虹色の旋律 二十八章



夕食を食べ終え、メンバーはそれぞれ部屋へ戻って行った。
買って来て貰ったスパゲッティも完食。
レッスンも受けてなくて疲れてないからと皿洗いを買って出た

捻ってない足で捻った方を庇うように立って洗った。
向こうでも手伝いをしていたから、家事は一通りこなせる。
黙々と皿を洗いながら脳裏に浮かぶ出来事。

大切な大切な写真が無くなってしまった事や
上田の言葉と、ジュリーの言葉。

そして、数時間だけの仮初の親子として買い物をした事。
袴と着物以外の衣装は初めて身に着けた。
この時代では当たり前に溢れかえったデザインらしい。

着物は格式ある行事や場面でしか身に着けなくなっていた。
趣があるとして、また着る人が増えてるみたい。
それはそれで嬉しく思う。日本人の心が今でも息づいてると思えるから。

「・・・っ」

気を抜くと捻挫が痛む。
さり気なく救急箱の在り処を聞ければいいのだが、生憎とはその存在を知らない。

氷で冷やし続けるのも冷たすぎて逆に痛くなり、長時間は冷やしてられないのだ。
だが冷やさなければ治りは遅いだろう。

うーん・・・・参ったわ・・・
あの履物は暫く履きたくないかも←
草履の方が何倍も歩き易いです。

洗った食器を乾拭きし、ゆっくりと歩き出そうとして気付いた。
ハンカチを濡らして巻くのはどうだろう、と。
あー・・でもそうすると、頻繁にハンカチを変えに行かなくちゃならないわ・・

いい案が浮かばなくてうーんうーんと悩んでいると
目の前に誰かの気配が現れた。

「なあ」
「う、わ・・・じゃなくてハイ」
「あからさまに『うわ』とか言っといてわざわざ訂正すんな」
「すみません・・えっと、何の御用でしょうか」
「お前が失くしたのって写真だろ?」
「――え・・・・」
「時々眺めてんの知ってるだけ、何が写ってんのかしらねぇけど・・また撮り直せばいいじゃんその相手とさ」
「・・・・・っ」

現れたのは赤西さんでした。
思わず変な声が漏れて、誤魔化したけどもバレてましたね。
しかも私が失くした物まで言い当てられてしまいました。

鋭い人なんだなあ・・と思った矢先、不意に心の中が抉られた。
どんなつもりで言ったのかは分からない。
けど、皮肉を言ってる顔ではないのは辛うじて分かった。

でも・・でもね・・・
言われたくない言葉だったんです・・

もう一度、撮り直せたらどんなに良かったか。
もう二度と、写真を撮り直せないって気付かされたくなかったから

この時代にいる限り、継信さんの写真は二度と手に出来ない。
あんなに大切な物だったのに形見分けとして貰った物なのに、私は失くしてしまった。
あの時代に帰れるのか、両親は無事なのか、それすら分からない。

あの時代から持って来た物は全て失くしてしまった。
着物も多分残ってないだろうから・・

「・・・・撮り直せないんです」
「え?」
「撮り直したくても出来ないんです・・・」
「何で?遠くても会いにいけるだろ、飛行機も船も車も電車もあんだし」
「――・・・無理なんです、どんなに会いたくても・・もう・・・この世にはいないから」
「!?」

どんな乗り物を乗り継いでも決して会いに行けない所。
継信さんは、そんな遠い所に旅立ってしまった。
改めて気付かされた気がして、知らないうちに涙が溢れて零れた。

の言葉と涙で、その意味を理解した赤西。
ハッとした時には、自分の横をが走り抜けて行く所だった。
足の痛みすら気にならないくらいに心が一杯で、駆け込んだ部屋の中一人で泣いた。

聞こえないよう、枕に顔を埋めて。
一人キッチンに残された赤西、自分が失言をしてしまったのだと自覚。

写真に写ってた奴は、上田にそっくりの軍服姿の男。
単にコスプレとか、自衛隊の男くらいにしか認識してなかったから出てしまった言葉だった。

どんなに離れてても会おうとすれば会える。
だから落ち込まずにその日まで頑張れよ・・・そう遠回しに励ますつもりだったんだ。
なのにそれは、の心を傷つける要素でしかなかったとか・・最悪じゃん・・・・

