籠の鳥



俺の提案で、宮崎さんの塾が終わる時間まで
この辺をブラつく事にした。
特に何をするって訳じゃなく、ウィンドゥショッピング?

女同士で、こうやって店を見て歩く・・結構やってみたかった。
この三年間は、そんな事考えてる場合じゃなかったから。

宮崎さんと話ながら、こうして夜の街を歩いてる。
何だか不思議だけど ワクワクしてる自分がいた。
時間はもう七時過ぎてるのに、賑やかな通りを歩く。
今までなら、絶対に在り得ない事。

あの事がなければ、平和だったかもしれないけど。
こんな風に夜歩きなんて、許されてなかったと思う。
家の規則に縛られ ある意味窮屈な生活をしてたかと思うと

今の自分が、どんなに自由なのかを実感。
全てがこうなる運命だった、必然だったんだ。

「先輩、遅くまで有り難うございます。」
「いいって、気にすんな。」

万引きを止めてから、軽く一時間は経ってる。
のにも関わらず、宮崎さんは何分か置きくらいに謝ってくる。
本当に真面目で礼儀正しい子。
そう思っても、俺はその型にはめて宮崎さんを見るつもりはない。

はニッと笑うと、何か食べる?と聞いてみた。
七時過ぎと言えば普通は夕飯の時間。
丁度視界にバーガーショップの看板と、レストランが映ったから
聞いてみた。

「えっと・・・どんな所何ですか?」

はい?これは素で言ってるのか??
ちょっとはリアクションに困り、その場で固まる。
俺の反応に、オドオドし始めた宮崎さんを見て
これはマジなんだと分かり、俺も吃驚しながらどんなトコか教えた。

「マックとかは、行った事ねぇの?あそこは気軽に入れる店。
ハンバーガーとかポテト売ってんの、うめぇよ〜。
レストランはご飯ものとか、洋食とか食えるトコ」

家族とかで行ったりしなかったのか?と聞けば
宮崎さんの表情は重いものになり、勉学に厳しくなったこの頃は
全く連れて行ってもらってないと告げた。
どうやら、ずっと塾通いばかりらしい。

これは俺が連れてってやりたい!と思い
遠慮する宮崎さんの手を引き 達はマックへ向かった。

ちょっと強引なだが、初めての場所へ連れてって貰えるのは
嫌じゃなくて、逆にドキドキした。
昔から憧れてたと、しかも男装した姿で一緒に歩けて
この時点で宮崎の気持ちは、高ぶっていた。

クールビューティーな、男装した事でよりそれが際立ち
街行く女性達の目を引いている。
そしてその魅力は、よからぬ男達の目も引いた。

「ヒューヒュー、いいのかよ中学生とデートなんかして」
「そうそう、こんなのが趣味なの?」

いざマックへ!って時に、俺達は揶揄した言葉に止められた。
空腹からギロッと声の本人達を睨む。
その先には、お世辞にもカッコいいとは言えない二人組みの姿。

こんなのって、すっげぇ失礼だな・・コイツ等。
つーか、絡むんなら他所にしろよ。

宮崎さんは、すっかりそいつ等に怯えてしまってる。
肩を小刻みに揺らし、俺の腕にしがみ付く姿はとても可愛らしい。
これが本来の女の子の姿だよなぁ・・。
もう俺って、アイツ等に染められてるからスッカリ男らしくなったよ。

「聞いてんのか?てめぇ!女みてぇな面しやがって。」
(だって女だもん)
「聞いてるよ、で?アンタ等何がしてぇの?」
「何って・・余裕言ってられんのも今のうちだぞ?」

どう今のうちなのか、説明してくれよ。
そう視線だけで問えば、馬鹿にされたと頭に来た男が
周りの視線も気にせず俺に掴みかかろうとした。

この黒銀に来たばかりの俺なら、黙ってされるがままだったろう。
でも今は違う、護身術として空手も習い始めたし
守られっぱなしなのが嫌で始めた空手。
俺もアイツ等を、ちゃんと守れたらって思ったのが大きい。

