指の動き、視線、髪の毛一本一本にも意識を籠め
所作の一つ一つに感情の表現を注ぐ。
そう理解してしまうと後は早かった。
曲の世界を体で表す事にのめり込み
気付けは数時間が経過していたのです。
虹色の旋律 十章
の、喉が渇きました・・・・・
教わった曲名は『Never Again』と言うらしい。
横文字が普通に取り入れられたこの時代の歌。
覚えてしまえば違和感はなくなる。
これが慣れと言う物かしら?
でも休んでるのを見られたら・・怒られてしまいそうです・・・
けど足もフラフラで、ちょっと目が回りそう・・・・
ちょっとだけ、ちょっとだけならいいですよね・・・?
壁に寄り掛かるようにして座ると、一気に疲れを感じた。
荒い呼吸を落ち着かせようと深呼吸もしてみる。
これを繰り返してれば体力、つくかしら・・・・
でもきっとこの振り付けだけじゃないのでしょうし・・
聞いただけでも5曲以上は歌う事になってる。
「だからと言って・・音は上げられません・・・」
今立つ事は難しいかも・・・・
足は棒みたいで、喉も渇いてて頭がボーッとします・・
このタイミングで赤西さんでも来たら、きっと怒られるだろうなあ・・・
と思ってるそのまさに今、廊下から覗かれてたなどと露知らず。
山下と会話し終え、改めて中を見てみた赤西。
あの野郎休んでやがる←
文句が頭に浮かんだが、今このタイミングで出て行くのは躊躇った。
それじゃあ俺が見てたってバレんだろうが(
小さな抵抗を試み、取り敢えず眺めとくだけに。
それと距離を縮めていた山下も隣に来て中を覗く。
「やっぱ無茶しそうな感じだね、水分補給も忘れてるみたいだし」
「ハ、そんな初歩的な事すらしらねぇなんて駄目だろ」
「て言うより知らなかったんじゃない?」
「つーかPさ、やたらアイツの事フォローしてっけど・・・何で?」
「えー?ああそれはね、一生懸命で可愛いからかな」
「は?可愛いってアイツ男だろ?」
「ふふふふ、まあ男でも可愛い子いるじゃん?」
「意味深・・・・まあいるにはいるかもしんねーけど・・」
聞き間違いかと思ったけどそうじゃなかった。
可愛いとか男が男にあんま言わなくねぇか?
Pの趣味ってわかんねぇ〜・・・
呆れたような視線を横に向けると、山下が立ち去る所だった。
戻るのか?と聞くと、ちょっとね。だけが返される。
ちょっとね、てどっちの意味だよ(
再び暇になった赤西。
もう一度中を覗いてみる。
中のは未だ座り込んだまま。
にしてもアイツ・・たった数時間で、もうネバアゲの振り付けはマスターしたんだな。
ふん・・・Pの言う通りに物覚えだけはいいって訳か。
やる気は・・・・本物なんだろうな。
そのくらいの意気込みくらいねぇと相応しくない。
取り敢えず何か一言言ってやりたくなり、中へ入る。
レッスン室には熱気が満ちていた。
これ・・換気してねぇのか?
