牙を剥く者



あれから学校は終わり、俺と隼人は真っ直ぐ熊井さんの店へ向かった。
巻き込みたくないからと遠ざけられたと隼人だが
自分達の意思で店へ来る事を決めた。

廊下で隼人が店に行けると告げた時の熊井さんの顔は凄く驚いていた。
まさか尚も店を手伝いに来るとは思ってもいなかったんだと思う。
生憎だけど、俺も隼人もあれくらいで逃げたりなんかしない。

寧ろもう関わってしまってるんだ。
自分達だけ安全な所にいるなんて出来なかった。

決意新たに店に向かい、熊井ラーメンの暖簾を前にしたと隼人。
何やら真面目な顔で隼人が言った。

「熊井さんの店、潰させたりなんかしねぇ」
「ああ。俺等でも出来る事・・・したいもんな」
「そうゆう事」

暖簾を見つめて呟いた言葉に、も笑顔で応える。
隼人といれば、それも出来る気がしていた。

笑って答えたの頭をくしゃっと撫でて隼人も笑い
何だかそれが嬉しくてくすぐったいような気持ちになった
髪を直しながら隣に立ち、ガラッと戸を開けた隼人と共に店内へ入り・・・・・・

「やっと来たなご両人〜」
「遅かったじゃねぇかよ、俺ら待ってたんだぜ?」
「もう先に食べて待っててやったんだぞ〜?」
「・・・・・・よう」

掛けられた言葉に、思わず俺と隼人は固まった。
別々に帰ったはずのタケ達が、ちゃっかりラーメンを食べながら達を出迎えた為。
それぞれに皆注文をしたらしく、各々の前にはラーメンの器がある。

嬉々として迎えるタケ達に比べて、あくまで竜はクールに出迎えた。
でもちゃっかり竜もラーメンを頼んでる。
そんな姿が微笑ましく思えて浮かぶ笑みをは押し殺す。

何だかバレンタインデー以来、竜とはそんなに一緒にいなかったし
今の自分にはあまり心の余裕がないせいか、上手く接せられずにいた。

だからそのまま奥へ向かい、隼人と共に店員の服装に着替え
タケ達が見つめる中、いつものように接客を開始。

接客をしながら向けられる視線。
チラリと見やれば、ニコニコした笑みを向けてるタケと目が合う。
ヒラヒラと手を振ってるタケに、素直に可愛いと感じつつ笑い返した時

ふとその隣にいた竜と目があった。
その途端、射抜かれたように動けなくなってしまい
お盆を持つ手が前へお盆を傾かせる。

「――!!」

竜の目は鋭いのに何処か憂いがあって、目が逸らせなくて自分の手元に気づけずに・・
それに気づいた時には、ハッとした顔の竜が席を立ちあがって
アッと言う間に傍に来て、お盆を持つの手ごと支えた竜が至近距離にいた。

公衆の面前、だったがそれに気づいていたのはタケ達だけだった。
もう少しで大変な事になる処だったと気づくと、途端に冷や汗が滲んだ。

「っぶねぇ奴だなお前は・・・・」
「わ、わりぃ」
「火傷とか・・してねぇよな?」
「ああ、竜・・・・有り難う」
「別に」

耳元で聞こえる甘い色気のある声。
2月14日以来ちょっと距離のあったと竜。
お盆ごと握られた竜の手、意識してしまうと勝手に心臓がドキドキしてしまう。

やっぱり竜ってカッコイイなぁ・・とか実感してしまった。
でも竜はすぐに離れて行ってしまい、温もりと感触も離れて行く。
思わず目で追ってしまうが、注文したラーメンが来ないと催促する声にハッと我に返り

急いでそのお客さんにラーメンを運び、次のラーメンを受け取りに行こうとし
別の注文のラーメンを先に受け取っている隼人とタイミングが重なった時、戸が開いて・・

「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいま・・・・」
「お、ちゃんとやってるなー?」
「んだよ、皆俺らチェックかよ」
「え?皆って?」
「「「ヤンクミじゃなーい?」」」

営業スマイルで振り向いた俺と隼人は再び固まった。
暖簾を潜り、店内に入って来たのは紛れもなく担任のヤンクミ。
嬉しそうに言ったヤンクミの言葉に、うんざりしたような感じで隼人が呟く。

うんざりした言葉に久美子が首を傾げると、左の方から聞こえてくる聞き覚えのある声。
そっちを見てみれば、各々にラーメンを食べているタケ達を見つけた。
お前らもか?と聞けば

「だって面白くない?」
「そうそう、誰にでも愛想のいい隼人なんてめったに見れないしな」
の店員姿も見ときたかったし」
「俺で遊んでんじゃねぇーよ」
「完全にな」
「結構向いてんじゃねぇーのか」
「ん゛ん゛!?」

実に楽しそうにタケが言えば、浩介がその理由を面白そうに話し
イラッとした口調の隼人がピシャリと言い返すが、つっちーが完全になと言い切る。
この完全にな、と言う言葉が今の彼等の中で流行ってると見える。

言葉通り完全に遊んでるようだ。
一方奥の席で麺を箸で掴みながら竜が駄目押し的な言葉を言うと
あぁん?とすぐさま隼人が睨みを利かせる。

竜はチラッと隼人を見てから麺を頬張った。
ズルズルッとすすう音を響かせて食べる様に、思わず隼人が音立てすぎだからと突っ込む。

そのやり取りには思わずも笑ってしまった。
同じくそのやり取りを見守っていたヤンクミも、隼人とに注文を言って浩介の隣に座った。
久美子に隼人がてめぇが作れ、と言ったタイミングでは店の入り口に目をやりハッとなる。

その事を隼人に知らせようと腕を掴んだ時に、無情にも戸が開けられてそいつらはズカズカと店内に入って来た。
とてもよくない言葉を吐き連ねながら。

「いらっしゃいどうもどうも、不味いラーメン屋へようこそ!」

に腕を掴まれた隼人、どうした?と目線をくれたが
次の瞬間店になだれ込むように入って来た男達を見て、目の色を変えた。

目の前に在った椅子を蹴り、隼人とを押し退けながら入って来た男達に
座っていた久美子がすぐさま立ち上がると、声を荒上げた。

「何なんですか貴方達、商売の邪魔するなら他へ行って下さい!」
「何だとてめぇ」
「ヤンクミ!いいから!」
「クマ・・」

盾突くように感じたのか、男達は久美子を脅すように距離を詰める。
隼人もすぐにを背に庇ってその場に立った。
厨房からは、声を聞きつけた熊井さんが出て来て久美子を落ち着けさせる。

煮え切らない様子の久美子、そして一番遅れてあの偉そうな男が入って来た。
ヤンクミを威勢のいいお嬢さんだな、とせせら笑い冷やかしめいた言葉を吐く。
そんな男に、担任の先生だと言いかけた久美子を押し留め

「ちげぇよこの人はただのお客さんだ」
「クマ?」
「そうですか・・ま、今日の処はこの可愛いお客さんに免じて帰りますか・・・行くぞ」
「へい」

熊井さんはヤンクミをただのお客さんだと言い切った。
その不自然さに、事情を知らないタケ達とヤンクミは眉を潜め
熊井さん本人から話を聞いていたと隼人だけは、複雑な表情をしてその場を見守った。

手下を引き上げさせ、男も自ら店を出ようとする間際に
熊井さんの襟を掴むと、何やら至近距離で告げた。

「最終通告だぞ」

と・・・・の脳裏によくない事柄が浮かんだ。
通告が済んでしまったら次は、実力行使に出るかもしれない・・と。

奇しくもその予感は、当たる事になるのだった。