覚悟2



🗣「おーい待って~!」

2人と共に衣装部屋へ入ろうとした背に
後ろから掛けてくる足音に呼び止められた。
何だろうと振り向くとJrの1人が駆けてくる。

🧑「どうしたの?」
🗣「今伝言頼まれてさ」
🧒「伝言?もう少しで本番だぞ?」
🗣「俺は頼まれただけだから・・・」
🌕「兎に角伝言教えてくれる?」

肩で息をする少年が達の前に来るや
どうしたのかを聞いてみれば伝言があるとか

本番も15分前に迫っていた為
申し訳ないが急いで聞いてみると
だけ衣装変更があり
別の衣装部屋に行く必要との事だった。

何ともギリギリな指示。
しかし訝しむ時間は無く
取り敢えずは伝言通り移動する事に。

🧒「こんなギリギリに変更になるか・・・?」
🧑「でも本当かもしれないし?」
🌕「仕方ないよ、じゃあまた!」
🗣「場所は保管室だって」
🌕「保管室か、分かったありがとう!」

仲間2人が不思議がる中、
本番も迫っていた為特に不思議がる間も無く
は言われた場所へと走り出した。

🧒「てかさ本番前の衣装、保管室に置くのっておかしくない?」
🧑「だよね・・・仮に置かれてたならもっと早く知らせるでしょ」

2人がそう話していた事を
は聞く事なく保管室へと急いでいた。

を呼びに来たJrも2人に同意。
確かに何でだろう、と首を傾げた。

そんな事とはつゆ知らず、
6Fにある保管室に辿り着いたは閉じている扉をノック。
しかし応答は無い、気になって少し扉を開閉

と同時に声が掛かった。

👥「そこで何してんの?」

パッと其方を見ると2人組のJr。
何とも訝しげにを見ている。

当然やましい事は無いので
俺の衣装はこっちにあるから
保管室に来るよう言付けを受けたと話した。

それを聞いた瞬間、2人組の表情が変わる。
私を見て何かに気付いたようにヒソヒソ。
2人組の様子から改めて嫌な予感を感じた。

🌕「取り敢えず中入ってみるよ」

衣装置いてあるかもしれないし
と、2人組から視線を外しノブを回した。

が、急に肩を掴まれ右を向かされる。
余りの勢いに一瞬だけ目眩がした。

👥「無視すんなよ」
🌕「え?」
👥「そこは大人しか入れないとこだろ」

は?

思わず私の目は点になった。
改めて扉の上に貼られたプレートを読む。

『保管室』

うん、保管室だね。
確か私の見間違いじゃなければ
この事務所の案内板と案内図には

関係者以外立ち入りを禁ずる。
とは書かれていたが、私は関係者に値する筈
それは目の前の2人組も然り。

🌕「いや、俺達も入れるよ・・・?関係者だし・・・」

納得が行くよう親切心から私は2人組に話した、
事務所の案内板と案内図にも
部外者は立ち入りを禁ずるけど

俺達Jrは関係者だから入れる筈だと。
嘘だと思うなら瞬間記憶能力に誓ってもいい

だが、2人組の表情は晴れる事なく
逆に訝しむ色が増した。

👥「・・・お前のが正しいとか思ってんの?」
🌕「そうじゃなくて書いてあったから・・・」
👤「記憶力が良いからって自慢かよ」
🌕「そんなつもりないもういい話にならないわ」

からすればただの言い掛かりにすぎず
時間の無駄だし早く着替えたかった。
こんな時にうざ絡みされる謂れもない。

しかしこの対応に頭に来た2人組は
再びの肩を掴んで振り向かせ
が開けた扉を見た後、腕を振るった。

――バキッ!

鈍い音が響いたと思った瞬間。
私の右頬に圧が掛かるや左側に吹っ飛んだ。

🌕「いっ――・・・」

大きく吹っ飛んだ体は棚にぶつかり
左肩と腕に痛みが走る。
それから口の中に鉄の味が広がった。

頬に受けた痛みから、思考もぼんやりする。
多分殴られたんだ、とゆっくり認識した。

👥「あ~殴っちまった気持ちわりぃ」
👤「Snow Manさんに選ばれて調子に乗った罰だな!」
👥「お前みたいにロボットになれば俺らも選んで貰えるんかな(笑)」
👤「ちげーよ多分コイツの見た目だろ」
👥「あ~、確かにそっち系の大人に受けそうだよな」

コイツら・・・最悪。

そうは思っても言い返せなかった。
殴られた衝撃と打ち身が痛いのと
私自身も彼ら2人と同じ事を感じていたから
何故私が選ばれたのか。

Jrに入ってから数ヶ月のスピード抜擢。
特にダンスや歌が上手い訳でもなければ

アクロバットが出来るでもなく
何ら優れた部分のない人間。

そんな人間が、自分より経歴も長く
多くのレッスンで己を磨き
グループに選ばれる事とデビューを夢見て日夜レッスンに励んで来た者達を

後から来た人間が追い越して選ばれたのだ。
そりゃあ面白くないだろう。

彼らも怒る権利はある。
だから甘んじて受けようと思った。

👤「何も言い返さないとかつまんねぇな」
👥「そんな奴に今夜の収録出る権利ないね」
👤「俺のがお前より歴長ぇから代わりに出てやるよ」
👥「お!良いねそうしちゃうか」
👤「どうせただ踊ってるだけだろうし」
👥「良かったな代わりに出てやるってよ」

