本物の仲間



「いい加減にしねぇか!」

現れた人の強い声が広い倉庫内に響き渡る。
家屋の二階建て程の高さはないが、それなりの高さのある場に現れた久美子。
全員の視線を受けてから迷う事なくその高さから飛び降りた。

突然現れた久美子の登場で、風間達を殴ったり蹴ったりしていた男達の手が離れ
既に力も尽きていた彼ら6人はその場にズルズルと倒れ込む。

「・・久美子、さん」
「もう十分じゃねぇのか!」
「山口・・・」
「何で先公が・・っ」

着地を成功させ、顔を上げた久美子の表情は初めて会った日のように凛としていた。
思わず彼女の登場と表情に魅入る、その後方で風間と緒方の洩らす声が聞こえた。
二人も他の四人も、久美子の登場と普段とは違う雰囲気に驚いてるんだろう。

久美子は下に下りてが頭らしい男に捕らわれてるのを確認した。
全く・・・無茶するなって言ったのに、やっぱり首を突っ込んでいやがったか。
それから地面に倒れ込んだ自分の生徒である風間らを確認。
そうしているとを強引に腕を引いて歩かせた頭と、横を固める手下らが距離を詰めて来る事に気付く。

「アンタ誰だよ」
「あたしはそいつ等の担任の先生だよ」
「先公?アンタら先公が頼りねぇから、俺らがこいつ等にお仕置きしてやってんだろ」
「お仕置き?」
「このガキが、俺の仲間に因縁つけてボコボコにしてくれたんだ」
「・・本当なのか?」
「・・・・ああ」

無理矢理頭の男に連れられ、横に立たされたはこの先に起こるであろう嫌な予感に晒されていた。
女の久美子では酷い目に遭わされてしまうのでないかと。

私と同じように・・酷い、目に・・・・っ
悪魔の住む家でされていた事を思い返すと、心が冷えて背筋が凍った。

久美子と目を合わすと微かに笑って見せ、凛とした態度のまま頭の示した緒方と言葉を交わす。
聞いていたも、頭の言葉が信じられなかったが
緒方本人が自分から吹っ掛けたケンカだったと認めた為、彼が素直に認めた事で逆に不安のようなものが消える感覚を感じた。

「それは本当に申し訳なかった、こいつ等見ての通りの未熟者だ・・だから間違った事もするし他人に迷惑もかけちまう」
「・・・・」
「これからはあたしが担任として物の道理ってモンをしっかりと教えていくつもりだ、どうかそいつ等を勘弁してやってくれ・・この通りだ」

この乱闘の原因を作った緒方を非難したりせず、生徒の犯してしまった過ちを自分の事のように受け止め久美子は頭を下げた。
何の迷いもなく潔く頭を下げた久美子に、緒方と風間達も目を見張る。

今まで誰も自分達のような生徒の為に頭を下げるような教師はいなかったから。
の手を掴み拘束する頭の男も口を挟まず久美子の言葉を聞いてるように感じたが・・・

「返せねぇな、先公の言う事聞くようなガキじゃねぇだろうし・・ここできっちり俺らの怖さ教え込まねぇとな」

久美子の言葉は届かず、頭の男も交渉のように捉えられる言葉を突っぱねた。
そうだ・・不良なんてこんなものだ、常識なんて通用しない。
理解の範囲を超えたルールの中で生きている、久美子の真っ直ぐな思いなんて届くはずがない。

頭の言葉で一人の男が久美子へ向かって歩いて行く。
まさか殴ったりするんだろうか?と心が急き、心臓が早鐘を打った。

止めさせたくて身じろぎするも、頭の男に強く腕を引かれて叶わない。
いつまで経っても離そうとしない相手に少しずつ苛々してくる自分には気付いた。

苛立ちを向けるように自分を拘束してる頭の男を睨みつけた。
そんなの表情を、後ろで倒れる風間や緒方達
それから不良達と向かい合っている久美子にも見えた。
の内面に潜んでいる心の強さを見抜いた久美子、微かに笑みが浮ぶ。

「まともな話が通じる相手じゃなさそうだな、まあ・・関係のない女の子まで人質にとるような連中にそれを期待しても無駄か」
「てめぇ・・女だと思って下手に出てりゃいい気になりやがって・・・・おい、やれ!」
「――やめ・・・っ久美子さん逃げて!」

凛とした表情を崩さず、歩いて来る男を見ていた久美子。
腕を掴まれた瞬間、見事な返しで男の腕を逆に捻り上げたのだ。

これには久美子を連れ出し、追い出そうとしていた男も苦痛に顔を歪めた。
男の動きを封じ、その体を横へ払い飛ばした久美子へ苛立ちを現すとを拘束したまま一斉に命じる。
指示を受けた手下達が各々の武器を手に猛然と久美子へ襲い掛かって行く。
その様はただ恐ろしい光景としての目に映り、暫く使っていなかった喉を酷使するように叫んだ。

