取り敢えず気が付いたら家に帰宅していた。
クリスタルを介して事態を動かした事は覚えてる。
私をずっと守ってくれてる存在に助力を願った・・・
その後は必ずと言っていいほど疲れる。
襲われていたのは沢登先輩の方だった(クラスの女子生徒達の話ではどっちが女の先輩かが分からなかった為)
助力を願った瞬間、多分上手く逃げる隙を作ってくれたんだと思う(怪奇現象で)
ただ、先輩は足を怪我していたから連れて逃げるのが大変だった。
何とか男らから逃げた後、その場でタクシーを呼び先輩を病院へ送り届けた。
関係者として一緒に診察室まで行き、診断結果を聞く流れに。
「こんな怪我をしてよく無事に来られたねえ」
「この子のお陰です、襲われていた所を助けてくれたから・・」
「助けるのは当然です、でも何で襲われたんですか?沢登先輩」
「襲われた!?君、その事は警察に通報したのかね?」
「あ、えと・・・・・はい」
「それなら安心だ、しかしあの辺も物騒になったものだね・・・帰りも気を付けて帰るように」
先輩の怪我は思いの外酷かった。
膝の下がパックリ切られ、もう少し深かったら靱帯が損傷し 危うく歩けなくなる所だったらしい。
出場させない為にここまでするなんて・・到底許せる話ではない。
しかし何の為にここまでするのか・・・
何処かの出場者が自分達の高校が優勝する為に他の参加者を襲っている?
だがもしその事が知れた場合、優勝したとしても取り消しになるばかりか
自分たち自身も傷害事件の犯人として捕まる恐れもある。
恐れよりも優勝の方が勝っているのだろうか・・理解出来ない。
自分も襲われたというのに、病院を出るの顔には恐怖よりも怒りの色の方が濃かった。
「貴女も有り難う、それにしても凄い勇気があるのね・・怪我とかは無い?」
プンプンという音が聞こえてきそうなむくれ顔のに、横を歩く沢登先輩が声をかける。
勇気があるのねと感心されたが、あの時はもう腹が立って怖いとか逃げたいとかよりも何か言わなきゃ気が済まなかった。
問いかけに恥ずかしそうに答える少女に沢登は小さく微笑む。
見た感じ同じ学園の生徒だろう・・ただ、同学年ではない事は少女の幼さで分かった。
18の沢登から見ても大きく迫力のあった男達に、自分より更に幼い少女が勇敢に立ち向かう様は称賛に値する。
「先輩も男達に屈してなかったじゃないですか」
「いいえ、私はもう怖いの二文字しか無かったわ・・それに・・この足では大会には出られないでしょうね・・・」
「そんな・・諦めたらダメですよ、大会までは何日かあるんですよね?」
「・・・大会までは残り3日・・とてもじゃないけど間に合わないわ」
病院では落ち着いて医師の話を聞いていた沢登だったが、大会には出られないと分かっているようだった。
深い傷が3日で完治するとは思えない・・・が敢えて口にしたくなかった現実を沢登は受け入れている。
大会の為に毎日練習を重ねて来たであろう沢登先輩・・その努力も情熱も打ち砕いた3人の男達。
やりきれない悔しさを胸に、沢登先輩を乗せたタクシーを見送り帰宅した所で冒頭に戻る。
あの男達の背後にいる黒幕が誰なのか・・探し出してとっちめてやりたい・・・
何とかして探し出せないだろうか、他の出場者と沢登先輩の受けた傷を何倍にして返してやれたらスッキリするのに。
ぶつける相手の居ない怒りを抱えたまま次の日を迎える。
03:風
翌朝すっきりしない気持ちのままだったが休む理由にはならないので起床。
医師に警察には連絡したのかを聞かれた際の先輩の様子が引っ掛かっていた。
神無祭に影響が出るのではと心配した先輩が、通報をしてない可能性も捨てきれない・・
だがこれは立派な刑事事件・・・現に先輩は怪我を負ったし、入院は免れたとしても歩行困難で登校は難しいと思う。
もし登校してから学園の様子に変化が無いようだったら私が先生方に報告しよう。
関わってしまった身として、これは他人事じゃない。
「行って来ます!」
「、お弁当は持った?」
気合を入れて洗面所から出て来た所をキッチンから呼び止められる。
St.プレジデント学園には大きな食堂も購買も全てが備わっているが転校してきた身で目立つ行為は避けたい。
ましてやただの庶民だと分かったら何をされるかどんな陰口を言われるか・・・兎に角面倒は避けたいのが本音。
なので昼の時間は人を避けるように空き教室または中庭の隅で食事をとるようにしている。
持ったよ、と返し玄関へ向かうの背を追いかけるように声は続く。
昼食を1人寂しく食べてるなんて事は一緒に住んでいる二人も知らない。
「何、もう行かないとなんだ」
「手短に聞くけど、貴女、顔色が悪いわよ?昨日は昨日で食事は要らないとか言って部屋に籠っちゃうし・・転校した学園で何かあったの?」
靴を履いて立つにそう声を掛けたのは養ってくれてる叔父の奥さんだ。
子供の居ない叔父夫婦は、母を失って施設に入れられそうになっていた私を快く受け入れてくれた人達。
私もそんな優しい二人に迷惑や心配を掛けまいとしっかりしなきゃと思ってる・・のにまた心配させてしまったようだ。
「大丈夫よ小母さん、多分転校初日で気を張ったりしていたから気疲れしただけ。一晩寝たら元気いっぱいよ?」
安心させる為に笑顔で答えてみたものの、鋭い問いかけに内心ドキドキしていた。
