June act3



既に友人と目黒は連絡先を交換している。
こういう習わしなのだろうか?
見ればRookもを見つめていた。

ヤバい、私のアクション待ちしてるな?
もう来るつもりが無いから交換する気は無い

ってズバッと言ったら申し訳ないよね・・・?
でもホント不本意な来店だったのよ

「次回のエスコート相手は決まってる?」(Rook

どうしようか困るにRookから聞いてくる
そりゃ指名されたって事は次回もされる前提だろうしな・・・

「ごめんなさい・・・次回とかは考えてなくて・・・・・・」
「ふふ、大丈夫。それならそれで構わないから
万が一来店した時に俺から姫君に指名して貰えるよう努力するよ」(Rook

やんわり断ったらこの返しが来た。
ロイヤルだ・・・・・・・・・!いや、上品な人だな

ホストってガツガツ営業して来るとばかり思ってたから
Rookさんの返しには普通に吃驚スっと私の右手を取ると
実にスマートな動きで手の甲に唇を落とした。

「!?」
「また会えるようにの徴(しるし)だよ」(Rook
「Rookさんやべぇわさすが先輩」(目黒
「きゃ〜ヤバいわRookさん」(友
「はわわ・・・!そ、それじゃサヨナラっ」
待ってよ〜2人ともまたね」(友
「姫君方、気を付けてお帰りを」(Rook
「ありがとうございました〜」(目黒

タクシーは頼まず、私達は近くのホテルへ。
帰りは深夜24時になるのを見越し
予め近くのホテルを予約していた。

こうしてホストクラブ初来店は終わった。
この先に待つ思わぬ出来事を私はまだ知らずに居た。


某高級タワーマンションの一室。
モノクロの内装、高級なラグ。
家具も全て1級品で揃えられたリビング。

テーブルにはワインとワイングラスが置かれ
灰皿には吸殻が数本、革張りのソファーの背もたれに掛けられたスーツの上着は濃紺。

リビングから寝室に続く途中にも服が落ちている
白のネクタイと紺色のシャツも脱ぎ捨てられ、そこに混ざる一回り小さな服。
スカートや下着、察するに一夜を共にした男女の部屋という感じだ。

日付が変わり、夜が更に更ける頃
上質なベッドに眠る男女の影。
女は男の腕枕でスヤスヤ眠っている。

2人とも寝ているかと思う時間帯。
不意にどちらかのケータイが振動した。
女に腕枕していた俺が身動ぎし、手を伸ばす
まだ眠そうだが何とかケータイを握ると

『もしもし、照?』
「・・・ん、あれ、舘さん?」

まだ眠さでぼんやりしていたが、電話の相手に吃驚して岩本は目が覚めた。
癖で時間を確認すると、店が閉まったと察す

てっきり事務担当の阿部が寄越すと考えていたから
宮舘だという事に虚を突かれた。

一方の宮舘、岩本が今何をしてたかは
電話に出た眠そうな声で察した。
取り敢えず今日の営業報告を代表の岩本に報告。

岩本は眠る女を起こさぬよう腕を引き抜き
自身も起き上がり宮舘からの報告を聞いた。

『阿部を永久指名してる燗さん来店』
「・・・大丈夫そうだった?」
『うん・・・・・・ふふっ、大丈夫だったよ』
「?え、何舘さんが笑うとか珍しいな」
『ちょっとヒヤッとはしたんだけどね?』

うん?と分からないまま先を促す岩本。
すると促された宮舘は思わぬ話を始めた。

今日来店した新規の客を阿部に任せたのだが
本来来店予定の無かった燗が急遽来店。

手洗い後の阿部らと鉢合わせ
場内が緊張感に包まれたその時
阿部に任せてた新規の客が意外な発言をし

唖然とした燗は、特にヒステリックを起こす事なく
新規客も上手く立ち去った事で大きな騒ぎにはならなかった。
キャバ嬢NO.1な燗はプライドが高くワガママ

ホスト達すら手を焼く相手を唖然とさせるとは、是非とも会ってみたい客だね。
電話口でそう言って笑う岩本に宮舘が言った

『阿部は知ってるみたいだったよ』
「・・・阿部が?なんで」
さんまたね、って帰りも呼んでた』
「――!?」
『その反応からして照も知ってるんだね』
「んー・・・まあ、他は平気だった?」

宮舘の発した思わぬ名前。
先月はホストに対する嫌悪を表していた

だから来るはずはないと思っていただけに
やたらと驚いてしまう自分が居た。

他人の事に不干渉なこの世界、察せはせど
それ以上は踏み込まない宮舘に安堵する岩本

今踏み込まれても説明は出来そうになかった
なんでこんなにも吃驚したのか、を。

後は大丈夫だよ、と宮舘は語り
さんはもう来るつもりは無さそうだったよ。
とだけ話し、通話は切れた。

ったく・・・
俺が聞いてない事まで話したな舘さん。

「はあ・・・嫌いなんじゃなかったっけ?」

それとも俺にだけそう言っといて
ホントは興味あったの?

直接本人の顔見ながら言ってやりたいね
どんな顔して言い返すかな。

あんな嫌悪感丸出しで警戒してたのは何だったん?
何で俺、嘘つかれた気になってんだろ
この訳の分からない感情をどうしてくれようか。

「ひかる、どうしたの?」

ベッドに上半身だけ起こしたまま
の事を無意識に考え
感情を揺さぶられていた岩本を呼ぶ声。

顔を向けた先に、寝ていた女が俺を見ていた
どうやら目を覚ましたらしい。

「・・・店から電話で今日の営業報告来てただけだよ」
「良かった、何処かに行っちゃうのかと」
「行かないよ、今夜はお前の傍に居る」
「うん、傍に居て、居なくならないで」
「ん・・・・・・居なくならないよ」

そういう契約だから――

不安顔で岩本を見つめる女性。
一糸纏わぬ姿から、肉体関係にある事は明白

店からの電話だよと話す岩本の腕を引き
枕の方に引き倒す力は弱いが、
敢えて岩本から倒れてやり、仰向けに寝転ぶ

ベッドに戻した岩本の胸元に縋り付く白い腕
胸板に頬を寄せる女性を一瞥し
細い肩を引き寄せ、岩本から女性に口付けた
不安顔の女の気を逸らし、安心させる為に。

この関係は契約という名の約束。
俺はただ、彼女を愛し、満たすだけ。

細い腕を俺の首に絡ませ抱き着く女。
まだ抱かれ足りないんだろう。
満たすつもりで抱いてるが、
本当の意味で満たされたいのは誰なのか

答えは出そうになかった。
多分、俺自身も満たされたいんだと思う。
今この手で抱いた女とは違う誰かに。

キスをせがむ女に、深く口付けながら
頭の中では違う誰かの姿がぼんやりと浮かんでいた。


June.おわり