってた気持ちを、大好きな人に告げた。
「あたしも、ずっとずっと・・竜だけを想ってました。」
「本当?・・・信じていいのか?」
「当たり前!恥ずかしいの我慢して言ったんだから!」
「うわ・・すっげぇ嬉しいんだけど」
直に聞こえる竜の吃驚した声。
その声からして、嘘ではないようだ。
嬉しい、それはあたしの方だよ?
俺の告白に応えてくれた。
自分の肌に触れてる温もりが、その存在を強める。
嬉しすぎて、もう我慢出来なくて俺はを抱きしめた。
前の方で、が何やら叫んでるがこの際聞こえないフリ。
やっと堂々とオマエに触れるんだ、これくらいさせろ。
もう離したくない、腕の中の温もり。
俺だけが感じられる・・君の温もり・・・。
やがて俺達の視線は絡み合い、どちらからもなく唇を重ねた。