July act3
真剣なまなざしに籠められた本心までは分からないが
語らないだけで強い意思を、岩本さんも抱いているのだと
そういうものだけは感じ取る事が出来た。
💛「ホストクラブに通い詰めると客観的に見れなくなる
だからまだ染まり切ってない新規な眼で見て貰いたいなって。」
尚も岩本はを選んだ理由を話し続けている。
しかもこれでもかってくらいに高評価。
まあ確かに私はホストに会いたいから来た訳じゃない。
不可抗力で知り合いになってしまっただけ。
💛「それに、アンタなら俺らすら気づかない角度から見れるんじゃないかなって思ってる。」
🦢「随分な過大評価ですね・・・?」
💛「そ?結構前から思ってたよ、初から俺らの事信用してない目をしてたし
外見だけで判断したり、意見を変えたり靡いたりもしない」
上っ面だけじゃなく、人間性そのものを見てくれるんじゃないかって思ってた。
だからこそ今回の同伴相手に俺が指名させて貰ったんだよね、と
何だか聞いてるうちにこそばゆくなってきたわ・・・
ここまで言わせてしまったからには応える義務みたいなのを感じる。
本当にもうこれきりなら・・?でも私には元凶を見つけ出す目的がある。
ならこの申し出も好都合なのではないか?
🦢「・・・・分かりました、なら私も岩本さんの申し出に便乗します」
💛「交渉成立って訳だな?」
便乗しますについて深くは聞かなかった岩本。
何かあるなとは薄々感じている、が、深く知ろうとはしないでいた。
一時的な指名客になってるだけで他人だし、1人の女に固執はしないようにしている。
理由は分からずとも現段階では『よく分からない感情にさせる相手』、の段階。
今の今まではそう思う事にしていた。
段階を1つ進めざるを得なくなるのはこの数日後だった。
よく晴れた夏の日、いよいよ『Rough.TrackONE』に同業回りする。
第2部の昼間の営業にする事も考えたが
本格的な人の入りと接客を見れるのは第1部、18時~24時までの時間帯を選んだ。
陽が延びた為、まだ街は明るく賑わっている。
その段階ではバイト時間を変更し、17時で終わるシフトにしていた。
理由は此処のロッカーでそれっぽい服装に着替える為だったりする。
岩本さんはニッコリして、家まで迎えに行くよ?とか言っていたが
流石にそこまで身バレするのは避けたいから却下したのだ。
当然の判断だと我ながら思う。
なので岩本さんはこの前と同じく裏手通りから迎えに来る。
一応ホストクラブに通ってるように見せるべく、メイクも研究した。
はあ・・・なるべくなら関わらずに居たかったホストに
指名客を装って他店に同業回りの同伴させられる日が来るとはね・・・・
それと今回はもう一組一緒に行くらしい。
岩本さんと同じ店のホスト、Pawnさんとその同伴者。
先月行った時にも恐らく居たと思う・・
興味ないし帰りたいしか考えてなかったから他のホストは見てなかったわ。
今回一緒に行く事になるし、礼儀として挨拶はしておこう。
そんな事を考えつつ待っているとiPhoneが鳴った。
手に握って画面を見れば岩本さんの名前が表示されている。
🦢「――はい」
💛『ちゃんお待たせ、今度はちゃんと店内で待ってたみたいだな』
🦢「私が外で待ってると何故か岩本さんが慌てるみたいなので?」
💛『だってちゃんは女の子でしょ?1人で居たら危ないから当たり前』
🦢「はいはい、岩本さん着きました?外行きますね」
💛『ん、待ってるからおいで』
・・最近よく分からない。
この優しさはホストとしてなのか本来の性格なのかが。
待て自分、ホストな岩本さん相手に悩む必要ある?
女性を楽しませ持て成す仕事のプロよ、ホストとして染み付いてる癖みたいなモンね。
今回は互いの目的の為に互いを利用するだけ、所謂呉越同舟ってやつ。
まあ私の場合は今後も利用させて貰うかもしれないけど。
数日前岩本さんが見せた謎のケンカ腰?あれを前向きに取るなら
要するに『SnowDream』に来店する時は前以て話しておけばいいって事よね?
