隠された秘密
それは、誰にも話される事なく 1人の男が抱えていた
人生さえも変えてしまう重い称号。
力なんかいらないと、彼女は日々泣いていた。
そんな彼女を守りたかった。
だが、守れなかった。
ならば私は、彼女の力を受け継いだ娘を守ろう。
命を賭して・・・・
第八幕 隠された秘密
を探して庭に造られた魔法練習場を訪れたルイ。
この場に満ちた、魔法の強さに圧倒されながらも練習中のへ問うた。
「ちゃんは、苦手な魔法はある?」
誰が聞いていても何ら普通の問いかけ。
疑う事なく、は正直に考え込んでから言った。
「えっと・・一番は制御で、次は働かせ方です。」
「制御は分かるけど、働かせ方はどうゆう意味?」
「その属性の魔法が齎す作用とか・・・どんな場面でどう使うべきか・・って初歩の初歩ですね・・・」
何て落胆するだが、ルイは物の考え方に驚いた。
魔法を知らなかったとはいえ、初心の初心で其処まで考えられるだろうか・・・
教え甲斐もあるし、覚醒した<扉>の力を是非とも見たくなった。
「ライは何か教えたの?」
「うん、浮遊とか飛行とか 初歩の初歩を。」
笑顔で初歩の初歩を教えたと笑うライ。
何かその笑顔が、ルイの心を不安にさせた。
聞こえは初歩の初歩だけど、裏を返せば遊び方じゃないか?
というより、初心者にいきなり浮遊と飛行を教えるなよ・・・
この時点で1つ頭に引っ掛かった。
自分が来た時、が使った魔法は何の練習だったんだ?
「まあいい、じゃあちゃんやってみて」
「え゛!?いきなりですか!?」
勿論と微笑んでみせるルイさん、この笑顔は最強だと思う。
有無を言わせぬ迫力、これは・・やってみせるしかないのね!?
よーし!ライさんのヒントを思い出して、やってみよう!
ルイの笑顔に押され、渋っていただが
覚悟を決め、精神統一に入る。
その瞬間、ルイとライは力が動くのを肌で感じ取った。
空気その物が、引き寄せられるようにへと集まって行く。
自分達の力をも、吸い寄せられる感覚に陥る。
「『カーン・標 風浮』」
集まった力を解放するように、閉じていた目を開いた。
その後は、ある意味凄い事になった。
ΨΨΨΨΨΨ
学園で、少し騒ぎが起きている頃。
書庫に向かったカムイ、の父親の事はカノエに調べさせているが
自分独自でも気になる事はあった。
この国で得られる情報には限りもある。
それに、代々の『扉』と『鍵』の事。
両方について、未だ詳しい関係は分からない。
どうして対になってるのかとか、『鍵』は何の為に存在するのかとか。
言葉通りなら『扉』を管理出来るって事か?
「――カムイ!」
考えながら歩いていると、前方からふと呼ばれた。
パッと顔を上げて、目に入ったのは此処にはいないはずの人間。
真っ赤に燃えるような真紅の髪、緑色の瞳。
「エリック?何故オマエが城に来ている?」
「少し用があったんでな」
用?と現れた幼馴染へ訝しげな顔を向けるカムイ。
そのカムイに、手にした書類で片手を叩きながらエリックは答えた。
見れば服装も学園の制服ではない。
「親父達に呼ばれて、少し手伝ってたんだ。」
コレはその報告書、と言って自分の掌を叩いていた書類を見せる。
訝しげに見やってから、カムイはその書類を受け取った。
確かに、報告書と記されている。
エリックが手伝っていたのは、魔術。
彼の両親は、ラシール国の王宮魔術師だ。
勿論それを手伝えるエリックも、直属の王宮魔術師。
腕は両親に劣らず、次の魔術師長は彼を推す声が高い。
ヒノエはエリックを好いていないが、カムイは信用を置いている。
多少(いや、かなり)女ったらしな所はあるが。
魔術の点では、腕は確かなので信頼出来る。
「ほぉ?今在籍している魔術師達だけでは出来ない魔術なのか?」
ラシール国の魔術師達は、10人いる。
それも、高位の魔術が使える者ばかりのはず。
魔術師長の両親がいても出来ない魔術とは、何なんだ?
