葛藤
今は放っといてくれ、そう言い残し歩き始めた。
その後姿を、三人はしばらく何も言わず見ていた。
「おい二人共・・嘩柳院の事、信じて待てるか?」
真ん中に立っていた久美子の発した言葉。
隼人と竜は、久美子を両側から見つめ 答える。
「当然、は俺等の仲間だしな。」
「・・ああ」
勿論二人は、迷う事無く頷いた。
隠し事はあるが、仲間の事を思う気持ちは一緒。
一度結んだ絆の重さ、裏切る事の辛さ・・・
友を失くす・・心の痛み。
それらをは自分達に教えた。
何があそこまで、を追い詰めているのかは分からない。
が、隼人達はとことん付き合う気でいる。
「よし、じゃあ・・頼んだぞ。」
「任せろって」
「隼人だけじゃ心配だから、俺も行くから。」
ピースの指をクイクイッと曲げながら、言った隼人。
それを見て、些かの不安を覚えた竜がすかさず名乗りを上げる。
竜の言葉を聞き、どう心配なんだよ・と詰め寄る隼人。
別に・・と目を逸らした竜。
久美子は何だかんだ言って、を心配している二人を見て
楽しそうに微笑むと、明日学校でな。と言い、去って行った。
夜道に残った二人。
ふと前を見れば、そこにの姿はなかった。
見失った!?
同じ事を考えた隼人と竜、取り敢えず今いる道を進む。
「おまえ検討ついてんのかよ」
「おまえこそどうなんだよ」
同時に歩き出し、互いに聞き合う。
生憎だが、二人共の家なんて知らない。
隼人は別の方向だったし、竜も見送った事しかない。
駄目じゃん、俺達。
内心で溜息を吐く 隼人。
だが此処で諦める訳にはいかない。
久美子と約束してしまった。
「二手に別れようぜ、俺は右。」
「ああ、じゃあ 俺はこっちを探す。」
咄嗟に出した隼人の案で、二人は路地を二手に別れた。
隼人が選んだ道は、閑静な住宅街へと通じている。
こんなトコに住んでんのは、金持ちばかり。
きっとこのまま行けば、竜の家も見えてくるだろう。
ま、今はを見つける事の方が重要だけどな。
あいつ・・・また面倒に巻き込まれてなきゃいいけど。
こんな暗いし、人通りもねぇし。
変な奴に連れて行かれてたりして?
・・・・・・・・
「それってヤバイじゃん!早く見つけねぇと!」
物凄く危険な考えに行き着き、走る速度を上げる。
住宅街をとにかく走っていると、小柄な背中を見つけた。
一人で歩く背中は、とても小さく寂しそうに見える。
「!」
無事だったと安堵し、声を掛ける。
しかし、止まるかと思ったは止まらず
仕舞には早歩きをし始めた。
これは避けられている。
そうは思ったが、このまま放っとける訳もなく
走ったまま 隼人はを追いかけた。
「待てよ!」
「嫌だ!放っとけって言っただろ!」
やっとの事で追いつき、腕を掴んで止めれば
キッと睨まれ、腕を振り解こうとする。
振り向いた目は 少し潤んでいた。
呼吸荒く怒鳴った為、隼人はしばらく黙った。
泣きそうな顔で、自分を睨むを見つめる。
同時に何だか苛々してきた。
話してくれないのは何でなんだ、とか。
そんなに信用してねぇのか?とかの思いが交差する。
突き放されて、一番辛いのが分かるのはおまえじゃねぇのか?
