June act2
「あの子はホスト嫌いなの?」(目黒
「・・・分かっちゃいますよね、ははは」(友
直球の質問に友人は苦笑を浮かべ
簡単に身の上話を目黒に聞かせ始めた。
の母親が1人のホストに入れ上げ
そのせいでの家庭は崩壊。
両親は離婚し、はホストと店舗を憎んでると。
「でもここには来たんだ?」(目黒
「私がどうしてもって誘ったんです」(友
「なるほどね」(目黒
「嫌がってるのに来てくれた良い子なんですよ・・・」(友
「そう言える貴女も俺は良い子だと思うよ」(目黒
「ふふふ、ありがとうボンベイくん」(友
というやり取りがされてる頃、は洗面所
少しだが卓を離れた事で落ち着く事が出来た
胃のむかつきは治まったが酒は飲めそうに無い。
取り敢えず帰りたい気持ちは変わらなかった
だが友人はまだ帰りたがらないだろう
念願叶ったようなモンだしなあ・・・
まあ来る事は出来たし、付き添いも今回限りだからもう少し付き合うか・・・。
「大丈夫だった?さん」
「あ・・・名前、それに待っててくれたんですか?」
「ここなら他の目が無いからね」
待つのは当然だよ、まだ慣れないし卓の場所とかあやふやでしょう?と阿部は笑う。
まあ確かにその通りだ・・・
店に入るのもホストクラブも初めてなのだから。
ナチュラルに呼ばれた名前。
やはり阿部はの事を記憶していたようだ
戻る際も当然のように掌を出して来る阿部。
数秒迷ったが、諦めて手を重ねた。
そのまま友人が居る卓にエスコートされる・・・
なんなんだろう、めっちゃ恥ずかしい。
軽く拷問されてる気持ちになる
店内は早くも大盛り上がりで
彼方此方からシャンパンコールやら
何某入りまーすとかが聞こえて来る。
見渡した店内に、岩本さんの姿は無かった。
やっぱ代表ともなると店には来ないんだろな
って、なに探しちゃってるんだろ私。
ちょっとした自己嫌悪に浸っていると
少し前を歩く阿部の声が至近距離で聞こえた
「俺と居るのに余所見しちゃってる?」
「!?あ、え、ごめんなさい・・・」
「はははさん面白い(笑)」
「失礼とかでしたらごめんなさい」
「良いよ、後もしかして照探してた?」
「――!・・・違いますね」
歩きながらニコニコして鋭い質問をする阿部
反射的に謝ると阿部にまで面白いと笑われた
何がどう面白いのか是非教えて貰いたい。
内心溜息を吐いた所、再び切り込まれた。
ズバリ、を指摘されたのだ。
苦し紛れにしか見えない誤魔化し方をした為
聡明な阿部には読み取られてしまう。
少し歩みを止め店内の隅にエスコートされた
「照は男本にもあるけど代表だからね、滅多に店には来ないし表にも出ない」
「・・・なるほど?」
「ただ稀に出たりするから載せるだけ載せてるんだよ
だから偶に君みたいに指名しようとする姫も居るかな」
はあ、と曖昧な相槌だけを返す。
いや遊びに来た訳じゃないからさ?
わざわざ静かめな隅に来てまで説明して貰ったのが申し訳ないなぁと。
それより友人の卓に戻りたい(・∀・)
紺色のスーツに身を包む阿部は画になる。
タピオカ屋に来た時と店内では
照明のせいか、別人みたいな印象を受けた。
阿部側も、特に強い食いつきをしないに
想像してたより冷めた印象を受け
店に来る一般的な姫とは違う子だなと
視界の端でを分析していた。
友人の方がまさに一般的な姫の反応だろう。
そろそろ帰してあげようかな、と卓へ戻るべくの手を引いたその時だ。
「あ、Bishopここに居たんだ〜」
「??」
少し大きめの声が阿部を呼んだのだ。
エスコートされてたは勿論吃驚し
阿部も少し驚いた目を声の主に向けた。
2人が見た先に居たのは女性客。
居たの言葉通り、阿部を探してたのだろか?
