聡明で、隙がなく
造りのいい顔立ちに宿るのは
心の置く知れぬ 綺麗な微笑み
彼の真意は、誰にも測る事が出来ない。
内に秘めた謀は 彼のみぞ知る。
表は白 胸の内は 黒。
第七章 微笑み
と竜に難癖を付けた九郎は、平家の陣に切り込むと宣言し
平等院までの道案内と護衛?を兼ね、弁慶さんと行けと指示。
すっげぇ偉そうだけど、今は従うしかない。
自分達は、この時代に対しての知識が全くないんだから。
弁慶さんの微笑みに促され、九郎と別れた達は橋姫神社を出発。
メンバーは、7人。
と竜は隣同士で歩き、先頭には弁慶さんと譲。
そして、白龍と望が達の前を歩き
最後尾には、朔。
平家の陣に切り込むと言って、橋姫神社を去った九郎。
あれだけの啖呵と、偉そうな態度な奴なら簡単には死なない。
それに、奴はこれから時代を動かす将。
認めたくはないが、平和な時代で暮らす俺達よりも
修羅場を潜り抜けてきたんだ、腕は確かだろう。
剣を取り、相手に切りかかる。
何処へ行っても戦で、安住の地など少ない。
民は怯え、泣き、惑い、女は犯される。
でもこれが此処の現実なんだ。
竜は隼人達と会うまで、俺の事を守るって言った。
正直戸惑った、女だって知ってる訳じゃないのに
何であんな事を?
は隣を歩く竜を、数歩下がって覗き見る。
互いにおかしな服装で、物騒な武器まで持って・・・
生き抜けるだろうか・・・還れるんだろうか。
不安と心配事は尽きない、それは俺だけじゃない。
落ち着いてるけど、竜だって不安だと思う。
望美ちゃんも、きっと譲だって不安なんだ。
一人じゃないだけマシだよな。
何て前向きに気持ちを切り替えた途端、前方が騒がしくなる。
何だ?と思って前を見ようとしたら、腕を引かれた。
「来るぞ、ソレ出せ。」
腕を引いた相手が、淡白に用件だけ告げる。
はぁ!?と思って見れば、既に指に嵌められた妙な武器を構えて
何かに備えている竜の姿。
ぜってぇコイツ、こうゆうの慣れてやがるだろ!?
手の平は開いたまま、指の金具に嵌められた棒状のソレ。
切っ先は鋭く、殺傷能力は高そうだ。
つーか、接近戦向きだな。
何て冷静に分析してる場合じゃねぇ!
きっとまた敵が来たんだ。
あの骸骨かと思うと、嫌気も差す。
だからって、相手を選んでる事は出来ない。
は竜に示された紐状のソレに手を掛けた。
絶妙のタイミングで、初めて見る物が現れた。
いたちのような・・・でも何か不気味な奴。
「あれが怨霊です、水気と金気に火気ですね。」
「あれが?動物霊とかじゃねぇの?」
怨霊だと言った後、全く分からない事を言う弁慶さん。
水気と金気と火気って何の事だ?
弁慶さんもそれ以上説明はしてくれなかった。
死ぬか勝つかの瀬戸際だから、説明は後回しなんだろう。
の隣では、内心自分が思った事を竜が言ってる。
とか言っても、その顔は楽しそうに見えた。
戦い方は違えど 喧嘩な事に変わりはない・・ってか?
いざ戦いが始まると、他の4人は望美を守るように立ち
望美も白龍の神子として、剣を取って戦い始めた。
と竜も、皆の傍に立つ。
まず、飛び掛って来た怨霊を 竜が薙ぎ払い。
意外に見事な連携プレーで、弁慶さんが止めを刺す。
望美が術を使うと決めると、今度は譲と弁慶さんが
術を発動する為、集中体勢に入った。
それを邪魔されないよう、朔と・竜は
3人の周りに散った。
弁慶さん側に、が立った時業を煮やした怨霊が
先手を繰り出そうと 動きを見せた。
術が決まらなければ、こっちが危なくなる。
咄嗟にそう判断したは、夢中で手にした武器を放った。
「はぁっ!!」
紐の先に、飾り玉の付いた武器は
軌跡を描いて、見事 怨霊の体を弾き飛ばした。
ヒュッと手首を撓らせ、飾り玉を引き戻したを
庇われた弁慶や竜は、驚いた顔をに向けた。
でも俺はそれどころじゃなかったから、2人の反応は分からなかった。
それから数秒して、譲の術が発動。
金剛撃と称された攻撃が、三体の怨霊を貫いた。
八葉は凄いんだな・・とは驚かされ、彼らを眺めた。
譲の属性は、『金』属性。
この世界では、五行ってゆう属性があって
人や物・土地や怨霊にまで、配分されてるらしい。
人って言っても、八葉と神子にしか配分はされてない。
白龍が見た所、弁慶さんは『土』属性。
さっきまでいた九郎は『木』属性。
望美は決まった属性はないけど、五行全てを使う事が出来る。
勿論 八葉になんてなってないと竜は無属だ。
――がそれは違うみたい。
「だって 属性配分されてるよ。」
「何故?俺達は関係ねぇはずだろ?」
戦いが終わり、再び平等院を目指した一行。
移動の最中、属性の話になってが自分達は無関係と言った矢先
すぐさま前を歩く白龍が、こっちを向いてそう切り出した。
子供相手だが、内容が内容なだけに
自然と口調が厳しくなる。
そんなを、吃驚した目で見てから先を続ける白龍。
無垢な白龍の口から、信じられない言葉が語られる。
ずっと忘れてた『声』の存在を、再度思い起こされた。
「私 神子、探してた・・。
何度も何度も『鈴の音』に気づいて欲しくて 呼んだ。」
ポツリポツリと、ゆっくり話し始めた白龍。
そのゆっくり紡がれる言葉に、も竜も聞き入っている。
自然と前を歩く望美の視線もこっちに注がれてた。
「 気づいた、私の呼ぶ声に。」
3人からの視線を受け、たどたどしく続ける白龍。
やっぱり最初の声は、白龍だった。
けれど、その応龍の声なんて 俺は聞いてないはず。
「でも は、私ではない『声』を聞いた。」
白龍は俺が聞いたと言った、いつ?どの瞬間に??
