不確かな想い



「一人で乗り込むなんて、無茶するんじゃねーよ」
久美子の一喝で、尻尾を巻いて退散した荒校生徒。
倒れていた二人をそれぞれ担ぎ、俺達は川原にいた。

は二人の手当てをしたいのを抑えて、会話を聞いてる。

「しょーがねぇだろ・・いい加減、ケジメつけなきゃ何時まで経ってもおわらねぇーし」
痛む傷のせいか、より一層掠れた声で隼人が上半身を起こす。
隣に座る竜の顔は、隼人とは違う方を見ている。

「3Dの頭だから、俺がやるしかねーだろ?」
言いながら隼人は俺達の方を向いた。
隼人は、隼人なりに『仲間』を守ろうとした。

皆をケガさせるくらいなら、そう思って一人で行った。
その心意気・・俺は凄いと思う。
あの時の俺には出来なかった事を、隼人は簡単にやってのけた。
これが俺のやり方だよ・呟いた隼人を、やっと竜が見る。

「俺には・・これしか出来なかった。」

久美子は、そう言った隼人を誇らしそうに見ている。
俺も隼人を責める気は毛頭ない。
だから、今した事を隼人が悔いているのなら それは違う。

「それでいいんだ、今日のオマエは間違ってないよ。」

久美子は笑顔で屈み、沈んでいるような隼人へ言う。
言われた隼人は、照れ臭いのか少し目線を外した。

「ほんとおまえ等、似たもん同士だよ。」
久美子と隼人達を後ろから見ていて、俺は思わず漏らした。
つい口から出た言葉に、隼人と竜の怪訝そうな目が向けられる。

「勘弁してよ・・・」
「似てねぇだろ」

抗議するかのように外される視線。
互いに顔を逸らして、俺の言葉を否定する。
けどさ、二人は似てるって。
仲間の為になら、一人でも敵の懐に飛び込んで行く所とか。
見ていて微笑ましいくらい、本当に仲間思いなのが伝わる。

「面子に関わらず、武田の為にたった一人で頭下げた小田切。
仲間を巻き込まないように、たった一人で戦おうとした矢吹。
やり方は違うが、どっちも仲間を守ろうとしてる。
おまえ等ホント上等だよ。」

俺の意見に同意した久美子が、二人の顔を見ながら嬉しそうに言った。
久美子の言うとおりだ、二人共凄く仲間思いで
ちゃんと仲間を守れる術を 自分なりに持っている。
こんな奴等が不良にいても、いいんじゃないかと思う。
こんな奴等だからこそ、余計に失くしたくない。
きっと俺が過去の事を話せば、力にはなってくれるだろう。

だが、俺はその先の事で こいつ等を巻き込みたくない。
そう思う俺も、二人と似ているのだろうか?
いや・・俺のは唯の偽善だ。

「別にタケの為じゃねぇよ、もしタケが退学にでもなったら
お袋さんが泣くと思って・・・」
照れてるのか?それはないと思うが、竜は久美子の言葉を
受け入れたくないのか、ふとそんな風に言った。

だからそれが仲間の為、って言ってんのに。
今一素直じゃない竜には、の口許にも笑みが浮かぶ。

「俺だって、こんなんで誰かが退学にでもなって恨まれたらやだし。」
本当に・・こいつ等似てやがる。
誰かの為に、自分を犠牲にしてまでね・・・。
「けど水くせぇよ、隼人も竜も。」
「そうだよ・・俺達ダチだろ?」

「おまえ等よわっちーから足手まといなんだよ、バーカ。」

嬉しいはずだけど、それに心を任せられない。
楽しそうな彼等の声も、何処か遠くに聞こえた。
こんな仲間が、あの時俺にもいたら・・・
何て思わずにはいられない。
そんなの望んじゃ駄目なんだ、一人で背負わなくちゃ駄目なんだ。
こいつ等に悟られてはいけない。
きっとそれが、こいつ等を守る事になるはず。