ホストクラブとホストは嫌いだけど目的を達成する為に行きますからって。
変なの(笑)
だってそういう事でしょ?嫌いって言ったのに来店したじゃんって言葉の意味は。
私より異性慣れしてるんだから正解を教えてくれよ😑
降って湧いた疑問と答えのない謎を脳内でぐるぐるさせつつ
ロッカーを貸してくれた店長にお礼を言い、私は外へ。
ホストクラブのメイン、第1部の営業に行くと言うのに空は未だ茜色だ。
の服装は薄紫のスカラップレースブラウス。
袖はないタイプだが夏だし寒くはならないはず。
ボトムスには黒のシャイニーロングプリーツスカートを選んだ。
重めだが裾は軽く、歩くと重みのあるスカートが揺れる。
手には白のバッグだけ、足元は夏なのでクリアチューブサークルヒールサンダルです。
ドレスコードは無いって事は前回で学んだからね・・
まあ年相応に無難なオシャレ着を着て来たから多分大丈夫だと思う。
外に出て、先日と同じ方面に向かって歩く。
何故か手を繋いで歩いたんだよね・・・あれこそ何だったのか。
今振り返っても羞恥プレイでしかなかったアレ。
今はそんな事より違う事考えよう、と思い立った時、見つけた。
裏通りの駐車スペースに停められた高そうな車。
車内ではなく、車のボディーに寄り掛かるようにしてその人は待っていた。
空を見上げ手には付けたばかりのタバコ、紫煙がふわふわと漂っている。
絵になるね・・ていうか、タバコ吸うんだ岩本さん。
まあ20代だし吸ってても不思議はない、でも5月に会った時は吸ってなかったよね?
まあいいかそんな事は、と思考を切り替え足早に車へ近寄る。
するとその気配に気づいた岩本さんが視線を此方へ向けた。
🦢「お待たせしました――」
💛「走らなくていいよ、危ない」
目が合うや私の足元を気遣う事を言う。
サンダルの踵は5㎝程度だ、そんなに気にする事もないと思うけど・・・
過保護なのか心配性なのかどっちかかな、なんて思っている眼前に差し出される大きな手。
えっ?と思いながら見ると、視線だけで掴まってよと促された。
まだホストクラブ行ってないのに・・気が早いな?
と無粋な事を考えたがおずおずと右手を伸ばすと大きな手に握られた。
🦢「えーと・・お待たせしてしまいましたか?」
💛「そんな事ないよ、ていうか凄く可愛い。」
🦢「いや別に普通の恰好ですよ?」
💛「先月来た時もそんな風に可愛い恰好して来たの?」
手を握られた後、助手席側に連れて行かれ
ドアを開けながら服装を褒めてくれる岩本さん。
それだけでなく普通の恰好ですよ?と返し、乗り込もうとしたら
助手席のシートに向けて横から通せんぼするように岩本さんの腕が出され
再び問われる先月の事、うーん・・先月も普通の恰好で行った記憶しかない。
🦢「岩本さん、口説くのはご自分のお店だけにして下さいよ」
💛「――ははっ、やっぱ好きだわちゃんのその顔、それじゃ行こうか」
いよいよ面倒になったので巻きめに答える。
対する岩本はまたも楽しげに笑う。
このやり取り要る???
取り敢えずPawnさんらとは現地集合らしくこの場には居なかった。
3度目の岩本さんの車・・・回数重ねてどうするよ私。
でも交渉成立って事になった以上、背に腹は代えられぬ。
今宵初めて私は『SnowDream』以外のホストクラブへ行く事となった。
💗「おーー!来た来た、2人ともこっちこっち」
車で走る事30分、漸く目的の店『Rough.TrackONE』へ到着。
早くも賑わう店先を見つつ、車を駐車場へ停め
下りたタイミングで明るい声に岩本さんと2人、呼ばれた。
声の方に顔を向けてみると、スーツに身を包んだ小柄な男性。
ニコニコ笑んで此方に手を振っている。
その人の横には更に小柄な女の子も立っていた。
見て分かる通りその女の子が同伴者に選ばれた子なのだろう。
💛「早かったんだな」
💗「まあな!楽しみでつい早めに来ちゃった(笑)」
歩み寄るや話し込む岩本とPawn。
ヒールなしなら私と身長同じくらいかな、と思いながら眺める。
親しげに話す2人を眺めているに、Pawnの同伴者が話しかけて来た。
👩💼「初めまして、貴女はKnightの同伴者さんですよね?」
Knight・・・は確か岩本さんの源氏名だったっけな。
と慌てて記憶の中にある男本を思い出す。
そういや男本には本名じゃなく源氏名で写真載ってたよな・・
え、まさか私・・そんなコアな仲じゃないのに本名知ってるって事?
うわーーそういう特別なやつ要らんから勘弁して!
