July act5
Rough.TrackONEの店内を見渡してる風だった。
そのが突然呻いたのには流石の岩本も目を見張った。
幸い話に夢中なPawnらにの異変は気づかれていない。
それを幸いに、少し強引だが不自然にはならないよう動き
抱き寄せたままだったの肩を強く抱き、その手で後頭部を自分の方に向けさせる。
の頭を抱え込むようにして引き寄せた後そのまま小さく囁いた。
💛「落ち着け、何があった?」
🦢「・・あ・・・その・・居たんです・・・あの男が・・・・っ」
💛「ん、なるほど・・分かったからもう見なくていい、俺に抱き着いてもいいから」
と言って元凶を見つけ動揺するに囁く。
見つける事が目的なのに直視できず、強い酒を間違って飲んでしまう。
をホスト嫌いにさせ家庭を壊した全ての元凶となる男の事だと・・
まさか寄りにもよって大我の店に勤めてたとはな・・・
見つけ出すにしても最悪なタイミングっつーか、時期尚早だと思った。
目的として決めてたとは言え、まだ彼女の中では直視する心の準備が出来てないのだ。
それを裏付けるかのように直視出来ないは強い酒を間違って飲んでしまう。
間違えて飲んだのは度数の高い岩本のグラスの酒。
飲み込んだ瞬間、ぐらりと視界が回った。
なので躊躇うより先に岩本へしな垂れるようにして倒れ込む羽目に。
くぅ・・っ・・・距離を置いて座るはずだったのに、私のアホ。
それにしても酔った事ないのにこれどんな度数よ、喉が焼けるみたいに辛い!
🦅「あれ?そっちの子大丈夫?顔赤い」
💗「ホントだ大丈夫ちゃん」
🦁「ハーイ戻ったよ・・ってどしたの??」
💛「悪い樹、水貰って来れる?」
🦁「おお、勿論・・・て此処ではLoweだから(笑)」
💛「あ、ごめん兎に角頼むわ」
🦁「はいはい~」
抱き着いてでも良いから目を逸らせと促しはしたが
は重みを以ってしな垂れかかって来た事から顔を見ると
店内の灯りの下でも分かるくらい顔が赤らんでいる。
そしての前に移動した自分のグラス。
これは俺の酒間違えて飲んだな・・と察した岩本。
戻って来たLoweに頼み、水を持って来てくれるよう声を掛け
少しだけ視線を漂わせの見た元凶男を確認してみる。
度数の高い酒に目がトロンとし始めたから男の特徴を何とか確認した。
濃い茶髪と内勤の服装にひょろりとした体型、少し釣り目。
内勤ともなると見つけ出すのは難しいが、釣り目という具体的な特徴から見つけ出せた。
厨房のゴミや色んなとこのゴミを回収に回り
灰皿等のゴミも回収したりして外のゴミ捨て場に出しに行ったりしてるらしい。
内勤と言うより雑用中の雑用だな・・・ホストだったって聞いたが・・
あの様子から察するに転落して『犬』扱いに治まった感じか?
🦁「水貰って来たぞー、ハイ」
💛「おー、悪いな樹」
🦁「このくらいお安い御用っすよ、だからLowe(笑)」
💛「、水貰ったぞ・・飲める?」
🦁「って聞いてねぇ(笑)」
目視した男は眼光の鋭いホスト崩れだった。
容姿はまあまあだったからそこそこホストとして稼いだのだろう。
それがどういう経緯で犬に堕ちたのかは知らんが、気になった。
Loweから貰った水を自分に寄り掛かるの眼前へ出し
背中を支えるようにして起こしてやりながら有無を聞いてみる。
するとぼんやりだが目を開け、1つ頷いた。
💛「ゆっくり飲めよ?」
🦢「・・・はぃ」
一応伸ばされた両手に持たせて見るが、力が入らないらしくグラスがずり下がる。
仕方なく岩本がグラスを持ち、の口許に当てて飲ませてやる事に。
は限りなく恥ずかしさと悔しさを感じているが、喉の渇きに負けて傾いたグラスから水を飲み込んだ。
🦁「なんかめっちゃ甲斐甲斐しいねいわもっさん」
💛「樹煩い」
🦁「だからLowe!(笑)」
🦅「まあまあ樹、今回は特別に受け入れてやりなよ」
🦁「おめぇ楽しんでるな?」
酒焼けで声が掠れている同伴者を介抱する岩本を眺め、出たLoweの感想。
これは見ているPawnも同感だった。
まあ代表に収まってはいるが元来ホストでNo.3の指名を誇った岩本。
自ら同伴者に選んだ相手を責任持って介抱するのは当然なのかもしれない。
それでも以前の岩本を知ってる身からすると中々に意外な姿でもあった。
以前の岩本はホストとして成功しNo1になる事のみを目標にしている奴で
自分を指名してくれる客の要望には応えて来たが
酔い潰れそうな相手が自分の指名客だとしても、あんな風な言葉を掛けたりはしなかった。
思えばごく最近になってからだろう、機嫌がいいというか・・?