「隼人そりゃねぇーぜ」
「言い過ぎだろ〜」

つっちーと浩介の言葉に、俺を除いた皆は顔を綻ばせた。
笑い合う隼人達へ、久美子は学校に戻るぞ・と言って
抗議の声を発するのを無視し スタスタと歩き始める。

今頃教室では、前田達がヤキモキして待ってるだろう。
飛び出して行ったまま中々戻らない俺達を案じて。

歩くのを手伝うか考える事にした俺を、隼人が呼ぶ。
、ちょっと座れ。」
「な・・何だよ」
その目が真剣だった為、つい腰が引けるが
何時の間に背後に回ったつっちーにガッシリと両腕を押さえられ
自動的に隼人の前へ座らされた。
何を言われるのか分からないでオドオドしていると
スッと隼人の手が伸びて、そっと俺の頬に触れた。

ドキーンと心臓が跳ね、頬が熱を持つ。
ちょっと待て!つっちー達がいんのに何すんだ!

の同様をそっちのけに、堂々と頬に触れて隼人は言った。
「前も言ったけど、やっぱもう一回言っときたくてさ。」
中々来ない俺達に久美子は後ろを振り向いたが
隼人達に集まってるのを見て、勝手に友情はいいな!
と納得し 再び歩き出す。

「殴っちまって・・・悪かった、すっげ痛かっただろ?」
「そんなのもういいって」
「よくねぇよ、俺庇ったせいなんだから」

間近で真剣に謝られ、境内での事を思い出してしまう。
その時の事を思い出して もういいと言うが
やはり走馬灯のように、抱えられた事や
・・・優しく頬を撫でられた事が甦った。

気づいてた訳じゃない、隼人だった気がしたんだ。

隼人に便乗し、竜までもが俺に謝った。
あれは俺が勝手に飛び出したからだろ?と取り繕えば
バカ・と呟かれる。

「それとさ、ひでぇこと言って悪かったな。」
「ああ、それは俺も反省してるぜ〜ごめんな」

続いてつっちーと浩介までも、俺へ謝って来た。
しかも浩介は、お詫びの抱擁〜とか言いながら抱きついてくる。
うわ〜後ろから抱きつくのは止めろ!
慣れてねぇーんだってば!って慣れても困るな。
抱きつかれて慌てるを見て、タケもくっつき
つっちーもくっつこうとした時、それは拒まれた。

「調子に乗ってんなよ、困ってんだろ。」

しばらく笑って見ていた隼人と竜。
止めようと思ったのは、つっちーが言った言葉。

ってちいせぇよな〜腕の中にスッポリ納まるぜ?」
とか言って抱きしめるつっちー。
照れるつもりはないのに、慣れてないせいか勝手に照れる。
それを見ているうちに、隼人は胸がムカムカして来て止めるに至った。
てゆうか、最近俺って変じゃね?
コイツの肩幅とか、手とかちいせぇ・・って感じてからだ。
男だって頭じゃ分かってんだけど、時々女に見えちまう。
疑問を感じたのは、境内で涙を見てから。

守りたいと思ったのは、教室で声を荒上げた時。
コイツが抱えてるもんを知りたい、今はそう思ってる。

隼人の凄みある声に、パッと三人は離れ
すぐさま隼人と竜が立つのを手伝う方に回る。
キビキビした動きに笑っていると、俺の耳に聞こえた二人の会話。
「ごめん」と竜へ謝った隼人。
驚いて竜はしばらく隼人を見ていた。

俺から離れたタケ達が、嬉しそうに肩をぶつけ合う。
それを見ていて、俺も心から嬉しく思った。
つっちーと浩介が隼人に手を貸し、俺とタケが竜に手を貸す。
竜は、気を使ってなのか 俺になるべく負担が掛からないよう
歩いてくれた。
その分タケに力が掛かってはいたが・・・

嬉しい出来事と共に、自分の体調も悪くなっていく事に
この時は全く気づかず・・・
自分の過去が浮き彫りになる日が近い事も、知らずにいた。