流転 十八章Ψ刑場破りΨ
「刑を始めろ!」
日向の守に付き添って来た役人?のような男が高らかに告げたのが
丘から覗き込んだに見えた。
後ろからだが、1人の男がはり付けにされた姿。
その左手に、光る何かを見つけた。
もしかして玉か?
確信がの心に芽生えた時、男の前で槍を構えた2人の男が
役人の指示を受け、構えた槍を男の体目掛けて繰り出す。
「駄目だ!!」
犬士の男を殺される訳にはいかない!
丘から思わず駆け出しそうになっただったが
視線の先に、此方目掛けて駆けて来る人影に気づくと進みかけた足を戻す。
駆けて来たのは信乃、その手にキラリと輝く物を持って。
槍が突き刺さる・・・!!ギリギリのタイミングで柵を飛び越えた信乃が手に持った物を投げ放つ。
それはキラリと日を弾き、槍を持った男達の腕を見事刺して
動きを封じた。
苦悶の声を漏らして倒れた男等のいた場所に、ふわりと信乃が降り立つ。
「・・・・信乃さん」
「曲者!!」
信乃の姿を見つけた男が、驚いた声音で彼の名を呟く。
それに反して役人は、突然刑場に現れた信乃を曲者と怒鳴りつけた。
怒り心頭の役人に向き直り、毅然とした態度で信乃は言った。
「主人の仇を討った者に、何の罪がある。
某は、額造こと 犬川荘助の義兄弟、犬塚信乃戌孝。」
「――討ち取れ!」
自ら名乗った信乃へ、聞く耳を持たない役人は
周りに控えていた兵を呼び、討ち取るよう命令。
隠れて見ていたは、乱闘の展開に心持ハラハラ。
集まった兵が、信乃に群がる中
左側から迫っていた兵達の前に、また1つ人影が現れ何人かの兵を斬り捨てる。
「某は、犬飼現八信道。」
「某は、犬田小文吾悌順。」
斬り捨てた刀を顔の前で構え、堂々と名乗りを上げたのは
何処から此処に来たのか分からないが、現八だった。
現八の現れに目を離せずにいると、反対側から小文吾が現れる。
現れ方は、現八と違い力技で兵達を蹴散らしての登場。
こうして、はり付けにされた荘助という男の下に3人の犬士が集った。
糸も簡単に蹴散らされた兵達を見て、動揺を隠せずにいる役人が
続けて3人共討ち取るようにと指示を出す。
「何をしておる!かかれーっ!!」
これを合図に、大乱闘が始まった。
まず現八、3人が襲いかかって来たが、それを素早く避けて後ろに回り
一人目の槍を弾き、二人目の刀も弾き
三人目の腹を蹴り上げ、新たにかかって来た四人目を斬り捨てた。
小文吾は、遅い来る兵士の槍を手で掴み(真剣白刃取り)
その槍を奪い取ると、力任せに槍を奪った兵士の頭を叩く。
槍を手に振り向き、荘助の傍にいた兵士へ向けて槍を投げた。
小文吾の怪力で投げられた槍は、一寸も外さずにその兵士に突き刺さる。
唖然として見守る、後ろに控えてるけど
出る幕はないかな・・・と思い、視線を信乃へ向けた。
初めて見る訳ではないが、あの時より近くで信乃の刀捌きを見れた。
素早い身のこなしで、相手の刀を避け片足を相手の腹に当ててそのまま蹴り倒し
別の兵士への構えを、蹴り倒した兵士の背中に乗っかって取り
ある程度蹴散らした後、はり付けにされている荘助へ近寄ると
先ず最初に、手首を縛っている縄を切り最後に足の縄を切った。
支えをなくした荘助の体が、ゆらりと前へ傾く。
その体を受け止めて、肩に担いだ現八。
「何をしておる!早く罪人を討ち取れ!!」
去って行く信乃達に、慌てた役人が叫ぶ。
追いかけようとした兵士達の前に、小文吾が立ち塞がる。
驚いている兵達の前で、荘助が縛り付けられていた板を抜き何とそのまま振り回した。
突っ込んで行ってしまった兵は、その板に弾かれて転がる。
うわ・・痛そうって、そんな事言ってる場合じゃない。
小文吾が去るのを援護しよう。
隠れながら決意した、柱に弾かれた兵に押され
落下した役人を見送って駆け出した小文吾。
群がる兵士達へ、は力を与えられた『正国』を鞘から抜き
思い切り地面へ突き立てた。
ザザァ・・ッ!
