君に捧ぐ
10月4日
この日を迎えて、あたしの愛しい人は1つ歳を取った。
あたしが誕生日を迎えるまでは、同い年。
今年は何をあげよう、どうすれば喜んでくれるかな。
貴方がこの世に生まれた大切な記念日。
その大切な日に、あたしは何をしてあげれる?
望むのは、貴方の笑顔。
本人に欲しい物とか、聞きに行ってもいいんだろうけど
変な事とか言い出しそうだし・・・
食事に行くって手もあるけど、たっちゃん芸能人だし
バレたら迷惑になる、それだけはしたくない。
目立つ事は避けたいだろうし、めんどくさがりだろうし。
不思議ちゃんで、一時期妖精が見えるとか・・
いいの!そんなトコひっくるめてあたしはたっちゃんが好きなんだから。
って・・・違う方向に論点が行ってしまったよ。
ありきたりなのは駄目かな、でも気持ちが篭ってれば!
そうよね、大事なのは気持ちよ。
たっちゃん普段忙しいし、何かリラックス出来るような・・・
映画とか?うーん・・上映ギリギリに入らないとバレる。
じゃあどうしよう・・・楽器屋とかは?
たっちゃんピアノとか、ギターも弾けるし。
あたしも何か出来るかなぁ〜
出来ない事は無理にやらなくてもいいよ・・ね?
じゃあここは地味に、ケーキを作ろうかな。
「ワンホールじゃなくても平気だよね」
甘い物が好きとはあんまり聞いてなかったから
チョコレートケーキを作る事にした。
ショートケーキよりも、甘くない感じがしたので。
何かをプレゼントするお金もなくて、ケーキくらいしか買えない。
それでも、大好きの気持ちを詰め込んで作れば
たっちゃんは喜んでくれるかな。
近くのケーキ屋で、小さいサイズのスポンジを買い
塗りつける為のチョコレートも購入。
予め文字を書く為の、チョコレートの板も買っておいた。
たっちゃんの今日の予定は、午後9時まで芸能界の仕事。
テレビ番組の収録だとか?
今の時間は、夕方の6時・・今から作れば十分間に合う。
は夕焼けの歩道を歩きながら、ケータイのスケジュールを確認。
そこに記されているメモには、そう書かれていた。
いつもは長く感じる時間も、こっそり何かを準備するには丁度いい。
は早速支度を整え、2人で同棲しているマンションに帰り
キッチンへ向かうと買い込んだ材料を取り出し、作業開始。
トッピング用に、溶いたチョコレートを用意。
スポンジを2枚に切り、最初の一枚にお湯で溶いたチョコレートをヘラで塗ってから
その上にもう一枚のスポンジを乗せて
仕上げにと、スポンジ全体にチョコレートを塗る。
仕事、頑張ってるかなぁ・・・
怪我とかしてないかな、ちゃんと帰って来てくれるかな。
って・・・それは帰って来てくれるだろうけど。
「何にせよ、誕生日は楽しくお祝いしてあげようvv」
楽しくって言っても、用意出来たのはケーキだけ。
はぁ・・・心配だけど、分かってくれるかな。
☆☆☆
心配してる間にも、時間は刻々と流れ
たっちゃんの仕事が終わる10分前になった。
待ってる時間って、それだけで心臓が持たなささそう。
プレゼントも用意出来ないなんて、彼女失格かなぁ。
でもでも、ケーキまでないよかマシよ。
逸る心臓を落ち着かせ、気を紛らわせようとテレビを付ける。
適当にチャンネルを回し、1つの番組で落ち着いた時。
玄関のドアを開ける音が研ぎ澄まされた耳に届いた。
「ただいま〜」
声音に疲れが伺えるたっちゃんの声。
ピシッと立ち、はせかせかと出迎えに出た。
よく見れば怪しい動きだが、靴紐を解いてる為
竜也からその表情は伺えない。
背中を向けて、靴を脱いでる背に抱きついて言う。
「お帰り!」
「ん、どうしたの?やけに熱烈な出迎えじゃん。」
熱烈な出迎えって・・・今日だって事忘れてるのかな。
広い背中に頬を寄せてそんな事を思う。
たっちゃんが靴を脱いだのを確認し、背中から離れてリビングへ。
テーブルの上に乗せられたケーキを見て、どんな反応をするか・・
ドキドキしながら一緒にリビングに入った。
先に入った竜也が立ち止まり、後ろに続いて来たは
その背中に後ろから突っ込む形になる。
立ち止まった事で、テーブルのケーキに気づいたんだと悟る。
どんな反応が来るのか、竜也の背中を見て待つ。
「もしかして・・俺の為に作ってくれたの?」
「うん、勿論。」
「・・・マジで?チョー嬉しいんだけど!!」
少しの沈黙の後、そう口にしたたっちゃん。
その為だけに作ったんだから、当然あたしは首を縦に振る。
が頷いたのと ほぼ同時に、叫んだ竜也はを振り返ると
ガバッと勢い良く腕の中に抱きしめた。
突然の抱擁に、は目を白黒させて慌てふためく。
抱きしめられた勢いで、竜也の付けてる香水が香った。
甘くて、包まれてると溶けてしまいそうな香り。
