目を開けたら、見た事もない場所にいました。
家屋だけど仕様が異なっていて、混乱・・・・
そして、目の前には綺麗な殿方が二人もいらっしゃいました。

此処は天国なのでしょうか?
私はもう死んでしまったのでしょうか・・



虹色の旋律 一章



あー・・・うんとだな目の前にハイカラさんがいます。
これって袴?いや・・モンペ?
カメとか呼んでみたけど、どうしよう?

「キレーな子だな」
「は?ああ、うん。」

・・・・・・・・・・・・・。

「――じゃなくて!どうすんの!!」
「それは俺だって知らねーし!」
「あーーーもう!!」
「大声出すなよ仁、この子が起きちゃうだろ・・・・・」
「うん・・・?」
「あ・・」
「ホラ起きちゃったじゃんか」

遠くの方で聞こえる声に導かれるみたいには目を覚ます。
声が一つではないから一人ではないみたい?

もしかしたら助け出されたのかしら・・・・
きっとそうだわ、揺れが収まって救助の方達が私を見つけて下さったのかもしれない。

お礼を、それから家に戻らねば。
ゆっくり意識を覚醒させて、目を開けて、私は息を飲んだ。
こっ・・・此処は何処!?

見た事もない場所、そして見た事もない家具。
それから、キラキラした綺麗な殿方・・・・・・・
許婚とは今生の別れをしてしまいましたけども、殿方とこのような近さで向き合うなどと!!

変わった髪型をした二人の殿方。
大きな目の殿方が、大きい手を此方へ伸ばしてきた。

「す、すぐ離れますっ・・ご無礼をお許し下さいっ!!」
「は?いや、そうじゃなくて・・・・」
「あの、俺達別にアンタに何かするとかするつもりないよ?」
「そうそう、それにいきなり現れて驚いてるのは俺達の方」
「はっ!!そう言えばお二方は無事だったのですね?凄い地震でしたもの、私も死を覚悟したんです」
「「死を??」」
「はい。私も先程は家屋の下敷きになりそうに・・・・って・・全く平気そうですね・・・」

本来ならば、女は殿方と目を合わす事も
言葉を交わす事も赦されない。
赦されるとするならば、父親や兄弟。そして許婚くらい。

血の繋がりもない場合は相手方が一方的に話し
此方は聞いているだけ。受け応えが必要ならば、はいかいいえしか赦されてない。

そう約束されていると言うのに、私ったらペラペラと話してしまったわ!!?
まだ頭がパニックだわ・・あんな酷い揺れだったのに・・・
見渡した室内に物が散乱したり、壊れたりとか言う風はない。

この殿方達も怪我一つないわ。
此処は日本なのかしら?
このような造り・・・伴天連の建物みたいな・・・・・?

*伴天連
 イエズス会、つまりはキリスト教。
 織田信長が彼らの知識を政策に用いたが、豊臣秀吉が後に廃止。
 信者には、明智光秀の娘。細川ガラシャもいた。

まあその彼らがいた建物みたいな造りだから・・・
けどどうしたらいいんだろう・・

着物も全く違うし・・・本当に伴天連なのかしら・・・・・
それに、一方的に会話をしたりしないのね・・
ちゃんと発した問いに、答えを返してくれるのが何より新鮮で驚いた。

て、言うか
俺らサッパリ分かんないんですけど。
この女の子、意識がない時はすげー静かそうでお淑やかな感じに見えた。

実際喋るまでは人形みたいな?
カメの言うように凄く綺麗な子だったから余計に人形みたいに見えた感じ。

俺らもだけどこの子の方が動揺してる感じだな。
それに俺らが身動きするだけでビクッと肩を震わす。

地震がどうとか言ってたけど、さっきの揺れはどうって事のないレベルだった。
家の下敷きになりかけたって事は・・・・震源地にでもいたとか?
だとしても震源の茨城から都会のど真ん中には一気に来れないっしょ・・・

「なあ仁・・どうする?マネさんとか呼ぶか?」
「あーー・・・・だな・・俺らだけじゃどうも判断出来ねぇし」
「今からちょっと俺らより大人な人呼ぶね」
「え?あ・・はい・・・・それとあの・・此処は何処でしょう?」
「何処・・・って、東京?」
「と、東京!??」
「ちょっ。まさか迷子とか??」
「これは益々手におえなくなって来たな・・・・取り敢えずマネさん呼ぼう。」

おかしいわ。おかし過ぎる・・・
東京は私の出身地、しかも一番揺れた県なはずなのに
どうして何も壊れていないの?

