偽り



隼人達に送り出されて、俺が駆けつけた時には
つっちーが石川と対峙してた。
途中から、俺の耳にも聞こえてた。
頭ごなしに宮崎さんを責め、ただ一方的に喋ってる奴の声が。

あの子ばかり責めて、他に何も気づいてやれねぇのか?
走りながら苛々してた

丁度俺が2人のトコに現れたのと同時に、つっちーが言った。
「頭ごなしに怒鳴るんじゃねぇよ!」と。
突然現れたつっちーに、石川の目が驚きに見開かれた。

「少しはこの子の話も聞いてやったらどうなんだよ」

こう言ったつっちーの言葉を、どう勘違いしたのか
それとも決め付けた石川、オマエが唆したのか!とつっちーに詰め寄る。
バカも休み休み言え 様子を見てたは目を細めてぼやく。

もう見てられなくて、俺も物陰から飛び出した。
つっちーと宮崎さんの間に立ち、俺も弁護に出る。

「つっちーはそんな事してねぇよ!俺が最初に声掛けたんだ!」
「嘩柳院先輩・・・っ」
は悪くねぇだろ!」

俺を見た石川の目は、オマエもいたのかって言ってる。
勿論 宮崎さんもつっちーも、驚いた顔を見せた。
それも一瞬で、すぐにがしようとしてる事に気づいたつっちーは
俺を庇う発言を発した。

最初に声掛けたんだって言葉で、が原因を自分だと
石川に思わせようとしてる。
そう悟ったから、土屋は阻止すべく声を荒上げた。

「じゃあ、オマエ達が唆したのか!?」
「あのっ・・・」

あくまでも唆したに拘る石川、他に聞く耳は持ってない。
現に 何か言おうとしてる宮崎さんを無視だ。
自分が正しい、自分は生徒を分かってやれてるって
絶対コイツは驕ってる。

「この子はなぁ、オマエ達とは違うんだよ!
オマエ達の将来なんてなぁ、たかが知れてるだろうが
この子は優秀で周りからも期待されてて、どんな可能性も持ってるんだよ!
それをオマエ達は、潰す気かぁ!」

相変わらずだな、俺達みたいな奴の事なんてちっとも分かろうとしない。
それどころか、勝手に将来を決め付けられる。
てめぇの言う『期待』ってもんが、どれだけ生徒を苦しめてるか
考えた事なんてねぇーんだろうな!

何度も聞かされた言葉、もうは慣れてる。
ってゆうか、今更コイツに期待して貰わなくてもいい。
俺は 身近な奴に信じて貰えればそれで。

何も言い返さない俺達から目を離し、今度は宮崎さんに詰め寄った。
小さい宮崎さんの両肩を掴み、荒々しく揺さぶってる。
その姿は、まるで脅しめいていて プチッと切れかけた
石川を止めようと、一歩踏み出した俺より早く隣の影が動いた。

「離してやれよ!俺が連れまわしたんだからよ。」
「え?違うだろつっちー!それは俺が・・」

事実とは違う事を口にしたつっちー、俺と宮崎さんの前に立った
背の高いつっちーの左腕を掴み、叫ぶ。
けれどつっちーは、何も言わず「心配すんな」とだけ言った。

その後、俺達は怒り心頭の石川に連れられ
夜の黒銀学園へと向かわされた。

残っていた教頭はオロオロした顔で、俺達を向かえると
落ち着かない手つきで電話を掴み、何処かへ電話をかけ始めた。
きっとヤンクミを呼ぶんだろう。
あーあ、また迷惑掛けちまった・・。

教頭の机の前に立たされたつっちーと
宮崎さんは、少し後ろの椅子に座らされている。
しばらくすれば、息を切らせたヤンクミが到着するだろう。

俺は隣に立つつっちーを、ゆっくり見上げた。
宮崎さんを誘ったのは俺なのに、つっちーは俺を庇ってる。
何でそんな事すんだ?そうまでして庇って貰う必要なんてないのに
俺のこの疑問に、答えをくれそうな竜はいなかった。

「土屋!嘩柳院!」

しばらくして聞こえたヤンクミの声。
教頭達の前に駆けつけた表情は、とても困惑してる。
その顔は、俺を見つけて更に変化した。

「一体 何があったんですか?」
「土屋が、うちの生徒を強引に連れまわしたんですよ!
しかも ゲームセンターですよ?ゲームセンター!」
すぐさま答えたのは石川。

自分は正しい、そんな風に聞こえる言葉。
呆れ果てて俺は何も言わず、つっちーもダルげな目をして黙ってる。

「私も心配のあまりカァーッとして宮崎を怒鳴りましたけどね
よくよく考えてみたら、この子は塾をサボッてそんな所で遊ぶような子じゃありません!
土屋に逆らえなかったんですよ、土屋に!」