まるでたっちゃんみたいな香りだね。
「食べてもいい??」
「そりゃあ勿論、でも・・聞かないの?」
「やった!・・・聞くって、何を?」
「いや・・だから、プレゼントはないの?とか。」
ずっと気掛かりだった問いかけ、モジモジと躊躇ってから
やっとはその問いを、竜也へ向けた。
聞いた時、竜也は少し訝しげな顔をした。
だから、機嫌を損ねたのかと心配になったけど
それは違うって、すぐに分かった。
「プレゼントはなくてもいいよ、ケーキもあるし傍にはもいる。」
それだけあれば、十分のプレゼントだよ。
そう言って微笑む顔、もう綺麗過ぎて顔が燃えるかと思った。
色っぽいよなぁ・・・最近特に。
嬉々として、テーブルのケーキに駆け寄る姿は
子供みたいで可愛いのに、やっぱ男の子らしいトコもある。
「も食べなよ、2人分でしょ?このケーキ。」
「うん、じゃあ食べようか!」
「美味しそうだね!の手作り?」
「一応ね、甘さは控えめだけど平気?」
「うん」
カーペットの上に座り、を手招きする。
その姿を可愛いなぁとか思いながら、は竜也の正面に座った。
甘さを控えめにしたチョコレートケーキ
それを美味しそうに食べてる竜也。
あたしも・・この人が傍にいれば、他には何もいらないかも。
ケーキを食べながら、視線は目の前の竜也へ。
フォークを持つ指、前屈みになると少し見える鎖骨。
「たっちゃん、最近色っぽくなったね〜仁君の影響かな?」
堪らなくセクシーだったから、つい口をついて出てた言葉。
仁君ってのは、たっちゃんと同じグループの人で
これまた凄くセクシーなの!
あたしの中では、たっちゃんが一番だけどね♪
けど、あたしがそう言った途端・・・たっちゃんの顔色が変化。
なんか、ムスッとしたような顔つきになって あたしに言った。
「ふーん・・なんか食べる気失せた、ケーキいらない。」
「え゛!?なんで?あたし変な事言った?」
「別に?」
嘘だ、絶対なんかあったに違いない。
折角の誕生日なのに、喧嘩なんて嫌だよ・・
ケーキを食べながら、正面の食べかけたケーキを眺める。
たっちゃんの為に頑張って作ったケーキ、全部食べて欲しい。
喜ぶ顔が見たくてした事なんだもの、こんなのは駄目だ。
「気に障ったなら謝るよ、たっちゃんの誕生日に喧嘩したくない」
「・・じゃあ、が『愛してるよ、竜也』って言ってくれたら許してあげるよ。」
「なっ!?そんな恥ずかしい事言えないよっ」
「このままでもいいなら、言わなくてもいいけど?」
もーーーーー!!たっちゃんの意地悪!!
今まで呼び捨てした事ないのに、いきなり呼び捨てなんて!
しかも『愛してるよ』なんて、恥ずかしくて簡単に言えるかっ!!
でもなぁ・・・言わないと駄目みたいだし。
かと言って、誓いの言葉をさぁ?
仲直りの為にだけ言うってのも・・・
「た・・竜也・・・だっ・・大好き!!」
「可愛いけど駄目、『愛してるよ』じゃなきゃ。」
そんな我侭抜かすのは、この口かぁああああっ!!←心の叫び
本当にこの人って、意地悪だなぁ!
超ドSだよ!!・・・分かってても、好きなんだよね・・・
大好きは却下されたから、仕方なくは腹を括った。
食べ終えたケーキの前から、竜也の後ろに座ると
竜也が要求した言葉を、口にする事にした。
バクバク鳴る鼓動を胸に、緊張で乾いた唇を開く。
「竜也・・・愛してるよ」
やっと口に出来た言葉、愛なんて滅多に言わないから
口にしただけで、顔が茹蛸みたいになる。
一方、やっと念願の言葉を聞けた竜也は
背を向けた格好で、口許だけが嬉しそうに緩み始め
しばらく間を取ってから、ゆっくりを振り返り・・・
「ぷっ・・」
「もぅっ!笑わないでよ!」
「違うって、まあいいや・・・プレゼントのお返しあげる。」
「え・・・?」
竜也が笑ってしまったのは、があまりにも可愛らしいから。
ってのもあるけれど、一番のツボはチョコレートケーキの
上に飾りつけしてあったクリームが、口許についてたから。
折角の言葉が台無しだけど、それでも愛しさは変わらず募る。
腕に抱きしめて、その全てに触れたくなった。
「俺も・・を愛してるよ」
甘い囁きと共に、竜也の腕が体を引き寄せ
その胸に抱き寄せられる。
ドキドキして照れるの顔を覗きこんで、そう囁いた。
自分が言うのと同じくらい、照れてしまう言葉。
大好きな人から言われるのは格別に嬉しくて、胸に響いた。
竜也の、綺麗な顔に見惚れてると その顔が徐々に近づき
口許についてたクリームを舐め取る。
うわーうわー!と内心で叫びまくる。
そんな姿に、満足そうに微笑む竜也は
そのままゆっくりと、の唇に自分の唇を重ねた。
誕生日という記念日のキスは、チョコレートケーキの味がした甘い物となった。