するとどうだろう、刀が青白く輝き
水の網が現れ、追いかける兵士達を包むように足止め。
本物の水だが殺さない程度になっている。
足止めされた兵達は、突然の水の出現に大慌て。
追うのを止め、慌てて引き返して行った。
「よし、俺も行くか。」
兵達が追う気がないのを確認し、も丘を下って
現八達を迎えに戻った。
駆け足で丘を下ったの前に、丁度破られた扉を出て向かって来る信乃達の姿が見えた。
無傷で戻って来る姿に、ホッと心が緩むのを感じる。
荘助を担いだ現八の顔は、少し辛そう。
どうせなら小文吾に担がせた方が・・
「このままでは見つかる、隠れられる所へ行こう」
不安げな顔のをチラッと現八が見やり、平気だ・と目で言う。
につられて現八を見た信乃が、身を隠せそうな所に行こうと提案。
その意見に皆頷き、担がれた荘助が誰もいない寺があると教え 皆で其処へ向かう事にした。
「そういやぁ、ワシが戻る時不思議な事があってな。」
「不思議な事?」
早足で歩く最中、ふと小文吾が話し始めた言葉。
問いかけたのは信乃。
現八は担ぎながら歩いてる為、聞き返さず目だけ向けている。
小文吾が何を話さんとしているのか悟った。
話を遮ろうとしたが、それより先に小文吾が言っていた。
「柱を投げて、時間稼ぎしてから逃げる時何だが
ワシを援護するかのように、何処からともなく水が現れて兵士達を足止めしてくれたんだ。」
「水・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
う・・痛い視線を感じる・・・・。
小文吾の話を聞いていた信乃と現八の視線が、俺に刺さってる。
2人はそれとなく、ってゆうかバレてるよな。
現八の目が、信乃の目が、俺に力を使っただろうと問いかけてる。
一方聞いた側の小文吾は3人が黙っている事を、不思議に思っている。
アンタも聞いてただろ!この刀に力が与えられたって!!
内心で突っ込みながら2人の視線を受けてる。
「小文吾・・その水は、殿の刀に宿った力だ。」
「の刀の力?」
軽く呆れた声音の信乃が、小文吾に説明。
説明に合わせて、腰に提げていた刀を見せる。
小文吾の眼下に晒された『正国』は、普通の刀と変わらなく見え不思議な力が宿ってるようには見えない。
けれど、この刀には力が宿っている。
姉上が俺の為に授けてくれた力だ、皆を守る為に使いたい。
「それはいいが、早く何処かで手当てせんと」
「ああそうだな・・荘助、寺は近いのか?」
「はい・・もうその角の先です。」
別の意味で盛り上がる3人に、不機嫌そうな現八の声が掛けられ
振り向く3人は、いつの間にか下ろされていた荘助に信乃が問うと
すぐに荘助は答えた。
現八に支えられながら歩く荘助、示した先にある角を右折すると
言ったとおりに、古ぼけた寺が現れた。
すぐさまその寺に駆け込むと、早速荘助を座らせ
着物の上を肌蹴させ、現八が軽く手当てを開始。
「酷いなこりゃ・・こんな酷い拷問を受けて、生き長らえるとは・・・
コイツ 見かけによらず強靭な男じゃ」
「拷問?詳しいのか?」
肌蹴た背中が夕陽に照らされて、皆の前に晒される。
現八がその傷に触れる度、荘助の口から苦痛の声が発せられた。
誰の見てから見ても、それは酷い傷だった。
青痣が背中中に在り、赤く腫れた物や青くなってる物もある。
濡れ衣を着せられ、無意味な拷問を受けた荘助。
だが彼はそれに耐え、重い怪我も負っていない。
その事は現八は感心し、信乃の問いに答える。
「元々は奉行所の役人だった、戌氏の政が気に食わなくて意見出してやったら。
そのせいで、自分が牢に入るハメになった。」
え?牢に入っていたのか??
が初めて見た時は、まだ役人をしていて
盗賊を取り締まりに来てたという事だ。
手当てを終えて、立ち上がった現八。
一方信乃は、話を聞きながら荘助の着物を直してやる。
知らなかった、現八が牢に入れられていたなんて。
まあ・・そんな事、余程の事がない限り話さないもんな。
その後、簡単に信乃が玉の謂れを荘助に説明。
感慨深そうに、自分の玉を手に取り荘助は呟いた。
里見の姫の物だったのですね、と。
「荘助、オマエ・・浜路を知らないか?」
「・・・やはり信乃さんも知らないんですね」
繰り広げられる信乃と荘助の会話。
浜路は信乃の許婚だと、いつしか知った気がする。
浜路を案ずる信乃、大切な人を残して来てしまった事を彼は悔いているようだった。
確かに、大切な人と離れ
しかも行方が分からないってのは・・不安だよな。
不安という感情なら、俺にも分かる。
丁度、現八と離れた時に感じた気持ちだ。
2人して黙り込み、元気づけようと小文吾が双方の肩を叩くが
怪我をしている荘助には、痛みをぶり返させる物になってしまった。
「感傷に浸る暇はないぞ?」
微妙な空気が流れた寺に、冷静な現八の言葉が響いた。