苛立ちは、すぐに言葉となった。
「いい加減にしろよ!」
怒鳴った声に、俺はビクッと震えた。
こんな顔して怒る隼人は、初めて見た。
「おまえ何なんだよ、あれだけ俺達の事には
真剣に世話焼いといて 自分の事になると遠ざけて
一人で解決しようとしやがるし。頼りになんねぇの?俺達。」
伏せ目がちにから目線を外して話す隼人。
強ち当たってる指摘。
見てないようで、ちゃんと見てたのかもしれない。
頼りにならないだと?そんな訳あるか。
今まで見てたから、俺だって分かる。
隼人は仲間思いで ちゃんと仲間を守れる力も持ってる事を。
だから巻き込みたくない、俺をつけ回してるのが
もしかしたら過去に関係のある奴だとして
それを話せば、絶対協力するとか言い出す。
その因果に彼を・・彼等を巻き込むのは嫌だ。
怖いんだ・・・巻き込んだ事で、失うのが。
「そんなんじゃねぇ・・・今は放っといてくれ。」
「何でだよ!仲間だろ?心配しちゃいけねぇのかよ!」
「仲間だからって、全てに踏み込んでいいのか!?」
不可侵
心の領域、きっとはそう言いたいんだ。
犯してはいけない先。
けどな・・今の俺に、そんな事は関係ねぇんだよ。
もう一度、隼人はの腕を強く掴み そのまま引き寄せた。
そして、顔を近づけて低く囁くように言う。
「放っとけねぇんだよ、の事が。」
真剣な目。
俺は最近思う、この目には勝てないって。
どうしてここまで、気にするんだ?
「何でだよ・・転校して来たばかり・・・・」
「俺はおまえが好きなんだよ!何かしんねぇけど
すっげぇ気になるし、力になってやりてぇの!」
疑問を舌に乗せてみれば、荒々しい声にかき消された。
しかも・・・隼人、今なんつった?
突然の告白、信じられなくて目を見開く俺。
だって、そんなそぶり今までなかったじゃん。
それに今の俺は男として、生活してんだぜ?
「だから・・一人で抱え込むなよ」
困惑していても、隼人の言葉が耳に届く。
俺の痛み、俺の過去。
隼人は理解しようとしてる?
言ってしまっていいのか?話してしまっても・・・?
だとしても、告白を受け入れていいのだろうか。
罪深い俺が・・真っ直ぐな隼人に想われていいのか?
目の前の隼人は、俺からの返事を待ってる。
コイツに・・甘えてしまえれば、きっと楽だろう。
けど、だからと言って隼人にまで罪を背負わせたくない。
「ジ・・ジョーダンはよせって・・・」
だから告白を忘れようとしたのに、そう振舞ったのに。
顔を背け、隼人から逃れようとした。
けど 隼人はそれを許さなかった。
「・・・ジョーダンなんかじゃねぇ」
そう低く呟く声が聞こえたと思ったら。
グイッと腕を引かれ、目の前に隼人の端正な顔が映った。
そのまま俺へと近づき・・・
荒々しく唇を奪われた。
触れてからのキスは優しくて、互いの唇の温かさに包まれる。
それだけでは終わらず、角度を変えて何度かキスをされた。
隼人の想いが・・伝わってくるような熱い抱擁。
繰り返すキスの嵐に、の口から吐息が漏れる。
そろそろ苦しくなって来た頃、重なっていた唇が離れた。
「な・・っ、何する・・・」
「ジョーダンでこんな事できっかよ、俺は本気だからな。」
涙目で抗議しようとした、だが言葉を遮るように
隼人の言葉が重なった。
落ち着いた声音、その語尾がまたしても艶目かさを醸し出す。
熱い視線に何も言えずにいると、隼人は立ち去ってしまった。
な・・ななななななな!!!!
何なんだよアイツ〜!!勝手にキスして勝手に帰るなぁ!!
声にならない声、両手に拳を作って叫ぶ俺。
仮にも男の姿してる奴にキスして、平然としてるなんて!
いや・・中身は女だけどって、そこは問題じゃねぇ!
ふと、は触れ合った唇に 指で触れた。
想いをぶつけるような、熱いキス。
あんな風に言われたりされたのは、生まれて初めてだ。
誰かに想われるなんて、ないと思ってただけに衝撃・・・
嫌じゃなかった。
優しさも、あのキスから感じた。
なぁ・・隼人、唇におまえの感触が残って・・・
肌の温もりが残って・・・唇も体も、熱いよ。