これじゃあ誰でも喉渇くぞ・・・
って別に心配とかしてねぇから。
「おい」
「・・・・( ゚Д゚)!!?あか、あか、赤西さん!」
「どもりすぎだろお前・・・・・つーかまだ練習してたのかよ」
「当たり前です、赤西さんに認めて貰えるようにと・・後は自分の為ですから」
「ふーん・・て言うかもう違う曲練習しろよ。俺らの曲それだけじゃねぇんだぜ?」
「はいっ・・・すみませ・・」
「一々謝ってんなよ・・・」
「す、すみません・・あ!いや、はい」
「お前マジ苛々すんな・・・見てっと・・」
自分を見てオドオドした顔をされると何だか苛々してきた。
「ごめんなさい・・・」
「はあ・・で、何でそんな同じ奴ばっか練習してた訳?」
「あ、それはですね。この曲の所作がとても綺麗で好きだから、ついつい。」
「所作?」
「こう・・・とかの手の動きです。とっても気持ちが籠められてて動き一つ一つに意味があるから、踊っていて愉しくて―――」
「は?昨日まで素人だった奴に分かるのかよ。ダンスってのはな、見せるモンなんだよ。客に見せて愉しませんのが俺らの仕事なの!」
「違うと思います!見せるだけの物なんて事はありません!振り付けにはちゃんと意味があるんですよ?曲を観客の皆さんにイメージさせて伝える為にあるんです!」
「偉そうな事言ってんじゃねぇよ!昨日入ったばかりのお前に分かったような事言われたくねぇ・・マジ気にくわねぇ・・・!今すぐ俺の前から消えてくんない?」
「―――気持ちを籠めないで歌っても踊っても、見てる人には何も伝えられません!」
「!?・・・・今すぐ出て行け」
「出て行きません」
「出て行け!」
「出て行きません!私は逃げたりしません!」
胸倉を掴んでも怒鳴っても、コイツは逃げようとしない。
何よりも悔しかった、昨日入ったばかりのコイツが心から愉しそうに踊る様
何年もいる奴より振り付けの意味を理解してる。
何もかもが気に入らない。
どうしてこうも苛々させられるのか分かんねェ
押し問答が数回続くだけでどちらも譲らないまま数分。
キリがないと思わず舌打ちした。
だったら俺が出てってやるよ、と吐き捨てるとレッスン室から廊下へ。
苛立ちが抜けなくて心の中がぐちゃぐちゃだった。
自分でも分からない苛立ちで力任せに壁を殴りつけた。
「っ・・くそっ・・・」
「またケンカしてたの?仁」
「何だ・・・Pか・・・・・」
「壁なんか殴ったら怪我すんぞ〜?」
「・・・何処行ってたんだよお前」
「君の分の水、貰ってきただけ・・・・・?」
「・・物好き・・・・?P?」
落としていた視線を上げた先に、戻って来たらしい山下の姿。
乱れた前髪をかき上げながら問えば、呆れた声音で逆に問われる。
ったくなんなんだよ!
あーくそっ苛々する、マジ気分転換してぇ・・・
カリカリしたまま会話してると、Pの片手には水の入ったペットボトルが。
誰にでも優しいんだよなー・・Pは。
何て思い視線はペットボトルに向けていると、何かの音が聞こえてそれと同時にPがさっきのレッスン室へ。
仕方なく追いかけてみるその先には、驚きの光景があった。
「え・・」
「君しっかりして!マズイな脱水症状かも」
「だったらその水飲ませればいいだろ・・・っ」
「仁も手伝って!」
入ってみるとさっきまで怒鳴り合ってたって奴が倒れてた。
水も飲まずに休みもせずに練習してたせいだろう。
窓も開いてなかったから熱が篭って余計に喉が渇いたのかもしれない。
上半身を山下が抱え起こし、持っていたペットボトルを開けようとするが
を抱えている為、両手が塞がり突っ立っていた赤西にそれを飲ませるよう指示。
言われるままキャップを開封し、意識を失っているの口許へ。
少しずつ流し込むと、やがて無意識に水を飲み始めた。
暫くそうやっていると此方へ近づく足音に気付く。
恐らく誰かが様子を見に来たんだろう。そう気付いた赤西は、素早く離れて廊下へ。
「あれ?赤西、何してんの?」
「パス」
「え?パス?」
「あの中でルーキーがぶっ倒れてっから任せた」
「えっ??」
言われてだったとは言え、反発した俺が手当てさせられてる様なん見られたらヤバイ。
近づいて来た足音は上田だったので、有無を言わさずペットボトルを渡す。
端的な説明だったが理解した上田、慌てて山下のいるレッスン室へ駆け込んで行った。