秘
三蔵達と出逢い、東封の町に戻る時は幸いにも妖怪の襲撃はなかった。
車から降りるまでずぅうーーーーっとは三蔵の膝の上だった。
目も覚めたから後ろに行くってお願いしたのだが、三蔵はを後ろへは行かせず膝に乗せ続けた。
理由はエロ河童に任せておくとろくな事がないとの事。
腐に落ちないも納得して大人しくなった。
八戒だけは小さく笑みを零した。
理由はそれだけではないだろうと。
どうもこの最高僧は、女性の扱いに慣れていないようだなと。
さんを気遣ってこその行為を自分でしている事に気づいてないんですねぇ
そうこうしているうちに目の前に東封の町が見えてくる。
は、この最高僧様の膝の上にいる事が落ち着かなくて
それと・・早くこの服を着替えたくて仕方がなく、気持ちが急いていた。
追及されるのが怖いから。
どうして戦えるのか
その武器は何処で手に入れたのか
とか色々聞かれてしまう。
【ソノ経典モオ前モ、玉面公主様ヘノ捧ゲ物ダ!!】
彼等が現れる前に私へそう叫んで襲いかかった妖怪。
あの言葉を、聞かれていたら?
私は全てを誤魔化せる?
それに、私がかつていた場所の事が知れてしまう可能性もある。
私が課せられた使命も?
彼等はどう思うだろうか。私は・・・・・
人ではないけれど、命を絶ったんだ。
彼等の断末魔が頭にこびり付いてる。
肉を、体を貫く感触も。
彼等の流した血で私も汚れて、これから先もそうしなくちゃならない時が来る。
その度に、きっと断末魔も悲鳴も、鮮血が飛び散るのを見て行くんだ。
怖いと思った。けど、私はそれでも命を絶って行くんだ、それしかないんだ。
「おい」
キキッと車が止まり、町の入口に到着。
滅ぼされてしまった町よりはこじんまりとしている町。
それでも食事にあり付けて、体を休められる事に変わりはない。
到着した車の中、に働いている宿の場所を聞こうと八戒達の視線が向けられる。
だが、視界に入れたの姿も表情も 何処か心此処に在らずといった風で
顔色も悪く、微かに体も震えているようだ。
三蔵の中に一つの考えが生まれた。
出逢った時の、あの呆然とした顔・・・・・
震えた様子と怯えた目。
妖怪を殺す事に慣れていないような感じだったな。
それに・・あの顔
あの態度
あの声
置いてきた過去、己の過去に当てはまる事が在った。
あれは・・・自分が初めて山を下り、初めて命ある物の命を絶った時と同じ――
そうは思ったが、何故気にしているのかが自分で分からずに
考えを打ち払っての肩を掴んで名前を再度呼んだ。
いい加減この体勢にも疲れて来ていた所だったしな。
「町に着いたぞ、その働いてる宿とやらに案内しろ」
「(つい口を動かして、すみませんでしたと謝ってしまう)」
強く肩を掴まれて名前を呼ばれ、一気に意識が現実に戻り
声が出ないのに唇だけが虚しく動いた。
それが自分でも分かって、恥ずかしくなりつつサッとドアを開けて降りる。
でもこの恰好のまま戻ったら菊令さんに何か言われそう・・・・
どうしよう、この服だけだから途中で買っていこうか
何やらあれこれ悩んでいると、唐突に後ろから腕を引かれた。
体は予測しておらず、簡単に引き寄せられ後ろを向かされる。
向いた先には、さっきまで膝に乗せてくれてた三蔵様の姿。
目と鼻の先とはこうゆうのを言うんだろうか
一歩でも踏み出したら抱きつける距離。
「(口をパクパクと動かし、三蔵の顔を取り敢えず見返す)」
「妖怪を殺したのは初めてだったようだが・・」
「――っ」
「訳あり・・・か」
「・・・・・・・・」
「待て」
しかし胸の微かな鼓動は、三蔵のこの言葉によって急激に冷やされた。
一気に体に緊張が走る。
問われる言葉、私と三蔵との会話に他三人の視線も向けられていた。
この時ばかりは声が出なくて助かった気がした。
