それが此処で生きる事の条件ならば
私はそれを呑むしかないのです。
無事に両親のいるあの時代へ戻る為に・・

この日、この夜、この瞬間
私は私である事を封じた。



虹色の旋律 四章



会社とやらに着いた
四月一日に連れられるまま、見た事のない箱に乗って最上階へ。

何とも言えない浮遊感には吃驚した。
この箱に乗るだけで、行きたい所に行けるだなんて・・・まるで未来の乗り物だわ・・

何処かズレた発想。
それと、この階に来るまでににとっては緊張の連続だった。
入ってすぐ見かけるのは全て男の殿方ばかり。

男童(おのわらわ)も見掛けるけれど
殆どが殿方ばかり・・・・女性は見掛ける限り、数人。

未来もやはり殿方だけが働く社会なのでしょうか?
そのような会社を纏めている方ですから・・立派な方なのでしょうね・・・・

「社長、連れて参りました。」

木の扉の前に立った四月一日さんが中へ声をかける。
連れて参りました・・・て、私が来るのを知っていたの?

口振りからして、四月一日さんが紹介したのかもしれない。
どうして?物珍しいから?
どうせならいっそ見世物屋にでも売ってくれた方がマシだわ・・・

中から声が応えて目の前の扉が開けられる。
視線を向けると部屋の奥には一人の殿方がいた。

その方は私たちに気付くと、室内へと招いてくれる。
印象としては悪くない。
席を勧める様は立派な紳士だ。

洋装みたいな黒い服に身を包んだその人は、開口一番こう言った。

「youがハイカラさん?」
「ゆー・・?いえ、私の名前はハイカラさんではなくです」
「そうだったねいやあいい切り返しだよYou」
「・・・・はあ・・有り難うございます・・・?」
「この四月一日から話は聞いたよ、それと動画で実力も見せてもらった」
「(どうが・・とは何だろう・・・)それで私にご用件とは・・?」
「うん、早い話がKAT-TUNの7人目としてデビューしてみない?」

かとぅーん・・・?7人目?でびゅう?
横文字ばかりで意味がサッパリ分からない・・・・

目をぱちくりさせたのを見て、困惑してるのだと感じたのか
更に詳しく説明し始める社長さん。

此処は芸能?事務所とか言う所で、亀梨さん達は此処のタレントさん。
名前の頭文字をグループ名にしていて、私にはその7人目のメンバーとして
彼らと共に活動して欲しい・・・・とか。

芸能人とか言うのは、銀幕のスターの事・・くらいにしか認識していない
事態の展開について行くだけで精一杯だったりする。
急にその一員になれと言われても、どうしたらいいのか分からない。

けど・・丁度此処で帰れるまで生きなくてはならないと思っていたし・・・・
そうすれば居場所も確保出来るみたいだし・・(あの二人がいた家に住む事になるとは知らない)

収入も得れる上に好きな歌を歌えると言うのならば
もう迷ってる場合ではなかった。

「私・・・踊りの経験は・・・・それに女の私が入ってもよいのでしょうか」
「ダンスは1からレッスンするし、性別は君ならきっと男装したら似合うと思うんだよね」
「だんす・・れっすん・・・だんそう・・・・・?(宝塚!?←違)」
「いいアイディアだな四月一日君、そうだそれで行こう。赤西以外にももう一人くらいハイトーンボイスが欲しかった所だしね」
「芸名はどうしますかね、それと頭文字ではSですよ?」
を活かしてなら男女使えるだろう、頭文字の件だが彼女は『‐』として参加させる」

勢いで承諾してみたけども、その後は話について行けませんでした。
物凄く盛り上がっているみたいだったので・・・
でも本当に良かったのだろうか・・女の私が、殿方に混じって同じ場所に立つなんて・・・・

私のいる時代ではまず有り得ない。
女は殿方の一歩後ろを淑やかに歩く物、そう教わっていたのだから。

社長さんの口から『赤西』と名が出ると少し緊張した。
亀梨さん、ちゃんと伝えてくれただろうか・・・
機会があればきちんと顔を見て謝ろう。

まさかあの方達のいるぐるーぷ、に入る事になるだなんて・・・・
神様の悪戯だろうか・・少し先行きが不安になってしまった。

この日は事務所の応接間に寝泊りさせてもらった。
畳だけの部屋が多かったあの時代、此処では畳なんて見かけない。
慣れない床、と言う部屋の中に布団を敷いてもらった。

寝心地云々よりも、慣れた布団で寝れる事に何より喜んだであった。


そして次ぐ日。
慣れない床の上での就寝で、少し早く目が覚める。

卓上には着るようにと渡されていた服。
今日早々と対面させられるのだ。

着慣れない洋服に袖を通し、着慣れた着物を脱ぐ。
胸にはサラシを巻きつけ、その上から襟がないシャツと帽子のついた服を重ねる。
下肢は勿論殿方の穿かれるズボン・・・・

この着方は昨晩のうちに四月一日さんが教えて下さった。
問題だったのは背中に揺れる長い黒髪。

この時代では黒髪なんて珍しいそうです。
切るのは躊躇われた・・・
長い髪は女性の象徴、淑女の嗜み。

あの時代では誰もが髪を伸ばしていた。
第一の理由を挙げるならば、やがて家の為に殿方へ嫁ぐ際に髪を結う為。
でも私は、もう白無垢を着る日は来ない。

心だけを先に継信さんへ捧げたから。
白無垢を着なくても、私の心はもう継信さんに嫁いでいる。

それにいつ帰れるのか分からないんだ。
だからもう伸ばしている必要はない・・・・私は此処で生きると決めた。
いつか戻れるその日まで、だからどうするかは決めている。

躊躇いなく手に取った物ではぬばたまの黒髪との別れを選んだ。
サクサク、と床に落ちる黒髪。
長さはショートカットへと変わっている。

これで立派に殿方に見えるでしょうか?
外見で女だとバレてはいけない。社長さん達に聞いてみましょう・・・

応接間を出て社長室に向かう。
きちんとノックをして、返事があるまでノブは捻らない。

「準備は出来たみたいだね、さあ、入りなさい」
「―――はい」
「おおお・・・・・!!これは素晴らしいよ、見事に男の子だ。」
「殿方に見えますか?良かったです」
が誕生した瞬間ですね、社長。」
「その通りだよ、さて君。君はこの瞬間からKAT-TUNのハイフンだ」
「・・・はい」
「口調ももう少し男らしくね、君専用に女性のスタッフもつけるから安心してくれていい」
「はい!」
「くれぐれもバレないように。契約は取り敢えず五年でしておいたからそのつもりで」

五年・・・・・その頃にはどうなっているだろう。
全く見当がつかない・・
けど・・・今より活き活きと生きていれればそれでいい気がした。

それから社長さんは、私にけーたいと言う物をくれた。
何でも持ち歩ける電話なのだとか。
私たちの時代では、見た事のない形の電話・・・

名のあるお屋敷とかにしかなかった物が
こうして当たり前のように社会に浸透しているのね。

昔の物は、耳に当てる方と喋る方が別々に付いていたのよ?
片方を耳に当てて、喋るのは箱型の電話に付けられたスピーカーみたいな物に向かって喋っていたの。

今を生きる人達に見せたら電話だと分からないかもしれないわね(笑)
とメンバー達の対面は、この日の11時頃に急遽決められた。
予めこの日には雑誌の仕事が入っていて、それが終わってからにしたらしい。

私はあの方達と、こんな形で再会する事が少し怖かった。