🦢「ええまあ・・・そうですね・・」
👩💼「・・面白い人って言われません?」
🦢「あー・・最近よく言われますね・・・自分じゃ普通なんですけど・・」
👩💼「ふふふ、私初めて他店の同伴者に選ばれて緊張してたけどもう1人の同伴者が貴女で良かったw」
🦢「??よく分からないけど私も1人じゃなくて良かったわ」
自分の発言の何処に安心要素?があったのか不思議だが
まあちょっとでもリラックスして貰えたなら光栄ね。
互いに宜しくね、と握手を済ませるとこにタイミング良く岩本さんらも戻って来た。
💗「なあーに楽しそうに話してたの~?」
👩💼「ただ挨拶してただけだよ、ね、さん」
Pawnは相変わらずニコニコした笑みのまま此方に聞いて来る。
何となく人懐こい人だなーとは感じた。
だからなのか同伴者に選ばれたこの子も雰囲気が柔らかく、接し易い。
客はホストに似るのかしら。
でもその原理だと私は違うわね、岩本さんと似てる部分は皆無だもの。
💛「どした?ちゃん、緊張してる?」
ジッと見てたのだろうか不思議そうな目を岩本さんに向けられた。
問い掛けに首を振り、そろそろ開店ですねと促してみた。
そうだな、とだけ答えた岩本さんはまた此方に手を差しだす。
今度こそこれはエスコートの合図だ。
あんまり慣れない形だが、それもまた仕方ない。
💛「さあ、行こうか姫」
🦢「っ、ちょっと岩本さん・・その呼び方は『SnowDream』内だけ」
💛「俺がそう呼びたくなっただけだから呼ばせてよ」
🦢「こっぱずかしいので却下しても良いですか」
💛「その顔好きだから何回もさせたくなっちゃうんだよなー」
🦢「岩本さん?帰りますよ私」
💛「あーそれはダメ」
スッと自然な動きでの右手を下から掬い上げるように取り
店舗へ歩き始める岩本、視界の端ではPawnも同伴の子の手を取りエスコートしている。
それは良いんだが呼び方を名前じゃなくお客を呼ぶ呼称にされ
急に距離を感じてしまった。
そんな気持ちにさせられるのが腹立たしくて誤魔化した。
なのに嫌そうな顔が好きだからさせたくなるとか言う岩本さん。
何なんだホント(・∀・)一回殴らせて欲しいマジ。
密かに握り拳を作る。
冗談だけど一瞬考えた言葉を言えば、やんわりと引き戻され
握られたままの右手を、岩本さんが作った左腕と脇の隙間に通される。
つまり腕を組まされた?というよりは腕に添えさせられた感じか
にこっと笑む岩本さん、脇から潜らせる形で腕を組ませた私の手に一度触れ
💛「これならもう逃げられないでしょ?」
🦢「・・・そ、そうですね」
なんて事をサラりと言うのだ。
スマートというか自然すぎて腹が立つ・・・・
こういう事を今まで何百何千何万の客にして来たんだろうな。
そう考えるとやたらと腹が立つ感じがした。
女の子慣れしてるって分かるもんね、対する私は全く不慣れだから悔しい。
💛「緊張してるなら俺に任せていいよ」
🦢「いやでも・・」
💛「今日は俺に甘えてくれていいから」
🦢「そういう事サラッと言うあたり何か腹が立ちますね」
💛「ははっ」
岩本的には本当に気遣う意味で言ったのだが
ホストを嫌うには腹が立つ言葉だったらしい。
その時点で他の子と違うから面白い。
大抵の子はああ言ったら素直に甘えてくれるし頼ってくれる。
それも可愛くて好きだけど、は違う。
簡単に靡かない気丈さと彼女の中に譲れない強い意思を感じれる。
そんな気丈さを崩してみたい、そんな風に思わせる何かがあるんだよな。
本人はそんな意図を感じさせるつもりもないだろうけど・・
こっち側が好きに考えて思案出来る間?を与えてる感じ?
ちゃんが男でホストだったら結構いい線行くんじゃないかな。
どう接したら、どんな言葉を言ったらこの気丈さが崩れるのか。
色んな表情を見てみたいと思わせるホストになったかもね。
まあ兎に角店は開店を迎え、Openを待ち侘びていた客達が中へ吸い込まれて行く。
勿論同業回りに来た岩本とPawnも、それぞれの同伴者と共に入店した。
初めて足を踏み入れるグランドオープンした『Rough.TrackONE』
内装の派手さと広さに先ず圧倒された。
『SnowDream』とは違い、なんか賑やかで目がチカチカする。
落ち着いた内装とBGMにシックな色合いだった向こうと違い
6色のカラフルなカラーが彼方此方に取り入れられた色合いだ。
店の奥まで入るとズラリと並んだホスト達が出迎えてくれた。
🦇「ようこそ『Rough.TrackONE』へ」
🦓「今宵はグランドオープンです、心行くまでお楽しみ下さい」
という言葉に合わせ、4人のホストとスタッフ達が一礼した。
凄いな・・・と圧倒されるが頭の中はクリアだった。
半面ホストが嫌いなのもありイケメンを目の当たりにしても落ち着いている。
店内は一気に高揚感やらで賑わい始め、卓が次々と埋まって行く。
それを静かな眼差しでは眺めていた。
心は冷めている、けど今自分はホストクラブに来ている。
しかもただの客としてではなく、別店舗のホストクラブの代表の同伴者としてだ。
今この瞬間から2回目のホストクラブ体験が始まる・・・
どうしよう、基本興味ないから前回の友人からの説明とか覚えてない(
取り敢えずなるようになるしかない!
覚悟を決めた、前に並んでいる客らが捌かれて行くのを待った。