本音を隠し、笑顔の仮面を付ける。
嘘を隠し、優しさの仮面を付ける。
同調して、偽善の仮面を付ける。

俺達は皆・・そうやって自分を保っていた。
表向きこそ、オマエを守ると言いながら。







疑う要素を与えてしまったかもしれない。
ちゃんの目は、明らかに不審に思ってた。
この書類、それこそが君を危機に貶める根源になる。

味方のフリをしながら、裏切りの行為をしている。
俺が一番最低だなぁ・・
俺は汚れてる、卑しい奴でオマケに弱い。

カムイやちゃんに、信用されるに値しない男だ。

それでもあの2人は、俺を信じる事を曲げないだろう。
俺はそれにつけ込んで、偽りを働いてる。

「エリック様」
「リオ」

理由の分からない怒り、拳に集め廊下の壁へ叩きつける前に
背後に気配が現れて、憤りを滲ます背の主を呼ぶ。
ビクリと肩を震わせ、ゆっくり振り向くと其処には自分の親に仕える男がいた。

ラナム家に仕える男であり、父親に従順な奴。
何故学園に?
その疑問は、リオと呼ばれたこの男の言葉で解消した。

「お父上様より、実験の進行状況の書類を持ってくるよう賜りましたので」
「・・・・そうか、ご苦労だったな。」

リオの発した言葉を聞き、僅かな迷いがエリックに反応を遅くさせる。
実験の経緯は、残念な事に順調だった。
わざとミスして、完成を遅らせる事すら自分には出来ない。

しかしまだ望みはある、が<扉>として目覚め
<鍵>を見つけ、実験実行のキーとなる石を奪われなければいい。
これは賭けに等しい、俺としても詳しい過去の事例を知らなくちゃならない。

「では失礼します、今日もお早いお戻りを・・アレの存在をお忘れなきよう」
「ああ、分かってる。」

一礼し、決まった言葉だけを残していくリオを見送り
廊下の窓から外を見やり、軽く呪文を唱えた。
それは皆が使える移動の魔法。

姿を掻き消す魔法が、全身を包む。
その力はエリックを学園外へ運び、姿を消した。

リオの言う『アレ』とは、ハッキリ言えば
エリックの自由を赦さない為の鎖。
エリックの親が、自ら子に付けた物。

その行為には、密かな目的が含まれていた。
上手く行ったとすると、国に対する反逆。
それに近しい位の悪しき目的だ。

当のエリックも、其処に気づいていない。
子を持つ親としては、考えられないくらい非道な事だった。


ΨΨΨΨΨΨ


を見送ったルイ、向かう先は学園内の図書室。
世界的に知られている魔法大国のラシール。
揃えられている本の数も、半端なく揃えられている。

資料も豊富で、禁書扱いの本も多々置かれていた。
国全体でも圧巻だが、特にラシール城とレイディア学園が世界一に挙げられている。
其処へ向かう理由は1つ、王室の歴史と過去の歴史を調べる為。

目的の為に従っている相手、ラザートが自分に言いつけた仕事。
それが、の父親の事を調べろ・という物だった。

図書室は一般課と魔法課の両方に設置されている。
魔法課の図書室は、生徒会室のある棟の最上階の奥の部屋にある為
誰かに見られる心配はない。

なるべく音を抑えて扉を開き、室内へ入る。
此処に司書は居らず、本の貸し出しカードを専用の機械に通すだけで
本のデータと、借りた生徒の生徒記録と照合され貸し出しが成立する仕組みだ。

ルイは迷わずに、王室の記録が保管される重要書棚へ向かう。
その本になら、過去の王室近辺護衛隊隊長の事も残されているかもしれない。
目的の本棚の前に立ち、背表紙を引き抜いて頁を捲る。

