守り 守られるだけの関係
私と彼らにあるのは、その関係性だけ
それが 時々、無性に寂しくなる



第五章 関係性



何故か寮の前まで迎えに来てくれていたカムイ。
問うまでもなく、理由は校舎への案内。
魔法で移動してもいいが、最初は校舎の場所などを
把握しておかなくてはならない。
いざという時に 移動出来ないから。

これは聞いたに対し、淡々と答えたカムイの言葉。
分かり易くていいんだけど・・何か機械的ってゆうか
マニュアル的な言い回しなんだよね。
歓迎されてないのが空気で伝わってくるよ。

ぎくしゃくした生徒会の人たちと同じように、本当に歓迎
してくれてる人とそうでない人に分かれてる。
ってゆうか、顔では歓迎してても腹ん中じゃしてなかったりしてね。

そう思って浮かぶ顔は、ライとルイ。
あの笑顔の裏に、何を隠している事やら。
小悪魔のようなライさんと、大人なルイさん。

何だか、表に出しまくってるコウさんがマトモに見えてくる。
仲良くなりたいのに・・・あんな事口にしなきゃ良かったのかな。
言ってしまった事は、もう取り消せない。
それに、こうなると分かっても言ってたと思う。

「ちゃんと覚えてるか?俺もそんなに付き添えない」

だから一人でも行けるように今覚えろ。
ぼんやりと彼等の事を考えてたら、隣から釘を刺される。

はい・・ご最もですね。
何かカムイさんの印象が変わったなぁ。
最初は真面目といか、生真面目な生徒会長さんだったけど
今じゃ、言葉遣いからして違うし。
まあ、それでもカムイさんはカムイさんだものね。

「はい、ごめんなさい。」
「・・・別に、謝る事はない 分かればいいんだ。」

言葉だけ聞いたのでは、かなり素っ気無い感じだけど
顔を見れば、そうではないと分かる。
怖い顔じゃない ちゃんと私の言葉を理解した上での彼らしい返事。

切れ長で綺麗な瞳も、怒りではなく 穏やかな風に見える。
ああ・・どうしてこんなに綺麗なんだろう。
男の子とは思えないくらい、落ち着いていて優雅で
極めつけは、どんな手入れをしたらこんなにサラサラな髪を保てるのか
女の私としては、そこがとても気になる。

ラナムには絶対いないよ!同い年でこんなに綺麗で落ち着いてる人って。
それを言ったら生徒会全員がそれに当てはまるなぁ。

「私の入るクラスって、どんな感じですか?」

僅か前で揺れる銀の髪 それから離れないように聞く。
颯爽と歩きながら、私の問いに答えようとしたカムイ。
ふと 足を止めて私へ向き直った。

端正な顔と、綺麗な紅い瞳に見つめられ 心臓が跳ね上がる。
一体何を言われるんだろう、もしかしてまた聞いちゃいけない事を
私は聞いてしまったのだろうか??と不安になる

「すまない、歩くのが早かったか?魔法を使わずに行くのが久しぶりで
速度の加減を忘れてしまったようだ。」

そう言って彼は無意識に、微かな笑みをへ見せた。
不器用だけど、本当は気遣いの出来る人。
普段はキリッとしてるのに、今の感じは何だか新鮮で
私まで嬉しくなって 笑顔になってた。

「いいえ、そんな事ないです。でも、有り難うございます。」

嬉しかった。
初めて見せてくれた笑顔は、ぎこちない物だったけど
その笑顔が、酷く心に残る。


カムイ達を上から見下ろす視線。
それは、別の校舎にいる者の視線。
自分達がついて行くべき者、それと彼が連れている少女。
それらを交互に見てから、その者は魔法を使う。

