怒り
「奥寺!!」
つっちーと浩介が殴られる前に、動きを止めようとして咄嗟には叫んだ。
しかし、それも遅かったらしく 奥寺の拳が2人に振り下ろされた。
物陰でその時を待っていたタケも、の声に気づいて
慌ててつっちー達の前へと駆け出した。
タケが来た時、うわーっと情けない声と共につっちー達が地面に倒れ込む。
「俺を誰だと思ってんだ?昇慶大ボクシング部の奥寺だぞ!」
「あー遅かったか・・・」
高らかに名前を名乗った奥寺の隣で、額に手を当てるの姿。
しかもさっき、コイツの名前言ってなかった?
知り合いなのか?
タケが考えてる最中、つっちーと浩介は奥寺に平謝り。
土下座して、参りました〜と言ってる。
「奥寺、待てって言ったのに。」
「おう久しぶりだな、。」
「「知り合い!?」」
呆れ果てて、腕組みをしたが奥寺へ言う。
2人の話し方は、初対面っぽさのない気さくな雰囲気だ。
案の定つっちーと浩介も、吃驚した声音でに突っ込んでる。
そんな2人を振り向き、もバツが悪げな顔で頷いた。
2人の会話が交わされてる間、ずっと真希ちゃんはタケを睨んでる。
怒ってるなぁ・・マズイ事になっちまった。
は奥寺との会話を切り上げると、一先ず帰ろうと促した。
に促されると、つっちーと浩介は逃げるように立つと
突っ立ってるタケの腕を引っ張って
一目散にその場から去って行った。
「真希ちゃん、アイツ等も悪気があった訳じゃないんだ。」
「・・・じゃあ何なのよ」
「詳しい事は今度のバイトで言うから、奥寺送ってげよ?」
「言われなくたって、送ってぐよ。」
膨れっ面の真希ちゃん、今は何を言っても駄目に思えて
は奥寺に彼女を任せると、つっちー達を追いかけて走った。
しばらく走った先には、つっちーと浩介の姿しかなく
駆け寄りながら辺りを見渡してみたが、タケの姿はなかった。
先に・・帰っちまったんだろうか。
「アイツ何、マジつぇーんだけど!」
「あんなのナシだろ!つーか、アイツと知り合いなの?」
「あーまあな、俺が柴田の先輩とやり合ったのは知ってるよな?」
「「ああ」」
「ちょっと危なくなったトコを、奥寺に助けられたんだ。」
「「マジで!?」」
道路のポールに寄りかかりながら、2人に問いかけられ
濁しかけた言葉を、脱力してる2人に言った。
その途端、見事に声をハモらせて驚いた2人。
真希ちゃんも一緒で、彼女が偶々通りかかった奥寺に助けを求めた。
その事を話せば、益々2人は肩を落とすのだった。
そんな出会いをしてたら、尚の事タケに可能性はねぇんじゃねぇのかと。
その翌日、嘘をついたしっぺ返しがに降りかかる。
昨日のあの場に居合わせた4人は
内心重い気持ちで、黒銀学院への門を潜った。
特に俺なんかさ、両方と知り合いで顔を合わせるから余計。
昨日タケがした事、きっとあの性格な真希ちゃんは怒ってるだろう。
気が強いし、此処まで乗り込んで来そうじゃない?
その時はただの想像だったけど、まさか本当になるとは・・・
玄関へは回らず、その足で青いシートの被さった校舎へ向かう。
3D専用に造られた入り口を入り、別館扱いの教室へ向かった。
「」
さあてドアを開けようとしたら、怒気を孕んだ声で名を呼ばれた。
その途端、ヤケに緊張したのを覚えてる。
嫌な予感は、振り向いた時に現実の物となった。
ゆっくり振り向けば、其処には桃女の制服を身に纏い
烈火の如く怖い顔で自分を見ている真希ちゃんがいた。
「も此処の生徒だったんだね」
「ああ・・って、何で此処に?」
「聞かなくたって、分かってるでしょ?」
「此処は穏便に・・・」
「穏便に行くわけないじゃん!あたし許せないの!」
予感は当たった、しかも落ち着かせようとしたのも失敗に終わり
ついに真希ちゃんは、ガラッと教室へのドアを開けてしまった。
ザワザワしてたクラスが、一斉に静まり返る。
も慌てて教室へと入った。
ズンズンと脇目も振らずに、タケを目指す真希ちゃん。
早歩きに出足の遅れたは中々追いつけない。
そして、やっと追いついた時には タケの目の前に来ていた。
――パン!!
