重なった道
あたしと、仁の道はまたこうして交わった。
あの出逢いからそんなに経たずに、また同じ空間にいる。
偶然・・?それにしたって、凄い偶然。
ならそれは必然だったんだ また出逢う事は。
それって素敵な事じゃない?友達にも感謝しなきゃだ。
あの子が何時もの我侭(お願い)をしなかったら
あたしが承知しなかったら、あたし達は出逢ってなかった。
「二人共・・知り合い?」
と仁の反応に、皆二人を交互に見ていた中
遠慮気味に尋ねたのは、監督兼プロデューサーの加藤さん。
その声でハッと我に返ると、注がれる皆の視線。
マネージャーの仁美さんも これには驚いている。
そりゃそうだ、誰にも話してなかったからね。
「知り合いと言えば・・そうなるかな。」
「だな」
「俺だっていただろ」
「「そうだった」」
「・・・・」
皆の反応に苦笑して、仁君と笑い合えば
ブスッとした声が後ろから聞こえた。
振り向いて、二人して声をハモらせると
流石に亀梨も 呆れ果て、溜息だけが口を吐く。
何でこうも見事に存在を忘れてんだ?息がピッタリじゃん。
亀梨の心の声は、皆に聞こえず
出逢いの経緯は置いておいて、顔合わせは続けられた。
の目の前には、憧れの女優さんの仲間さん。
他には乙葉さんとか、東幹久さんもいる。
わーわー!本物だ!(当たり前)
そして、隣には美青年五人組。
何だか凄いドラマに出られる事になったんだなぁ。
ちなみに、仲間さんがヤンクミ役。
乙葉さんは英語教師の白鳥先生役。
東さんも先生役で、体育教師の馬場先生。
で あたしが、ただ一人の女生徒であり
男装して通う事になった 嘩柳院 鴇役。
台本を読む限り、かなり『仲間』を大事にする人で
親友との間に起きた問題で 男子校を選んだとか。
凄い決断力があるってゆうか、芯の強い人。
あたしだったら絶対無理な事まで 平気でしでかす。
その鴇の周りにいるのが、仁君演ずる3Dの頭 矢吹隼人。
隼人と幼馴染の小田切竜を演じるのが、これまた必然の出会いか
コンサートの時、仁君と一緒にいた亀梨和也君が演じる。
それと、ヘアピンの似合う可愛い男の子。
もとい 小池徹平君は、同じく隼人と竜と幼馴染の武田啓太を演じまして
背の高さが目を引く、3Dのムードメーカー
土屋光を演じる 速水もこみち君。
そして最後に、柄シャツがトレードマークのお調子者。
日向浩介役が 現役大学生の、小出恵介君。
こうして見渡してみると、皆スターのオーラが出てるぅ・・
ついこの間まで、一般人だったからあたしは浮いてる。
これから先は そのままじゃ駄目だ。
この中に入って演技して行くんだから。
「顔合わせも終わったし、早速撮影始めるよ。」
決意も新たに、タイミング良く加藤さんがあたし達に言う。
顔合わせだけじゃなかったんだね〜これだから素人は・・
ドラマの撮影というのは、時間的にも余裕はないらしい。
朝は6時起きとか、早くて5時起きも平気である。
それに、終わるのは遅い場合が一般的で
軽く深夜2時とかもあるようだ。
これは益々気合入れてかなきゃ。
最初のシーンは、教頭と言い合うカットだ。
鴇の飾らない性格が現れる場面。
この啖呵が、彼女の扱い方を変える大事なシーンでもある。
これはミス出来ない、ちゃんと鴇の気持ちを感じ取らなきゃ。
「 着替えるだろ?貴重な女子高生姿、早く見たいんだけど」
「コラコラ 仁、猥褻なコメントは控えろよ。」
「何だと亀!何処が猥褻なんだよ」
「全て」
「キッパリゆう奴だなぁ・・もう竜になってんなよ。」
ナイス突っ込み!流石 同じグループだけあるね。
人が真面目に台本と睨めっこしてれば
おどけた感じの仁に、肩を叩かれた。
強要する仁の言葉を拾って、すかさず亀梨君が突っ込んだ。
突っ込み方も、その仕草や表情が既に役に合ってる。
あたしだって頑張るぞ!