だが、王宮で起こった事は細かくは書かれておらず
殆どが王が成し遂げた偉業や、行われた国事について他国との交流。

その他諸々の事しか記されていない。
やはり、隠されていたか。とルイが感じ取った時、この場には不釣合いな声が聞こえた。

「それを調べるより、禁書棚にある魔法力転換吸入魔術実験実行記録を見た方が詳しく載ってるよ?」

自分が何を調べているのかを、知ってるかのようなアドバイス。
あまりに突然だった為、ルイは自衛の為に魔法を発動しかけた。

「たんまたんま!ルイ、僕だよ!ライだってば!」

守護精霊『闇』の力を使おうとするルイに、慌てて敵ではないとアピールするライ。
驚かしただけで、殺されたのではたまらない。

しかも、ルイの纏う雰囲気は普段とかけ離れ
ピリピリしているような気がした。

「っ!?ライ!?」

今まさに発動しそうになったルイ、ギリギリで声の存在と主に気づき
表に現れた魔法を打ち消した。
プスッと何とも情けない音を残して、魔力の気配は消えた。

完全に魔力が消え、ホッとライは息を吐く。
ルイも同じで、ホッとはした顔だが、少し探るような目をライへ向けた。
ライはルイが唯一全てを把握出来ない人間だから。

ハッキリした立ち位置さえも。
どちらかと言えば、コウの方が分かり易い。

「ライ、君はどうして図書室に?」
「フフッ・・・どうしてだと思う?」
「それが知りたいから聞いているんだけどね」
「くすっ、怖い顔。やましくないよ?だって、授業で使った教材を戻しに来ただけだから」

安心した?と笑ってみせるライ。
どうして図書室に来たのか尋ねて、逆に聞き返す真意は何だ?
わざとなのか、知っててカマかけてるのか。

無邪気な笑顔の奥に、何かありそうだね。
何やらそう思ったルイ。
ライは妙に大人びた笑みを浮かべ、返しに来たという教材を見せた。

確かに彼の手には、中級魔術の本が抱えられている。
ヒョイッと腰掛けていた机から飛び降り、ルイに向き直るライ。

「何を調べてるのか知らないけど、隠密に調べたい事は禁書棚の方が確実だよ。」
「・・・・そうだね」
「じゃあ僕行くから」

爽やかな笑み、その笑みは普段のライの笑顔だった。
もうあの大人びた笑みは伺えない。

だがルイは、不審な空気を感じ取った。
どうしてなのかは分からない、でも兎に角良くない空気には違いなかった。


ΨΨΨΨΨΨ


城から戻ったカムイ、早速生徒会室へ向かい
学園行事の企画書を作成しようとしていた。

本来なら、それどころではないのだが
普通課と魔法課が、唯一接触するイベントだ。
学園長もその行事だけは外そうとはしない。

企画書の見出しには『星願祭』と書かれている。
リアルな世界の言葉で言えば『七夕』だ。
男子校で『七夕』もないだろうが、それは違う。

この行事の時だけは、他校の生徒との交流も赦されている。
普段は接点のない女子生徒とも、交流が出来る日。

そうなだけに、生徒会メンバー以外の者達はかなりはしゃいでいる。
明らかにしてないが、この国の王子ともう一人王子もいて
貴族に肩を連ねる者達が属する生徒会がはしゃげる訳もない。

「下準備、出し物の構成や模擬店に充てるのは一週間。それを準備する期間は二週間。
行事の開催日は三日間だ、生徒会はそれらの統括指揮と警備を兼ねる。」

「うわ・・つまらなさそう」
「コウ、何かいい案でも?」
「いや・・別に・・・」

自由時間が用意されてない日程に、本音を洩らしたコウ。
目ざとく聞きつけたカムイがジロッと見れば、言葉を濁らせて目を逸らす。

その姿を見終えてから企画書を捲り、次の説明に移る。
この話し合いの席には、生徒会メンバー全員の姿があった。

「各クラスの出し物は各自で話し合って貰う、必要になる物は普通課には提出させ、魔法課は此方へ転送させる。」
「カムイ、ちゃんは魔法課の準備に参加させるのかい?」
「ああ」
「野獣の中に1人にして平気?」
「(野獣って・・)心配ならライ、オマエが警護するか?」
「別にいいよ?しても。」

テキパキと無駄なく説明して行くカムイ、其処へ挙手して意見をルイが言えば
この問いに、魔法課の生徒として入れたのだから当然だと頷く。

茶化すような感じ、掴めない口振りで男の中に1人の状況を心配したのはライ。
客観視してる風のあるライだから、今回も口だけだと思いつつも
聞くだけ聞いてみれば、珍しくライはカムイの発言を承諾。

これには全員が目を見張った。
最も驚いたのは兄であるコウだろう。
だが、ルイもコウも同じ位驚いていた。

あの表情と発言を見聞きした後だから余計に。

「珍しくやる気じゃないか」
「まぁね、僕だってガーディアン(守護者)だし。
それにちゃんは僕にとっても、僕等にとっても・・・必要な存在でしょう?」
「・・・・?」
「何だ?随分尤もらしい事を言うようになったな」
「ふふふ」

確かに尤もらしい言い回しだが、普段のライを知っている分
何かこう・・・しっくりこない物がある。

コウは不思議そうに首を傾げた中、ルイとカムイは少し表情を険しくし
エリックだけが、ライの頭を乱暴に撫でてやってる。
照れ笑いを浮かべたその顔は、何ら変わりのないライの姿だった。