君の声



真希と別れたは、無事マンションへと帰宅。
途中のハプニングもあり、時計は夜の9時を回っていた。
痛む傷口、防御も出来てたらしく 目立った傷はない。

それでも目立つのは、殴られた両頬と首の痣。
マズイだろ・・コレ。

首は隠れるけど、顔は無理。
絶対明日なんか言われるって。
根掘り葉掘り聞かれそう・・・皆そうゆう事にだけはしつこいし。
いや・・女の子関係にもしつこそう、竜を除いて。

アイツ等に彼女出来たら、そうゆうのは落ち着くのか?
日々浮気の心配してんじゃ、もたねぇぜ。
・・・だから俺が心配する事じゃねぇだろ←自主突っ込み。

「誤魔化すのは厳しいなぁ・・・竜には気づかれそう。」

アイツ妙にそうゆうの鋭いからな〜
喧嘩と言ったらそれまでだけど、アレは正当防衛。
殺られそうになったから、つい空手で応戦しただけ・・・
ってのも苦しいいい訳だな・・初めて喧嘩したな。

華道家家元の娘で、お嬢様って言われてたのが嘘みてぇだ。
まるで、それは全くの別人の話みたいに思える。
縁も切られたし、丁度いいんじゃねぇ?

型に嵌められて見られる事もないし
次期家元だからって、きちんとする必要もなくなる。
肩書きが取れたとしても、人としてはちゃんと生きないとな。
世の中には、見かけだけで判断する奴は腐る程いる。

「気合入れてかねぇと・・・」

鏡の前で、頬の痣を眺めて呟いた言葉。
そのすぐ後、家の電話がけたたましく鳴った。
一瞬だけ身が固くなる。

もうかけて来る事はないと分かってても、体が勝手に緊張するんだ。
いやだいやだ・・・過敏になってる自分が。

受話器を取るのは躊躇ったが、思い切って手に取った。
聞こえてくるのが誰の声なのか・・相手が喋るまで
妙に緊張した。

『もしもし?』

秒単位の間の後、受話器から聞こえてきたのは
凄く聞き覚えのある声だった。

掠れてはいるが、ずっと聞きたかった人の声。
あの時から比べると、大分大人っぽくなっている。
は嬉しさと安堵で、知らずうちに頬を涙が伝った。

だよね?」
『うん、そうだよ。 元気してた?』

受話器の向こうで笑う姿が、目に見えるようだった。
集中治療室に入り、一般病棟に移って
自分が会いに行く勇気が持てるまでの間
全く会えずに、声も聞けなかった人の声。

そのが、今 こうして自分に電話をしてくれてる。
約3年ぶりに聞けた親友の声。

「元気だったよ、ずっと・・・の声が聞きたかった。」

涙で嗚咽が混じりそうな声で、精一杯言葉を紡ぐ。
過去の事なんて、今更どうでもいい。
こうやって話せる今があるなら。

『私も、の元気な声が聞けて良かった。』
「もう大丈夫なの?何処からかけてるんだ?」
『大丈夫、退院も間近なんだ。かけてるのはロビーだよ。』
「退院も間近なのか!?本当に?良かった・・本当に良かった。」

の口から、退院という言葉を聞けた途端。
の全身の力が抜けた。
今までずっと気掛かりだった事だったから。

多少笑うようになってても、心の底にはの事が在った。
もう一度会えるのかとか、また2人で過ごせるのかとか。

その不安も、本人からの言葉で一気に晴れた。
堪えられない涙が、また一筋頬を伝う。
腫れた痣を、少し冷やしてくれた。

『私が入院してる間、大丈夫だったの?』
「ああ、色々あったけど今は大丈夫だ。」

の危惧するような問いかけ。
の脳裏に、辛かった日々が幾つも浮かんだが
最近の思い出になると、隼人達の姿が浮かび
自然と顔には笑顔が溢れた。

喋り方で悟ったのか、電話越しのも笑顔になる。
親友が幸せそうなら、これ以上嬉しい事はない。

『なら良かった、だってって凄い無茶する子だから。
大人しいのにタガが外れると暴走するからね〜
いつも誰かが傍に付いてなきゃ心配だったんだよ?』

暴走・・って、さん?
大人しい、確かに3年前の俺は家の事もあって大人しかったな。
育ちも家柄も良かったから、友達なんかいなくて
それでもが、ずっと俺を見ててくれた。

いつだって、傍にいてくれたんだ。
は俺の性格、見抜いてたんだよな。
がいてくれて・・・俺は救われた。

「有り難う・・・、次は俺がを守るから。」
『・・・どしたの?すっごくカッコイイんだけど!』

ガクッ・・
沈黙の後聞こえたの興奮した声に、肘が机から落ちる。
なんか・・のキャラが変わってる?
入院前はもっと口調も男らしくて、俺と真逆だったのに。

、変わったね。なんだか、凄く逞しく感じる。』
だって変わったよ、女の子らしくなった。」
『ちょっとそれって、前の私が男みたいだった言い方じゃない。』
「あははは!ごめんごめん。」