声を出す事を暫くしていなかった喉では上手く声が出ず、音にした声も手下達の叫ぶ声に掻き消されてしまう。
今度は久美子が痛めつけられる様を見なくてはならないのかと、の心は悲鳴を上げていた。
もうこれ以上誰かが傷つく姿を見たくないのだと。
しかし、事態はこれより急展開を迎えるのである。

久美子へ向かった男が鉄パイプを振りかぶった瞬間、後方の風間らも思わず這ったまま前へ進みかけた。
冷静に鉄パイプの軌跡を見ていた久美子、目にも留まらぬ速さで動いた両手でそれを掴み取り
払う動きで続く男の拳をかわし、更にその軸足を払って転ばせる。

流れるような動作を止める事なく倒れた男から鉄パイプを奪うと
更に迫っていた男の腹部を奪った鉄パイプで殴りつけ、動きを封じた。
これにはも風間達も目を疑い、たった一人で手下達を伸してしまった久美子を見つめる。
その様を見せ付けられた頭は、無造作にを突き飛ばすようにして解放し久美子の方へ歩き出した。

「っ・・!」

やっと嫌悪してやまない男から解放され、打ちつけた二の腕をおさえつつ半身を起こした
頭の事は久美子に任せ、ハッと立ち上がり地面に倒れてる緒方と風間へ駆け寄った。

「緒方君、風間君!皆・・大丈夫??」

緒方と風間の丁度真ん中に膝を付き、身を寄せるようにして問いかけ
視線を上げて二人の少し後ろに倒れ込んでいる市村ら4人にも声を掛けた。

市村や倉木はそんなに笑って見せ、神谷と本城も傷だらけだが笑う。
彼らの様子に安堵し、再度視線を目の前の緒方と風間に戻す。

「・・つか、関わんなって言っただろ・・・何来てんだよ」
「お前も無茶する奴だな」
「二人ともごめんなさい、でもね・・・・緒方君が何だか辛そうに見えたから・・」
「・・・え?」
「強さを得る事を緒方君自身の存在理由にしてるみたいで・・・心が泣いてるように見えて放っとけなかったの」
「―――・・変な女・・・」
「・・・・・・」
「そのままでも緒方君は緒方君だから、もっと自分を大切にして欲しいと思っただけだよ」

視線を合わせてもやっぱり彼らに嫌悪感を感じない。
彼らの人となりを知れたからなのかな?
我ながら単純なのかも?と内心で自分に呆れる。

嫌悪感を感じなくなったのは伯父と従兄、黒田さん達以来だ。
膝を付いた私を見た緒方君と風間君、二人からはまた軽いお説教めいた言葉を言われ
呆れた様子の二人に謝ってから、私は素直に感じた事を目の前の緒方君に話していた。

彼女の話す言葉に、内心で緒方は動揺させられた。
己の内面に隠した葛藤や苦悩全てを射抜かれたかのような感覚。

必死に隠し虚勢を張り続けてきた情けない自分自身を見透かされるのでは?と。
横で聞いていた風間も視線だけ緒方へ向け、彼の表情に一瞬表れた焦りのような色を垣間見た。
・・・人の本質を見抜く目を持ってるって事か?と風間自身も感じざるを得なかった。

一方で久美子の迫力に圧倒されたカラーギャングらは倉庫から走り去っており
それを合図に倒れ伏していた緒方達も、ゆっくりその場に立ち上がり始める。
その動きを察したは、互いに一人で立ち上がり始めた緒方と風間に手を貸そうと動く。
結果風間は立ち上がると横にいる市村の肘を支えに回ったので、は緒方の横に移動し少し緊張しつつそっと腕に手を添えてみた。

痛めた腹部をおさえつつ両足でバランスを保つようにして立つ緒方。
はその緒方の左側に立ち、左腕に緊張しつつ自分の左手を沿え・・遠慮がちに右手で緒方の背を支えた。
少し前までは触れる事も近づく事すら嫌悪していた男の子に自分から触れてしまえるくらい今は必死だ。
対する緒方もそのの行動に驚かされたが、立ってる事がまだ辛い為好奇の視線に気付かないフリを決め込み好きにさせ

「・・何でお前、あんなに強ぇんだよ」

ぶっきらぼうだが自分を支え寄り添うがつんのめらない様体勢を気にしつつ久美子に問い掛けた。
まさか自分がそんな気遣いをするようになるなんて、と動揺する心を落ち着かせながらだ。

「そりゃあ、大事なモン守りたいからだよ」

緒方がを気遣いつつ体勢を変えた様を温かな眼差しで眺め
ゆっくりと彼らに歩み寄りながら緒方の問いに答えた。

緒方らを助ける為 数で不利な相手に立ち向かった風間達。
自分達を助けたせいで報復された風間達を助けようとたった3人で立ち向かった緒方達も
異性に対し畏怖していたのにも関わらず、無意識にそんな自分を変えようと逃げずに行動した