「ちょっとお前等だけでちゃんと話してんなよ!」
「そうだよ、俺等だってちゃんと話したい!」
「二人占めはいけませんよ!」
楽しい空間に、賑やかな声が乱入。
見た先には、もこみち君と徹平君に恵介君の姿。
ブーブー言いながら、あたし達の間に入ってくる。
恵介君の言い方は、先生チックで笑えた。
男の子同士とは、どうして仲良くなるのが早いのかなぁ。
と思ってしまう程 彼等は打ち解けてて
すっかり仲良しの五人組その者になってる。
「いいじゃん!お前等来ると騒がしいんだよ」
「つれない事言うなよ〜」
「それよりさ、俺の事はもこみちでいいぜ!」
「え?初対面だしせめて君は付けさせてよ」
「細かい事は気にすんなよ、これから俺等は仲間なんだから」
何気ない一言、それを言ったのは恵介君。
運命共同体みたいに、とても温かくなる響き。
仲間・・・か、そうかもね。
これから三ヶ月、ずっと一緒で顔も合わせる訳だし。
「分かった、皆の事は名前で呼ばせてもらうよ。」
「マジ!?やった!」
「恵介だけじゃなくて、全員って事 忘れんなよ?」
浮かれ喜ぶ恵介へ、ザクッと突っ込みを入れたのは和也君。
もうスッカリ竜になっていて、皆一斉に黙った。
それから顔を見合わせ・・ほぼ同時に吹き出す。
「亀 その突っ込み、竜そのものじゃん!」仁
「マジで役になりきってんのコイツ!」もこ
「俺一瞬カメラ回ってんかと思った!」徹平
「俺も俺も!そしたらNGだよって焦った焦った!」恵介
皆それぞれに爆笑して、亀梨を指差す。
賑やかで、隼人達がここでふざけ合ってる風に思えた。
形になってきてる彼等を、微笑ましく見つめた。
しばらく笑っていたあたし達、それから加藤さんに呼ばれ
それぞれの待機場所へ就いた。
あたしは校庭に見立てたセットに立ち、生瀬さんを待つ。
隼人・・じゃなくて、仁君が楽しみにしてた女子高生の姿で。
少し台本を見て、最終確認をしているあたしの前に
教頭の姿に変身した生瀬さんが、現れた。
リーゼントに固めたヘアスタイル。
どうしてか、その風貌だけで既に笑いが・・・
「片瀬です、三ヶ月間宜しくお願いします。」
「これは丁寧にどうも、此方こそ宜しく。」
目が合ったので、軽く会釈して自己紹介すると
生瀬さんも丁寧に挨拶をし返してくれた。
僅かな触れ合いが高揚感を高める。
「それじゃあ『ごくせん』第一話、シーン1よーい・・!」
加藤さんの声と指折のカウントがゼロになり
カメラが回り始めた。
場面は校庭セットから、職員室へと移り
声を荒上げる鴇のセリフから始まる。
あたしは鴇になりきり 驚きの声を教頭へあげた。
「あたしのクラスは進学クラスから除外した所ってどうゆう事ですか?しかも男装しろだなんて。」
納得のいかない顔で、教頭役の生瀬さんを睨む。
スッカリ教頭の顔になっている生瀬さんが、白々しく口を開いた。
「当たり前の事ですよ、この学園は男子校で優秀な進学校。
そこに過去にあのような経歴を持つ、しかも女子生徒がいるなんて
世間に知られたら困るんですよ。
寧ろ入れてもらえた事を感謝して欲しい物ですな。」
本当に嫌みったらしく言うもんだから、あたしの演技にも熱が入る。
気持ちもどんどん 鴇に近づいて行った。
「そうですか、この扱いあたしは忘れないからな。」
「・・そ、そんな風に言っても理事長の命ですからね。」
「へこへこ従うしか出来ないんだ」
息詰まる睨み合い、その演技を他のメンバーも見守る。
表情のクルクル変わるに、見入ってしまう5人。
ついこの間まで素人だったとは思えない演技。
何せ 集中力からして、並外れていた。
「すっげぇ・・俺、見ててワクワクして来た。」
「うん、俺も早くアイツと演技してみてぇ〜」
胸の高鳴り、見ているだけでこっちも演技したくなるような演技。
つい そう言った仁に続き、目を輝かせた亀梨も同意。
後の三人は無言だが、二人の言葉に頷いた。