弾んで行く会話、尽きない話題。
話に夢中になるに、が時計に気づいて言った。

『もう10時になる、消灯時間だね〜』
「時間が経つのが早いね、あのさ・・明日会いに行っていい?」
『当然、改まる必要なんかないから 待ってるよ。』

突然の申し出にも、は快く快諾。
明日の放課後だから、夕方くらいに約束を交わした。

電話が終わった後も、顔がニヤニヤしてる。
だってだって、嬉しいんだ!
会うのを禁止されて、もう3年が経っちまった。
そのに、やっと会えると思うとニヤケちまう。

バイトも空手も休みだ!明日は何よりもを優先。
この傷の事だって、何とかなるなる!

とゆうノリで、は風呂に忙しなく入り
軽く痣を冷やしてから、すぐベッドに入った。
他の傷の消毒などは、一切省いて・・・。

◇◇◇

翌朝、はまずピンチに遭遇。
起き上がれネェ!!
筋肉痛でも寝違えでもないのに、体が痛くて起き上がれない。
何故!?ちょっと待てよ、ゆっくりならなんとか・・・

寝たきりの老人並みに時間をかけて、ベッドから脱出。
両頬に湿布を貼り付け、首の後ろにも貼り辛いが何とか貼った。
朝食のトーストを頬張りながら、はマンションを出発。

体の痛みで目が覚めたおかげで、ピンチも回避出来た。
早起きは3文の得ってゆうけど、実感したな。
それにしても・・何でこんなにいてぇの?
運動不足だったのか?俺。

それともいきなり空手習いだしたから?
初めて本格的な喧嘩したから?

どっちでもこの際いいけど、コレ誰かに飛びつかれでもしたら
絶対耐えられなくて倒れそう・・・
うわぁ・・かなりダッセェ。

とかなんとか思いつつも、学校に行かなくてはならない。
学費も家賃も自分持ちになったから、バイトもハード。

そんな生活にも慣れなきゃな。
今日はに会える日だし、頑張らないと。
全身に走る痛みに耐えながら、教室へと向かう。

「歯が折れなくて良かったよ。」
「顔からコケたのか?」
「そうじゃねぇけど・・・って、ヤンクミ!?」
「おう、つーかそんなに驚くな。私は怪獣じゃないぞ?」

・・・誰もそうは言ってねぇって。

って突っ込みは置いておくとして、いつ来たんだ?
ヤベェ、顔隠さねぇと!!
でもそれももう遅く、ヤンクミはバッチリの顔を見てた。

「オイ・・・それ痣だろう?オマエまさか」
「なあヤンクミ!俺やっと今日に会えるんだ!」

ズバリ聞いてきたヤンクミの声を遮って
強引に別の話題を割り込ませる。
でもコレは、ヤンクミにも報告したい事だったから。

上手く話に乗せられたヤンクミは、顔を輝かせた。
の事は、ヤンクミも凄く気にしてくれてたし
両親に会いに行く勇気をくれたのも、ヤンクミだ。
世話になりっぱなしだから、真っ先に言いたかった。

「そうか!良かったじゃないか、沢山話して来いよ!」
「うん・・そのうち隼人達も紹介したいし」

と、が漏らすとヤンクミはニヤニヤと口許を歪めた。
その顔に何か嫌な予感。
表情の訳をヤンクミは言わなかったけど、とにかく妖しい。

上手く話題も逸らせたし、よしとしよう。
ヤンクミに促され、は彼らの待つ3Dへと向かった。

ガラッと扉を開けて入ると、いつもにも増して
賑やかなクラスメイトの声が出迎えた。
なんつーか・・・何、その歌。

「チョッコレートチョッコレートがほ・し・い♪」←クラス全員。

せ・・センスねぇ歌・・・・竜以外は大熱唱。
指揮はほぼ全員でテンポよく合わせてる。
そんな状況を、女のとヤンクミはしばし呆然と眺めた。
歌にする程チョコが欲しいのか?

合唱するクラスメイトの姿を、1人呆れ眼で眺める竜を発見。
自分達が来た事にも気づかないクラスメイトの横を通り
傍観体勢に入ってる竜の傍へ行く。

「コレはナニ?オマエは参加しねぇの?」
「しねぇし・・つーか、俺が欲しいのはオマエからのチョコだけだから。」

な・・なななな!!!(赤面)
どうしてこうストレートなんッスかアナタは!!
動揺して思わず目の前の竜を指差す。

目に見えて動揺してるを見て、小さく笑って
ふとその綺麗な顔に、違和感を見つけ食い入るようにを見た。

竜の鋭い双眸が、自分を見つめてる事に気づき
同時に、湿布の存在を気づかれた事にも気づいた。
マズイと思って、隠そうとした時には
竜の手が顔を隠そうとした俺の手を、掴んで止めてた。