覚悟3



同時刻、保管室にて座り込んでいた
痛む半身を引き摺るように立ち上がり
幸い鍵は掛かってなかった保管室を脱出。

ズキンズキンと鈍痛が体を走る。
多分打撲と打ち身が腫れてるんだろう。
1人でも歩けるのは不幸中の幸いだ。

咄嗟に受け身をとった事も幸いした。
しかしどうしたものか・・・。

騒ぎにしたくはないし大事にもしたくない。
とはいえこの様相だ・・・理由は聞かれる。
考えた末浮かんだ理由を私は講師に話した。

🌕「衣装を探してる時転倒して顔をぶつけました」と。

あくまでも自分が転んだだけ。
偶々近くに棚があり、そこに突っ込んで負傷

淡々と説明するだが
明らかに顔は腫れていて、

その腫れ方は打撲と違う腫れ方だと
講師は推察していた。
口の端に滲んだ血を擦った後も窺える。

だがは自分の意思で言おうとしない。
つまりは相手を庇ってる?

まあ事務所側としても騒ぎにしたくはない為
露見しない限り本人の意思を尊重する事とした、つまりは隠蔽。

👔「取り敢えず手当てして来なさい」
🌕「はい・・・あの、収録は」
👔「その顔じゃ難しいから無理だなぁ」
🌕「ですよね、収録ダメにしてしまってごめんなさい。」
👔「Jr最後の収録だっただけに残念だね」
🌕「Jrとして最後、皆に会えましたから」
👔「そうか、じゃあ後は講師に指示受けるようにな」

事務所の大人に話したらしんみりされた。

立ち去りながら頭を撫でられ
沈んでいた気持ちが浮上する。
優しい言葉がじんわりと心に沁みた。

++

そのやり取りの後、は再びレッスン場へ
先ず気付いたのは仲良しの2人。

🧒「?あれ?収録行ったんじゃ」
🌕「2人こそ収録は?」
🧑「僕達はちょっと出るだけだから終わったよ?」
🌕「そっか・・・」

すぐ駆け寄って来てくれた2人を見たら
安心してしまい、同時にホッと出来た。
変わらない2人の存在が凄い有難い。

🧒「それよりどうしたんだよそのケガ」
🧑「保管室で何かあった・・・?」

近付いたせいで顔の打撲に気付かれ
物凄く親身に聞いてくる2人。

どう話すか悩んだ末、事務所の人にした説明
と同じ説明を2人にもした。
納得はしてなさそうだけどこれで良い。

理不尽極まりないが、否定も出来ないから。
それに私は事務所にも仲間にも
兄達にも嘘をつき、欺いている。

私は女の子だという事実を。

だから、何かを問われ去る時は
女だとバレた時だと覚悟している。

その瞬間が来るまでは、
この世界で戦い抜くと決めている。

私を見つけ、選んでくれた滝沢さんの為に。
私を見つけ、家族になってくれた兄達の為に
それから・・・自分の為にも。

負けてなるもんか、陰口にも偏見差別にも。
収録が終わるまではレッスン場で見学に徹し
周りから聞こえるヒソヒソ話に堪えた。

私の代わりに出てやるよと豪語してた少年。
彼にはこっそり仕返しをしてある。

出てみた瞬間気付いただろう。
収録終わり、此処に現れた瞬間分かるはず。

――バァン!
とドアが壊れんばかりの勢いで
収録終わりのJr達がレッスン場に現れた。

先頭でドアを開けたのは例の少年達。
その形相は鋭く、私は仕返しの成功を見た。

少年達の視線はレッスン場を彷徨い、
やがて視線は後方に座る私を捉えた。
その瞬間、鬼の首を取ったような色に変わり
凄い勢いで私の方へズカズカ歩いて来る。

👤「てめぇーー」

距離が縮まった瞬間そう低く呻いた少年。
その腕が伸び、迷いなく私の胸ぐらを掴む。

ぐっと襟首を絞められる感覚に
私の表情も険しくなった。

🧒「ちょっ、おいやめろよ!」
👤「うるせぇな部外者は黙ってろ!」
🌕「――・・・」
🧑「やめなって、落ち着こうよ!」

思わぬ事態に、傍観を決め込んでたJr達もザワザワし始める。
吃驚した仲間の2人が止めに入ってくれた。

が、少年の目はギラついててヤバい。
これは相当な恥をかいたみたいだ。

息は苦しいが頭は冷静で、
少年への仕返しが予想以上に効いたようだと
推考する余裕すらにあった。

👤「その目、お前分かってたな?」
🌕「・・・・・・」
👤「だからやり返さなかったんだろ!」
🧒「何だよ何の話だ・・・?」

胸ぐらを掴んだ手を引き
目と鼻の先に私の顔を引き付け唸る少年。

やっと分かったんだ?と笑みを向け、
めいっぱいのしてやったり感を込めてやった

🌕「頑張ってねって言っただろだから」
👤「汚ねぇぞてめぇ!」
🌕「うっ――!」

瞬間今度は左の米神に鈍い衝撃。
ぐわんと脳が揺れる感じがした。

ドターン!と床に叩き付けられる
周りにいたJr達の悲鳴が上がる。

痛みも然る事乍ら、脳に衝撃も受け
強い眩暈に襲われた。

🧑「くんっ!?」
🧒「お前よくも――・・・」
?「おいお前ら何してんだよ!」
?「誰か医務室運んで!!」

小柄なが殴り飛ばされ
ボロ雑巾のように倒れ込む様に
仲間の1人は泣きながら駆け寄って来た。

殴った側の少年もまさかの事態に呆然。
あんなに吹っ飛ぶとは思わなかったようだ。

そしてそこにタイミング良く現れる集団。
怯えて泣くJr達が見たのは6人組の大男。
先ず動いた影がに寄り添う少年の近くに

🦔「くん大丈夫!?」
🧑「高地くん・・、くんがくん・・っ」
🦔「よしよし大丈夫、医務室連れて行こうね」
🧑「うえ・・・っ、ひっく」
🦔「頑張ったな一緒に付き添ってくれる?」
🧑「はいぃ・・・」

