ホントはね・・・
宮崎さんを待つつもりだったんだが
会議室の方が気になって、つい玄関を離れた。
ってゆうか・・俺会議室、行った事ねぇ・・・
学校案内ってどっかにねぇの??
逸る心を抑え、玄関の辺りをウロウロする。
しばらく見渡してみてその学校案内を見つけた。
自分の位置を確認し、それから会議室を確認。
会議室は、自分達のいない本校舎の三階。
普段絶対行かないし・・分かる訳がない。
まあいいや、とにかくこれで分かったし
きっと行くのはこれが最初で最後だ。
場所を確認すると、すぐさまは走り出した。
宮崎さんはきっと来る、信じてるから待たない。
だから、俺はつっちーの方に行ってるから。
その頃会議室では、偉そうな石川の話がされていた。
世の中には規則がある、それを破れば罰されるとか?
その偉そうな話が終わってから、教師の議論が交わされ
まずは理事長の意見を聞く事でまとまった。
その理事長は、嘘クサイ笑顔を土屋に向け
何か言いたい事はないか、と尋ねた。
迷ったように目を泳がせる土屋。
それを見た猿渡教頭が、理事長が聞いてるんだから答えろと急かす。
猿渡教頭の苛立った声に、迷っていた土屋も口を開いた。
「俺、今まで学校なんてどうでもいいって思ってた。
勉強も出来ねぇし・・センコーに怒鳴られるだけの学校なんか
でも・・でも、今は辞めたくないです。俺、辞めたくないです。」
丁度俺が会議室を見つけ、扉の前に来た時
扉の向こうから、つっちーの声が届いた。
辞めたくない、彼はそう言った。
―ちゃんと考えるから―
学校前で待ち伏せた時、つっちーが言った言葉。
ちゃんと・・・自分の意志で決めたんだ。
ヤケなんかじゃない、辞めたくないって言ってくれた。
俺も、つっちーにいなくなって欲しくない。
それはきっと、皆だって同じ。
ホッとしたのはつかの間で、理事長の告げた言葉は
とても信じたくない物だった。
「よって、3年D組 土屋光は・・・退学。」
扉の外にいても聞こえた冷血な宣告。
直に聞いたつっちーや、ヤンクミはもっとショックだろう。
名誉名誉って・・・そんなに大事なんかよ。
そんな物より、もっと他に大事なモンがあるんじゃねぇのか?
此処で思っていても、きっと駄目だ。
こんな奴等に、何を期待しても無駄なんだよ。
思った時には、自分の両腕は扉を押し開けていた。
「詳しく聞きもせずに退学かよ・・・ふざけんな!」
「嘩柳院!?」
「何だね君は!教室に戻りなさい!」
「・・・」
突然の怒鳴り声での登場、全員が扉を振り向き
それ相応の反応を見せる。
吃驚した顔で、皆がを見る中 一人声を荒上げたのは石川。
「嘩柳院は変わったな!教師の言う事も聞けないのか!?」
「言う事だと?納得も出来ないのに待ってられるか!」
「何だと?そう言えばオマエもあの場にいたんだったな」
「いたよ、本当は俺が連れ回したんだ!」
「!!」
昔の事を待ちこみやがって、生徒はロボットじゃねぇ!
ちゃんと意志だって、感情だってあるんだ。
それを無視して頭ごなしに怒鳴って、従わせようとして
そんなセンコーは、センコーじゃねぇんだよ!!
声を張り上げては告げた。
つっちーは全く悪くない、俺を庇っただけだと。
突然の告白に、ハッとしたつっちーが俺を見る。
「つっちーはアンタ等の思うような奴じゃない!
アンタ等が、一度でも俺達のような奴をちゃんと見た事があるか?
見て、理解しようとした事があるのかよ!!」
止めようとするつっちーを制し、は言葉を言い続けた。
切実とも言える言葉、それが此処にいる教師に届くなど
期待はちっともしていない。
けど、言わずにはいられなかった。
これだけ言ってるのに、教師達からの反応はなかった。
結局上辺だけなんだ、心配してるんだとか言っても。
結局何も出来ない、手に負えないと分かると逃げて行く。
煮え切らない怒り・・どうすればいいのか
どうしたらいいのか、不安でこの場にいるのが辛かった。
ヤンクミは、そんな俺達の為にまた頭を下げてくれている。
土屋に時間を下さい、お願いします・・・と。
会議室には、重い沈黙が流れた。
頭を下げるヤンクミの横顔が、泣きそうに見えた気がした。
立ち尽くしたも、ドアの前で石川や理事長達を見つめた。
どれくらいそうしていただろうか、バタバタと走る音が聞こえ
開いていた扉の前に、黒い群れが現れた。
押し込む雪崩の如く入って来たのは・・・
「隼人!?竜!?・・皆」
息を切らして、隼人と竜を先頭に3D全員が現れた。
駆け込んだ隼人は、自分を呼ぶ声にを見るや否
目尻に浮かんだ涙に気づき、無言でその隣に来ると
「勝手に一人で行ってんなよ」
「だって・・・つっちーを退学にさせたくなかったんだ。」
小声で話しかけられ、俺も小声で答え隼人を睨みつける。
そしたら、そんなの俺達だって一緒だ・・と返された。
一人で来ても、何も出来なかった悔しさに震える手を
隼人はさり気なく取り、後ろ手に握った。
手を握る温もりに、ハッと隼人を見る。
だが それに応える目は、教師達に向けられていた。
隼人の手の温もりが、高まった気持ちを落ち着ける。
は、しばらくその温もりに 心を任せた。
ただ一人、竜のみが後ろ手に隠された行為に気づく。
斜め横から見えるの顔は、余り表に出てないが
嬉しそうな顔に見えた。
「わりぃ・・何かジッとしてらんなくてさ」
オマエ達何やってんだ、との問いに答える隼人。
その目は、とても穏やかな・・優しい目だった。
勿論その目で見た先には、つっちーとヤンクミがいる。
全員が揃った所で、俺は宮崎さんの姿がない事に気づく。
やっぱり・・・来てくれなかったのか?
