私の心はとっくに悲鳴を上げていた
でも気付かない振りをした。
気付いてしまわないように、無理矢理にでもそれらに蓋をした。
その蓋を開けなければ、私は大丈夫。
きっとこの時代で頑張れる・・そう過信していた。
虹色の旋律 十七章
でもその蓋は、ふとした瞬間に開いてしまう脆い蓋になっていたのです。
気持ちはギリギリまで張り詰めていて、保つ事に意識を注いでました。
上手く隠せていたつもりでも、それは気づかないうちに綻びが出来ていたのかもしれません。
一人きりの控え室は静かで、少し落ち着けた。
昨日この時代へ来たばかりだったのに
今日はこの時代の芸能人としてテレビ局の控え室にいるなんてね(しかも男装して)
ああ・・でも・・・一人になると実感します。
此処は私のいた時代じゃなくて、知人も親もいない時代で・・たった独りになってしまったんだなーって。
知らない事ばかりだし、不安じゃない訳がない。
でも私は此処で生き抜かなくちゃならないの・・・
いつか帰れるその日の為にも。
本当は今すぐ帰って両親の安否を確認したい!
あんな大きな地震だったんですもの、無傷でいる方が難しいわ。
両親まで失ってしまったら、私は本当の意味で独りぼっち・・・・
想像するだけで不安が体を襲って来て、手足が震えた。
怖いです、不安で・・不安で・・・どうにかなってしまいそうです。
でも泣いたら駄目よ・・・泣かないって決めたんだから。
そっと取り出した継信さんの写真。
これを眺めてれば落ち着けるし耐えられる。
だが取り出した写真は眺める後ろに気配を感じた。
「あ」
「余裕なんだな、写真なんか見て。もう振りと歌、覚えたのかよ」
「余裕なんかじゃないですよっ それは明日きっちり頭に叩き込みます!」
「へぇー、それは楽しみだな」
「うー」
「あんだよ、自信ねぇの?」
「わっ・・分かりましたよーっだ!」
気配の主は赤西。
見られないうちに慌てて隠すと、早速厳しい指摘が。
もう今夜は遅い為、明日しっかり頭に叩き込みますと宣言し
目を細めて挑発的に問われたは、それに乗っかるように答えてその場を離れた。
それにそもそもの目標は赤西と田中に認めてもらう事。
だからこそ赤西の提案を受け入れた。
と言うか上田の言う通り、打ち合わせは早く済んだみたいだ。
写真について指摘され、挑発に乗せられた感は否めないが
は戻って来たほかメンバーの方へと歩いて行った。
その背を見送りながら赤西の隣に来た亀梨がボソリと突っ込む。
「お前やり方が素直じゃねぇな」
「いいだろ別に、それにあの写真・・・多分何か鍵になってんだと思うんだよなー・・」
そんな会話がされてるとは知らずに、は上田達の所に着いた。
「おー、どしたー?」
「ううん。どうもしないです・・打ち合わせどうでしたか?」
「えーと」
「え?はい。何ですか?田中さん」
「いきなりだけど、名前で呼んでいいか?」
「勿論です!!」
「やった!サンキュ!宜しくな。」
「はいっ」
傍に来たを迎えた中丸に答え、自分も質問を返す。
するとそれに中丸が答える前に田中が思いも寄らない事を口にした。
それはごく普通の問い掛けだったが、朝の時点では受け入れてもらえてなかった為
この田中からの言葉はとても嬉しくて喜んだ。
嬉しそうに勿論です、と返したの笑顔に少し探り探りだった田中にも笑顔が浮かぶ。
真っ直ぐなの姿勢が、田中の見方を変えたのだろう。
その変化に中丸も田口も上田は嬉しそうに互いに笑みを浮かべ、顔を見合わせている。
また1つ結びつきが深まった瞬間。
敢えて赤西は其処には混ざらず、様子を見る側に徹する事にした。
亀梨もの持つ写真が1つの鍵になってる件は同感で、同じくを眺めた。
にしても仁、軽くを弄るのが日課になってるよな(
多分どんなに怒鳴ってもめげずに努力するが見てて飽きないんかもね。
上田も気に入ってるみたいだし、聖もを受け入れたしさ。
んー・・・こうやって見ると、何かジャニーさんがを『―』にした理由
ちょっと分かったかも俺。
ってさ、いつの間にかメンバーの中心にいるんだよね。
その練習に取り組む姿とか、普段の会話?とかが自然と皆を惹き付けてる感じ。
色んな意味で危なっかしい所もあるしさ。
「良かったな、。」
「はいっ嬉しいです上田さん!」
「・・・・何か可愛いなあは」
「え?そんな事はないですよ」
「いや、お前は可愛い系だと思うぞー?」
「ハイハイ、取り敢えず仕事も終わったし家帰ろうぜ」
眺めた視界の中、上田に褒められる。
無邪気に笑うは本当に嬉しそうで、何やら可愛い。
上田もそうしみじみと思ったらしくまたもやの頭を撫でくり回す←
撫でられてるに中丸も横から便乗。
何やらそのままを中心に話し込みそうなので
タイミングを見た亀梨が間に入り、帰宅を促す。
後ろからの肩と上田の肩を叩きながら間に入った亀梨。
それぞれが時計を確認した面々。
時刻は夜の22時を過ぎていた。
あ、でも夕飯の買い物とかはどうするんだろう?
と思うも流れに乗ってテレビ局を出て地下駐車場にある車へ。
それにしても・・建物の地下にこのような空間があるとは・・・・驚きだ。
駐車場スペースを見渡しながら歩き、四月一日さんの運転する車に乗り込んだ。
乗り込んだに、亀梨は代わりに借りておいた本を差し出す。
「あ、そうだコレ」(亀
「はい?ああ!有り難うございますっ」
「えーなになに?」(淳
「それ借りた本でしょ?は歴史好きなの?」(上
「あー・・ええ、まあ・・・」
「俺もちょっとその時代の事で気になってるんだよね」(亀
「そうなんですか?」
「そ、も気になってるんだろ?この時代にあった地震」(亀
「――っ・・・うん・・」
「・・・・?」(赤
どうして亀梨さんが?
ああそうだわ・・初めて会ったあの日の夜・・・
私混乱していたから、お二人に地震がなかったかを聞いて
四月一日さんを待ってる間、亀梨さんとお話した・・・・
その時に過去の人間だと話してたから・・
覚えていて下さったんですね・・・亀梨さん。
まだ私が女としてお二人と会った事、バレてはいないようで安心しました。
騙してしまっている事・・とても申し訳なく思っています・・・
いつか、全てをお話しする日が来るでしょう・・・・
そしてその日が来る時は、私が皆さんとお別れする日かもしれませんね。
どうしてでしょう・・・私はあの時代に帰りたいのに・・不思議と、その日がまだ来ないで欲しいと・・・・そう願ってしまうのです。
私は此処で生きる事、彼らと知り合えたこの数時間をとても大切にしたい。
それにまだ目標を達成していませんし、私に救いの手を差し出してくれた方々に恩返しもしていません。
だからもう少し、私に時間を下さい・・・彼らの為に此処で生きる時間を。
決意を滲ませた双眸を静かには閉じる。
その背中を赤西が探るような眼差しで見つめていた。
それと同時に、見守るような視線で。