でもあの時は、それどころじゃなかったし。
「私ともう一人が、混合した姿の『声』に。」
白龍以外の気配がしただろうか?
それとも分からないモンなんだろうか?
「は応龍の神子だよ?だから白龍の神子と黒龍の神子よりも
優れた力 ある。の力は、再生の力。」
あの時もそう言われた、私と半身を繋ぐ者とかって。
分からないまま、事実を告げられて行く。
そんな力なんて知らねぇ、宿ってるのだって実感がない。
「黒龍の神子が『声』を聞いて、私の神子が『封印』する。
応龍の神子は、それを解いて『復活』させられる。」
淡々と悪意もなく、告げられる言葉。
神子なんて知らねぇ・・なりたくもない。
龍神なんて知らねぇ!勝手に呼んで連れて来て勝手な事抜かすな!
いきなりりこんな世界に呼んで、俺だけじゃなく皆を巻き込んで
死と隣り合わせな状況、再会出来る保証は低い。
腕がワナワナと震え、言いようのない怒りが唇を噛ませる。
の周りに、強い『気』が集まり始めた。
その流れに弁慶も気づき始める。
「?」
後ろを向いた弁慶の目に、竜も隣りのを見た。
只ならぬ状況、ふと見たは強い『気』を纏っていた。
それが竜にも伝わって、不安に駆られる。
白龍がの問いに答えていたのは聞いてた。
八葉と白龍の神子以外にも、五行の気が配分されてるとかなんとか。
それから、の神子としての力の事も。
男のコイツが、何で神子なんかはしらねぇがな。
それからだ、の様子がおかしくなったのは。
なんかしらねぇけど、ヤバ気な状況みてぇだ。
「駄目、神子。『気』が乱れたら 貴女の身が危険!」
「何!?オイ、!落ち着けって!!」
「落ち着けねぇよ!そんな力も龍神も俺は知らない!」
俺のせいで、隼人達と離れ離れになっちまったかもしんねぇのに!
そうが叫ぶと、大気が震えた。
まるで応龍が応えてるかのように。
白龍が言うには、応龍は二つの側面を担う白龍と黒龍が合わさった姿。
その応龍の神子が『気』を乱せば、五行のバランスが崩れ
その反動で、代償が全て応龍の神子へぶつかる。
そうなれば神子であっても、耐えられない。
目の前のの体が、少しずつ光を帯び始める。
これを聞かされた竜、絶対止めねばと思い背後からを抱きしめた。
「いいから落ち着け!!今死なせる訳にはいかねぇんだよ!」
竜の怒号が、辺りの景色に響いた。
ギュッと包まれる感覚に、はハッとした。
その感覚が、自分の意識を落ち着かせ現に戻す。
竜の温もりを認識した途端、体を包んでいた光が消え始める。
皆が感じ始めていた力の動きも、姿を消した。
「り・・竜・・・」
「?・・・オイ、しっかりしろ!」
「君!?」
朦朧としていた意識も戻り、自分を抱きしめる竜を少し振り向いて
名前を口にしたと思った時、は気を失ってしまった。
力の抜けた体を支え、を呼ぶがその意識は落ちたまま。
駆け寄った望美も、の名を呼んだが反応はない。
気を失ったを竜が背負い、妙な沈黙と共に一行は平等院を目指す事になった。
竜は、背にの温もりを感じながら
自分が何も出来ない事に、憤りを感じ始めていた。