恐らく顔色が悪いのはクリスタルを介して助力を頼んだ影響が残ってるんだと思う。
生まれつき人には視えない物が見えたは、よく一人で怯えて泣いていた。
あの屋敷から今の家に移る頃には大分慣れ、悪い物だけでなく良い存在から助けられたリ
時には自ら目に視えない存在に質問したり助力を得る様にも。
思い返せば記憶の一部が欠落したままの5歳の頃も、大勢の警官や物々しい雰囲気に怯えて泣く私を視えない彼らが守ろうとして慰めてくれたのかもしれない。
怖い逃げたいとかいう私の願いが視えない彼らを動かし、あの男の子を寄越してくれたのかなー・・
それかあの出来事自体が夢なのかもしれないね。
とか言う都合のいい記憶のまとめをした後、心配顔のまま佇む小母さんへ視線を向けて
もう一度元気よく行って来ますと告げた。
始業は9時からと言うゆったりなSt.プレジデント学園、8時20分までに門を潜れれば問題なく間に合う。
ゆっくり始業に感謝しつつは、学園のある方向へと歩道を進んだ。
今の時刻は7時55分、幸い家から学園までは徒歩20分で行ける距離にあった。
叔父の家はそれなりに大きくて広く、都内の一等地に建つ上品なデザイナーズハウスだ。
母と同じく古美術商の家に生まれ、幼い頃から美術品と触れ合い洗練された思考が備わった叔父。
古美術商の母を補佐する仕事に就くべく、東京大学文化部に合格し、思想文化学科と言語文化学科を専攻。
そこであらゆる美術に対する美学と多数の外国語の言語を習得、なんと首席で卒業し、現在は美術品の研究を傍らに大学で習得した語学力を活かした通訳の仕事もしている。
メモを取らずその場で訳した言葉を復唱して話す叔父の有能さは多くのメディアに認められ
世界の大物俳優に限らす、外国の大統領や、日本に在る領事館での専属通訳を任される存在になっている。
なので、家にいる姿を見る機会は極めて少ない。
今日も何処かでVIP並びに国賓を務める有能な人物と世界各地を移動してる事だろう。
そんな仕事を一生の仕事として選んだ叔父を射止めた小母。
小母も小母で、流石叔父が選んだだけに有能な経歴を持つ女性だった。
出逢いは何と同じ東京大学の文化部で、言語文化学科・・つまり学友。
叔父の仕事に理解を示し、きちんと家を守っている。
小母は日々どうしてるのかと言うと、世界を飛び回る叔父に入る巨額の給料は貯金や家の維持費にの学費と光熱費やらに使うだけに留め
自分やが生活で消費する金銭は小母自ら翻訳の仕事で稼いだ給料から出していた。
しかし優秀すぎと言うか出来すぎなくらいの才能を持つ二人が夫婦になったもんだなーと舌を巻いてしまうわー。
派手ではないが煌びやかすぎる経歴の二人を見ると、自分の母親の方が慎ましく生活していたようにすら思える。
家も普通の一軒家、リビングやキッチンに子供部屋に母親の部屋・・目に入る所全ての壁に絵画が飾られていた。
壁は一面白く、部屋の一角だけが黒塗りの壁で家具は白だった。
二階はなくて一階のみだったが、長続きの一階の廊下は全て庭に面した吹き抜け。
廊下は板張りで端の方にテラス感覚の椅子とテーブルが置かれ、晴れた日や春夏は外で食事を楽しんだ。
叔父夫婦と暮らすようになってからは土曜だけ母と暮らしていた家に泊まったりしている。
住んでいた家に泊まると言うのもおかしな感覚だが、別荘があると思えば気は楽だ。
色々考えながら歩く事15分、時刻は8時15分。
そろそろ付近を歩く人が増え始め、St.プレジデント学園の生徒の姿も増えて来た。
少し前に一際賑やかな女子生徒の団体が見えるがは自分に関係ないと気にせず歩いた。
おしとやかなお嬢様ばかりかと思えば窓側に駆け寄って憧れの生徒会メンバーを見つめたり
今少し前で繰り広げられているキャーキャー騒ぐ声を上げてはしゃいだりもする。
お嬢様やお坊ちゃんの通う学園の中にも、ああいう普通の学生みたいな光景もあるんだなあ・・
少しばかり色眼鏡と言うか、偏見を持って彼らを見てしまってた自分を恥ずかしく思った。
――・・
吹き抜けた風と共にに届いた声無き声。
思念に似た気配のソレは、の近くに寄り添った後後ろへ抜けて行く。
何かを訴えようとしたのかと思いきや、後ろへ飛び去ろうとした思念を追うように振り向いた時 20分前を報せるチャイムが鳴り響いた。
やばい、思念を見るまではまだ余裕があると思ってたのに!!
歩いてると思ってたが足は止まってたなんて!
転校二日目から遅刻なんてしたら折角転入させてくれたレイニア理事長に申し訳ないわ!
これはもう走るしかない!お淑やかじゃないとか言われようが関係ないわね。
角を曲がれば門があるが、幾ら全速力で走っても間に合いそうにない。
同じ頃背後からエンジンの音が聞こえて来る事に気づいた。
今が走る歩道と並行する道路は、St.プレジデント学園の生徒の送迎車しか走らない専用道路。
そこを走るエンジン音・・この学園の生徒に違いない!
時計は門の閉まる5分前から鳴り響くから、少し止まって貰って乗せて貰えるよう頼むしかない・・
は意を決してエンジン音の聞こえる車道へ出て、車かバイクが近づくのを待つ。
足は動かしつつ車道で待つ事数秒、大型のバイクが風を切って走って来た。
「お願い止まって――!!」
確認したのと同時にはエンジン音に消されないよう声を張り上げ
向かって来るバイクの前に立ちはだかった。