過去を知る者
あの時の事を知る奴なんて、いないと思ってた。
辛い記憶と一緒に、過去に置いて来た物だと
俺自身・・・油断してたんかもしれない。
誰にも知られたくない。
隼人達に知れたら、どうなるだろう。
気を許してるように見えて、まだ信じ切れてない。
そんな風に受け取られたら・・・
俺はまた一人になる。
常に『絆』を大事にしろって言ってた自分。
けど現実は、一番守れてない。
こんなままで・・俺は隼人達といていいのか?
そんな俺が、あいつ等に偉そうな事言えねぇのに。
『ねぇ、あたし達同じ高校に行こうね!』
無邪気に笑って、俺を振り向いた。
その笑顔が眩しくて、でも嬉しかったのを覚えてる。
本当に心から、失くしたくないと思った親友・・・
どんなに一緒にいても飽きなくて、毎日が楽しくて。
この関係のまま、この先も一緒だと思ってただけに・・・
『離せ!あたし達に関わらないで!』
『そんな口利ける立場か?あぁ?てめぇ』
あの日を境に、俺達を巡る環境は変わってしまった。
忘れたい記憶程 より鮮明に残り
聞きたくない言葉程 こびり付くかのように残る。
『こっちこいよ!お友達も楽しませろや!』
『駄目っ!は関係ないだろ!』
突然絡んで来た高校生。
はそいつ等を知ってるみたいだった。
何かヤバそうな雰囲気だったから、早く帰りたくて
俺―あたし―は、の制服を掴んでただけ。
高校生達は不良で、口調も荒っぽくて本当に怖かった。
だって怖いはずなのに、懸命にあたしを庇って
不良とあたしの間に入ってくれて・・・
こんなに近くにいたのに、あたしはを助けられなかった。
「ごめ・・んな・・・・・・」
隠して、気づかないように 気づかれないようにしてた。
でも 何処かで忘れてはならなくて。
自分を縛り、見えない鎖に縛られてた。
どうしたら俺はに許してもらえる?
閉じた瞼の裏で、優しく微笑むの姿。
そのの姿と交差するように、場面が切り替わる。
あたしを庇うを、不良高校生が払いのけ
慌てたあたしを不良高校生が、車道へ突き飛ばして
『!!』
あたしへ手を伸ばしたの顔・・・とても真剣な顔。
しっかりと掴まれた、の腕の感触だけが強く残り
入れ替わるように車道へ出たを、車が・・・
其処であたしは、思い出す事を拒み 記憶を閉じた。
「いやだっ!!!」
カバッと起き上がった俺に驚いたのは、両サイドの隼人と竜。
「おまっ・・どしたんだよ、急に大声出しやがって。」
隣から、驚いた声で隼人が聞いてくる。
ゆっくり視線を向けた先には、血まみれの・・・ではなく
「隼人・・竜・・・わりぃ、寝すぎた。」
「別にいいけど、まだ顔色悪いぜ?」
生理のせいだけではない、この不快感。
気づいたら冷や汗をかいていた。
心配した竜から、声がかかる。
心配掛けまいと俺は汗を拭い、笑いかけて二人に言う。
「此処来たんだな、タケ達は凧揚げかよ。」
苦しい誤魔化し方に 竜は何か言いかけたが
隼人と目配せし合い、に合わせて会話を続けた。
その後は、何時も通りゲーセンに行って
偶然居合わせたA組の本田からチャリを借りた。
何でも、それは俺の体調を気遣っての事だった。
歩くのも辛そうにしてる、見るに見かねての理由。
つっちーがこいで、俺が後ろに乗せられて
しばらく隼人が支えたり、タケと竜と並んで話しながらだった。
しかーし、途中からふざけっこに発展しかけたから
俺は丁重に断ってチャリを降りようとしたら・・・・
ニケツが見つかって、俺が止めるのも無駄でつっちーは逃げてしまい
こうして警察へ連れて来られる羽目となった。
俺が一番・・・いや、あの日以後 決して行くまいと誓った所に。
ったく・・・こんな体調の日に、此処に来るとは。
まあ、俺と関わりのあるあの察じゃねぇし
テキトーに従っとけば、その場は済む。
「土屋!日向!嘩柳院!」
立ったまま問い詰められてると、バタバタと走る音と一緒に
久美子の声が届いた。
振り向くと、久美子の後ろに隼人と竜・タケの姿。
どうやら、わざわざ久美子を呼んでくれたらしい。
俺達の方に来ると、机に向かう刑事へ頭を下げる。