「バカだなあお前ら、こんなにボコボコにされて・・・けど大したモンだよ よくやったなお前ら」

そんな若い生徒達の姿を心の底から久美子は嬉しく感じ、心から彼らを褒めた。
意外すぎる言葉を掛けられた為、戸惑いの表情のまま本城が褒めてんなよと呟いた。

「こいつ等には、昨日助けて貰ったから・・」
「まあ借りがあるのも・・癪だしな」
「別に・・助けたって程の事でもねぇよ」
「一緒に逃げただけやろ」
「ホンマ、カッコ悪いで」

本城に続き各々が久美子の言葉を否定するように話す。
それでも彼らの表情には始めの頃見せていた拒絶とか、拒絶感は伺えない。
だからこそ、久美子は彼らにこう言葉を贈る事が出来た。

「それでいいんだよ、気付いたら走ってた・・・気付いたら一緒にいた。それでいいんだ。それが、仲間なんだよ」

互いに緒方と風間が視線を交わし、市村達も静かにその言葉を受け止めていた。
彼らの表情や雰囲気を傍で眺めたも、久美子のお陰で彼ら自身が互いを受け入れられたのだと実感。

学校に帰るぞと告げた久美子、彼女の背を緒方を支えながらは見つめた。
あの河川敷で初めて会った時感じた通りの人だったのだと。
この人に教わる生徒達を羨ましいと思ったあの時の自分・・・そして今、実際久美子の生徒となった自分。
思いが現実となった事を素直には喜んだ。

学校への道を歩き出す時、久美子の軽いお説教を受けたけど
それさえも嬉しいとは思えてしまった。
この人なら、どんな時でも自分の味方でいてくれるとそう核心した。

「つか・・・お前、山口と知り合いなのかよ」
「え、あ・・うん ちょっと事情があって実家に戻れない私と妹を同居させてくれてるの」
「・・・ふーん(それで親に顔向け出来ないとか客人だとか言ってたのか)妹・・」
「てか俺、別に悩んだり苦しんだりとかしてねぇから」
「・・・・ん、緒方君がそういうなら私からは何も言う事はないよ」
「・・・ったく懲りねぇ女だな・・・・ならもう好きにしろ」

緒方を支え歩くへ、右からボソッと問い掛けた風間。
それは森林公園からずっと引っ掛かっていた疑問でもある。

ちょっとだけその問いにギクッとしただが、別に隠す事でもないはずと決意し その問いに答えた。
これは嘘を言ってる訳じゃないので問うた側の風間もすんなり納得。
と同時に風間が自身に対し、密かな既視感を感じてる事までは気付かなかった

会話が途切れたタイミングで前を見たまま口を開いた緒方の言葉が差し込む。
に言われた事を否定する言葉だ。
言われた側の、不思議とその答えをありのまま受け止めず また否定もせず曖昧に答えるに留めた。
否定も肯定もこの時点でハッキリさせる必要はないと分かっていたから。

急にと言う人物が見せた大人びた表情に、返す言葉を失くした緒方と第三者的な風間。
どうにも強く拒絶しきれずに呆れた表情の中に微かな笑みを含ませて好きにしろと緒方は答えた。
理由の分からない居心地のよさを、と言う人間に感じながら。

てくてくと8人で歩く事数十分、赤銅の門と校舎が顔を覗かせた頃。
前を歩き何か話を始めた久美子を他所に、並んで歩く彼らは歩みを止めた。
あれ?とつられて足を止めたを、添え手がなくても歩けるようになった緒方が見下ろすように見て呟く。

「・・アレ持って来てくんねぇか」
「ん?・・・アレって?」

すっと向けられる視線、何だか少しだけ胸が跳ねる。
に説明しながらも緒方は踵を返して歩きながらだ。
風間達も同じように踵を返して歩いている。
すると中々ピンと来ないに、風間がこう説明を添えた。

「だぁらアレだよ、山口が教卓の中にいつも置いてるなんつーかあのパイン缶?」

アレか!と声が出そうになったの口を慌てた緒方が押さえる。
その行動も驚いたが緒方の考えてる事の先が分かり、喜びのような感情の方がまさった。

「あ、わりぃ」
「大丈夫、それじゃ持って来るね」
「ああ」

何でもない事のように振る舞い、は教室へと急いだ。
その背を6人それぞれが見送り歩みを再開、芝生の庭を抜け目指すはグラウンド。

風間や神谷ら双方からの何とも言えない視線を感じつつ、緒方も黙々と歩いた。
らしくない行動をとってしまった事への戸惑いと、若干の気恥ずかしさを感じながら。





ネットが出来ないのでひたすら書いてしまった( ゚д゚)3話分!
ごくせん2もそのうち書かないと不味いっすな←
ちょっと緒方君寄りの内容になってしまったような?それは管理人が高木君にハマってるからでs)`ν°)・;'.、
今の所ヒロインの明確な気持ちの確定はせず、6人全員と絡む形にしようとしてます(これでも)
まあネットも早くて今週中には復活する予定です・・・・・