疑うような目を向けると、エリックは微妙に困った顔をした。
・・・・・分かりやすい奴。
「勘が鋭い奴は困ったなぁ・・だが、国家機密なんでね幾ら王子のお言葉でも教えられない。」
「ふん、今更『王子』呼ばわりすんな。」
乱雑な動作で書類をエリックに返すと、ツカツカと書庫へ急いだ。
少しだが、幼馴染のエリックに隠し事をされた事が寂しかったのかもしれない。
何か癪だな・・・
立ち去ってしまった幼馴染で、王子カムイを見送り
手の中に戻った書類を眺め、普段見せない顔をしてエリックは言った。
「悪いな、カムイ。オマエを余り深入りさせたくねぇんだ。」
目を落とした書類、其処には魔術文字でこう書かれていた。
――魔法力転換吸入魔術――
これはラシール国が、極秘に始めているプロジェクト。
『扉』の『鍵』となるのを待ちきれない者の命令で立ち上げられた物。
エリックは乗り気ではなかったが、上には逆らえなかった。
実行されるのか、されないのかは分かっていない。
1つだけ言っておくとすれば、この計画は数十年前から挙がっていたと言う事。
このプロジェクトは、明るみに出ずにずっと隠されていたトップシークレット。
「このプロジェクトが、カムイの意に反するのは間違いねぇな」
自嘲気味に笑うと、普段通りの表情に切り替え
エリックは書類を持ち直し、再び地下へと戻って行った。
自分も手を貸す事で、裏切り行為にはなるが
それでもエリックは、中々心を決められずにいた。
ΨΨΨΨΨΨ
所変わって生徒会室。
魔法練習場からルイに連れて来られた。
何故かと言うと、理由はさっきの練習にある。
ルイのアドバイスで、途中までは力も安定し
均等に働いていたのだが。
どうしてか、急に暴走を始めたのだ。
コントロールする集中力でも切れたのか、原因は分からない。
その場は守護者のルイとライがいた為、事なきを得た。
流石『扉』と言うべきか、全ての魔法の頂点に立つだけの事はあり
力を使おうとした時の、大きな力の動きには驚かされた。
「本当にごめんなさい、ルイさん。」
「気にしないで、害はなかったんだから。」
椅子に座らされたは、さっきからずっとこうして謝っている。
特に怪我もなかったが、掠り傷を負っていたので
治療の意味も含め、文句を垂れるライから引き離し誰もいない生徒会室へ連れて来た。
此処へ連れて来たのは、目的があるから。
言うまでもなく、の両親について探る為。
私の(今の所)主が知りたがっているからね。
「腕を貸して、治療するから。」
治療する時、救急箱なんかは必要ない。
此処は魔法の国なのだから。
怖ず怖ずと傷を負った腕を、前に出す。
その腕を、ルイの手が掴んで引き寄せた。
この至近距離と、触れられた感触に勝手に顔が熱を持つ。
それはきっと、女の子よりも綺麗なルイさんが目の前にいるから。
目を合わせる事は出来ないけど、素早く目だけ動かして
治療を始めようとしているルイを覗き見た。
長い睫毛が彩る伏せられた瞳。
森や草原のような色の髪、そしてその森と草原を照らす太陽のような金の瞳。
ズルイくらい、綺麗な人。
握られた腕から伝わる、ルイの手の温もり。
それが余計に、の頬を紅葉色に染めた。
ドキドキしてしまって、ロクに目を合わせられなかったから見逃していた。
ルイさんの瞳に浮かんでいた、何処か冷たい色を――