自分からボロを出さなくて済む、そう思っていた私は甘かったのかもしれない。
立ち去ろうとしたのを止められ、紫暗の瞳に真っ直ぐ見つめられる。
知らずに跳ねる心臓、それを見守る三人も何故か気が気じゃない。
スッと伸びてきた三蔵の細長くて綺麗な指が、の頬に触れると浅く切れていた頬の傷をなぞり
反対側の頬についていた妖怪の血に目をやりながら呟いた。
「宿に帰る前に何とかしたいなら顔も洗え」
「頬の傷、気付いていなかったようですね」
「着替えるなら早くしろ、乗せたままの男の事を気に掛けるならな」
「(今っ!顔っ!触った!!?)」
凄い綺麗な顔、あれをあんな近くで見せられたら危険。
でも待たせてしまうのは悪いから、早く着替えて来よう。
ジープから降りた四人に頭を下げて、呉服屋へと駆けて行くを見送り
視線は自然と三蔵へ・・・・・
意外な姿ばかりが見られたなぁと。
「にしても三蔵様、やたらボディタッチが多かったけど・・ちゃんの事気に入ったとか?」
「はっ、相変わらず思考能力が猿並みだなクソ河童」
「三蔵は不器用なだけですよ、さんの事を気にかけておられるようですし」
「・・・チッ」
「へぇー三蔵様が他人の、しかも女の子の心配するなんて珍し・・・!?」
「そんなに死にたいなら今すぐこの場で楽にしてやるぞ?」
「結構デス」
「ほらほら三蔵、町の人たちが見てますよ?」
「そんなもん関係ねぇな、公開処刑とでも行くか?」
「それこそさんの迷惑になりますって」
ちょっと悟浄がからかえば、スチャッとS&Wを悟浄の米神に押し付ける。
それを見た八戒のフォローと呼べないフォローが入れられ
何とも反応に困った途端、またもや銃口を米神に擦りつけられて今度こそ悟浄は黙った。
三蔵がに囁いた言葉、あれは三人には聞こえていないが
それぞれに思う所はあったりした。
何よりも、三蔵を見つめて流した涙には・・悟浄も驚かされていて
しかも三蔵も三蔵で、皆の前でのあの行動。
少なくとも悟浄には互いに気にしているように見えた。
あの三蔵に限って女に目覚めたとは到底思えねぇけどな。
そう1人笑ってみせ、の入って行った呉服屋を眺めた。
□□□
呉服屋に入り、血に濡れた服を早く着替えようと目に入った服を掴んで試着室に入る。
咄嗟に掴んだのは大袖のチャイナ上着と、スリットの開いた布が前後にあり
その下にスパッツと言う組み合わせ。
元々動きやすい恰好が好きだったは、早速汚れた服を脱ぎ捨て
試着した服のまま外へ出ると、そのまま会計を済ませて店を出た。
経典と武器も忘れず懐と腰帯に差す。
武器に付いた血、これだけはどうにも落とせる場がない。
錆びないうちに手入れがしたいのになぁ・・・・
「着替えたようですね、その橙色のチャイナ服・・とてもお似合いですよ」
「(遅くなってごめんなさい、あ、似合います?急いでたからデザインだけで決めてしまったけど・・・・)」
「ぶっ」
「悟浄」
「いや、は慌てると普通に喋るみたいに口が動いて可愛いなって思ってよ」
「(かっ可愛いって?そんなのナイナイ)」
武器の事を悩みながら、それでも皆の処へ戻った。
駆け寄って来た姿を見て、先ず八戒が素直に感想を舌に乗せた。
遅れていたら怒られそうだと思っていたせいで、ついつい普通に話すように口が動いてしまったが
それを見た悟浄がすかさず吹き出し、皆の注目を浴びた彼は少し笑いながら私にそう言った。
この歳で年下の悟浄さんにそんなこと言われるとは・・・・・
柄にもなく照れてしまった、くそぅ。
皆私の歳知らないからそんな事言えるんだっ
すぐに気持ちを切り替え、宿へ案内するべくは先頭に立った。
若干笑みの残る面々、の後へついて歩き出す。
残り一人を除いては。
三蔵の目は、の腰帯に差された九節鞭に縫い留められた。