意識もなくぐったりなを抱き起こし、
先輩が現れた事でホッとしたのだろう
泣き出してしまった少年の頭を撫でてやる。

それから動いたのが田中樹。
レッスン場に残っていた子供らを集め
宥め、そのうちの1人を呼び寄せた。

🦁「事務室から誰か呼んで来れるか?」
👬「うん、呼んで来れる!」
🦁「凄いな、じゃあ頼むぞ」
👬「はいっ」

歳の頃13歳くらいの少年は
力強く頷くや、小走りでレッスン場を出た。

それを見送りながら少し険しい眼差しを
高地に抱えられたらに注ぐ。

状況からして、明るい茶髪の少年を
少し体格の良い少年が殴り飛ばしたようだ。
何らかの理由や事情もあるんだろう・・・

しっかしマズイな。
はマンズ兄さん達の可愛い末っ子だ。
(勘の良さで末っ子だと知った樹くん)
騒ぎも大きくなっちまってるし

マンズ兄さん達の耳にも入るかもしんない。
そうなったら怖い人が何人か居る。
取り敢えず何があったのか聞いてからだな。

てな訳で、事情を聞く為声を掛けたのは
目撃した時殴り飛ばした少年に
くって掛かろうとしていたこっちの少年だ。

🦁「えーと、何があったか話せる?」
🧒「・・・はい」

と親しい少年2人曰く、
何故殴り飛ばされたのかイマイチ状況が
彼ら2人も分かっていないとの事だった。

しかも、は収録に不参加。
代わりに出てたくさい少年は
レッスン場に戻るなり、殴り飛ばした。

完全に暴力沙汰じゃんよ~

とさすがに樹も内心で呻く。
後、は少年に殴り飛ばされる前から
右頬に殴られたみたいな打撲痕があったとか

🐻「樹、Jr達の方は落ち着かせたよ」
🦁「おう、サンキュ慎太郎」
🦅「そっちは?」
🦁「ん~・・・結構マズイ」
🦔「取り敢えずくん医務室運ぶよ?」
🦁「おう、任せた」

事情を聞こうにも、ハッキリしない感じに
殴った側に聞かなきゃ埒が明かないなと
対象を変えた矢先メンバーから声が掛かる。

慎太郎の言葉通りJr達は落ち着いたようで
ひと塊になりながら此方を見ている。

あの感じからして完全な傍観者だな・・・。
メンバーと話しつつ、状況を知るには
殴った側の少年と話すしかないと見やる。

🦁「おい、何か理由あるんだろ?」
👤「・・・・・・っ」
🦁「お前は理由なく暴力振るったりしなかったじゃん、まあ短気だけどさ」
👤「うっ・・・ぐす、俺・・・っ、」

体力の使う事だが両者の理由を知るのは必要
、との事で樹は殴った側の少年の傍に行き
目線を合わせて膝を折り、声を掛けた。

強く責めるでもない聞き方に、
殴った側の少年から、言葉と涙が毀れた。

同じJrとして頑張って来たと少年。
は小柄で華奢、

決してダンスが優れてる訳では無いが
居るだけで視線を集めてしまう華があった。
振り覚えが驚異的に早く、まさに完璧。

何度振りを聞いても嫌な顔せず教えてくれた
分け隔てなく接してくれるは、
本人が知らない所で人気があり、信頼され、
少年自身は最初だけを妬んだりしたが

少しずつを認め始めていたらしい。
どんなにきつく接しても食らいついてくる姿
加えてあの珍しい容姿、気付いたら、
ライバルみたいにを見ていた。

👤「けど、急にSnow Manに入るって聞いて・・・
  すげー悔しくなったら堪らなくなって」
🦁「・・なるほどな、寂しかったんだなお前」

少年の話を聞き終え、
感じたままを口にしたら間の抜けた声がした

👤「え・・・・・・そうなのかな」

どうやら無自覚だった様子。
少年期に限らず妬み嫉みは付き物。

しかし今回の騒ぎは芳しくない。
あの殴られ方は、下手したらに障害を与えてしまう可能性も高いから。

🦁「でもな、だからってお前がしたのは
  絶対したらダメな事だからな?」
👤「・・うん・・・っ、腹は立ったけど怖くて、
  あんな風に、倒れるなんて思わなかった」

しっかり話してやれば、
少年も聞き分けは良かった。

殴った事は良くないが、その怖さを知り
身をもって学ぶ機会を得られたのだから。

🦁「吃驚したな、うん、人を殴るって怖い事なんだぞ、
  相手にケガさせちまうし命を奪う事だってある、
  それにお前の拳も痛かっただろ?」

樹や少年のやり取りをJr達も静かに眺め、
そこに寄り添うSixTONESのメンバーも
彼ら2人を静かに見守る、その空間に、

ハッと気付いた少年の焦る声が発せられた。
冷静になった今、の事を気遣えるようになったんだと思う。

👤「いのち・・・っ、田中くん俺っ、どうしよう!
  俺のせいでアイツ、死んじゃう!?」
🦁「大丈夫、信じろ。
  は強いヤツだし、優しいヤツだから」

お前に気に病んで欲しくないとか言って、
多分また無理すんじゃないかな。

そう予想出来たが、少年には黙っておいた。