あそこへ行く回数が減ってるのは。
まあ数年前の岩本は、甘い言葉も口にするし抱き寄せたりアフターに呼ばれたり
それこそ肉体関係なんでザラだったな(振り返ると酷い男にも見える)
遊び慣れてても良いから遊ばれたいみたいな客から人気は高いし指名は後を絶たなかった。
代表になってからもそれは変わらないし、性質も変ってない。
今の今までそう思ってたPawn。
MSMに居たあの頃なら絶対にやったりしなかった事を今日の岩本はやった。
自分の指名客が居る前での、他のホストの指名客への営業行為。
もしこれを新人のボンベイ(目黒)かバリニーズ(康二)辺りがやらかしていたら
良くて『飛び』悪くて『犬』か解雇されていただろう。
重い処分に相当するタブーを彼はやったのだ。
自分の利益にならない事は絶対に犯さなかっただろうに。
そうさせるに足るものを、は持っているのかも?
何にしても良いきっかけになるような予感はした。
ちゃん付けしてたのに慌ててるから呼び捨てしてるしね
入店してから30分近く経過した頃、岩本のケータイが鳴る。
振動で気づき、胸ポケットからiPhoneを取り出し画面を見た岩本の目が細められた。
💗「・・・ふっかから?」
その顔を見た瞬間、相手は深澤ではないと分かりつつPawnは訊ねる。
訊ねられた岩本、図星だったのだろう驚いた目を向けてからすぐ逸らし
💛「えーと樹じゃなくてLowe、電話して来るから数分だけこの子頼む」
🦁「おお?おっけ、介抱しとく?それとも頂いて良いの?」
💛「歌舞伎町を歩けなくなってもいいならどうぞと言いたいが、大事な子だから手ェ出すなよ?」
🦁「おっかねぇ~いや冗談だから、いわもっさんの大事な子に手は出せません(笑)」
💛「ははっ、んじゃちょっと任す」
🦁「はーい」
は岩本の指名客で同伴者な為、Pawnに任す事は出来ない。
なのでが指名したLoweに数分だけ任せる事にした岩本。
軽い冗談ぽく陽気に提案してみるLoweを一睨み。
あれは大まじめの目だったな、冗談ぽく笑ってたがホントにやるぞアレ
それなりに岩本がを気に掛けてるのは火を見るより明らかだった。
岩本本人も無意識だと思う。
無意識に彼女の事を気に掛け、何かから守ろうとしている。
そのくせ深入りさせないよう遠ざける為、Pawnの同伴者を可愛いと褒めた。
が自分を嫌い、ホストクラブに近づかなくなるよう・・・
今一器用なのか不器用なのか分からないヤツである。
そんな風に岩本が動いてるようにしかPawnには見えなくなっていた。
なんだろこれ、俺今三次元のドラマ見せられてんのかな??(違
Pawnがそんな呟きをしてる頃、電話に出る為店の裏口を見つけ外へ出た岩本。
歌舞伎町の歓楽街は今が一番賑わう時間帯だから、何処に行っても煩い。
仕方なく裏通りに面してそうな裏口から外に出て通話をタップした。
電話に出た瞬間もしもし、を言うより早く声が飛び込む。
👒『――逢いたい、何処にいるの?』
俺の都合は聞かず、いつも向こうからそう言って来る。
今すぐと言われなかった事がせめてもの救いだ。
💛「今は仕事で取り引き先に来てるからすぐには行けない」
👒『それが終わったら来れる?』
💛「・・ん、行けるよ」
行けると答えるまでに自分の中で結構長い沈黙を要した。
契約中だから今までは即答したし、寧ろ契約相手を優先するよう心掛けていた。
しかし今即答出来ない理由、単純に同業回り中なのもある。
それともう1つ、天敵を見つけて動揺し強い酒まで誤飲してしまったを1人には出来ない。
Pawnに送らせる事は出来ないしLoweらに任すのは俺の気持ち的に無理だと思った。
の最初で最後の担当として、きちんとエスコートしたい。
こういう気持ちはホストなら当然思う事だ、そのはず。
👒『ひかる、待ってるから逢いに来てね』
💛「勿論会いに行く、良い子で待っててな」
言い募るような声の相手。
ホストなら当然だと気持ちを切り替えたら
すんなりと女を言い包める言葉がスラスラ出た。
俺の言葉に素直に従い頷く電話口の相手。
これがもしちゃんなら
🦢[普通に待ってますから気をつけて下さいね]
とか言いそう。
それでまたあの嫌そうな顔をする。
嫌そうなのに冷たくなりきれない感じがまたそそる(?
ホスト慣れも男慣れもしてないちゃん。
懸命に流されないように反応しないようにしてるのが分かるから微笑ましくて・・
微笑ましくて?その先を何て言い表そうとした?