ホストクラブは大抵音楽が大きく
雑談の声も賑やかなイメージがあったが
この『SnowDream』は比較的落ち着いた所
賑やかなのはシャンパンコールが入る時のみ
後は基本騒ぐ客は居らず、大人な空間だった
それもあって、この客の声は中々に大きく
付近に在る卓の客からの視線も浴びた。
目立つのは避けたいし恨まれるのもヤダ。
やたらと私を見る目が怖いし・・・
「これはこれは燗(らん)さんでしたか」(阿部
「折角来たのにBishop今接客中って言われたから顔だけ見ようかと思ったの」(爛
わあ・・・こりゃあ夜の蝶ですね。
阿部に燗と呼ばれた人は明らかに同業。
服装も華やかだし本人も服に負けてない。
一応私も一張羅着てきたけど勝ち目はない笑
阿部と話す時もしなやかで自然に寄り添う・・・
なんか場違いな気がして来て落ち着かない
顔だけ見に来たならすぐ帰るのかなと思いきや、
阿部の手を握ったり肩に手を置いたりと
なんか、私を気にしながら触ってる。
え、まさかの私に対するアレ?
その、牽制的なやつ?
そう考えたらそうにしか見えなくて失笑。
「安心して下さい、私付き合いで来ただけですしホスト嫌いですから」
「――は・・・?」(爛
「さん、それは・・・(笑)」(阿部
面倒事を避けたいあまり発言していた。
直球すぎる言葉に、燗も付近の客も唖然。
そんな中、阿部だけが半笑いだ。
一応止めてみるがキョトンとしてるには伝わらず、次いで思った事を口にして行く。
「?だって私にBishopさん取られると思われたのかなって」
「ばっ、バカにしてる?」(爛
「いえ?ただ可愛らしいなって」
「・・・・・・かわいらしい?」(爛
「ええ私は戻るんで後はごゆっくり」
「さん?(スタッフに目配せ)」(阿部
ニッコリと燗に笑み、阿部の背を彼女へ押す
の言葉に一瞬だけムッとした顔になった燗だったが、思わぬ返しに怒気を削がれ
ポカーンと呆気に取られた顔のまま言葉を失くした
このタイミングで歩き出したに気づき阿部がスタッフに目配せ。
阿部の目配せに気付いた人物がを追った。
「お姫様待って待って〜」(?
「へっ?」
歩く私を呼んだのは関西のイントネーション
何だか意外だなと感じ、振り返る。
すると仔犬みたいな印象の青年が歩いて来た
スーツは着ているからホストの1人だとは思う
ただ、他のホストには無い雰囲気だなと。
「卓に戻るなら送って行くで」(ホスト
「あぁ、ありがとうございます」
「さっきの見とったけど凄いな姫さん」(ホスト
「・・・何がです?」
「あの燗さんにあそこまで言える人滅多におらへんで?」(ホスト
阿部の代わりに卓へエスコートしながら
その人が感心しながら話す。
生憎と何が凄いのかは分からない。
そうなんですか?と一応相槌だけ入れた。
「やっと来た!さっき大丈夫だったの?何か絡まれてたけど」(友
「お帰りなさい姫、とバリニーズ」(目黒
漸く卓に戻れた私を不安顔で友人が迎える。
戻るまで卓に居てくれたのか目黒の姿もあった。
目黒がこのホストの源氏名を呼んだので
彼はバリニーズが源氏名なのかと知れた。
ざっと心配してくれた友人にさっきの話を説明してみると
やたら吃驚した顔になり私を見た。
目黒さんもマジで?と言った後楽しげに笑う
私だけが3人のリアクションに着いて行けない(笑)
「が絡まれた人、燗さんは」(友
「キャバ嬢でしょ?」
「大正解〜姫さん鋭いわぁ」(バリニーズ
「『鵠蝶』って店のNO.1みたいよ」(友
「よく来られる人だよ、俺も偶にヘルプで呼ばれてご馳走になってますね」(目黒
「ボンベイは顔面ええからな〜」(バリニーズ
顔面じゃ勝てへんでも俺はトークでなら負けへんわ!