「しっかり記憶しておくんだよ、これは彼への情報なんだから」

彼が話しかけているのは、自分の使い魔。
華やかな彼に相応しい、美しい翼を持った鳥。

魔法使いの言葉を受け クルルーと鳴いた鳥が腕を飛び立つ。
鳥が起こした風で、魔法使いの髪も空へ舞った。
その色は、緑色。

金の瞳が 校舎を歩く達を映した。

誰かに見られてる、そんな視線を一瞬だけ感じ取った
だが それについて考えるより先に、教室へと到着。

「このクラスは、俺が最も信頼している者達の集まった所だ。」

だから安心していい・難しげな顔をしたに、カムイはそう言った。
クラスの事でこんな顔をしてた訳ではないが、折角の厚意なので
取り敢えず、お礼だけはしておく。

「生徒会メンバーは、隣のクラスにいるから。
何かあれば、直ぐに呼べ。」

・・・多分彼は、当たり前なんだろうけど
今の台詞は結構 女として、嬉しい言葉なんだろうね。
直ぐに呼べ・だなんてさ、期待してしまいそうだよ。

特別でも何でもないのに。
そう思ってるのはだけで、実際は凄く特別な存在である。
なくてはならない魔法の源を管理し、司る存在。
自分がそんな存在だとが気づくのは、何時だろうか。
それは突然訪れる、一番辛い結果として。
こうしては カムイに連れられて、学園生活の一歩を踏み出した。

一限目は授業に出なかったコウ。
理由は簡単、集中出来そうにないから。
何時までも同じ事で悩んでるのは、俺らしくないが
心の中にずっと留まってる一つの言葉と、当たり前の事実。

そんな時だ・・美しい鳥が、空へ舞い上がるのを見た。
そしてその先にいる人物の姿も。

「・・・ルイ?」

鳥が飛び立った場所を辿ったら、自然に行き着く。
奴が使い魔を飛ばす理由は、幾つか心当たりがある。
コウは移動の魔法を使い、ルイのいる校舎の屋上へと向かった。
空間を飛ぶのなんて、あっという間。

突然現れたコウにルイが気づいたのは、踵を返した時。
背後に人の気配を突然感じ取った。

「人が悪いね、コウ。」

突然前に出てくるなんて、風に靡く髪を片手で捉えながらルイは言う。
仕草の一つ一つに、気品を感じさせる。
笑顔のルイを睨むように見て、コウも口を開いた。

「アンタこそ、こんな所でまた使い魔か?」
「私が使い魔を飛ばすのに、一々コウの許可がいるのかな?」

大人な指摘、寧ろ逆に腹が立つ。
言ってなかったが、皆二年生な中ルイだけは三年生だ。
でもまあ・・それはちゃんと三年の校舎で授業を受けてる場合。

ルイの場合は、肩書きは三年でも実際は二年として通っている。
その理由も後々分かって来るだろう。
留年してまで、この学園に残った意味とは?
普段が笑顔しか見せない分、謎が多い奴。

コウはルイに対して、そう思ってる。
一番心を許せないタイプだ。

「確かに関係ないな、所でルイはどう思う。」

確信に迫る会話は避け 全く別の話題を持ち出す。
何が?と問い返すルイに、早口での事だよ と言う。
プイッと顔を背けた反応を見て、口の端で笑うとルイは答えた。

「別に?可愛い子だと思うけど?」

ナルシストな彼らしい台詞。
普通の女に比べれば、容姿はルイの言うとおりだ。
だが そんな事は今関係ない。

「俺達には、誰にも理解出来ない一線がある。
それは他人から見れば、くだらないだろうけど俺は・・」
「彼女の言うとおりなんでしょう?気にしてるって事は。」

全く図星を刺された、しかも深く。
コイツもズバッと言うな・・
軽い苛立ちに、荒々しく髪を掻き揚げる。

「私もね、彼女には期待してるんだ。私達の間にある壁を
彼女が取り払ってくれるんじゃないかって。」
「おまえが・・期待?そりゃ意外だな。」

ルイの言葉に、笑い飛ばすような感じで口先だけの笑いをコウは見せる。
一番腹の内が読めないコイツが、そんな風に思ってるなんて
コウには俄かに信じ難い言葉だった。
一瞬 ルイの目に妖しく、剣呑な光が浮かぶ。
が、それも一瞬で直ぐに消え 笑顔をコウへ向けて口を開く。

「信じろとは言わないよ、まあとにかく期待はしてる。」

彼女が来た事で、どんな波が立つのか・・ってね。
平和・それを私は壊したいと思っているのかもしれない。
少しは楽しめるような波が起きると、いる価値も出て来るかもしれないね。
誰がいる価値かって?それは勿論 私が此処にいる価値だよ。

笑顔の下で、ルイがそう思ってるとは知らない。
自分の事など 自分にしか分からないのだから。
他人の事なら尚の事・・・。

続く