クラス中の視線を一身に浴び、怒りは止まる事無く
勢いよくその手は、タケの頬を叩いた。
乾いた音が、静まったクラスに響く。
その現場には、来たばかりのヤンクミの姿もあった。
叩かれたタケは、呆然と頬を押さえて真希ちゃんを見る。
「一体何のつもり?いらがらせ?あたしアンタに何かした?」
「あぁ・・そんなんじゃねぇんだよ」
「タケはさ・・アンタに惚れてんだよ」
「だからあんな事したってゆうの?やり方が汚すぎる。
アンタみたいな弱虫大ッ嫌い・・・もうあたしに近づかないで!」
怒る真希ちゃんに、つっちーと浩介がフォローするが
真希ちゃんの目は言い訳なんて聞かないって言ってる感じで
案の定 タケが一番気にしてる言葉を吐き捨て足早に立ち去った。
の隣を勢いよく通り過ぎ、ヤンクミの傍を通って
教室から出て行った。
「どうしたん」
「オマエ、何があったんだよ。」
「武田、どうゆう事なんだ。」
「・・・実はさ」
すっかり肩を落としたタケに、椅子に座ってた隼人と竜が
立ち上がって心配そうに問いかける。
同時に駆け寄ったヤンクミも、タケに問いかけた。
が口を閉ざす中、つっちーが事情を話し始めた。
真希ちゃんが強い男がタイプと知り、一芝居打った事。
失敗して返り討ちに遭い、逃げ帰った事などを。
話すつっちー、それからをチラ見した。
「俺等も・・ちと、調子に乗り過ぎちゃってさ・・・」
言い辛そうに話し終えたつっちー。
聞き手のヤンクミも、竜も隼人も黙って聞いていた。
「武田・・本当なのか?」
「ヤンクミ、俺がちゃんと言ってれば良かったんだ。」
「・・・どうゆう事だ?」
「俺さ、コイツ等より先に会ってるんだ。」
再び静まり返るクラス。
隼人を始め、この場にいる者全ての視線が突き刺さった。
そりゃあ驚くだろう、タケの好きな相手と同じバイト先なだけでなく
その恋敵とも知り合いだったのだから。
タケは驚き半分、何だか悔しさを覚えた。
急にや隼人達に置いて行かれた感覚になる。
最初は自分の弱さを嘆いていた。
けれど、今はどうだ?
そこ等辺の不良には、向き合える強さを持って
隼人と竜と肩を並べられる程になった。
皆といて、一番弱いのは自分だけ。
足手まといは俺だけかよ・・
「いや・・それは嘩柳院のせいじゃないだろう。」
の話しを一通り聞き終えると、ヤンクミは再度タケを振り向き
本当に真剣な顔で、念を押すかのように聞いて来た。
「オマエ・・何バカな事やってんだ。
彼女の気持ち手に入れる為なら、どんな手使っても
いいと思ってんのか?人を好きになるって気持ちは
もっと真っ直ぐなモンじゃないのか?
ダチまで巻き込んで、最低じゃねぇか。」
「しょうがねぇじゃだろ、フツーに頑張ったって
俺には無理なんだからさ・・・」
その表情は、何処となくヤケになってるように見えた。
「頑張った?・・・お前が何頑張ったって言うんだよ??
全部人任せで、自分の力でしてねぇじゃねぇかよ!!」
「したって無駄なんだよ!俺喧嘩弱ぇし度胸ねぇし?
少しぐらい汚え手使ったってしょうがねぇだろ!
狡い事でもしなきゃ彼女に振り向いて貰えねぇんだからさ!」
バキッ!!
カッとした表情のタケが、ヤンクミに向かって叫んだ時。
隣に立ってたヤンクミの姿が、少し動いた。
ただそれだけしか、俺には見えなかった。
立ち上がったタケの体が、後ろへ大きく倒れる。
そう、ヤンクミがタケを殴ったんだ。
「ふざけた事言ってんじゃねーよ!甘ったれんのもいい加減にしろ!
お前が駄目なのは力が弱いからなのか?そうじゃねぇだろ!
大事なのは力の強さじゃない!」
頬を押さえて、ずっと一点を見つめたままのタケ。
そんなタケにグッと殴った手を拳にして叫ぶように話すヤンクミ。
その姿を、も隼人達もジッと聞いていた。
ヤンクミの言う事は正しい、確かにタケはずっと人任せだった。
「心の強さだろうが!正々堂々相手に向かって行く事も出来ない奴が
半端な想いで人の事好きになってんじゃねぇよ!!」
「・・・・・」
「お前らもだ。いくらダチの為だからって汚い真似すんな!」
「・・ごめん」
半端な想いでって台詞が、どうもの心に響いた。
俺はどうだ?一番半端な気がしねぇ?
隼人と竜のどちらにも、返事らしい事言ってねぇのに2人共大切。
俺が考え込んでる間に、小さくつっちーと浩介に向けて
呟いたタケが ダッと走って教室を出て行ってしまった。
歯を食いしばり、ジッと立って考えていた。
その姿を、隼人と竜は見つめていた。
「タケ!!」
タケが教室を出て行く音で、は我に返り
音のした方を振り向いた。
すると、視界の端にタケの姿が映る。
1人にはしておけない、そう思って俺は走り出した。
今度は、後ろの方で自分を呼ぶ隼人達の声がしたが
タケの事が心配だった為、振り向かずに出て行った。