と明るく話すバリニーズくん。
何だかホストクラブに居るのにそう感じない
関西弁が不思議と和ましてくれるのかな
燗っていう人は夜の世界では有名らしく
殆どのホストクラブに現れては飲んで行く。
大体のホストクラブに永久指名入れたり
ホストが同業回りする際に逆指名され、開店祝いに同伴させてくれるとか。
へぇ・・・・・・?また知らない単語が
バリニーズが説明してくれたが、同業回りは
その名の通り、交流のあるホストクラブに飲みに行く事や他店のホストの誕生日祝い
人脈作り、接客の勉強等、他店の雰囲気を知る為等の理由で行く事を指す。
あの燗ってキャバ嬢は『SnowDream』が
グランドオープンする際、同業回りに来た他店のホストの同伴でここに来たのがきっかけ
今では阿部(Bishop)を気に入り永久指名中。
その流れで阿部のヘルプを務める目黒も燗と関わる機会が増え、着実にヘルプ指名料を稼いでいる
「Bishop暫く戻れそうにないみたいやな、今回は俺らで姫さん達を楽しませるで」(バリニーズ
「ありがと〜」(友
「確か初回だよね、焼酎ボトル1本と割り物飲み放題で5000だけど・・・飲む?」(目黒
「うーん・・・」
「まさか飲めない感じ?」(目黒
そのまさかです。
いや、その・・・飲めるけど焼酎がなあ
「焼酎は得意じゃないから・・・」
「割り物可だから割ってみる?」(友
「せやったら割り物この中から好きなの選んでや」(バリニーズ
「えーと・・・カルピスウォーター割りで」
「オッケ、バリニーズ頼むわ」(目黒
気前よくメニューを見せてくれたバリニーズ
メニューを見てみると、唯一飲んだ事のある
焼酎のカルピスウォーター割りを見つけた。
快諾した目黒がバリニーズにオーダーを頼む
2人の関係性が分からないが、テンポ良く進むやり取りから感じるのは2人の仲の良さだ
目黒が教えてくれたが2人は新人ホストで
入った時期も近く、住み込み先も隣同士なせいで仲良くなったとの事。
男同士ってすぐ仲良くなれるから羨ましい。
「この場合指名料って俺らに入るんかいなぁ」(バリニーズ
「2人がBishopさんから頼まれてるなら入るんじゃない?」(友
「バリニーズお前勝手に彼女エスコートしたりしてねぇんだよな?」(目黒
「してへんしてへんBishopに目配せされたんよ」(バリニーズ
「なら貰えるでしょ」(友
やったー!とバンザイするバリニーズさん。
なんかホストっぽくなくて良いな(笑)
友人はさすが詳しく、2人と盛り上がっている。
私はそれを眺めてるだけだが、楽しそうならまあ良いかなと眺めていた。
早く帰る事ばかり考えていたが、バリニーズの出現がその気持ちを落ち着かせてくれた。
まあ、ホストクラブとホスト嫌いは変わらないけどね
この後阿部が戻り、場を繋げてくれたバリニーズに友人とも感謝を伝えた。
そして帰る時間になり、バリニーズ再登場。
阿部や目黒は席を空けた。
改めてバリニーズから説明をされる。
「さて姫さん方、送り指名は決まってるかいな?」
多分これも友人が話してた気もする質問だ。
送り指名なあ・・・・・・
次回来るつもりもないし気楽に決めたらダメなのかな、分からない。
そんな間を察したバリニーズが説明を足す。
送り指名をしたからといって、次回必ず指名しなきゃならない訳ではなく
次回来た時に改めて指名するのでも大丈夫だそう。
まあ、もう来ないけどね
なら気楽に決めて良さそうね。
「それなら・・・店の出迎えの人が良いな」
「出迎え・・・ああ〜Rookさんやね」(バリニーズ
「そうこの人、大丈夫かな?」
「いけるいける、ちょっと待っててな」(バリニーズ
「私はボンベイくんが良いな」(友
「おっけー!ほんなら呼んでくるわ座って待っとってな」(バリニーズ
という訳で、送り指名完了。
バリニーズは明るく笑うと指名された2人を呼びに向かって行った。
はあ、やっと帰れる。
は分からないように溜息を吐いた。
何故Bishopにしなかったのか、理由は簡単。
燗とかいうキャバ嬢にこれ以上覚えられたくなかったからである
待つ事数分、バリニーズを先頭に現れる男性2人。
「お待たせしました、ご指名の2名です本日はご来店誠におおきに!」(バリニーズ
「指名ありがとう姫君、嬉しいよ」(Rook
「ご指名ありがとうございます」(目黒
てな具合に現れた2人のホスト。
バリニーズは元気に挨拶し、ニッコリ。
いや、彼のお陰で時間まで普通に過ごせたわ
内心でバリニーズに感謝する。
Rookとボンベイにエスコートされ、出口へ。
スマートに受付付近で初回料金だけを精算。
扉を目黒が開け放ち、最後尾のRookが店内へ
「姫君帰られます!」(Rook
「ありがとうございました!」(全員
「またねさん」(阿部
「・・・ありがとうございました」
ホスト達が全員立ち上がると私達に一礼。
何とも壮観な眺めだった。
この快感?に浸りたくて通うのだろうか・・・
少しだけ虚しさを感じたに
1番手前に居た阿部がウインク(あざとい)
またね、に対して返す言葉が見つからず
当たり障りのない挨拶だけを返して店を出た