掴みかかった男を、背後に宮崎さんを庇ったまま避け
逆にその手を捻り上げた。

「いでっ!いででででっ!このぉっ・・」
「何しやがる!」
「それはこっちのセリフだよ、大して何も出来ねぇなら
軽々しくケンカ売ったりすんな!」

ちょっと鼻にかかる奴がいれば、すぐにケンカを吹っかける。
それで相手が弱ければ、調子づいて金を巻き上げたり
陥れたりする。
逆に敵わないと分かると、尾っぽを巻いて逃げる。
全くくだらねぇ!こんなんばっかだから、駄目なんだ。

何処かの高校生の不良達、のこの言葉にはマジ切れしたらしく
に手を掴まれてない男の方が、死角から殴りかかった。

「先輩危ない!」
「!?」

逸早く気づいた宮崎が、悲鳴のような声で注意を知らせる。
だが 気づくのが遅かったのか、既に男の拳が
俺の目の前に迫っていた。
これは避けられねぇっ・・・!

殴られるのを覚悟して、歯を食いしばった。
目を閉じたの耳に、唸る拳が切る風の音が聞こえ
それが俺の顔に到達する前に、パシッという音が聞こえた。

痛み以前の疑問で、ゆっくり目を開けて吃驚。
男の拳を受け止めていたのは・・・・

「つっちー!?」
「おう、。でオマエ等俺のダチに何してんだよ。」
「それはこっちのセリフだ、俺等を馬鹿にしやがって!」
「しょーもねぇケンカ売るからだろ」

背の高い後姿、他の誰でもないつっちーだ。
俺を殴ろうとしてた手を、掌で受け止め
短く返事すると、その目を二人の不良へ向ける。

また言い合いが始まりかけ、宮崎さんもオロオロ。
やっと宮崎さんの存在に気づいたつっちー。
これ以上巻き込むのも酷だと思い、適当に嘘を並べた。
嘘ってゆうのは、この後仲間がいっぱい助っ人に来るとか?

不良ってさ、ガラ悪いけど単純であしらい易いよな。
↑結構 禁句。

「はぁ、とにかくやり過ごせたな。」
「てゆうか何でオマエ、この子と一緒にいるんだ?」
「え?・・・まあ、訳は色々とな。」
「いいです先輩、私どうしてか万引きしようとして 先輩が止めてくれたんです。」

言葉を濁した俺、驚いた事に宮崎さんから
包み隠さずにつっちーに打ち明けた。
その素直さと、万引きの言葉につっちーは顔色を変える。
意外さと、優等生と言われていた彼女の心の悩みを見た気がして。

「優等生も、結構大変なんだな。」
「だよな・・籠の鳥って感じがしてさ。」

『籠の鳥』
何処に出るのも、何処に誰と行くのも決められてて
自分の足で歩く自由を規制される事。
あくまで俺の考えだけどな、規制と籠の鳥って言葉はさ。

自由に羽ばたける羽根があるのに、許されない。
がんじがらめに鎖で縛られてるような・・・
遠い目をしてるを、隣から土屋は見つめた。

最近まで、自分自身で自由を規制して生きていた
でも今はその鎖を断ち、自分自身の羽根で自由に生きてる。

そう生きる権利が・・・この子にはあると、土屋も思った。

「そうだ、つっちーも付き合ってよ。」
「は?何にだよ」
「宮崎さんの塾が終わる時間まで、どっかで遊ぼうぜ!」
「はぁ?いいんかよ、そんな事してて。」

この子の意見も聞けよと言わんばかりに、土屋はを見る。
さっきまでとても真面目な顔をしてた
次の瞬間には、やんちゃな笑顔を浮かべてる。

さっきだって女なくせに、男相手に説教(?)
相手が二人だったから良かったけどよ、大人数だったらどうしてたんだ?
あ〜でもの事だから、大人数でも向かって行きそう。
俺達よりも仲間思いな上 無茶をする奴だ。

だからこそ、放っておけねぇんだけどさ。

うん?今そう思ったのって俺?
(おめーしかいねぇだろ)
今 竜の突っ込みが聞こえた気がした。

さてさて、またしても一人の仲間の気持ちが動いたのを知らず
つっちーも巻き込んだ時間潰しが始まった。