思わず顔を覆うようにして、キッチンの壁に寄り掛かって
自分のタイミングの悪さを呪うしかなかった。


++++++++++++


それでも変らず朝は来る。
昨日は過去になって、明日は未来になるのだ。
とは言え、あの失態は過去として消す事は出来ない・・・・・

を起こしに行くのは躊躇われて、赤西はその役目を亀梨に任せた。
本当ならば、あの写真の男とクリソツな上田に譲るべきだったかもしれないが
昨日の今日で上田を向かわせるのは更に心を抉りかねない・・

何か取り乱して自殺とかしそう・・・
とか思うと、何時ぞやの女性の姿が思い浮かぶ。

そうそう・・まさにあんな勢いで(
目の前で自殺されるのとかマジ勘弁だけどな。

あの女性がどっかで自殺騒ぎとか起こしてない事を願いつつ
自分の代わりにを起こしに行ったカメの背中を見送った。
階段を下りながらノックの音を聞く赤西。

朝だぞー・・・・」

起こす側が眠げな声だしてんなよ・・・by赤西
とか内心突っ込むのは忘れない。

今日の予定は、10時からSUMMARYの衣装合わせ。
それからDREAM BOYの打ち合わせと稽古。

その先は雑誌の撮影・・・・
確かMyojoだったかな。
つーかお披露目は雑誌が一番乗りだな、の。

キッチンに着いて、当番の聖が作ったグラタンを前に思案。
てか朝からグラタンとか聖らしいっつーか?

数分後、亀梨に連れられてもキッチンへ。
心なしか動きがぎこちなく見えたが、声をかけるのは止めた。
昨日の失言が赤西なりに尾を引いたらしい・・・

「今日は初の雑誌の撮影だな〜」(中丸
「あ、はい・・そうですねっ」
「その前に衣装合わせだろ」(聖
「撮影と言うのは、どんな物なんですか?」
「ああそっか知らないよね、雑誌の撮影は写真撮られて簡単なインタビューかな」(上
「ああ言うのは本音と建前織り交ぜて答えとけば平気だよ」(和
「???」
「つまり、まんま本当の事を話す必要はないって事」(上
「嘘・・・をつくという事ですか?」
「んー・・・・こう言う世界は、本当の事ばかり話す必要はないよ。あんま特しないから」(和

赤西が話に混ざらないまま進む会話。
はどうも嘘をつくと言う事が好きそうではない。
つーか嘘とかつけねぇだろなー・・・顔に出てるし←

何か顔とか見てると、『嘘』自体を理解してない感じじゃね?
言葉は知ってても、用途として使う必要があるのかないのかとか(其処から!?

まっさら具合MAXじゃんコイツ・・・・・
俺とか聖とかが苦手視してるタイプ。
でもそれが露骨じゃねぇから苦手な部類に入ってない。

まっさら具合がの持ち味なんだろうしさ・・
うわー・・・何かの事理解してる感じがキモイ俺(
いつのまにかさ、が舞台に立って・・・・世間を驚かす日を愉しみにしちゃってるんだよな〜・・

すっげー心変わりじゃね?俺。
だから早く謝んねぇとなー・・・あれは間違いなく禁句だった。

開けてはいけない、触れてはいけない『パンドラの箱』だっただろ絶対・・
コイツラとの会話で笑ってっけど、実際はまだ引き摺ってるだろうしなー。

謝りたいのにタイミングが見つからない。
それに、本人を前にするとどうも決意が鈍った。
自分の悪い癖っつーか悪い部分が出てきちまう←

あれは知らなかっただけで、励ますつもりだったんだぜー?
勝手に泣いたのはあっちじゃん、何で俺が謝んなきゃなんねぇの?みたいな?
けど完全に俺のがクロじゃん。誰がどう見ても判定は俺の負け。

どう見ても俺の言葉では泣いてた。
どう聞き直しても、完璧俺の発言が決定打になってる。

グラタンを食べる為のスプーンで、無意味にそのカリカリの表面を数回突き刺した。
結論が出ない苛立ちから矛先はグラタンへ(何故
んだよこのムカツクまでにカリカリなグラタンの表面!!!!(それはグラタンだから

何やら悶々とした雰囲気で、ひたすらにグラタンを刺してる赤西を全員が眺めた。
何かに苛立って行き詰ってる様、悩んでるんだろうか?と感じたのは三人。
は自分のせいで赤西が苛立ってるのではないかと気にしていた。

赤西さん・・・機嫌悪いのかしら・・・・
もしかして私が遅く起きてきたから?

それぞれの気持ちが錯綜する中、食事を済ませた面々は
四月一日が出した車に乗り込んで、衣装合わせへと向かうのだった。