不安になる、どれだけ言っても無駄な奴等には
彼女自身の言葉で言わなければ何にもならないのに・・・
不安が顔に出たのか、握る手に力が込められた。
自然な感じで隼人を見ると、大丈夫と言う感じの笑みが。
それから更に隣を見れば、同じく安心しろと言いたげな竜。
2人の反応に勇気付けられ、俺はその時を待った。
そんなに大きく時間もかからずに、彼女は現れた。
背の高い黒の集団、その後ろの方から声が聞こえる。
遠慮気味に届く、宮崎さんの声。
前に立っていた隼人等、3Dの連中は自分達から道を開ける。
訳の分からない俺は、後ろ手に手を握られたまま 右側へ避けた。
「宮崎・・・!?」
隼人と浩介の間に立った宮崎さん。
中でも一番驚いた反応をしたのは、担任の石川。
勿論、俺も驚いた。
来てくれるとは思ってなかった、という訳じゃなく
来てくれた事と、隼人達の穏やかな眼差しに驚かされた。
彼女がきっと話してくれると、そう信じてるかのように。
つっちーとヤンクミの顔も、驚いている。
それでもヤンクミの顔は、安心したような感じにも見える。
俺も正直ホッとした。
「ごめんなさい・・土屋さんは、何も悪くないんです。」
この場の全員が、宮崎さんを見る中
言いづらそうだが、ちゃんと通る声で彼女は話し始めた。
私のせいだ、と口にした宮崎さんにつっちーがもういいと言う。
だが宮崎さんも止めるつもりはなく、言葉を続けた。
「私・・万引きしようとしたんです。
もう勉強なんてしたくない、受験なんかどうでもいい
そんな事を考えていたら・・嘩柳院先輩が止めてくれなければやっていました。」
宮崎さんの告白に、空気の変わる会議室。
教頭が信じられないという顔で、声を漏らす。
それを聞いていた石川が、目の色を変えて宮崎さんの前に立つ。
「どうしてそんな嘘をつくんだ!」
「嘘なんかじゃありません!」
「土屋と嘩柳院に言えって言われたのか!?」
「まだ分からないのか!」
押し問答のように、宮崎さんの言葉を信じようとしない石川。
痺れを切らせたヤンクミの怒声が、会議室に響いた。
まあ・・ヤンクミが怒鳴らなくても、自分が怒鳴ってたと思う。
凄みのある声に怒鳴られ、ピタッと動きを止めた石川が
怒りに狂って爛々と輝く目を、ヤンクミへ向ける。
「この子がどんな思いで本当の事を話したのか
何にも分かんないのか?自分の生徒の事
もっとよく見てやったらどうなんだ。
もっと話を聞いたやったらどうなんだよ!」
怒鳴られた石川、最初は驚いた顔で聞いていたが
それも最初だけで、すぐに怒りの形相になると
宮崎さんから目を外し、つっちー側にいるヤンクミへ問い返す。
「アンタこそ、土屋と嘩柳院の事をどれだけ見てるっていうんだ。
担任だって、まだ日も浅いくせに2人の何が分かるってゆうんだ!」
そう言いながら叫ぶ石川を、ヤンクミは静かな目で見ていた。
全てを受け止めた凪のような表情。
少し間を取ってから、ゆっくりと口を動かした。
「時間じゃありませんよ。
例え一時間でも、ちゃんと見ようと思えば生徒の事は分かります。
土屋は短気でケンカっぱやくて、お調子者で度の過ぎた悪戯もやる奴です。」
つっちーの事を穏やかにそう話す久美子。
その姿を、俺は黙って見つめた。
つっちーも、自分の事を話す久美子の姿に
照れ臭いのか 視線を泳がせた。
「嘩柳院はしっかりしてそうなのに、おっちょこちょいで
無鉄砲で仲間の為なら平気で無茶する。
それに土屋は、クラス一のムードメーカーで言葉遣いはなってないけど
ちゃんと・・ご馳走様って大事な事が言える奴なんです。」
それからヤンクミは、俺の事も変わらず穏やかな目で話し石川を驚かせた。
俺やつっちーにとっては、温かい言葉以外の何者でもなく強く心を打った。
「自分のやった事に、一切言い訳しないで
仲間を庇って 責任も潔く持つような奴なんです。」
この場全員にしっかり聞かせるかのように
ヤンクミは話し続けた。
そして、眼鏡の奥にある穏やかな眼差しが 後ろの俺達に向く。
つっちーと俺に、まだまだ知らないいい所と悪い所があるように
隼人達クラス全員にも あるんだという事を。
こんなヤンクミの姿を見て、他の教師にも知って欲しい。
生徒は、教師に何を求めてるのか・・
何を訴えているのか、簡単に見るんじゃなくよく見て欲しい。
生徒はどんな時でも、教師に何らかの助けを求め
それを日々 送っているのだと。