決戦の日
宮崎さんとは、俺なりに説得出来たつもりだ。
彼女も、心を決めてくれたみたいだった。
つっちーの優しさは、センコーなんかよりも知ってる。
あのゲーセンでのつっちーの優しさは、本物。
生徒をよく見て、理解しようともしない石川になどには分からない。
その良さを、見て理解しようとすれば
生徒一人を理解する事に、時間は関係ないんだ。
ヤンクミのように・・・。
そして、この件に関わる者達全てが待つ夜が明けた。
この日に、つっちーの処分が決定される。
誰よりも重い足取りで、つっちーは自宅を出た。
とっくに覚悟なんて出来てる。退学上等・・・
そう思ってる心は、何処か重い。
本当にそれでいいんだろうか?
迷いはある、だからって決めた事を曲げたくない。
学校へ向かうつっちーの脳裏に、の言葉が甦った。
『つっちー!俺 こんなのヤだよ!俺だって悪いんだぞ!?』
『土屋!何か理由があったんじゃないのか?』
泣きそうな顔で、自分に言った。
同時に、と一緒に駆けつけたヤンクミの言葉も甦った。
ヤンクミは、他のセンコーと違う。
それは言葉にしてないけど、感じて来た事実。
どんな生徒にも体当たりで心をぶつけてくるセンコー。
あの勢いで、竜の事も隼人の事もの事も解決した。
俺のつまらない意地で、を泣かせちまった。
それも今日で終わる、俺が辞めれば・・・
地面を見て歩く自分の視界に、5足の靴が映った。
フイッと顔を上げれば、自分が仲間と呼べる者達。
皆それぞれ、神妙な顔つきで自分を見ている。
「よぉ・・つっちー」
「・・・顔貸せよ」
「拒否権はねぇかんな」
正面で立ち止まり、先ず仏頂面の竜が口を開き
続いて隼人が上目遣いの伏せ目で言うと
ムスッとした顔で、が最後を締めくくった。
泣き顔も一変し、今度は何故か怒ってる。
泣かせた負い目もあり、つっちーは大人しく彼らに従った。
行き先も告げられずにただついて行く。
視界には、仲間達の背中が映る。
こんな風に一緒に歩くのも、これで最後かもしれない。
不思議と、そんな思いが沸き起こる。
しばらく歩き、少し閑静な住宅街へと着いた。
足を止めた隼人達、戸惑う自分へ日向が目配せをする。
向けた視線の先には、担任の教師がいた。
邪見にされてるのにも関わらず、懸命にこう言っていた。
「お願いします、お嬢さんに会わせて下さい。
時間がないんです・・お願いします。」
お願いします、何度もそう言って頭を下げるヤンクミ。
こんな自分なんかの為に、頭を下げてくれてる姿。
少なくとも、その姿が心に浸みた。
疑って信じようとしなかったセンコー。
初めて信じてみようと思えたセンコーの姿。
何か熱い物が、心を支配し始めた。
「朝っぱらからチョー迷惑」
「ホント、珍しいセンコーだよな」
「ま、ちっとうぜぇけどな・・」
「いや、かなりだろ・・でも 悪くねぇじゃん。」
そんなヤンクミの姿を見て、周りの仲間がそれぞれ言葉を言い
悪くねぇじゃん、と言った隼人が終わり際に自分の背を叩く。
ジッとヤンクミを見つめる姿を、俺はしっかりと見た。
これを見た事で、少しでもいいからヤンクミの気持ちを知って欲しい。
心からつっちーの為に何かしたいと、そう思ってる気持ちを。
俺もヤンクミも、自分に出来る事はやった。
生徒の為に、こんな事してくれるセンコーなんてきっといない。
「つっちー、これを見てもセンコーなんて皆同じって言えんの?」
今まで黙ってたが向けた言葉。
頭では気づいた、皆同じなんかじゃないと。
でもまだ自分の心は、それを認めたがらない。
「わかんねぇぜ?芝居かもしんねぇだろ・・・
石川が言ってたじゃん、俺みたいなのには将来はねぇって」
そこまで言って、マズったとは思った。
コイツ等のしてくれた好意を無に帰す言葉だって。
そんなつっちーに返されたのは、胸倉を掴む手と怒声。
「いい加減に分かれよ!どうしてヤンクミが此処まですんのか!
つっちーを信じてるからだろ!?俺達だって信じてんだ!!」
宮崎の母親達に聞こえるか聞こえないか、ヒヤヒヤする隼人達。
グッと力の篭ったの、胸倉を掴む手。
そこに更に力が入り、押し殺したような声がつっちーへ届く。
「石川が何て言ったっていいじゃねぇか!確かに今まで
センコーは俺等みたいなのは理解してくんなかった。
でもな・・・そんなセンコーばっかじゃねぇ、それに
つっちーが理解しようとしなきゃ、見えねぇ事だってあるだろ?」
誰も信じないなんて、寂しい事言うな。
そう言ったの姿はとても辛そうに見えた。
だって、今まで人から拒まれて生きてきた。
大人やセンコーに裏切られ続け、辛く生きる事を課せられていた。
そんなが、やっと信じられるようになったセンコー。
だって、怖かったはずだ。
信じたらまた裏切られるんじゃないかって。
「将来がないなんて言うな、宮崎さんに将来があるなら
俺や隼人、竜、タケ、浩介にもあるように
つっちー、オマエにだってあるんだ。」
言葉の語尾が掠れ、寄り掛かるようになってる。
両腕をしっかりと握り、胸板に額を寄せる姿に胸が高鳴る。
下から香る、芳しい香り・・。
その香りがは女だったと気づかせる。
明らかに動揺してる様子のつっちーを全員の目が突き刺すように見る。
その目は、何いい思いして照れてんだよ・・と物語ってた。
鋭い視線から目を逸らし、の体をそっと離す。
「サンキュ・・、泣かせて悪かったよ。」
「つっちー・・・」
「俺、ちゃんと考えるからさ・・」
「おう・・」
柔らかいつっちーの笑顔、久しぶりに見たその笑顔は
張り詰めた気持ちを解いてくれた。
ちゃんと考えるから、そうつっちーが言ってくれればもう安心だ。
若干不安は付いて回るが、きっとヤンクミが何とかしてくれる。
気づかないうちに、頼ってる感じだけどあの人は信じられるから。
宮崎さんの母親にヤンクミは結果的に追い返されてしまったが
学校へと歩き出したその背を、俺は昨日とは違った気持ちで見送った。
昨日までの弱い自分じゃない、何も出来ないと嘆いた頃の自分はいない。
俺のすべき事は、もうやり遂げた。
後はそれ相応の結果を待つのみ。
理事長はきっと退学と言うだろうが、きっとヤンクミが阻止してくれる。
だから俺達は、それを信じて待たなくちゃならない。
学校へ向かう事にした俺達は、遅刻しない程度の距離を取り
ヤンクミの背を追いかけるようにして、歩いた。
つっちーの処分と濡れ衣、それを左右する理事長との対峙
自分達はついて行けないけど、援護をヤンクミに託す。
それと、俺の説得に応じてくれた宮崎さんが来る事を信じて・・・