その久美子の横で 同じく駆けつけた隼人達が俺へ話しかけた。
「あれ?だけか?」
「ああ、俺は体調が悪そうだからって・・俺だって乗ってたのに」
あれじゃあつっちー達が悪いみてぇじゃん、と
はムカムカした様子で 二人がいる部屋の方を見る。
こんな時でも仲間を案ずるを見て、隼人達は微笑む。
これは何時も通りのだ・と。
夢を見て、俺達の知らない名を呼んで涙してたのが嘘のよう。
「あいつら何もしてねぇよ」
「だから今それを調べてる所だ」
「早く帰せって言ってんだろ、このヘボ刑事。」
「よせ矢吹、お上に逆らうんじゃねぇ!」
どんなに久美子が頭を下げ、頼んでも警察は調べてるの一点張り。
いい加減頭に来たのか、珍しくタケが口調荒く声を張り上げた。
隣の隼人も苛立った様子で言葉を発した。
そこまでは普通に見てたが、久美子の言葉に全員の声がハモった。
「「「お上!?」」」
その場にいた刑事さえ、結構前の時代の言い方に久美子を振り向く。
言葉は発しないが、竜も驚いた目で久美子を見た。
「あ・・いや、でも自転車は本当に盗んでないようなんです。」
全員の視線を受け、凄いヤバ気な顔を一瞬したが
すぐに笑顔に戻り 話の矛先を変え、本来の話に戻す。
その時だ、俺は次に現れた男の姿に 声を失った。
「こいつ等の言う事を信じてるんですか」
声だけで分かった。
忘れもしない、あの時立ち会った刑事だ・・・
何でこの警察署にいやがるんだ?
現れたのは、紫の革ジャンを着て黒いスーツを着た刑事。
そいつは傲慢な態度で、俺達の方に来ると
ドカッと机に片足を乗せて椅子に座った。
態度のデカイ刑事を、不愉快そうな目で睨む隼人。
竜とタケは、机に乗せられた足を見ている。
「ウチの子達、嘘はつきませんよ?」
その態度を見ても尚、久美子は冷静に言葉を返す。
「そんな簡単に信じるようじゃ、おたく学校じゃあ
舐められてるでしょ・・うん?」
マズッ!変わってねぇ態度に、睨んでたら目が合っちまった!
慌てて隼人の後ろに隠れる。
不思議に思った隼人だが、何となく自然と体でを隠す。
だが、の姿に気づいた刑事は 嫌味ったらしく顔を歪め
立ち上がるとわざとらしく俺の前に立った。
「おやおや?おまえ、どっかで見た事あるなぁ・・・」
「俺は見た事なんてねぇ、気のせぇだろ。」
「ほほお?不良をあれだけ嫌ってたアンタが、こんな奴等といるとは・・・人間変わるもんなんですねぇ。」
コイツ・・・言わせておけば・・!
挑発するような言い回し、カッとなって前にいた隼人の腕を握る。
「ざけんな!相変わらずそうやってはなっから疑いやがって!
だったらあの時の事だって、詳しく調べてりゃ良かったんだ!」
込み上がる怒りを抑えきれず、隼人の腕を掴んだまま俺は怒鳴った。
その剣幕と、腕を握る強さに隼人は驚く。
周りにいた久美子達も、辛さで顔を歪めたを見つめた。
こんな顔をして叫ぶのは、竜の事件以来だ。
怒鳴り足りない、もっと怒りをぶつけてやりたい。
しかし、今にも刑事を殴ってしまいそうなを 隼人が諌めるように、俺の肩を押さえる。
「変わったもんだなぁアンタも・・まあいい。」
刑事は滑稽そうに笑うと、今回は俺に免じて許してやるとか
意味のわかんねぇ事を言い始めた。
そのついでとばかりに、今度は黒銀の3Dをけなし始め
黙ってられなかったのか 久美子が一人怒鳴った。
「許してやるだと?その上あたしの可愛い教え子を
ここまでけなしやがって、もういっぺん言ってみろコラ!」
このキレっぷりに、タケを筆頭に全員で久美子を落ち着かせる。
そして、竜が久美子の前に立ち 小声で言った。
「お上には逆らわねぇんじゃなかったのか?」
「・・・そ、そうだな」
とまあ何とか落ち着かせる事に成功し、俺もさっきまでの怒りを
スッカリ忘れ 久美子の帰らせてもらいます・を聞き
生活安全課を出て行こうとした時。
背を向けて座ってた刑事が、思いもよらぬ事を告げた。
「それと、嘩柳院さん。アンタ、最近誰かに見張られてるよ
何か起こる前に気をつける事だ。」
―あの時みたいにならないようにな―
目を見開いた俺の耳に、ヤケにその言葉が圧し掛かった・・。