流転 四十章Ψ癒しの力Ψ
現八がトドメを刺すのを止めたのは、道節。
刺された傷は、玉のおかげで浅いようだ。
きっと姉上が守ったんだろう。
全員が見守る中、女の所へ来た道節。
何をするまでもなく、怯える女の体を道節は抱きしめた。
これには女も、達も目を見張る。
「目を覚ませ・・しっかりしろ。今のオマエは、本当のオマエではない。」
真摯に話す道節を、女は食い入るように見つめた。
――が、強い反応はない。
道節の知り合いなのだろうか?
がそう思う中、女から玉梓の気配を感じ取った。
やはりか・・・・操られてるんだ、あの女に。
成す術のない達は、ただ見守るしかない。
「頼む、船虫、目を覚ませ。」
だが、船虫と呼ばれた女は、道節を押し退け
落ちていた短刀を拾い、その刃先を道節の首に当てた。
思わず動こうとした達、しかし、またもや道節によって止められる。
道節は、どうにかして助けたいんだ。
殺すとかそうゆう方法じゃなくて。
俺も・・その願いを叶えたい。
誰かを失う悲しみを、味合わせたくない。
は、その時を待った。
何れ、玉梓の力の断片が現れるだろう。
その時に、この『村正』を――
「戦いが終わったら・・ワシの妻になってくれ。」
には、船虫の殺気が揺らぐのが分かった。
気持ちが揺らいでいる、困惑している。
道節の想いが、操られた心の最も奥に届き始めてる。
尻尾が出るならそろそろか。
「ワシと一緒になろう?」
船虫を想い、正気に戻らせたい道節の願い。
その想いが、船虫の殺意を消し始める。
現八や信乃達も、女が操られている事に気づいた。
同時に、船虫に対する道節の気持ちも。
今、彼女は玉梓の呪縛と戦ってる。
その証拠に、彼女の瞳が赤くなったり戻ったりを繰り返し始めた。
『何をしておる船虫』
「オマエは幸せになれる」
『早く犬を殺せ!』
「うっあっ・・はぁっ!」
ピン――とその気配は生まれた。
声を、声を送っている。
その声のせいで、彼女も抵抗をしているのか荒く息をしていた。
余波を受けてるも、僅かに体が痺れる。
俺まで操られる訳にはいかねぇ・・っ
彼女と・・・皆を、守るんだ!
は、痺れる体を動かし、手で痣に触れた。
そうすると、少しだけ痺れが和らぐ。
「ワシが幸せにしてやる!信じろ」
「はぁっ!はぁ・・っ!!」
『殺せ・・』
涙を、彼女は流していた。
心には届いている、けれど逃れる術が見つからない。
道節を殺したくない、そう船虫が言ってるように思えた。
続いて響く玉梓の声が、船虫の腕を振り上げさせる。
の体も、誘われるように動く。
道節は、向けられた短刀を静かな目で見た。
『殺せ!!』
「ぁあああっ!!」
再度響いた声、船虫の短刀は
道節ではなく、己へと向かった。
と同時に、船虫の首筋に印を見つけた俺。
迷う事なく駆け出し、船虫へと抱きついた。
腕が振り下ろされるより先に抱きついた為、両腕は腹部からズレ
の背の分、上で止まり浅く刺さっただけに留まった。
「!!」
「船虫!!!」
『あぁっ!!』
同じ頃、呪いを掛けていた玉梓(妙椿)が
その反動で水盤の前から弾き飛ばされた。
それを経て、が触れた首筋。
其処にあった蜘蛛形の痣が、姿を消した。
浅いが短刀の半分は、臍から横に刺さっている。
呪いが消え、自由を取り戻した船虫の体は
駆け寄った道節に抱き止められる。
「!!怪我はないのか?」
「ああ、大丈夫。」
現八は、に駆け寄り 心配で怒鳴りたいのを堪え
優先して怪我がないかを確かめた。
確かに無傷である。
それから、意識を失った船虫を案じる道節の傍へ行き
半分まで船虫の体を貫いている短刀を抜き
すぐさま両手を傷の上に重ねた。
「?」
妙に落ち着いたの行動を、微動だにせずに見つめる皆の前で
とても信じられない出来事がまたしても起きた。
皆が見守る中、目を閉じた。
そうする事数秒、祈るように目を閉じていたから
淡い青色の光が現れた。
「この光・・・俺達の持つ、玉の輝きに似ている。」
「何とも、優しい光だな・・」
光を目の当たりにし、信乃と毛野が呟くように言い
視線をへ戻した。
は、未だ目を閉じたまま。
青い光は、しばしの体を包んだ後
刺したショックで、気を失ってる船虫の体を包む。
その光は、数分優しく船虫を包むと 姿を消しの纏った光も消えた。
「っ!?」
同時に、の体が後ろへ揺らいだ。
逸早く気づいた毛野と現八が、一緒に抱き止める。
ぐったりした、倒れて離れた手の下にあった刺し傷。
それは、見事になくなっていた。
跡もなく、始めから怪我などしていなかったかのように。
「船虫?」
「・・・道節・・さま?」
が意識を失って倒れてから数秒。
自分の腹部を刺し、危ない状態だった船虫が顔色もよく
道節の腕の中で目を覚ました。
ハッと気づいて、道節が腹部へ視線を向けると
其処の、刺し傷はなくなってた。
ただ、着物の生地が破れていただけ。
「今の光が・・・?」
信じられない、という顔で毛野と現八に抱き止められたを見つめ
船虫を救ってくれたと分かり、腕の中の船虫をしっかり抱きしめた。
に隠されていた力、それは癒しの力だった。
もしかしたら、最初からそうするつもりで
彼女の懐へ飛び込んだのかもしれんのぉ・・・全く、焦らせおって。
気を失ったを見下ろし、現八は小さく微笑んだ。
小さな体に、大きな力を秘めた。
「目が離せないね、は。」
「フン・・・犬坂・・余りアイツをからかうなよ?」
「フッ・・考えとくよ。」
「(このヤロウ)」
まあ兎に角、の隠されてた力もあり
玉梓に操られていた船虫も、無事に解き放たれた。
これからは、直接玉梓との戦いが待ち受けている。
の感情も、過去の記憶も
全てが何れ明らかになるだろう。