イカンイカン・・・俺もやきが回ったかな。
ちゃんと関りすぎたかも?
何故そう感じたのか不思議になりつつ通話を終え
急ぎ足でらの居る卓へと戻って行った。
🦁「えーとちゃんだっけ、気分どう?ヘーキ?」
🦢「はい・・ただボーッとするだけで気持ち悪さは無いです」
🦁「そっか、それなら良かったわ」
🦢「なんかごめんなさい、折角のグランドオープンの席なのに」
🦁「いやちゃんが謝る事じゃないから気にすんな~」
🦢「そう言って頂けると助かります」
岩本が居ない間、双方の組み合わせで雑談は続いていた。
電話だと言っていたがまだ戻って来ない。
・・ちょっと冷たく言い過ぎたかな、気分転換に行ってしまったのかも。
頼もしさ満点の姿が見えないと何となく不安というか、心許ない。
視線を岩本の消えた方に向けながら自分が指名したホストとの会話を続ける。
見た目とは違い気遣いの出来る人のようだった。
まあ・・・ホストである前に1人の人間だし、それなりの礼儀とかは心得てるのだろう。
それでも私が視線を漂わせてる事に気づき、軽く肩を指でトントンして来た。
🦁「ちゃんはいわもっさんがお気に入りなんだっけ?」
聞かれたのは簡単な事、でもすぐには答えられなかった。
知り合ったきっかけだってありがちな事だし・・しかも私はホストとホストクラブが嫌い。
岩本さんのお店がある通りのタピオカ屋でバイト中に知り合い
彼が置き忘れた忘れ物を届けた事で関りが生まれ、お礼だと押し切られる形で
5月に岩本さんの運転で甘味処に連れて行って貰った。
🦢「その際に会話した内容も中身のあるものじゃなかったですよ?」
🦁「えーマジ??何その出会い方!てかバイト先あの辺なんだな、今度俺も行ってみよっかな!」
🦢「だから今回もお気に入りとかそう言うの関係ないんです」
🦁「へーー?ならさ、この店で色々経験してみない?ちゃんの担当、俺なってみたいな」
🦢「えっ??いやでも私・・」
🦁「あのいわもっさんがそこまでしちゃいたくなるちゃんに俺も興味沸いた」
春に知り合い、夏に終わろうと・・終わらせようと決めていたこの不思議な縁。
懐古しながらLoweに話す岩本との思い出?
振り返っても思う、結構強引な態度だった岩本の事を。
大嫌いなホストの代表を務める人だから女の子の扱いも上手いし
あんな風に扱われたら誰だって岩本さんを指名するだろう。
私がそうならないのは彼らを嫌っているからだ。
身を墜としボロボロにさせられた母親を見ていたからこそ。
最後の最後まで嫌いなまま関わり合いになりたくなかったのに。
不思議な縁で同伴者に選ばれるまでになってしまった。
元凶男を見つけるまで呉越同舟、とか思ってた矢先に此処で見つけてしまい
目的を果たした事になった今・・・岩本さんと関わる理由はもう、無い。
なら・・元凶男を追い詰めるべく、奴が勤める此処に通うのが正しいのかもしれない。
こんな女に興味を示してくれたんだ、Loweを今日担当に指名すれば良い。
🦢「そう、ですね・・・じゃあ――」
そう考えたのと同時に影が現れ、私とLoweさんの間に割り込み
Loweを押しやってから空いた手に私は強く引き寄せられた。
乱暴に抱き寄せられ吃驚はしたが、顔を動かさずともその人の香りで気づけた。
私を腕に抱いているのは
岩本さん、であると。
💛「――ハイそこまでな、樹」
🦢「!?」
🦁「えーーーっタイミングバッチしじゃんいわもっさん~」
💛「好きに言え(笑)」
🦢「・・・・」
💛「ちゃん、ダメでしょ?俺と居るのに勝手に担当変えちゃ」
🦢「っ・・ご、ごめんなさい?」
Loweを冷たくあしらう真似をした後
呆れ笑いみたいな顔の岩本さんに言われてしまった。
だってもう岩本さんと会う必要はないんだよ?
私の目標を達成するには此処に通う必要があるし
岩本さんとは最初で最後の担当にするっていう約束をしただけで・・もうそれも果たした。
もう彼やPawnさんに会う事は無くなる。
嫌ってたし関わり合いになりたくないと思ってたんだから丁度いいと思った。
なのに担当変えるなって訳の分からない事を言う岩本さん。
もしかしてまだオーナーさんに挨拶してないからとかかな。
うん多分そういう意味だよね。
それなら同業回りの同伴っていう役目が終わったら
改めてこの店に行くようにして、その時担当にこの人を選べばいい。
岩本さんに肩を抱かれつつ水面下で1人今後の方針を私は決めた。