激しい剣幕で、ひたすらにつっちーを悪者扱いして怒鳴る石川。
これぞ 固定観念だな。
ちょっと鼻につくからって、捻くれた見方しか出来ない。
誰にもする事には理由があるのに、それすら認めないんだ。

どうしてつっちーだけが責められなきゃなんねぇの?
このままなんて、絶対俺は嫌だ!
悪いのはつっちーじゃない、俺が気晴らしに誘ったのが原因。

「そうだろう?宮崎、ちゃんと答えなさい!」
「ちょっと待てよてめぇ・・っ」

誘導尋問みたいに、答えを強制してる石川。
このままじゃ、つっちーだけが悪者になっちまう。
それを阻止しようと、俺は口を開きかけた・・が
目線だけでつっちーに止められた。

『分かった、けど 自分から余計な事まで背負うなよ?』
『俺も隼人に同感、最初に釘刺しとかねぇとまた無茶するだろ?』

抗議しようと口を開きかけた俺の脳裏に、石川がゲーセンに
現れたのを知って、駆け出そうとした俺へ隼人と竜が言った言葉。
それが走馬灯のように駆けて行った。

この先しようとしてた行動を、的確に読んだ二人の言葉。
でも・・約束したけど、このままじゃヤだよ!

宮崎さんも、つっちーの合図に気づき
とても苦しそうな顔をした、彼女も苦渋の選択をせざるを得ず
宮崎が頷き 認めた事で、得意げに石川は笑みを浮かべた。
殴ってやろうかと思ったが、流石に堪える。

悔しい!何も出来ないじゃねぇか自分!
前とちっとも変わってねぇ!
ギュッと俯いて拳を作った、その耳に教頭達の謝罪する声。

理不尽だ、不愉快だ!
そう罵って叫んでやりたい、でもつっちーの気持ちを無駄に出来ない。

「土屋、今の話 本当なのか?」
「ああ」
「土屋・・二度とこの子に近づくなよ!」
「・・・ああ」

ヤンクミも信じられないらしく、ただ立ったままのつっちーへ
問いかけてる。
肯定しかしないつっちーに、念を押すように石川が言い
つっちーが頷くと、俺へ視線を移し無言だが同じ事を言いたそうだった。

石川は、教頭へ厳正な処分を約束させ
迷いのある宮崎さんを急かし、職員室を立ち去った。
教頭の退学も覚悟するんだな・という言葉に
上等だよ と言い残すと、スタスタと歩き出した。
慌てて追いかける俺とヤンクミ。

「つっちー!俺 こんなのヤだよ!俺だって悪いんだぞ!?」
「何も言うなよ!悪いのは俺一人でいいんだからよ。」
「何でだよ!」
「土屋!何か理由があったんじゃないのか?」

歩く速度の早いつっちーに、懸命に追いつくと
彼の腕を掴み、必死に自分も悪いと訴える。
けれど、つっちーの決意は固く 曲げようとしない。

変なトコで頑固だなぁもう!!
押し問答してる空間に、少し遅れてヤンクミが駆けつけた。
やっぱり彼女は他のセンコーと違う。
些細な事にも気づいて、真摯に気にかけてくれる。

俺は詳しい説明をしたかった、でも口を開く前に
つっちーにまたしても阻止されてしまう。
ヤンクミが心配してるのに、頑ななつっちーはそれを拒み

話す事なんかない、と冷たく言うだけだった。
心配して駆けつけたヤンクミの表情が、驚きから変わっていく。

「こんな学校、いつでも辞めてやるよ!」

あのセンコーも、クソくらえだよ・・
久美子の隣をすり抜ける前に、俺を見下ろす。
このまま離したくなくて、ずっと掴んでた制服の袖。
つっちーは、その俺の手を解き 帰って行った。

「嘩柳院、本当なのか?」
「・・・俺だって、このままじゃ納得行かない。」

俺はどうすればいい?話すべきなんか?
つっちーが勘違いされたまま思われたくない。
ヤンクミにはまだ話さない方がていいの?
隼人達にも?黙ってられるか?

・・・いや、絶対無理!!
仲間が誤解されたままなんて、耐えられねぇ!

「ヤンクミ!俺、つっちーと話てみる!」

あのまま退学にでもなったら嫌だ。
の迫力に、気圧されつつも
ヤンクミは力強く頷き、頼んだぞって言うと
俺を送り出した。