それに(カーテンを開ける)外もパニックにとかなっていないし・・?
ちょっと待って、これは・・・・本当に東京の夜景なの?

こんな高い建物は一つもなかったわよ?
それに、あの鉄で出来た塔は何?

三越は何処?私鉄は?
見慣れた私の故郷の姿は何処なの?
それにどうして・・・皆洋装なの?

人も街も景色も、何もかもが違いすぎる・・・・・

「――おい?顔色悪いぞ?」
「―――――○△□×@*※!!!????」
「わわわわ!!!仁、この子何か凶器持ってる!!」
「殿方と触れ合う事は赦されません!穢れてしまったら継信さんに顔向けがっ!死なせて下さい〜」
「な、何バカな事言ってんだよっ」

くらり、と目の前が暗くなった
咄嗟に赤西がその背中を支えると、一気に目を覚ましたは取り乱した。

声にならない悲鳴が喉から飛び出し、殿方に触れてしまった罪深さと
許婚であった継信だけに捧げた純潔を守れないとあっては生き恥。
それを感じてすぐに帯に差してあった短刀を抜いた。

純潔を捧げた相手以外の男と、決して触れ合ってはならない。
そんな今にしてみればバカらしいくらいの風習がの脳裏に浮かび
胸を突こうとしたが、それは赤西よって阻止される。

パシッと弾かれた短刀は、扉側へ飛ばされて乾いた音を響かせた。
誰しもがゼェハァと呼吸を乱し、遠くへ飛んだ短刀を見つめた。

つか・・何だよソレ←
殿方?穢れる?継信さん?

意味がわかんねぇのはこっちだって同じだってーのに
しかもただ声をかけただけだし、倒れそうなのを支えてやっただけなのに
穢れるだぁ?(プチッ

「あったま来た、カメ。もうマネ呼んだよな?」
「え?ああ」
「アンタ、俺らもう近寄んないから早く出てってくんね?」
「・・・・・・っ」
「俺らだっていきなしで混乱してんの、それを穢れるだ触れないだー抜かして・・意味わかんねぇ」
「おい、仁――」
「そんなに男が嫌いなら出てげよ、そもそもこっちだって関わり合いになる理由ねぇもん」
「ちょ、だから仁――」
「此処で騒がれて死なれるの迷惑。俺らの知らない所行ってやればいいだろ」
「――――っ・・申し訳・・・ありませんでした。」

混乱と苛立ちで、赤西はを怒鳴りつけていた。
亀梨も気持ちは分からないでもなかったが、ちょっと言い過ぎではないかと止めに入る。

それでも赤西の怒りと言葉は止まらず、ハッとした時にはの姿はなくなっていた。
短刀を鞘に納めて帯にしまい、二人に一礼してから部屋を出て行く。

部屋を出たのはいいけども、全く間取りが分からない。
見た事もない建物だし、見た事もない造り・・・
此処に、私の知る物は何一つもない。

・・・・悪い事を、してしまったのね・・・・・・・

目を瞑ると私を怒鳴りつけた殿方の顔が浮かぶ。
私ったら・・自分の事ばかり嘆いて、あの方達の事など考えもしなかった。

混乱してるのは私だけではなかったのに・・
怒鳴られて当然ね・・・酷い事も言ってしまった。

穢れてしまったら、だなんて・・・・聞こえ方によったら
あの方々が穢れているように聞こえてしまうのに・・
突然現れた私をあの方々は気遣って下さった。

その方々に暴言を吐いてしまったのだから早く立ち去らねば・・・
なのに出口が分からない・・

どうしたらいいの?どうしたら帰れるのでしょう・・・
神様・・継信さん・・・教えて下さい―――