立ち上がる事すら出来ないに対し
好き勝手に揶揄しまくる2人組。
何かもうどうでも良くなった。

出たいなら出ればいい。
どうせバックのJrは踊ってるだけだ。

などと思ってるんだろう。
ならそう思いながら出ればいいと思う。

🌕「任せるけど・・・頑張ってね――・・・っ!」

口の端で笑みを作れば
気に入らないと保管室に入って来たJrに
胸ぐらを掴まれ、思い切り殴られた。

👤「マジ腹立つ!」
👥「そこで頭冷やしてろよ!」

あ~あ・・・殴られちゃった。

🌕「まさかこんな早く敵視されるとはね」

よからぬ嫉妬や僻みは受ける覚悟はしてたけど、
抜擢されたその日からだとは予想外。

それくらい皆頑張って来たんだもんね・・・
私みたいな奴が一抜けしたら面白くないよ。
収録・・・最後だから出たかったな・・・。

身体中痛いし、顔殴るかなぁマジ。
女の子だぞ私は🤨
あ~・・・ほっぺ痛いなぁ・・・っ

🌕「うぅっ・・・」

何だか泣けて来てしまい
誰も居ない保管室に私の嗚咽だけ響いた。


一方その頃。

を気にしつつ稽古に励む兄達。
激しく厳しい稽古の休憩中
阿部は神妙な顔付きで椅子に腰掛けた。

そこへ現れる人影。
人影は座る阿部の相向かいに腰掛ける。

💜「阿部ちゃん」
💚「ふっかか、どうだった?」
💜「うん・・・」

朝もやり取りした事だが
の事を危惧していた阿部の事を思い
深澤は稽古場に着くなり座長滝沢に掛け合い
自分達の憂いを相談していた。

早抜けしたいとは言わない。
それでも様子が気になる。
何とか休憩中にでも様子を見に行けないかと

滝沢の返答を深澤は阿部に伝えに来た。
言うて本番も間近に迫る中
休憩中とはいえ、抜けれるかは分からない。
阿部が固唾を呑む中、深澤は口を開いた。

💜「OKだって」
💚「ホント!?良かった~」
💙「なになに何の話してんの?」

色良い返事にパァっと笑顔になる阿部。
まだ末っ子気質が抜けてない様は可愛らしい

そんなやり取りをしてるとこに更に人影。
にゅっと顔を出したのは三男の翔太だ。

左手にはペットボトル飲料水。
休憩中だから買ってきたんだろう。
俺も混ぜろよと言わんばかりに隣に座る。

一瞬深澤と顔を見合せた阿部。
まあ同じ兄弟だしそれ以前にメンバーだ。
隠す必要はないなと、阿部は翔太にも話した

💚「今日からくん、ここに入るんだ」
💙「ここ?ってSnow Man?!」
💜「そうだよって声でけぇよ翔太(笑)」
💙「ああごめん、マジか~凄いじゃん
💚「うん・・・」
💙「なのに何で阿部ちゃんは暗いの」

いやぁさ、と翔太の問いに口火を切る。
異例すぎるスピード抜擢だから
少なからずアンチが出てくるだろうな、と・・・

💜「だから心配してるんだわ」
💙「ああね、けど心配し過ぎって場合もあるじゃん?」
💚「俺も気にしすぎだって分かってるよ・・」

でも、何となく嫌な予感がするんだ。
周りからすれば恵まれすぎと感じるだろうし

ちゃんは自然と周りを惹き付ける子だ。
嫌でも注目を浴びてしまう。
大学院での事件がまさにソレだ。

本人は静かに過ごしたいのに
勝手に敵視した外野がそれを許さない。
・・・何とも理不尽極まりない環境。

何事も無くJrからSnow Manに・・・
とは行かないと、阿部は感じていた。

💙「考えすぎは良くねぇと思うけどな」
💚「うん、だから見に行くのは俺1人で」
💜「えっ?俺も付き合うよ心配だし」
💚「・・・良いの?」
💜「当たり前じゃん俺だって兄貴だぞっ」
💙「兄貴だったんだ(笑)」
💜「翔太煩い(笑)」

ただし、自分の主張を押し通す気は無い為
同意を得られずとも見に行くのだけは譲らず
意思は堅いんだという姿勢を示した阿部。

対する深澤は、そんな意図を読み取り
1人で背負い込みそうな阿部に気付き
最初から決めてたかのように同行を示す。

するとそれを見ていた翔太から
1つ提案が出された。

💙「行くなら涼太も連れてって」

と。
何とも意外な展開に2人して翔太を凝視した
他の兄弟じゃなく宮舘を選んだ理由は、

俺らより冷静だから、だそうだ。
確かに納得が行く理由だなと笑ってしまう。

照や佐久間、並びに翔太は意外にも熱血。
何も無いのが一番だが
もし何かが起きた場合、手が先に出そう。

それならまだ冷静な判断が出来そうな宮舘を
自分らと行かせる方がマシと思ったのだろう

💜「分かった、舘さんにも頼んでみる」
💙「ん!」
💚「翔太、ありがとう」
💙「別に、くんの事任せたからな」
💚「――・・・!うん」

何だよニヤニヤしてキモイぞ阿部!
とか辛辣に言っている翔太だが
明らかに照れてるのはバレバレだった。

こうして照と佐久間には内緒のまま
次の休憩に稽古場を抜け出す計画が練られた